青い日記帳 

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“枝垂れモティーフ”

高階秀爾先生の右に出る者はまずいません。
ひとつの作品を前にしてこれだけ事が頭の中に浮かび、そしてそれを論理的に破綻なく書き上げてしまう人物は。

信じられないのですが、今は絶版となってしまったこちらの著書。
今までに何度読み返したかカウントできないほどです。

「日本美術を見る眼―東と西の出会い」 高階 秀爾
長年の西洋美術研究に培われた確かな眼力が,日本美術の特質を論じ,さらに,日本美術と西洋美術の比較から,彼我の精神文化の本質を鋭く描きだす.美術愛好家のみならず,日本文化紹介のための必読書.

追記:岩波文庫より2009年12月に増補版として再販されました!

増補 日本美術を見る眼 東と西の出会い (岩波現代文庫)

この本の中に15ページほどの小段があります。
タイトルは「枝垂れモティーフ
今日はこの章から類稀な高階氏の眼力をご紹介。
(初めて読んだときはそれこそ「日本美術を見る眼」に激震が走りました)

まずおもむろにクロード・モネの次の言葉が引用されています。
作品の源泉をどうしても知りたいというのなら、そのひとつとして、昔の日本人たちと結びつけてほしい。彼らの稀に見る洗練された趣味は、いつも私を魅了して来た。影によって存在を、部分によって全体を暗示するその美学は、私の意にかなった……。

この言葉から高階氏は「部分により全体の暗示」は明らかにジャポニズムのもたらしたものとし、その最たる例として“枝垂れモティーフ”(しだれモチーフ)を挙げていらっしゃいます。

それは、画面の上縁から木の枝あるいは葉が垂れ下がっているモチーフ。そしてその好例としてパリ、オランジェリー美術館にあるモネの描いた「睡蓮」の連作を紹介されています。

この「枝垂れモティーフ」は、モネの時代以前には、西欧の美術でには見られない。それは樹木を画面の縁で切って樹幹の一部だけをクローズアップ的に見せる「樹幹モティーフ」−これもまた、「部分による全体の暗示」である−とともに、西欧が日本美術の中に発見したものなのである。

共にオランジェリー美術館「睡蓮」(部分) 

この日本美術の影響は他の美術史家の方も多数ご指摘されている通り例えば広重の「名所江戸百景 亀戸天神境内」などから得たものであろうことはまず疑う余地はないでしょう。


歌川広重「名所江戸百景 亀戸天神境内」

ここまでなら何処かの展覧会の図録にも書いてありそうな内容なのですが、高階氏はこの「枝垂れモティーフ」の源泉を探って行きます。中国からもたらされた「折枝画」に対する強い愛好が元々日本には存在したこと。桃山時代から江戸時代にかけ様々なヴァリエーションが日本美術の中で生まれそして表現されたこと。(光琳の「紅白梅図屏風」や応挙の「藤棚図屏風」等など)


(伝)俵屋宗達「蔦の細道図屏風


俵屋宗達下絵・本阿弥光悦筆「小謡本

まさに「枝垂れモティーフ」のオンパレード、いかにこの意匠が好まれ用いられたか用意に想像することが可能です。気が付けばそこかしこに「枝垂れモティーフ」。

日本人の心に自然とすり込まれて行った「枝垂れDNA」は、鈴木春信の「浅妻舟」や広重の作品にもしばしば登場します。先日、千葉市美術館で拝見した「鳥居清長展」でも数点「枝垂れモティーフ」が描かれた作品を眼にすることが出来ました。

この「枝垂れモティーフ」は、江戸時代の絵画においては、いわば決まり文句のような常套手段だったのである。

名所江戸百景 綾瀬川鐘か淵

西洋絵画ではこのようなモチーフは散見できません。
それまでの西欧の絵画は自然の任意の部分を「窓」のように切り取る、画面の枠の規制が強いものであったからだと高階氏は述べます。

では、西欧絵画に見られない「枝垂れモティーフ」がどうしてかくも頻繁に日本の伝統的な絵画作品には記号化されたかのように見受けられるのでしょうか?
少々長くなりますが一番大事なポイントですので引用させてもらいます。
日本の絵画空間においては、画面の枠の規制はそれほど強くない。実際、描かれた「部分」によって描かれていない「全体」を暗示し、喚起するためには、画面の外にも等質の空間が続いているという暗黙の諒解が必要である。光琳の梅の樹は、いったん画面の枠によって切られたように見えながら、そのままずっとつながって、再び画面のなかに戻って来る。日本の絵画において「枝垂れモティーフ」が成立する契機は、絵画空問と外部空問とのこのひそかな連続性にあると言ってよい。それは、西欧における「完結性の美学」に対して、「連続性の美学」とでも呼ぶべきもののひとつの現われにほかならないのである。
まさに慧眼。この本質を見抜く高階氏には驚愕させられます。

