2008.03.13 Thursday
「川瀬巴水展-東京風景版画」
江戸東京博物館で開催中の
没後五十年記念「川瀬巴水展-東京風景版画」に行って来ました。 ![]() マンダリン オリエンタル東京ホテルで午後六時からの送別会まで時間があったので両国で下車し「川瀬巴水展」を観て来ました。常設展示室での企画展です。 同博物館で現在開催されている「天璋院篤姫展」は、かみさんも観たがっているので今回はパスし「巴水展」へ時間つぶしがてらぶらりと。 巴水の作品は一昨年ニューオータニ美術館で開催された「大正・昭和の風景版画家 川瀬巴水展」やその他の美術館でも時折見かけるので(好きな作家さんなので意識して観ています)初めて目にした時の「鮮度」はありません。 またwebでもあちこちで巴水の版画作品を観られます。 hanga gallery: Kawase Hasui ですから、今回の展覧会も気軽にさらりと観られるとばかり思っていました。 が、しかし。当ては外れるのが世の常。時間つぶしに観るような展覧会では決してありませんでした。川瀬巴水を今までご覧になったことある方もない方も、観飽きたよ〜という方も是非この「川瀬巴水展-東京風景版画」には足を運んでみて下さい。 ![]() お勧めする理由の前に今回の展覧会の構成をば。 第1章 川瀬巴水と東京風景 第2章 川瀬巴水の版画と原画−「東京二十景」を中心に 第3章 川瀬巴水の活躍−資料展示 第4章 広重の江戸、巴水の東京 第5章 清親の東京、巴水の東京 第6章 巴水の戦後の東京 第7章 映画「版画に生きる」1953(昭和31)年 まずお勧めする理由のひとつに「第1章 川瀬巴水と東京風景」で展示されている関東大震災前の東京の風景を描いた「東京十二題」が全て展示されています。また12点の内何点かは、巴水が描いた風景と現在の同じ場所が写真パネルで紹介されています。 例えばこちらの作品。現在の新宿区戸山。 「東京十二題 戸山の原」1920年大正時代は人っ子一人いない、ただの原っぱですが、現在では早稲田大学のキャンパスが建ち多くの学生さんたちで賑わいをみせている場所です。 薄っすらと月明かりに照らされた原っぱで虫の鳴き声が聴こえたのも今は昔。 また第1章では「東京十二ヶ月」シリーズも展示。 こちらは5枚だけでしたが美の巨人たちで紹介された作品がありました。 ![]() 「東京十二ヶ月 三十間堀の暮雪」 「東京十二ヶ月 谷中の夕映」 この作品(三十間堀の暮雪)は摺りの段階で、強く降る雪と、弱く降る雪のマダラな雪のリアルさを出すために、版木にヤスリをかけて表面を磨耗させるなどの工夫がされました。 →美の巨人たち 2006年1月28日 放送 川瀬巴水「新版画」 和室の丸窓からふとおもての様子をうかがったような印象を受けるシリーズ。 ルネサンス期のイタリアでもこうした円形絵画(トンド)が多く見られます。 風景ではなく聖家族やマギの礼拝などの主題が好んで描かれたようです。 ミケランジェロ「聖家族」「ウルビーノのヴィーナス展」にも何点かトンド出展されていました。 そんなことは今はどうでもいいですね。話を巴水展に戻しましょう。 ここからです。この展覧会の凄い点は。 はっきり言って次の第2章だけを観ても十分元は取れます。 「第2章 川瀬巴水の版画と原画−「東京二十景」を中心に」 さり気無くタイトルに入れられているこの二文字にご注目。 そうです、版画家である巴水自身が描いた版画制作の元となる「原画」が展示公開されているのです。しかも完成作品(版画)と並べて展示してあります。 ![]() 「東京二十景 御茶の水」1926年 左が版画(右下に印があります) 右が原画です。 パソコンの画面を通しても二つの違い鮮明にお分かりになるかと。 特に巴水がこだわりを見せた雪の表現などはまるで違う日の景色のようです。 降りしきる雪に加え版画では「風」が表現に加わっているようです。 関東大震災でそれまで描いた原画やスケッチを全て失った巴水。 気落ちする間もなく翌年から制作活動を再開します。 新シリーズは「東京二十景」巴水を一躍有名にした作品です。 その「東京二十景」のうち「芝増上寺」を除く19枚の原画を江戸東京博物館は版画作品と共に所蔵しているのだそうです。衝撃の事実。遅いよ!公開するの。 実は版画と原画だけではなく「試摺」や「校合摺」まで所蔵している作品もあるのです。三点並んで展示されている光景はついつい「お見事!」と声かけたくなる程。 ![]() 「東京二十景 荒川の月(赤羽)」1929年 左から「版画」「原画」「試摺」の順。 この作品では大きな変更点は見られませんが色合いは全然違います。 版画ではより一層月明かりに重点が置かれているような印象受けます。 「東京二十景 桔梗門」などでは、色合いのみならず、パースペクティブまで原画とは明らかに違う変化を摺りの段階で見せていました。 