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『血みどろの西洋史』(KAWADE夢新書)

恵泉女学園大学准教授で「レオナルド・ダ・ヴィンチ−天才の実像」展での日本側監修者を務められた池上英洋先生が新刊を上梓されました。


『血みどろの西洋史狂気の一〇〇〇年』

魔女狩り、拷問、ペスト、異常性愛…中世ヨーロッパの「闇の時代」の真相に迫る!』

はじめ、この本のタイトルを知った時、「これ本当に池上先生の御著書?」と僅かですが疑いの念を抱いてしまいました。ダ・ヴィンチやイタリア・ルネサンス期を中心とする美術史家であられる先生がこのような残酷本を出すとは、誰しも一瞬戸惑いを覚えるはずです。

しかし、今までの著書や講演会でもつねに絵画作品を読み解く上でその作品が描かれた時代の社会構造や思想背景を詳らかに解説なされていた手法を思い出すと、こういった類の本も書かれて当然かなと納得。

更にそれに加えて、『血みどろの西洋史』では「はじめに」とし以下のようなことを記され今回の著書を書くに至った理由を述べられていらっしゃいます。
本書でとりあげるのは、「表の世界史」を眺めるだけでは決して知ることのできない、こうした「歴史の裏側」ばかりだ。主役はあくまで“普通の人たち”だ。彼らを取り巻いていたものや、直面していた事柄のなかには、残酷で、痛くて、奇妙で、不潔で、填末で、臭くて、薄暗い話もやたらと多い。しかし、当時のごく普通の人々の暮らしのまわりにあったに違いない、こうした冴えない事象こそが、世界史の本質を理解する手がかりだ。なぜなら人問の歴史とは、少数の人たちの英雄的な物語だけではなく、圧倒的多数のごくごく普通の人々の、延々と続く退屈な日々の連なりなのだから。

章立ては5つから成っています。
各章ごとに簡単に紹介していきます。
尚、新書内に取り上げられている図版は全てモノクロなので作家名が分かる絵画作品は全てこちらに掲載しました。各図版の脇に本書の頁数を記しておきましたので『血みどろの西洋史狂気の一〇〇〇年』片手に参照してみて下さい。
(画像探すのにえらい時間をかけてしまいました…)

1 想像を絶する「魔女狩り」の狂気とその背景
密告、拷問、処刑…何が人々を“暴走”に駆り立てたのか(“ふつうの人”がある日、突然“魔女”に仕立てあげられる恐怖―魔女裁判の密告制度;魔女か否かは、いかに“判定”されたか―魔女審査と神明裁判 ほか)


第1章は「魔女狩り」についてです。その存在は知っていても実際にどのようなものであったのか、またどれくらいの規模で行われ、それがいつ頃まで続いたのか等、実は詳しいこと何にも知らないでいました。
例の「知っているつもり」状態だったわけです。

「スペインの靴」や「鉄の処女」などの拷問器具の紹介から、実はグーテンベルクによる印刷技術の劇的な改良が惨禍をよりいっそうもたらしたという罪深くかつ意外なことも知ることができます。

また「魔女狩り」「魔女裁判」といったものが女性に対する憎悪や不信、嫌悪が源となっているというお話は、丁度昨日読んだ内田樹先生のブログに書かれてあった「親族の基本構造」というエントリーに通ずるものを感じました。

父権制というのはフェミニストたちが正しく指摘するように男に「不当に高い価値を賦与するシステム」のことであるが、どうして男に「不当に高い価値を賦与する」のか、その理由は論理的に考えればすぐにわかる通り、男には価値がないからである。
だから、男性にのみ選択的に与えられるすべての価値は原理的に「不当に高い価値」なのである。


内田先生に「99%の男には生物学的には価値がない。」と言われるまでもなく男性は女性に「かなわない」ことを深く認識しています。だからこそ憎悪や不信、嫌悪といった感情が湧いてくるわけです。だから「理性的」な生活をいやいや求められている現代人の心の底にだって「魔女狩り」と似た思いは当然今でも燻っているのです。

2 「死」と「病」と「戦争」をめぐる血みどろの惨劇
悲鳴と激痛の“医術”と、殺戮の実態とは(ヨーロッパ全土を覆い尽くす腐臭に満ちた屍たち―ペスト(黒死病)の猛威
“神の罰”と恐れられた病は、どこからやってきたのか―梅毒の歴史と仰天の治療法 ほか)


第2章は、病と戦について書かれています。

中世ヨーロッパを恐怖のどん底に陥れた病といえば「ペスト」
このような絵も多く描かれたようです。
p.64
ニコラ・プッサン「アシドドのペスト

伝染病が当時の人々にとってどれだけ恐ろしいものであったかは容易に想像がつきますが、往々にして現実は想像をはるかに超えるものがあるわけでその「現実」がここでは克明に記されています。

