青い日記帳 

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「線の迷宮凝検

目黒区美術館で開催中の
「線の迷宮(ラビリンス)供蘖筆と黒鉛の旋律」展に行って来ました。

6月19日の記事でこの展覧会のことご紹介し「是非!」と太鼓判を押した本人がぐずぐずし、気が付けば「立秋」「処暑」も過ぎ…八月も残すところあと僅か。既に観に行かれたブロガーさんから「まだ行っていないのですか?!」と責めたてられ、やっと26日(日)に観に行って来ました。



鉛筆やシャープペンで、独自の作品表現を展開している9名の現代作家による、ちょっと変ったアプローチの展覧会。↑のチラシ左上の作品から時計回りに、小川百合、木下 晋、篠田教夫、佐伯洋江。

小川百合さんの作品は海外の大学図書館が描かれています。本が暗闇から僅かな光でライトアップされその存在感を浮かび上がらせています。月並みな表現ですが「写真と見まごうばかり」です。でも写真じゃこうは撮れません。光を作家さんが自由に扱っています。この図書館シリーズともうひとつ、オペラ座などの階段をクローズアップして描いたシリーズも展示されていました。演目が上演され多くの観客が行き交う階段ではなく、シーンと静まり返った人気の全く無い階段です。杉本博司氏の「海景」や「シアター」シリーズを彷彿とさせるものがあります。そうそう、そういえば小川百合さんの作品は、他と違い細長く暗いスペースに会場を仕切りその中に展示されていました。

展示スペースへのこだわりもまた杉本氏に通ずるもの感じました。
「様々なる祖型 杉本博司展」
杉本博司 「本歌取り」
「杉本博司展」

木下晋氏の作品は実在する人物の容姿をそれこそ小じわ一本一本まで細密に描きあげている作品です。チラシの絵だけ見ると象のようにも見えますが、実際は老女を描いたものです。個人的には苦手な作品でした。鉛筆はそれこそ細部まで描き出すことできますが、見せなくてもよい部分てあります。

「リアリズム」とは違います。それは。

篠田教夫氏の作品だけ一階に展示。海辺に棲息しているフジツボをこれでもか〜と細かく丁寧にひとつひとつ描きあげてる作品が一種病的な美しさを発していました。チラシの「海辺の断崖」というタイトルの作品も病的を通り越しほぼ病気です。

この展覧会評判が良いらしく、多くの方で賑わっていました。そんな中の数人はきっとこの絵を見て鳥肌をたてたのではないでしょうか。もしくは蕁麻疹。そんな人の為用にか「解毒剤」として着色画の「ほおずき」が一枚。

佐伯洋江さんは、バランスの良い作品を描く作家さんです。こんな作品。今回の作家さんの中では一番万人受けするタイプの作作品化と思います。カンノサカンさんを想起させます。カンノサカンさんよりも有機的で実際に花や蝶が描かれていたりもします。ただ同じく「余白」が良い味を出しています。木下氏や篠田氏の作品は濃密故に息苦しさを感じてしまうこともあります。佐伯さんの作品が万人受けすると思ったわけはこんなところにもあります。

手元に置きたくなる作品。欲しい。

さて、チラシの裏面へ。

↑のチラシ左上の作品から時計回りに、妻木良三、磯邉一郎、齋鹿逸郎、関根直子、小川信治。

妻木良三氏の描く作品は硬い鉛筆で描いているにも関わらずとってもメルティー。連日の暑さの所為でとろけてしまったのではないかと思うほど。作品に囲まれて妻木さんの作品を形容するにはどんなオノマトペが最適なのかあれこれ思いを巡らせてみましたが、これ!といった言葉がありそうでない。

とろりとした「ありそうでないもの」の世界。

磯邉一郎氏の作品は自分にはピンと来るものありませんでした。こういう表現もどうかと思いますが「理系」的な作品。幾何学とでもいうのでしょうか。

白黒カンディンスキー。

齋鹿逸郎氏はこの中で最古参。享年79歳にて展覧会を待たずにお亡くなりになってしまったそうです。合掌。ただ亡くなる前まで生涯を通じて描き続けてきた作品群は圧巻。1.8m×1.8mの和紙に描かれたジャン・デュビュッフェのような作品を年に数枚のペースで400枚程描き残したそうです。美術館で貰った解説には「ひたすら描くことが、作家の呼吸であり生活であり生きる証でもあるかのようであった」と書かれていました。

デュビュッフェ

関根直子さんは最も抽象的な作品を描いています。何が描いてあるかひと目で分る必要は全くありませんが少なくとも「何を描いた」かはある程度伝わらないとまずいのでは。たまたま訪れた日に作家自身のギャラリートークがあり拝聴してきました。曰く「自分は何かを見て描かない。それは描く対象が暮らしている東京では見つからず、かといって旅行先で受けた感動は同じものを他人が共有できないゆえ絵に出来ない」「表現するもの、発信するものが見つからない状態」「今は自分の中の『イメージ』を描きあげている」云々。

評価はご覧になった方にそれぞれお任せ。ギャラリートークを聞かない方がまだ少しは良く見えたかもしれません。抽象画を語るには言葉足らずかな。それと司会の学芸員さんが随分とおしゃべりな方でした。

最後に真打登場。小川信治氏。

小川信治氏はこちらの記事でもご紹介していますし、拙サイトでも以前から大変お世話になっていらっしゃいます。「Without you」シリーズは名画の中の人物を消し去った作品。「最後の晩餐」のキリストがいません!


