青い日記帳 

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『東京旧庭 TOKYO VINTAGE GARDENS』

玄光社より刊行となった『東京旧庭 TOKYO VINTAGE GARDENS』を読んでみました。


東京旧庭 TOKYO VINTAGE GARDENS
櫛引典久 (著)

東京都内に9カ所ある都立庭園の魅力的な風景や建物を紹介する、初の写真集『東京旧庭』。

今年(2020年)3月中旬に発売され、春のお花見シーズンから秋の紅葉まで四季折々に見せる庭園の魅力を網羅。

また、夏に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックで来日する方に向け、主要なテキストと写真キャプションは和英文併記にするなど細かな点に配慮されています。



絶好のタイミングで発売となったと思いきや、新型コロナウィルスのせいでオリンピックはおろか、外出もままならないことに。

ステイホーム中に幾度となく写真集『東京旧庭』のページをめくったものです。


小石川後楽園の花菖蒲

オールカラー132頁からなるこの写真集の撮影を担ったのは、公式フォトグラファーとして都立庭園のプロモーション写真の撮影を担当した櫛引典久氏。

財団法人東京都公園協会の依頼を受け、長年に渡り庭園の写真を撮影し続けてきた櫛引典久氏の膨大な作品から約100点を厳選し掲載しています。


浜離宮恩賜庭園、茶室の丸窓や釘隠

普段訪れても目にすることの出来ない建物内部の写真は特に貴重です。浜離宮は何度も訪れたことがありますが、この昆虫の形をした釘隠初めてこの本で知りました。

さて、「釘隠」って英語で何というでしょう?


個々の庭園の扉絵デザインがとてもイケてます。

掲載されている庭園は以下の通りです。

浜離宮恩賜庭園
旧芝離宮恩賜庭園
小石川後楽園
旧岩崎邸庭園
旧古河庭園
六義園
清澄庭園
向島百花園
殿ヶ谷戸庭園



清澄庭園

タイミングよく6月18日より発売となる「東京・ミュージアム ぐるっとパス2020」は、今年度より都立の文化財庭園7園(向島百花園、小石川後楽園、旧芝離宮恩賜庭園、旧古河庭園、六義園、清澄庭園、殿ヶ谷戸庭園)が加わりました。

少しまだ、展覧会会場は人が多そうで心配…という方も、オープンエアーの庭園なら大丈夫で!

都内にある庭園の来歴から四季折々の姿、そして隠れスポットを満遍なく紹介するこれまでになかったガイドブックを兼ねた写真集です。


旧岩崎庭園の組子細工や板絵も解説付きでバッチリ紹介されています。

ようやく外出できるようになりました。まずは身近にありながら意外と行ったことのない都内の旧庭を日焼け対策万全で出かけてみてはいかがでしょう。

東京旧庭 TOKYO VINTAGE GARDENS』で予習&復習をしつつ。

webでは得られない宝物のような情報が必ず見つかるのが紙の本です。是非手に取ってみて下さい。個人的に大当たりの一冊でした。

都内の庭園を「ぐるっとパス」でお得に巡ろう!


東京旧庭 TOKYO VINTAGE GARDENS
櫛引典久 (著)

櫛引典久(クシビキ ノリヒサ)
写真家、青森県出身。大学卒業後、ファッション関係の仕事でミラノへ渡り、写真家へ転向。主に広告、出版、ファッション等で活動。都立9庭園の公式フォトグラファーを務めたのを機に、ライフワークとして庭園の撮影を続ける。第6回イタリア国際写真ビエンナーレ招待出品。第19回ブルノ国際グラフィックデザイン・ビエンナーレ(チェコ)入選。



Twitter:https://twitter.com/taktwi
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Instagram:https://www.instagram.com/taktwi/
mail:taktwi(アットマーク)gmail.com

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『東京幻想作品集』

芸術新聞社より刊行となった『東京幻想作品集』を読んでみました。


東京幻想作品集
東京幻想(著)

廃墟ブームとやらは一体いつからこれほどまでに市民権を得てきたのでしょう。かく言う自分も学生時代廃屋と化し放置された病院に友達と忍び込んだりしたものです。

そんな廃墟ブームに便乗したかのような作品に一瞬でも思ってしまったら、著者の東京幻想氏に対して失礼にあたります。


六本木ヒルズ

東京幻想(とうきょうげんそう)