また梅毒も同じく恐ろしい病気だったようです。
p.67
デューラー「梅毒

ペストにしても梅毒にしてもこれまた知っているようで実は何も知らないことが多く、おかしなことですが、いたく感心しながら読み進めてしまいました。

また当時の医療技術のお粗末さは現代の我々からすれば驚きの連続です。
そして出産や避妊、堕胎などの現実の姿もありありと記されています。

p.75
ジャック・ブランシャール「カリタス(慈愛)」
このような図像の作品も多く描かれたそうです。

今年の4月に参加した講演会「レオナルドで知るルネサンス―波乱の生涯と、激動の時代の魅力」でも拝聴しましたが、当時は捨子も大変多く、捨子養育院という公の施設があり生きたまま捨てられてしまった子供を預かり、乳母がミルクをあげ、そして教育もし、最後は結婚相手まで探してくれるという大変人道的なシステムも整っていたそうです。


これはフィレンツェにある「インノチェンティ捨児養育院」です。



当時のお産は母親にとって産褥死の危険を伴う大変リスキーな事でした。
当時の女性の死因の第一位がペストで第二位が産褥死であることからもその率の高さをはかり知ることできます。
(因みに男性の死因第一位もペスト、第二位は戦死だそうです)

また、この章のもうひとつの主題である「戦争」についてですが最も興味深かったのが『アラブが見た十字軍』のお話です。我々が学んできた歴史がいかにヨーロッパそれもキリスト教文化を中心とする一部の国々から見た史観であることをあらためて認識させられました。

アラブが見た十字軍 (ちくま学芸文庫)
「アラブが見た十字軍 」(ちくま学芸文庫) アミン マアルーフ
こうしてまた読みたい本が一冊一冊と増えてゆきます…クリックしてしまいました。

3 中世の街角と庶民たちの歪んだ暗部
衛生事情、性の実態…“暗黒時代”の日常・風俗を覗く(西欧は、糞尿とゴミに埋め尽くされた“におう大陸”だった―想像を絶する衛生事情;物乞いは、社会が認めた“職業”だった―中世の貧困層の実態 ほか)


第3章が最も身近で興味関心の高い部分かもしれません。

「都市の一部としての物乞いたち」という捉え方はガツンと頭叩かれるような衝撃を受けました。引用されている阿部謹也氏の『ハーメルンの笛吹き男』にも萌えまくり。(阿部氏のご冥福お祈りいたします)

性に対する意識の違いは当然現代とは大きくことなっており、このような図像の作品を多く美術館や展覧会でも目にしますが、こういった作品が描かれた背景もばっちり説明されています。
p.135
ハンス・バルドゥンク=グリーン「不釣合いなカップル

この他にも「週刊大衆」に掲載されてもおかしくないような話題まで書かれてあり、ある意味一番読みどころ満載な章かもしれません。

4 「聖書」と「神話」が西洋人に刻みこんだ“命”の意味
その信仰心から、血塗られた歴史の“深層”が見えてくる(神はなぜ、自らが創造した人間たちを“消去”してしまうのか―世界中にある洪水伝説;神が創った最初の人間が「男」で、その後「女」が創られる不思議―人類創造神話の共通点 ほか)


第4章と次の最終章はこれまでと若干色を異にしています。
聖書や神話に登場する首をかしげるような話などから当時の社会構造を読み解いています。当然「絵」も今までよりも多く登場してきます。

そういえば当時の「絵画のマスメディア」的な役割についても池上先生お書きになられていましたね。

p.155
アントニオ・カラッチ「大洪水

p.161
ジャン・クーザン「エヴァ・プリマ・パンドラ

p.163
ルーカス・ファン・レイデン「ロトと娘たち

p.171
セバスティアーノ・デル・ピオンボ「アフロディアと死せるアドニス


5 キリスト教が歩んだ凄惨な歴史といくたの「伝説」の謎
ユダヤ人迫害、マリア信仰、聖杯伝説…西洋の“心の歴史”を掘り起こす(キリスト教徒たちはなぜ、大迫害に対し“無抵抗”を貫いたのか―「殉教者」が果たした役割;ユダヤ人が手にしたパンは、ほんとうに“血を流した”か―ユダヤ人を迫害するキリスト教徒の“矛盾” ほか)