逆にこちらの作品ではキリストだけ居て、弟子たちの姿が忽然と…


誰しもが知っているレオナルドの「最後の晩餐」。その「知っている」ということに一石を投じるシリーズが「Without you」です。当たり前と思っていた「事実」がある日突然当たり前ではなくなること実生活の中でも山ほどあります。年金が消えてしまったりする時代は特に。「もしも」の世界を小川氏はその卓越したテクニックで実際に我々に呈示してくれます。

逆に「Perfect World」シリーズでは、実際に無いものをあたかもあるように描きます。例えば二つのピサの斜塔。カメラアイを持つ小川氏の作品(鉛筆画)は写真にしか見えないので何も知らずに観た方は「合成写真?」と首を傾げたり。


この小さな画像では到底区別すること出来ませんが二つの斜塔は良く観ると随所に違いを発見することできます。と言っても実物を前にしても中々難しいのですが。。。「ただそっくりそのまま描いただけ」ではないのです。

「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君。」 by京極堂

こちらのフレンチミルククラウンも必見です。
小川信治「FRENCH MILK CROWN, 2001」

漫然と徒然に出展されている9名の作家さんついて書いてしまいました。
展覧会9月9日、重陽の節供までです。お時間ある方是非。

9名の作家さんの作品

鉛筆デッサンを始める人へ―絵画の基本 (新カルチャーシリーズ)
鉛筆デッサンを始める人へ―絵画の基本 (新カルチャーシリーズ)
永山 裕子


この記事のURL
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=1120
鉛筆は、人間が、書く・描く行為のなかで、基本的な材料として用いられてきた比較的新しい描画材です。黒鉛という細かい粒子を固めて棒状の形をつくり、焼成することにより微妙な圧力を受けられる強度と弾力のある芯ができあがります。その素材自体が魅力的な棒状の筆記用具は、描く時の筆圧の操作によって、人間の目が知覚できる微妙な差異を実にデリケートに表し、豊かな表情を生み出すことができます。また黒色の鉛筆は、黒鉛とは質の異なる闇を表すことが可能で、その黒によるトーンの幅はしっとりとした空間と空気を感じさせ、黒鉛とは違う魅力を投げかけてくれます。

いまやコンピューターなどの普及によって、紙と鉛筆を日常的に使うことは以前に比べると少なくなっていますが、逆に、描く行為の中でこの描画材の魅力は、素朴ながら無限に広がっているといえます。材料としての鉛筆や黒鉛は、現在、その素材の深い魅力を知ったものだけが入り込める、極めて創造的な世界をつくる素材として若い世代をも捕らえているようです。本展では、そうしたことが感じられる具象、抽象さまざまな表現から、<芯>のあるコンセプトを持ち<確かな技術>で表現を続けている作家の<細密な手の痕跡>を幅広くご紹介していきます。




展覧会 | permalink | comments(14) | trackbacks(5)

この記事に対するコメント

Takさん
こんばんは

> 評価はご覧になった方にそれぞれお任せ。
こういう評価の定まっていない作品の好き嫌いには、
その人の好みがダイレクトに出てくるようで、面白い
ですね...と、書いてみたらちょっとおっかなくなり
ました...(^^;
lysander | 2007/08/29 2:04 AM
私も10代の頃、鉛筆で超現実的な世界を描いておりました。
厳密には、触っても汚くならないように黒鉛筆を用いていましたけど。
でもそれだと、余り細かい所まで精密に描くのが難しくなり、ちょっと大雑把になってしまいますが。
Sats72 | 2007/08/29 5:20 AM
私もかろうじてこの展覧会には足を運びました。

個人的には小川百合さんの作品がとても良かったです。
積もった時間、その長大な時間の中で書物という形に
堆積していった何世代にも渡る人智の営み。作品から
重厚な空気が漂ってくるようでした。

「光を作家さんが自由に扱っています」というTakさんの
コメントも流石ですね。

小川信治さんの作品も初めて拝見しましたが、
テクニックに驚きつつとてもinspiringでした。

今回の展覧会には関係ありませんが、鉛筆の作品では
去年の損保ジャパンでの選抜奨励展で観た安冨洋貴さん
の「 僕に至る隔たり」が心に残っています。
YC | 2007/08/29 1:12 PM
残念、知っていれば帰国中に観にいけたかも。
Takさんのコメントで私も目から鱗が落ちました。
「光を作家さんが自由に扱ってる」
これなんですね!ありがとうございました(笑)
OZ | 2007/08/29 4:01 PM
こんばんは。