こうして教えて頂いた「日本美術を見る眼」を生かし普段見慣れている作品を今一度図録やwebで眼にすると、たちまち今まで見えなかった部分が眼前にす〜と現れてきます。

そう何も浮世絵や伝統的な日本美術作品だけに限りません。
例えばこれ。

先日訪れた品川区立品川歴史館でポストカードを購入した際に入れてくれた紙袋です。見事に「枝垂れモティーフ」が描き込まれていますね。これ手渡された時、思わず声をあげてしまいました。

「枝垂モチーフ」どっこいこの現代社会の中でも行き続けている意匠なのです。
それはまるで我々の遺伝子に組み込まれた「情報」の如く。

それを気付かせてくれる力を最も有している人物の一人が高階氏であること間違いないかと思います。
(因みにまだこの章は続きますが、時間の都合で今日はこの辺で)

続きはこちら

日本の美を語る
日本の美を語る
高階 秀爾


速報:かみさんが教えてくれました。
<狩野派絵師>永徳の屏風新発見「国宝級」と京都国立博物館6月5日20時2分配信 毎日新聞
 京都国立博物館は5日、狩野派最高峰の絵師で織田信長や豊臣秀吉に重用された狩野永徳(1543〜1590)が描いた屏風(びょうぶ)が新たに見つかった、と発表した。安土桃山時代を代表する画家ながら、永徳の作品は多くが消失しており、真筆と確認されているのは10点程度。鑑定した山本英男・同館保存修理指導室長は「国宝級の発見だ」としている。
 見つかったのは「洛外名所遊楽図屏風」。4曲1双で右隻、左隻それぞれ縦85.4センチ、横269.4センチ。京都の嵯峨、嵐山、宇治などを舞台に紅葉の下で酒宴に興じる武士や平等院に参詣する人々、農作業の様子などが鮮やかな色彩で詳細に描かれ、当時の風俗を伝えている。
 狩野博幸・同志社大教授(日本近世絵画史)が同館に在籍していた05年夏、知人の情報で京都の古美術商を訪ね、見つけた。落款はないが、狩野教授は「絵に独特の格がある。(永徳作とされる国宝の)『洛中洛外図屏風』と筆遣いや絵の具の質が酷似しており、真筆に間違いない」と確信した。ただ当時は、古美術商の意向で発表を見合わせたという。
 永徳は安土城、聚楽第、大坂城の障壁画などを描いたことで知られ、「四季花鳥図襖(ふすま)」「檜(ひのき)図屏風」などは国宝。
 新発見の屏風は10月16日から11月18日まで同館で開かれる「狩野永徳」展で公開される。【栗原俊雄】

やはり、また来いと申すのか…京博。。。

特別展覧会「狩野永徳」 10月16日〜11月18日


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この記事に対するコメント

おはようございます。
永徳の新発見ですか!
発見は少し前みたいなので、京博としては満を持しての発表なのでしょうね。
米沢本と檜図は出るとのことなので、あとは唐獅子が来るか気になります。
どちらにせよ、空前絶後の永徳展になりますね。

京都が呼んでるー。
mizdesign | 2007/06/06 4:28 AM
おはようございます。
今朝の毎日新聞には写真もありました。
嬉しいです。永徳展。

枝垂れモティーフ・・・やはり日本の自然風土が密接に関わってくるんだろうなと思いました。
花鳥風月。風により木々や花々が揺れ、月の影が長く伸びる。
静かなときめきが改めて生まれてきますね。

永徳のを少し私も書いたのでTBいたします。
遊行七恵 | 2007/06/06 9:16 AM
Takさん、こんにちは!
目からうろこな素晴らしい論考を御紹介くださってありがとうございます。
なるほど〜、画の枠の外側とのひそやかな連続性…。日本画を見るときの眼差しがまた1つ増えたような気がします。

そして、狩野永徳のニュースもびっくりですね!
私も報道を見ておお〜と思いました。
秋の京都…京都…京都…う〜ん!
はな | 2007/06/06 11:08 AM
「日本美術を見る眼」いきなりこの本が出てきてびっくり、ブックオフで見つけて、買っていたのです。
ラッキー! 早速読みだしました。
「枝垂れモチーフ」胸どきどき、ゆっくり読みましょう。
浮世絵などはよくわかりますが、司馬江漢、高橋由一、藤島武二、和田栄作と続く、そして現代にも、ああ日本人でよかったとまで思わせる見事な指摘です。
supika | 2007/06/06 11:08 AM
なんか膝打っちゃった!「枝垂れモティーフ」は絵画のみならず、
文学の世界も含めた、日本人的DNAの要素なんじゃないかしら〜。
「あさみどり糸よりかけて白露を 玉にもぬける春の柳か(古今集)」
この僧正遍昭の和歌が、京の風景らしくて好きです。
これなんて「白露が柳の糸でつながれた数珠のようだよーん」
とまで詠って、枝垂れの連続性を強調してますよね。
歌の世界と春の空間がいつまでも繋がってるような印象を受けます。
(深読みしすぎか?!)
素性法師の歌にも枝垂れの光景が目に浮かぶものがありますし、
実は平安時代から決まり文句だったんですよ、きっと…!
秋津(Arthur-co.) | 2007/06/06 7:13 PM
こんばんは。
良書が絶版になっていること多いですよね。読んでみたいです。
ジャポニスムを機に大きく変化していくこの時代の(ヨーロッパの)造形は非常に興味深いものがあります。世界的に見て日本の絵画というのはへんてこりんだったというレクチャーを過去に受けたとき、同時にその殆どが和歌(や物語)が元になっていると聞きました。一場面で全体を知る感覚はこのあたりから養われているのかもしれない・・・などと思いながら絵を見ると、さらに絵の背景へと想像力が広がります。そこが面白いんですよね。

