2008.03.03 Monday
「ウルビーノのヴィーナス」
国立西洋美術館で明日3月4日から開催される
「ウフィツィ美術館の至宝 ウルビーノのヴィーナス 古代からルネサンス、美の女神の系譜」展の開会式、内覧会及びレセプションに参加して来ました。 ![]() 土日と仕事だったため、今日は代休。 運よく午後2時半から行われた開会式、内覧会に参加することできました。 国立西洋美術館館長、青柳正規氏。読売新聞社代表取締役社長、内山斉氏。 展覧会総合監修者、クリスティーナ・アチディーニ氏他による開催を告げるスピーチの後、高円宮妃久子さまによるテープカットが行われ「ウルビーノのヴィーナス」展が華々しく開幕しました。 ![]() 「ウルビーノのヴィーナス」展と名づけられていますが、昨年東博で開催されたレオナルド・ダ・ヴィンチ「受胎告知」のように“一点豪華主義”になってはいません。 紀元前から17世紀まで(古代からバロックまで)に創造されたヴィーナスを主題とする作品およそ80点から構成される展覧会です。 元来ローマの女神であったウェヌス(=ヴィーナス)は、ギリシア神話の女神アフロディテと同一視されてきました。絵画の中に登場する場合多くはクピド(キューピット)やつがいの鳩、白鳥などと一緒に描かれます。(他にもアトリビュート多数あり) 当然ながら、今回の展覧会出展作品の中にもそれらはヴィーナスと共に描かれています。ところが、クピドも鳩も白鳥も描かれていない、ヴィーナスの主題に当てはまらない作品があります。その作品こそがティツィアーノ・ヴェッチェリオの描いた「ウルビーノのヴィーナス」1538年です。 ![]() 手にした赤い薔薇の花が唯一描かれていることによって「ヴィーナス」と呼ばれているだけで、明らかにこの作品は女神を描いたものでないことが分ります。 「ヴィーナスを神話の女神として描くのではなく、ヴィーナスのなかに、女性としての美しさを追求した」「『ウルビーノのビーナス』は、『裸体画の革命』ともいうべき作品だった」 「迷宮美術館 第2集」より。 様々な用法様式主題で描かれた女神ヴィーナスの作品群に混じりながらも、今回の展覧会の目玉「ウルビーノのヴィーナス」は威風堂々とした圧倒的な迫力を持って来館者を待ち受けています。妖しげな艶っぽい瞳を見開いて。 さて、展覧会をざっと観て行きましょう。 展覧会のセクションは以下の通り。 1:ヴィーナス像の誕生―古代ギリシアとローマ 2:ヴィーナス像の復興―15世紀イタリア 3:《ウルビーノのヴィーナス》と“横たわる裸婦”の図像 4:“ヴィーナスとアドニス”と“パリスの審判” 5:ヴィーナス像の展開―マニエリスムから初期バロックまで ラッキーなことに入口でたまたま池上英洋先生(blog:池上英洋の第弐研究室)と遭遇。かみさん共々三人で鑑賞。相変わらず丁寧で的確な池上先生の解説付きで鑑賞できたのは今日一番の収穫。 池上先生は今回の展覧会を記念して開催されるシンポジウム「ルネサンスのエロティック美術―図像と機能―」(日時:2008年3月29日10:00〜18:00)にご参加されます。 1:ヴィーナス像の誕生―古代ギリシアとローマ(14点) ![]() 「アッティカ赤像式ヒュドリア(水瓶)《アフロディテとファオン》」 紀元前4世紀に作られたとはとても思えないほどの状態の良さ。 アフロディテやエロス、ニンフたちが身につけているイヤリングやネックレスに金がまだ残ってさえいるほど。 池上先生曰く「人物の輪郭線に当たる地の部分と黒い部分をよく観てみて下さい」とのこと。確かにかがんで見たりすると人物の輪郭線に沿って黒い部分が薄っすらと盛り上がっているのが見て取れます。 このセクションでは彫刻作品が多く展示されている中、大理石像「角柱にもたれるヴィーナス」(前1世紀)と漆喰に描かれた「ヴィーナス」が並べて展示してありました。見比べて観るのにうってつけ。中々粋な計らいです。 2:ヴィーナス像の復興―15世紀イタリア(10点) ![]() ロレンツォ・ディ・クレーディ「ヴィーナス」 レオナルドの弟弟子であるクレディの描いたヴィーナス像。 ![]() 髪の毛の細か描写や身体に巻きついた布の表現などヴェロッキオ工房お得意のもの。 こちら→は今回出点されていませんが、ボッティチェリが描いた「黒いビーナス」と比較してみると面白いかもしれません。 