>「まだ行っていないのですか?!」

急かしてすみません。でもご堪能されたようで何よりです。小川信治さん圧巻でしたよね。あのコーナーだけでも満足できました。

佐伯さんの花鳥画(?)は、仰る通り余白の使い方もうまかったと思います。百合さんと並んで強く印象に残りました。個展も見たいです。

関根氏のギャラリートークも聞かれましたか。あの厳密でない心象風景のような雰囲気は好きですね。
はろるど | 2007/08/29 10:00 PM
こんにちは。
こういう分野で頑張っているアーティストは大したものですね。感心しました。
とら | 2007/08/30 8:44 AM
@lysanderさん
こんばんは。

作品だけを観ていたらよかったのですが
解説聞いたら見えていたものも朦朧と…
言葉は得てして邪魔なものだと痛感。

そうそう、土産ありますので。

@Sats72さん
こんばんは。

まずは基本は鉛筆画ですよね。
鉛筆で描かれた超現実的な世界
一体どんなものなのか興味があります。
妻木良三氏のような作品なのでしょうか。

@YCさん
こんばんは。

小川百合さんの展示室に入った瞬間
ただならぬもの感じ取りました。
図書館や階段を描いているだけの
ように見えますが決してそうではないですよね。
対象をよく観察しベストの光を自分で放ち
再構築されているのが分かります。
凄いことです。

小川信治さんは機械以上に精密です。
写しただけと思われるのが残念ですが上手すぎて。

安冨洋貴さんの作品あとで探してみますね!
ありがとうございました。

@OZさん
こんばんは。

苦し紛れにたまたま出た言葉ですので…
光は写真を撮るときでも絵を描く時でも
味方にも敵にもなる存在です。
それを操れたらな〜と思って書きました。

@はろるどさん
こんばんは。

小川信治さんのワークショップにも
参加したかったです。
それにしても図録で観るよりも何よりも
実物の方が「写真」っぽいというのは
いやはや何とも。。。

佐伯さんの作品は上から垂れ下がっている
パターンに特に共感できました。あれ欲しいです。

関根さん暗中模索。

@とらさん
こんばんは。

感心しっぱなしです。
地味ですがとても良い展覧会でしたね!
Tak管理人 | 2007/08/30 10:39 PM
こんばんは。

篠田教夫は自ら、細かく描こうと意図しているわけではないようなことを確か仰ってました。いつの間にかそうなっているのだとしたら、それもコワイですけどね。
そういえば、篠田教夫の作品に、砂の形が裸婦になっているものがありましたね。そのときもこの人なんなのーって思いました。
キリル | 2007/08/31 12:15 AM
こんにちは。Takさん。
TB、コメントありがとうございました。
シンプルな画材なのに、どの作家さんたちも自由自在に扱ってる感じでしたね。
単純な言い方しか出来ませんが、ほんとに見事でした。
みどり | 2007/08/31 4:18 PM
@キリルさん
こんばんは。

篠田氏は意図されていないのですか!
それであれだけ…凄い!!
>砂の形が裸婦になっているものがありましたね
あれやっぱりそうでしたか。
まさかとは思ったのですが。。。オソルベシ。

@みどりさん
こんばんは。

見事、天晴れ!よくやった。
などそんな言葉が素直に出てくる作品ばかりでした。
こういう展覧会も良いですね。
目黒頑張ってますね。
Tak管理人 | 2007/08/31 10:58 PM
こんばんは。
この展示は、同一の画材という手段と、そこから産み出されるイメージの多様性とのコントラストが綺麗に決まってました。
人によって好みが分かれるところも良いですね。

炎暑の下のスマッシュヒット!
mizdesign | 2007/09/01 2:31 AM
@mizdesignさん
こんばんは。

そのせつは背中を押していただき
ありがとうございます。。。
宣伝しておいて行くの遅くなりました。

しかし美術館の前のプールで泳ぐ
子ども達は楽しそうでしたね。
Tak管理人 | 2007/09/02 12:25 AM
今ごろになってやっと記事を書きました。この展覧会は本当によかったです!
関根直子、小川百合両氏の作品はかなり好きですが、こちらの記事を拝見して、ギャラリートークの内容は聞かなくて正解だったかも・・・と思いました(^^;
画家の方は無理に言葉で表現しなくていいのでは・・・と思ってしまいました。
しのぶん | 2007/12/04 11:22 PM
@しのぶんさん
こんばんは。

記事を書き上げるだけ立派です。
私などいくつお蔵入りしていることやら。。。

>画家の方は無理に言葉で表現しなくていいのでは
仰る通りかと。
聞きたいことがあれば聞ける体制は必要ですけどね。
しかしこの展覧会良かったな〜
Tak管理人 | 2007/12/04 11:51 PM
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