第5章はユダヤ人迫害の歴史に始まり、マリア信仰、テンプル騎士団、聖杯伝説となにやら「ダ・ヴィンチ・コード」ネタ的な要素が登場します。

そして池上先生のもう十八番と言ってもよい「グノーシス主義」で幕を閉じます。

p.180
スルバラン「聖アガタ

p.184
パオロ・ウッチェロ「聖餅の奇跡

p.194
ムリリョ「無原罪の御宿り

p.204
ジョット「ユダの裏切り

p.209
ジョット「マルセイユに到着する聖マグダラのマリアとその姉弟

「おわりに」としこの著書で紹介されている「暗黒」の部分は決して過去のことではなく、今尚続いているのだと述べられています。

一見、理知的に振舞っているように見える現代人も一皮剥かずともこの本で紹介されているようなダークな側面をみな有しているはずです。それがひょっこりと顔を出すと「凶悪」な犯罪が起こり眉を顰め他人事として捉えるわけですが、いつ自分が加害者になるやもしれません。「魔女」が処刑される姿をピクニックに出かける気分で楽しんでいた末裔が私たちなのですから。。。

血みどろの西洋史狂気の一〇〇〇年―魔女狩り、拷問、ペスト、異常性愛…中世ヨーロッパの「闇の時代」の真相に迫る! (KAWADE夢新書 335)
池上 英洋

こちらの新書も合わせて読むと(見ると)更に…
愉悦の蒐集ヴンダーカンマーの謎 (集英社新書 ビジュアル版 5V)
愉悦の蒐集ヴンダーカンマーの謎 (集英社新書 ビジュアル版 5V)
小宮 正安
博物館の元祖であるヴンダーカンマー(不思議の部屋)は、一六〜一八世紀ヨーロッパで盛んに造られた。そこにはいわゆる美術品、貴重品の他に、一角獣の角、人相の浮かび上がった石など珍奇で怪しげな品々が膨大に陳列されていた。それは、この世界を丸ごと捉えようとしたルネサンス的な一切智、万能主義のあり方を示しており、今日の細分化された学問の対極にあるともいえる。本書は、ヴンダーカンマーを再発見し、かつての愉悦に充ちた知を取り戻そうとする試みである。本邦初公開の珍しい写真・図版等を多数掲載する。


【関連エントリー】
- 西洋美術史研究家・池上英洋先生ダ・ヴィンチを語る。
- 『ダ・ヴィンチの遺言』(KAWADE夢新書)
- 池上英洋著『西洋絵画の巨匠 レオナルド・ダ・ヴィンチ』発売!
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- 『北からの風』(案)
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- 「さよなら受胎告知」
- 読終『西洋絵画の巨匠 レオナルド・ダ・ヴィンチ』
- 「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」記念シンポジウム
- 特別展「レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像」
- 保険金100m euros
- 講演会「レオナルドで知るルネサンス―波乱の生涯と、激動の時代の魅力」
- 講演会「レオナルドで知るルネサンス―波乱の生涯と、激動の時代の魅力」その2
- 講演会「レオナルドで知るルネサンス―波乱の生涯と、激動の時代の魅力」その3

蛇足:
そうそう、自分もコンタクトレンズが眼球を傷つけてしまったことがあり、治療受けましたがあれは嫌なものですね〜お医者様信頼しているとはいえ、もう二度とあんな経験したくありません。

この記事のURL
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=1193

暗黒時代とも称される中世ヨーロッパ。カトリックが権勢を振るい、異端者を弾圧する一方、歴史の裏側では魔術や錬金術など無数の神秘主義的活動がくり広げられていた…。意外と知らない“闇の世界史”を浮き彫りにする驚きの書。



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この記事に対するコメント

Takさん、こんにちは!
この本、とても面白そうに思います。
先日、日経新聞で連載されていた「剥き出しのヨーロッパ史」がこの本のおいしいとこどり、というか、いいイントロダクションになっている感じなのですね。
《カリタス》本物を見てみたいな…て思いました。
池上先生によろしくお伝えください☆
はな | 2007/11/10 10:59 AM
@はなさん
こんばんは

あまりじっくり腰をすえて読む内容ではありませんが
河出らしさがでていて、自分的には「買い」だと思います。
池上先生の著書の中では一番口語に近い文体で
書かれているのも魅力のひとつかと思います。

観たい絵たくさんあって困りますね。
Tak管理人 | 2007/11/11 12:58 AM
大々的に採り上げていただいて恐縮です。

読んでいただいてありがとうございます。これまでで最も書きながら楽しめたものです。

Off、ひょっとすると都合がつくかもしれません。その時はご連絡します。月末までのシビアな〆切を抱えているので、その状況次第です。
ike | 2007/11/11 11:46 PM
@ikeさん
こんばんは。

>これまでで最も書きながら楽しめたものです。
随所に散見できました。

ご無理なさらずに。でも来ていただけると大変嬉しいです。
12月はじめごろ少し落ち着いたら一杯お付き合い下さい。
Tak管理人 | 2007/11/12 11:39 PM
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去年の暮れごろから気になっていたKAWADE夢新書「血みどろの西洋史 狂気の1000年」(2007年11月5日)を読みました。正月休みにでも読もうか、と思ってアマゾンで購入しましたが、結局半年も積んで置いた本の中の一冊です。著者は恵泉女学園大学准教授の池上英洋、1967