2007.05.22 Tuesday
「アートで候。会田誠 山口晃展」
上野の森美術館で開催中の
「アートで候。会田誠 山口晃展」に行って来ました。 6月19日(火)まで無休。平日は18時まで。金曜日は20時までやってます。 今年最も観ておかなければならない展覧会のひとつです。確実に。 引き合いに出すとイタリア政府や関係者に申し訳ない気もしますが、「受胎告知」が印刷やwebなどで観るよりも、本物を観ないとその細部までいきわたる画家の魂を見てとることが出来ないのと同様に、否もしかしてそれ以上に実物の前に立ち目の当りにしないと何にも分らないということに気がつかされました。 何の作品かというと…会田誠さんの「大山椒魚」という作品です。 ↑のチラシの下部に使われているのがそれ。 またこちらの本の装丁に使われている作品。(画像はこちら) 「日本古代文学入門」 三浦 佑之 極論を言ってしまえば、この一枚を観る為だけに展覧会に足を運んでも決して損はしません。世界中で普遍的な評価を得ているルネサンス期の「名画」に同じ上野で1500円支払えるなら、同時代を生きる者として、現在をまさに生きる「会田誠」という画家の作品に1000円支払い鑑賞することがどれだけ意義深いことか、5秒も待たずにその答えは出るはずです。 【会田誠プロフィール】 会田誠(あいだまこと) 1965年、新潟県生まれ。1991年東京藝術大学大学院美術研究科修了後、レントゲン藝術研究所で開催された「フォーチューンズ」で芸術家としてデビュー。 「同時代性」を生きる作家の作品に目をそむけずに、1000円支払って観る。 同時代性という観点で作品を観ることが少しでも出来れば、普遍的な評価の定まった「作品」を観るにしても今までとは必ずや違った見え方が出来るはずです。「受胎告知」を観る為にも「大山椒魚」は観ておかないといけない作品だと思います。 ただし、会田誠さんの作品には猛烈な毒があります。トリカブト並みの。でもそれだけで敬遠してはいけないかと。猛毒は薬にもなる「両面性」を有しているものです。 会田さんは敢えて「性」や「死」を前面に押し出してきます。 左から「大山椒魚」「ジューサーミキサー」「滝の絵」 「やだ〜」と目をそむけたくなる作品を敢えて我々に提示してきます。 持ち前の天才的そして圧倒的な画力を武器にして。 「ジューサーミキサー」など「エログロ」以外の何ものでもない作品です。 「大山椒魚」だって然り。裸の女の子が横たわっている絵の何がいいのかと。 性や死に対する嫌悪感はアンビバレントな感情のまさに表れです。 ひとつの対象に対し相反する感情を同時に有するのが我々人間です。 いやよ、いやよもすきのうち。 テレビや雑誌それにwebに「性」や「死」があれほど溢れているのは皆好きだからです。表面上は違ったふりをしても。会田さんはきっとお嫌いだと思いますが柄谷行人がこんなことを書いていました。「(夏目漱石の『こころ』に登場する)先生のKに対する友情もアンビヴァレントなものがあります。先生はKを尊敬しています。しかし、彼はKをモデルにしながら、Kのように徹底的にやれないと感じている。だから彼は、Kを一方で引きずり降ろしたい、堕落させたいと考えているのです。」 「先生」は私たち。「K」は会田さんです。 会田さんのように徹底的に性や死を「表現」したい(絵だけでなく)と思っていてもそれは中々できません。「芸術」だから許されるのであって実際に手を出したら捕まっちゃいますからね。会田さんの作品を受け入れるには素直に正直にならなくてはなりません。裸のまっさらな心をさらけ出さなくてはなりません。 でも、私たち「現代人」は「理性的」であれと刷り込まれて成長しています。 これが最も鑑賞の邪魔をします。「アートで候。」には最も不必要なものです。 そんなもん取っ払って堂々と「大山椒魚」や新作「滝の絵」と対峙することお勧めします。「滝の絵」はスクール水着を着た女の子達が滝で大勢戯れている絵です。 緑川、岩淵、清水、魚住、深瀬、奥村、瀧澤、若林、小早川、小沢、谷、滝口、高峰、河上、森、青山 ご自分のお名前ありました?もしあったら「滝の絵」もっと楽しめるかもしれません。 南アルプスをイメージして描いた「滝の絵」の横に原爆ドームがあるのも凄い。 「題知らず(戦争画RETURNS)」「紐育空爆之図(にゅうようくくうばくのず)戦争画RETURNS」 椹木野衣氏の「爆心地の芸術」の表紙に使われている「題知らず(戦争画RETURNS)」ビニール製のテーブルクロスにエナメルで描かれた作品です。。。 「爆心地」の芸術 椹木 野衣 二階の会場には会田さんのこんな作品もありました。 こちらはお弟子さんと描いた新作。まだ制作途中だとか… 「万札地肥瘠相見図」高さ4.5m、幅10mの超大作! この他にも会田さんのビデオ作品をまとめて見られたり 「おにぎり仮面」や「愛ちゃん盆栽(柏)」などの立体モノも。 さて、さて、今回の展覧会のもうひとりの主役・山口晃さん。 