イラストレーター。東京の風景を自然に埋もれた廃墟として描くことで人気を集める。ゲームやアニメの背景の作画、東京幻想VR(DMM)などで幅広く活躍中。
OFFICIAL BLOG:https://ameblo.jp/tokyogenso/
作家Twitter:https://twitter.com/TOKYO_GENSO

実際の廃墟ではなく、人々の往来で賑わう大都市東京の街を想像力を駆使し描き出します。初期作品からそのスタンスは一貫しています。

ただし、彼が表現する廃墟と化した東京の街は、確かにボロボロで目も当てられないような姿をしているように一瞬見えるのですが、しかし夢や希望といった前向きな要素が非常に強く感じられます。


東京都庁(東京アラートどころではありませんね!)

そしてまた、人がいなくなった大都市東京の街の姿は、つい最近まで我々が実際に経験した、非常事態宣言下の街の様子と重なり合うものを感じずにはいられません。

5月下旬に出された非現実的な街を描いた『東京幻想作品集』は奇しくもリアルな世界とシンクロを果たしてしまったのです。

全部で77作品が収められています。その中にはこんなスチームパンク風の作品も含まれています。


東京ビッグサイト(東京国際展示場)

「廃墟を描くのにちょっと飽きてきた時期があるんです。そんな時に、ふと自分のペンネームが東京”幻想”だったことに気づきました。それで、前から描いてみたかったスチームパンク風の街並みに挑戦しました。」

東京幻想作品集』には、謎のベールに包まれている作家にこうした50の問いかけをしています。

それに丁寧に応えているのも好印象です。タイのアユタヤなど東南アジアからの影響も受けていると「50問50答」で知り、深く納得しました。


秋葉原

最後にもう一度だけ言います。単なる廃墟好きが描いた東京の街ではありません。東京幻想は、現実にしばられない想像力をフル回転させ作り上げた独自の世界観です。

オリジナリティーがそこに強く感じられるからこそ、多くの人の共感を誘うのです。

コロナ禍の今、東京幻想氏が新たに描くとしたら東京のどんな姿なのでしょう。それも想像しなが観ると一層彼の作品に寄り添えるはずです。


東京幻想作品集
東京幻想(著)



東京に何が起きたのか?

廃墟化した東京の街を圧巻の創造力で描き出すクリエイター・東京幻想。
ありえない未来の情景が想像を掻き立てる、儚くも美しい世界がここに──



『東京幻想 ART BOOK』

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『桜狂の譜 ー江戸の桜画世界』

青幻舎刊行の『桜狂の譜 —江戸の桜画世界』を読んでみました。


桜狂の譜 —江戸の桜画世界
今橋理子(著)

桜の花は人心を惑わす。誰もがそんな気持ちを一度ならず持ったことがあるでしょう。百花繚乱様々な花が季節ごとに開かせ和ませますが、桜だけはそうはいきません。

「願わくば花のしたにて春死なむ、その如月の望月」西行法師の歌を持ち出すまでもなく、昔から現代に至るまで人の心を不安定にさせます。

と、同時に多くの絵師たちによって数多く描かれてきた花でもあります。
「桜 さくら SAKURA 2020」山種美術館



桜狂の譜』で今橋先生が取り上げているのは、江戸時代の絵師・三熊思孝(みくましこう)1730〜1794 です。

三熊思考をご存知の方は極僅か。江戸時代の絵師が人気の昨今ですが、展覧会にも滅多に出ません。

しかし、同時代の太田南畝は自著の中で三熊思考を紹介し、「桜画」の名手として賞賛しています。

三熊思孝を筆頭に妹の三熊露香(?〜1801頃)、弟子の広瀬花隠(1772?〜1849頃)、女流画家の織田瑟々(1779〜1832)の4名の絵師が約60年に渡りひたすら桜の花を描きました。