20作品の中で最も原画と版画の違いがあったのがこちら。 上が版画で、下が原画です。 ![]() 「東京二十景 明石町の雨後」1928年 原画では描かれていた手前の着物姿の女性が、版画作品では忽然と消え去り「犬」がスライドして全体のバランスをとっています。 その為、細かな点も変更されています。例えば手前に残る水たまり。女性が描かれていた時と消えた後では水たまりの形状や大きさにまで手が加えられています。 またこの作品には「校合摺」が残っています。 ![]() フェルメールの描いた風景画「デルフトの眺望」 ![]() これも手前に女性が描かれています。手で隠してみると全体のバランスが音をたてて崩れてしまいます。それくらい手前の「もの」の配置は風景画にとって難しく頭を悩ますもの。巴水の試行錯誤、並大抵のものではなかったはずです。 (→「デルフトの眺望」と同じ場所に自分も立ってみました) 他にも展覧会の魅力について書きたいこと山ほどありますがこの辺で閉めます。 一つだけ確実に言えること。↓ 江戸東京博物館で開催された企画展示の中で間違いなくナンバーワンです。 それでは「今日の三枚」 ![]() 「東京二十景 上野清水堂」1928年 左から「版画」「原画」「試摺」の順。 もうここまでくると「間違い探し」の気分。 この展覧会えらく時間を観るのに要します。 広重の「江戸百景 上野清水堂不忍ノ池」 ![]() 巴水作品の版元が広重崇拝者だった為、巴水を「昭和の広重」と呼ばれるほど似てしまった作品もあるそうです。ただ巴水自身は広重の作品の模倣は否定したそうです。この上野清水堂を描いた作品も敢えて別の角度から描いたのでしょう。 ![]() 和暦で暮らそう 柳生 博,和暦倶楽部 送別会の時間と閉館時間に急かされ最後の方は気持ちが急いていました。 近いうちに「天璋院篤姫展」を観に行くついでに。 元い。 「川瀬巴水展」を観るついでに「天璋院篤姫展」も。 没後五十年記念「川瀬巴水展-東京風景版画」は4月6日までです。 常設展観覧料で観られます。 最後に「今日の美味」 ![]() 「京鴨胸肉のロースト タラゴンと粒マスタードソース 筍と菜の花のリゾットケーキ マッシュドポテト 彩り野菜のスティーム」 メニューを見ずに分かったのはマッシュポテトのみ。鴨肉なんて食べてからも牛肉だと思っていました。。。分不相応な場所でお食事するものではありません。 おまけ: ![]() 渡邊木版美術画舗が日本橋丸善3Fギャラリーで「画業90年『川瀬巴水 木版画展』」展を開催するそうです。 3月27日(木)〜4月2日(水) 午前9時30分〜午後8時30分(最終日は午後5時閉場) 川瀬巴水が版画制作を初めて90年。 鏑木清方に入門し、日本画を学び、同門・伊東深水の木版画作品に強く興味を持ち、渡辺版画店で制作したのは大正7年(1918)のことです。 以来40年の間、作品は実に600点以上にも及び、その名声は大正時代から欧米を中心に高いものがあります。 【関連エントリー】 - 弐代目・青い日記帳 | 「ナポレオンとヴェルサイユ展」(東京展) - 弐代目・青い日記帳 | 肉筆浮世絵展「江戸の誘惑」 - 弐代目・青い日記帳 | 特別展「北斎」 - 弐代目・青い日記帳 | 「エルミタージュ美術館」展 - 弐代目・青い日記帳 | 「文豪・夏目漱石展」 - 弐代目・青い日記帳 | 「荒木経惟 -東京人生-」 - 弐代目・青い日記帳 | 「北斎漫画展」 - 弐代目・青い日記帳 | 「大鉄道博覧会 ~昭和への旅は列車に乗って~」 - 弐代目・青い日記帳 | 「川端龍子展」 - 弐代目・青い日記帳 | 「ナポレオンとヴェルサイユ展」 この記事のURL http://bluediary2.jugem.jp/?eid=1323 JUGEMテーマ:アート・デザイン 川瀬巴水(本名・川瀬文冶郎)は、1883年(明治16)に東京市芝区露月町(現、港区新橋五丁目)に生まれ、日本画の鏑木清方に入門し、1918年(大正7)に版元の渡邊庄三郎のもとで、版画家としての活動をはじめました。その版画は、版元と絵師・彫師・摺師の協同による、江戸時代の浮世絵と同様の伝統的な木版画技法によって制作されました。1957年(昭和32)に亡くなるまで600点を上回る木版画を制作し、そのほとんどが風景作品であったたため、巴水は、「昭和の広重」とも、「旅情詩人」とも呼ばれました。巴水の作品は、戦前より海外でも高い評価を得ており、欧米の数多くの美術館・博物館に所蔵されています。 |


「東京十二題 戸山の原」1920年

ミケランジェロ「聖家族」










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