長々と駄文連ねてしまい山口さんのことご紹介する時間が、ほとんどなくなってきてしまいましたので、それは「What's up, Luke ?」にお任せ。 駄目ですか……知名度や認知度は先輩の会田さんより勝っています。 【山口晃プロフィール】 山口晃 1969年東京生まれ。群馬県桐生市に育つ。96年、東京藝術大学大学院美術研究科修了。97年「こたつ派」展(ミヅマアートギャラリー)に参加し、一躍注目を集める存在となる。2001年第4回岡本太郎記念現代芸術大賞優秀賞を受賞。 三越、六本木ヒルズ、根津神社、公共広告機構、読売新聞に連載していたドナルド・キーンの「私と20世紀のクロニクル」挿絵・題字、槇原敬之のCDジャケットなど等幅広く手がけていらっしゃるので必ずや一度は目にしたことがあるはずです。 LIFE IN DOWNTOWN 槇原敬之 ほんの少しだけ 槇原敬之 feat.KURO from HOME MADE 家族,槇原敬之,KURO 会場での見せ方を随分と考えているな〜というのが山口さんに対する印象。 学生時代の石膏デッサンや「洞穴の頼朝」「どぶ川のほとり」「落馬」など初期の作品をイントロとして年代順に展示し「進化」の過程を見せ、次の展示室ではミズマアートギャラリーで好評を博した「ラグランジュポイント」と四天王立像を少し配置を替えて展示。周りの壁には5,6年前の作品を配置。 そして次の展示室にコマーシャル作品がまとめて展示されています。この見せ方がユニークで街中のギャラリーを装った仕立てで作品を展示しています。ソファーやテーブルも中央に置かれています。(三瀦さんと会田さんがここで談笑していた図も愉快でした)キャプションも山口さんの手書き。とてもアイロニカルな空間に仕上がっていました。 二階は「山愚痴屋澱エンナーレ」と題したこれまたユニークな空間。 図録に「揶揄や皮肉ではなく、憧憬と嫌悪のないまぜとなった、アンビヴァレントな心持ちを表しています」とあります。ここでもやっぱりアンビヴァレント…今回の展覧会のもしかしてキーワードかもしれません。 会田さんの「万札地肥瘠相見図」の前に申し訳なさそうに置かれているのが「携行折畳式喫茶室」森美術館で観た時よりも存在感ありました。 それでは、この流れで「今日の一枚」 山口晃さんの「渡海文殊」 今回の展覧会のために当日まで描いていた大作。(まだ未完成という噂も) よーーく会場で見上げて観て下さい。糸が「レーザービーム」のように向かい側の「携行折畳式喫茶室」に向け張られています。空間性を考えたとか。。。でも理由はトークショーまでに考えておくそうです。 会場内の写真提供:上野の森美術館 「会田誠・山口晃展」オフィシャルブログ 弐代目・青い日記帳 会田誠:関連エントリ ・ギャラリートーク「森山大道×会田誠」(顔写真あり) ・「GUNDAM 来るべき未来のために展」 ・「発見 日本美術」辻惟雄+山下裕二対談 ・「東山魁夷《道》への道展」 ・笑いトーク・スペシャル「日本美術応援団、展覧会を笑う」 ・「笑い展」 山口晃:関連エントリ ・「山口晃展」 ・「モーニング」表紙担当・山口晃! ・二枚の「紫陽花双鶏図」 ・根津神社 御遷座300年大祭 ・『山口晃が描く東京風景 本郷東大界隈』刊行記念講演(顔写真あり) ・山口晃「ラグランジュポイント」 ・「VOCA展2007」 ・『受胎告知』だけでは勿体無い。 おまけ:今回「アートで候。会田誠 山口晃 展」先行プレヴュー(2007年5月20日(日) 18:00〜19:00)に申し込み参加しました。ただ当日事前に別用があったため、集合時間前に美術館へ行きあらかた作品を観てしまいました。プレビューと言っても自由に観るだけで何も説明などありませんでした。 すぐに立ち去ろうと思っていたら会場に会田さんと三瀦さんが!会田さんにまたもやサインしてもらい、三瀦さんにはあれこれとお話伺うことできました。「スーパーフラットな村上隆でもマイクロポップな奈良美智でもなく、『こたつ派』を世界に知らしめたい」とのこと。このお話についてはきっと、はるるどさんが書いて下さるはずです。 今度こそ帰ろうと思っていたら今度は山口さんが来館。「渡海菩薩」にまだ筆を入れるのでしょう。顔を覚えてくださっていたのが嬉しかったな〜(単純に) 尚今回の展覧会にはキュレーターはいないそうです。 また二人のコラボ作品もありません。 二人の勝負、かけ引き、腹の探り合いを楽しむことも出来ます。 追記:6月8日に開催された会田誠さんのトークショーの様子はこちらです。 追記:6月1日に開催された山口晃さんのトークショーの様子はこちらです。 この記事のURL http://bluediary2.jugem.jp/?eid=1020 画力の凄さと発想の鮮やかさ、超絶かと思えばびっくりの脱力まで、まるで見たことのない新しいものを創り出し、一度みたら忘れられない「発想(idea)」の職人、会田誠(1965―)。 |