今橋先生は「三熊派」と名付け、30年に渡り桜狂の絵師たちを研究してこられました。その集大成となる一冊が『桜狂の譜 —江戸の桜画世界』です。



第一部では三熊派とその作品、第二部では「造園狂」でもあった松平定信を取り上げ手元に密かに遺された桜花図譜等を紹介。

【目次】
第1部 花惜しむ人―三熊派の桜画(桜に憑かれた画家―三熊思孝;追憶の「三十六花撰」―三熊露香;幻の桜宮―広瀬花隠;花惜しむ人―織田瑟々)
第2部 花を訪う人―松平定信の花園(造園狂の春―松平定信「浴恩園」;定信の五つの庭園と「庭の思想」;桜花図譜「花のかがみ」―桃源郷の博物学)




三熊思考は自らを「花顛」(かてん)と号しました。「花狂い」という意味です。自嘲気味に用いたのではなく、本当に桜に憑かれていたようです。

人生のおよそ40年間を桜の花の写生にあて、京都や大阪だけでなく桜の「名木」を求め旅し、博物誌的な研究まで誰に頼まれたわけでもなく行いました。

江戸絵画に大きな注目が集まり、若冲や応挙などここ10年で堂々たるスターとなりました。でもまだまだ蔵は深く、三熊思考のような絵師もいるのです。

『江戸の花鳥画 博物学をめぐる文化とその表象』 (講談社学術文庫)

今橋先生のこちらの名著でその存在はおぼろげに知っていましたが、画集がまさか出るとは思いもしませんでした。

数年後には桜狂いの「三熊派」展が開催され大きな話題になるやもしれません。


白鹿記念酒造博物館 2019年春季特別展 「笹部さくらコレクション−さくら百色−」

三熊派の作品(西宮市笹部さくらコレクション)を多く所蔵する白鹿記念酒造博物館では毎年春に展覧会が行われています。
https://www.hakushika.co.jp/museum/

本を読み進めながら気になる箇所には付箋を貼っていくのですが、『桜狂の譜』はここ最近で最も多くの箇所に貼り付けました。

冒頭で西行の歌を紹介しましたが、彼以上に桜に憑かれた三熊は「たのむぞよ柝骨にして桜の木」と時世の句を残しています。

自分が死んだら骨を粉々に砕いて桜の樹の根元に…という願い。まさに桜と共に生き、そして死後は己が桜に転生し生き続ける。

「桜狂の画家」がこの本でようやく日の目を見ることになります。



1987年にサントリー美術館で開催された「日本博物学事始ー描かれた自然1」で運命の出会いを果たした三熊派。それから30年の歳月が流れ、この一冊が世に出されたのです。

今橋理子先生の本はどれも、ずっしりとした読み応えのあるものばかりです。

今年はゆっくりと桜の花を楽しめませんでしたが、代わりにこの本で江戸時代「桜狂い」が描いた、素晴らしい桜画で心を和ませましょう。


桜狂の譜 —江戸の桜画世界
今橋理子(著)

「桜だけを描く」幻の絵師たちと桜花に憑かれた名大名。三熊思孝、三熊露香、広瀬花隠、織田瑟々、そして松平定信。知られざる桜画約140点をオールカラーで収録。

三熊派の名付け親である著者が紡ぐ、「花狂い」達の系譜。



兎とかたちの日本文化
今橋理子(著)

日本美術、文学、染織、工芸、和菓子、グッズ、現代アート…親しき動物の表象から見えてくる日本文化の特質とは?多様なジャンルを横断した「新しい美術史」の方法によって、文化の伝承あるいは創造という、現代の問題にまで迫る。

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『日本美術の底力』

NHK出版より刊行となった『日本美術の底力: 「縄文×弥生」で解き明かす』を読んでみました。


『日本美術の底力: 「縄文×弥生」で解き明かす』 (NHK出版新書)
山下裕二(著)

・知らないことは財産である
・教科書に書かれていた美術史は絶対ではない
・「明治」と「戦後」というフィルター
・日本美術には、すごい鉱脈がまだまだある!