tsukinoha | 2007/06/06 10:02 PM
@mizdesignさん
こんばんは。

>京都が呼んでるー
困りますよね。
煽られて煽られて。

この屏風「発見」のタイミングも
なんだかうまく出来すぎ君。
それでも興味関心は増すばかり。
煽られっぱなしですね。京都に。

@遊行七恵さん
こんばんは。
TBありがとうございます!

写真見た限りでは、永徳の真筆に
間違いない!!と断言できるのか
イマイチ疑問なのですが。。。

枝垂れモティーフはこの本に書かれている内容の中で
最も琴線に触れたものの一つです。
ずーとしばらくこれ念頭に置いて鑑賞しています。
身の周りに潜む「枝垂れモティーフ」探しなんてのも
面白いかもしれませんね。

@はなさん
こんばんは。

高階先生のような「眼」を持つにはどうすれば
よいのでしょうね。頭の構造が元から違うので
いくら努力しても到底及ばないにしても
少しでも近づいてみたいという願望はやみません。

>秋の京都…京都…京都…う〜ん!
何だか上手いことのせられているような気もしますが
それにのっかってしまうのも逆に悪くないかと。
京都オソルベシ。

@supikaさん
こんばんは。

ブックオフでgetですか!
それはラッキーでしたね。
手に入らないとなるとあとは古本ルートしかありませんからね。
司馬江漢、高橋由一等などは後日あらためて
続きとしてご紹介したいと思っています。
ここのオチがなんとも強烈でしたね。
モネからここまで論考が進むなんて!

@秋津さん
こんばんは。

深読みではないでしょう。
文学とも密接に絡んでいるはずです。
秋津さんの論考も勝るとも劣らず素晴らしいです!
是非一本論文でも書いて下さいな。
私はここのところ古典から身をおいているので
めっきり読めなくなってしまいました。
復活の日は果たして来るのか??

自然との関わりが根本的に違いますよね。
西欧と日本。
「朝顔につるべとられてもらい水」とか
西洋人なんて全く理解不能でしょうね。

@tsukinohaさん
こんばんは。

気になって古本サーチしてみたら
結構お安く手に入るようです。
岩波が出した時2600円ですが
古本なら1000円前後で購入可能のようです。

浮世絵が西洋の美術史を大きく塗り替えたのだ!!
ってな論調の文章には辟易してしまうのですが
高階先生のように「じわり」と語って下さると
自分の体内にインプットされているそれが胎動し始めます。

「部分から全体」文章にもよく見られますよね。
暗示させる何かが共通項として伝わる文化
あとどれくらい持つか時折不安になったりもします。
Tak管理人 | 2007/06/06 11:44 PM
Takさん
初コメントです。よろしくお願いいたします。
ここ数ヶ月、Takさんのブログを見つけて以来、
いろいろ拝見させて頂き参考にさせて頂いています。

チェーザレやWaterhouseの本も影響受けて買ってしまいましたが、この高階先生の「日本の美術を見る眼」、枝垂れモティーフは、すっごく面白かったです。(アマゾンで中古で買いました)

美術史を独学しているので、Takさんからの情報すごく貴重ですし、刺激になります。
これからも、拝見させていただきますね!
ウルトラマリンブルー | 2008/02/12 1:10 PM
@ウルトラマリンブルーさん
こんばんは。初めまして。
コメントありがとうございます。

だらだらと書いているだけですので
ほとんどご参考になるようなことは
ないかと思いますが、読んでいただけるだけでも
たいへんありがたいことです。感謝感謝。

昔から一つのことに専念して
何かを成し遂げるタイプではないので
あちこちと浮気ばかりしています。

美術史を学ばれていらっしゃるのですか。
私も見習って少しはまともな勉強でも
してみないといけませんね。木村泰司氏の
「名画の言い訳」がとても参考になりました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
Tak管理人 | 2008/02/12 9:19 PM
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