ヤコボ・デル・セッライオの「女神の凱旋」と「羞恥の凱旋」この2枚(セットで展示されています)は池上先生お勧めの作品。どちらも「見所」万歳。突っ込み所多し。そしてこれまたボッティチェリが描いた「春」のワンシーンを想起させる場面も描かれています。 それと、大きな声では言えませんがこのセクションには「下手な絵」も何点かあります。スキアーヴォやジローラモなど。ただしこれも次のメインセクションへの前菜。いきなり「お肉やお魚」ではね〜その点でも構成力に優れた展覧会かと。 3:《ウルビーノのヴィーナス》と“横たわる裸婦”の図像(7点) 7点のうち絵画作品は5点のみ。 同じ横たわる裸婦を描きつつ、 それぞれ特徴ある作品ばかり。 ![]() ポントルモ「ヴィーナスとキューピッド」1533年頃 どこからどう出て来ているのか理解不能なほど奇怪なキューピッドの左腕がヴィーナスの首に巻きついています。因みに左足も相当変です。そして二人のこの表情。しかしこれはミケランジェロの下絵にもとづいての表現だそうです。 フィレンツェを拠点としたマニエリスムの画家ポントルモ。昨年の5月に衝撃を受けた「パルマ展」の再来を予感させる独特の禍々しさすら感じる画面。きっとこの絵の前から離れなれなくなります。しばし。「死体」らしきものも描き込まれています。 「死体」といえば、小池寿子先生にも会場内でお逢い出来ました。 四月からお世話になります。と業務連絡。 続いてこちら。タイトルは同じく「ヴィーナスとキューピッド」 ![]() アレッサンドロ・アッローリ「ヴィーナスとキューピッド」 打って変って明るい画面となっています。 比較的こじんまりとした展示室内に掛けてあります。 観比べてみるにはもってこいです。しかしどうして同じミケランジェロの下絵からこうも違う作品が生まれるのでしょう。これが絵画の面白いところですよね。 さて、若干順不同となりますがここで真打登場! ![]() ティツィアーノ「ウルビーノのビーナス」1538年 昨年の「パルマ展」ではスケドーニの「キリストの墓の前のマリアたち」が展示されていた部屋の同じ壁に「ウルビーノのヴィーナス」はこちら(鑑賞者)を見つめ横たわっています。 まず、作品全体の美しさに驚かされます。 大きな画面全体から発色しているかのような美しさ。修復以前はもっとくすんでいたと池上先生は仰っていました。なるべく今日観てきた印象に近い色合いで↑の画像アップしてみました。これより何百倍も奇麗です。 ヴィーナスの背後の壁には濃い緑色のカーテンのようなものが懸かっていることが、実物を見るとはっきりと分ります。また窓の外も明るく奥行きがあるように感じさせる効果を担っています。 また画像ではつぶれてしまいましたが、ビーナスの右手下のシーツがめくれベットが見えている部分がありますが、そこには細かな模様(草間彌生的)が描かれています。今日こそwebの画像と実物の差の大きさを体感したことはありません。いやはや何とも。 さて、ティツィアーノは西洋絵画の歴史の中でいきなりこんなエロティックな作品を描いたわけではありません。予兆はありました。この絵などに。 ![]() ジョルジョーネ「眠れるヴィーナス」1510年 ジョルジョーネはティツィアーノが多大な影響を受けた先輩絵師。この絵はジョルジョーネの死後ティツィアーノが制作を引き継いだ作品でもあります。こうして並べて観ただけでも多くの共通点が見つかります。 しかし、逆に大きく違う点もあります。 1:ヴィーナスが目を開いているか閉じているか。 2:室内か室外か。 ジョルジョーネ「眠れるヴィーナス」は瞳を閉じ、戸外でゆったりと横たわり他者の視線などまったく意識していないように描かれているのに対し、ティツィアーノ「ウルビーノのビーナス」はしっかりと瞳を見開き、室内しかもベットの上に横たわり他者の視線を明らかに意識しているようです。っと言うよりも観ている者を誘っているようにさえ見えてきます。 また双方共、ヴィーナスのアトリビュートとなるようなものが描かれていないように見えます。ティツィアーノは最初にお話した通り、「ヴィーナス」としながらヴィーナスを描いた絵ではなさそうです。でも、ジョルジョーネ「眠れるヴィーナス」は神話の中に登場するヴィーナスを描いたということが証明されているそうです。