終章にふられたサブタイトルです。これを目にしただけで読みたい!という気持ちがふつふつと沸き上がってくることでしょう。

山下裕二先生が新書本を書くのはこれが初めてのこと。何度かお話伺った際に日本美術の応援で忙しいから出版の依頼は断っているんだ。と仰っていました。



サブタイトルの候補として静と動、過剰と淡白、饒舌と寡黙、飾りの美と余白の美などなど他の表現もあったそうですが日本美術のアクセスをより分かりやすくするために「縄文と弥生」というキーワードを用いたそうです。

また、岡本太郎氏と赤瀬川原平氏へのオマージュも込めて。赤瀬川氏と『日本美術応援団』を始めたのが1996年とのこと。

当時と今では日本美術の関心度は雲泥の差があります。さらに裾野を広げるべく「縄文と弥生」というシンプル明瞭な相対化により、日本美術を古代から現代まで一気に読み解いていきます。


作者不明「日月山水図屏風」室町時代
国宝, 天野山金剛寺蔵

日月山水図屏風」は、『未来の国宝・MY国宝』や講演会などでもしばしば話題にしている作品です。

重要文化財だと思っていたけど、いつの間に国宝に格上げに?!つい最近2018年に国宝指定を受けたばかりです。作者不詳の作品でありながら国宝となった絵画は非常に稀なこと。

それだけ、この作品の持つ独自性、圧倒的な画力。(赤瀬川氏曰く「乱暴力」)が前面に出ている唯一無二の作品です。

【目次】
序 章 日本美術の逆襲
第一章 なぜ独創的な絵師が締め出されたか
第二章 「ジャパン・オリジナル」の源流を探る
第三章 「縄文」から日本美術を見る
第四章 「弥生」から日本美術を見る
第五章 いかに日本美術は進化してきたか
終 章 日本美術の底力とは何か


山下先生の講演会をそのままテキスト化したような親しみやすい文体で書かれた『日本美術の底力: 「縄文×弥生」で解き明かす』。

ただし、次から次へと教科書では習わなかった日本美術の作家が登場します。もう十分に日本美術を堪能された方にとっても未知の作家が必ず現れはずです。

ましてや、「日本美術の面白さがいまひとつ分からないんだよな…」とモヤモヤした気持ちをお持ちの方には、とても新鮮な驚きと感興が湧いてくるに相違ありません。


伊藤若冲「動植綵絵」と田中一村「不喰芋と蘇鉄」が見開きページで!

縄文時代の火焔型土器から今まさに活躍する現代アーティストまでよくぞ一冊に収めたものかと感心してしまいます。

山下先生が監修を務めた小学館『日本美術全集』全20巻をギュギュっと美味しい所を新書に凝縮。

カラー図版もこれでもか〜と掲載されており、さすがNHK出版、山下先生。この価格はちと信じられません。


狩野派略系図

一気呵成に読め、そして二度三度と繰り返し読みに堪え得る贅沢な内容です。

何年にもわたり山下先生の講演会などに足しげく通われた編集者でなければ、この本を出すことは不可能だったでしょう。

ところで、NHK新書の表紙はいつもオレンジ色単色ですが、『日本美術の底力: 「縄文×弥生」で解き明かす』は曽我蕭白の作品がどーんと使われています。



実は通常カバーの上にさらに蕭白カバーをつけているのです。これって初版限定とかではないですよね。

コロナ禍が過ぎ去ったらこの本をテキストとしてトークイベントを開催して欲しいです。司会なら喜んで引き受けます!井浦新さんをゲストに迎えて!!

非常事態宣言は解除されましたが、まだまだ家で過ごす時間が多くなるはずです。良書をこの時期にしっかり読み、晴れて展覧会に行けるようになった時に備えましょう。


『日本美術の底力: 「縄文×弥生」で解き明かす』 (NHK出版新書)
山下裕二(著)

縄文・弥生から現代まで――これが「ジャパン・オリジナル」の想像力だ!
過剰で派手な「縄文」と簡潔で優雅な「弥生」。2つの軸で古代から現代までの日本美術を軽やかに一気読み! なぜ独創的な絵師が美術史から締め出されたのか? 雪舟、等伯、若冲らは何がすごいのか? 日本的想像力の源流とは? 国宝、重文を含む傑作61点をオールカラーで掲載した、著者初の新書!