実は後世、画中に描かれていたキューピッドが塗り消されてしまったそうです。 そうすると3つ目の相違点。 3:キューピッドが描かれていないか、いるか。 他にもティツィアーノ「ウルビーノのビーナス」は見どころ満載です。後ろで長持ち(カッソーニ)の中から一心不乱に下着を取り出そうとする少女と上着を準備し肩に掛けた少し年配の女性。この二人は「ヴィーナス」の単なる侍女ではなさそうに思えます。 そうそう、乱れたシーツや皺のよった枕などもとっても気になります。 解釈は尽きません。様々なストーリーがこの絵の前では去来します。 因みに観るスペースはゆったりあります。それと作品自体も大きいので「観えない」心配はありません(119×165cm)「ヴィーナスの身体の輪郭線がスフマートのようだ」とぽつり池上先生呟いていらっしゃいました。 4:“ヴィーナスとアドニス”と“パリスの審判”(18枚) このセクションは神話「ヴィーナスとアドニス」と「パリスの審判」この二つの主題をしっかり予習して行かれるのがよろしいかと。もちろん会場にも説明はありますが。慌てて読んで絵を観ても理解行き届きませんからね。 “ヴィーナスとアドニス”(→Wiki) ![]() ルカ・カンビアーゾ「アドニスの死」 猪突猛進攻撃受け瀕死のアドニスにヴィーナスが手をかけています。 よく見るとアドニスはまだ薄眼を開きヴィーナスの横顔を見ています。 ルカ・カンビアーゾの作品は最期のセクションにも一枚あります。 “パリスの審判”(→Wiki) ![]() ルカス・クラナーハ(父) クラナーハ(クラナッハ)が観られるとは流石に思っていなかったので驚きました。よくぞまぁ。と思ったら結構この主題で作品描いているようで、一部違う複製画のような作品も何点もあるそうです。それにしても「パリスの審判」的には異色な構成となっています。 因みにルーカス・クラナッハといえばロンドン王立美術館での展覧会ポスターの問題収束したとうですね。地下鉄側が折れて。 ![]() Elderly Nude Will Adorn London's Tube After All: Martin Gayford 5:ヴィーナス像の展開―マニエリスムから初期バロックまで(27点) だいたい最後の展示室って「目玉作品」を観終えてしまい、ミュージアムショップまでの場つなぎのような場所になり下がってしまうことになりかねませんが、今回の展覧会はそんなこと一切心配要りません。ある意味、最後の部屋こそじっくり時間をかけ鑑賞するセクションかと。 ティツィアーノ「ウルビーノのビーナス」が作りだした横たわるヴィーナスという鋳型をそれに続く画家たちが自分流にアレンジし様々に喜々として表現していったことが伺えます。 ・素描重視のフィレンツェ派(ローマ派) ・色彩重視のヴェネツィア派 とりわけ、ティツィアーノの流れをくむヴェネツィア派の画家たち(ティントレットやヴェロネーゼ、ルカ・カンビアーゾ、アンニバレ・カラッチ等など)の織りなす光まばゆい色彩溢れる絵画はしばしここが日本であることを忘れさえるほどです。 ![]() カラッチ「ヴィーナスとサテュロス、小サテュロス、プットー」1588年頃 久々に西洋絵画展で大きな満足感を味わうことできました。 今年のベスト10入り間違いなしの展覧会です。 「ウフィツィ美術館の至宝 ウルビーノのヴィーナス 古代からルネサンス、美の女神の系譜」展は3月4日から5月18日まで開催です。 公式サイト「ウルビーノのヴィーナス」についてもう一言。 彼女の視線、どの角度から観ても鑑賞者と目線が合います。コワイくらいに。 真横からも観ることできるような展示となっていますので是非角度の無い所からも。 シャープの液晶も驚きの視野角。彼女の視線から逃れること出来ません。 ![]() 衣を脱ぐヴィーナス―西洋美術史における女性裸像の源流 左近司 祥子,クリスティーン・ミッチェル ハヴロック 忘れてました「今日の一枚」これにします。 ![]() カラッチ「ヴィーナスとキューピッド」1591年 最後の展示室にある作品です。 この角度がたまりません! 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