『驚くべき日本美術』 (知のトレッキング叢書)
山下裕二(著)

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『まんが訳 酒呑童子絵巻』

筑摩書房より刊行となった『まんが訳 酒呑童子絵巻』を読んでみました。


『まんが訳 酒呑童子絵巻』 (ちくま新書)
大塚 英志 (編集), 山本 忠宏 (編集)

絵と詞書(文章)で、物語、説話、伝記、社寺の縁起などを紹介する絵巻物。日本美術鑑賞の上で欠かせない美術様式のひとつです。

展覧会広報などで「絵巻は漫画のルーツだ!」なんて喧伝されていることがあります。普段からそれはどうなのかな〜と疑問に感じていましたが、『まんが訳 酒呑童子絵巻』を読んでそのモヤモヤが解消されました。

『酒天童子絵巻』、『道成寺縁起』、『土蜘蛛草子』のメジャーな絵巻物がこの本で取り上げられています。横幅が何メートルもある絵巻ものをどうやって新書に納めたのでしょう?

その答えを知る手掛かりがタイトルにある「まんが訳」です。

「酒吞童子絵巻」を参考に見ていきましょう。因みに底本となったのは国際日本文化研究センター(京都市西京区)が所蔵する作品です。

源頼光はじめとする一行が酒吞童子の首をとる場面を絵巻物から抜粋してみます。







これら元となる「酒呑童子絵巻(酒天童子繪巻)」上・中・下巻の全容は日文研の「怪異・妖怪絵姿データベース」から全て無料で観られます。
http://www.nichibun.ac.jp/graphicversion/dbase/yokai-view.htm

では、『まんが訳 酒呑童子絵巻』でこのシーンはどう表現されているのでしょうか。







絵巻の絵はそのままですが、漫画特有のコマ割りやセリフ(吹き出し)などが入ることでストーリー性が増します。

また特に2枚目を比較して欲しいのですが、単に絵巻物を漫画化したのではないことが一目瞭然です。

武士たちの顔をクローズアップし鬼退治のクライマックスの雰囲気を醸し出すことに見事成功しています。これが「まんが訳」です。

絵巻物は詞書になんと書いてあるのかが読めないので、展覧会などでは解説などを手助けに鑑賞していきますが、『まんが訳 酒呑童子絵巻』ではセリフがあるのでより深く話を理解できます。

もちろん、セリフはすべて現代語です。


「土蜘蛛草子」

またこのように、同じ人物の絵(コマ)を必要とあれば見開きページに幾度も使い物語を読み解くサポートにも余念がありません。

もうここまで読めば絵巻と漫画の違いがお分かりになったはずです。

と同時に、「まんが訳」と一口に言ってもこれは誰でもできる作業ではないと気づきます。

「物語もつくらず絵も描かないまんが制作」と題し、このプロジェクトを担った山本忠宏氏(神戸芸術工科大学芸術工学部助教)がその制作の舞台裏について記されています。

「まんが訳」の工程の紹介は必読&必見です。絵巻をこの本にするのには考えているよりも何十倍も大変であるのです。


「道成寺縁起」

絵巻物は一旦では確かに漫画のルーツなのかもしれません。しかし、決してイコールではないことを教えてくれる良書です。

日本美術初心者にはとても理解しやすく手っ取り早い一冊であり、展覧会で多くの絵巻物をご覧になられた方には新たな日本文化論を履行する非常に多くの知見が盛り込まれた本となっています。

「マンガばかり読んでないで!」とは、この本なら決してお母さんに叱られることはないでしょう。

ちくま新書の中で有史以来最も活字量の少ない一冊だと思われますが、内容は実に濃密です。そして絵巻物って何度繰り返し読んでも不思議と飽きないものなのです。


『まんが訳 酒呑童子絵巻』 (ちくま新書)
大塚 英志 (編集), 山本 忠宏 (編集)

平安時代は一条天皇の治世のこと。都の貴族の娘が次々と姿を消し、占いの名人・安倍晴明が、伊吹山千丈ヶ岳に棲む鬼の仕業とつきとめた。さっそく源頼光らに退治の勅命がくだる―。武家源氏の始祖・源頼光の活躍を描く表題作『酒天童子絵巻』の他、「安珍清姫伝説」として知られる『道成寺縁起』、頼光と渡辺綱の妖怪退治譚『土蜘蛛草子』を収録。室町時代から日本人に愛されてきた物語が、まんがでよみがえる!

座して落ち着いて本をとり、感性を研ぎ澄ましながら美術館や旅先で名画を再び観られる日を気長に待ちましょう。ジタバタしても仕方ありません。こんな時こそ読書です。本を通しても感性は磨けます。


『失われたアートの謎を解く』 (ちくま新書)

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