青い日記帳 

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「西行の仮名」展

出光美術館で開催中の
「西行の仮名 併設 重文 俵屋宗達筆・西行物語絵巻」展に行って来ました。



日本の歴史上実在した人物で西行(1118年(元永元年) - 1190年3月23日(文治6年2月16日))ほど知っているようで、知らない人物もいないかと。また西行ほど多くのバラエティーに富む伝説が残っている人物も稀有なことかと。

高橋英夫氏もその著書「西行 」(岩波新書)で以下のように書き記しています。

 文学史上の人物で西行くらい伝承や伝説の数が多い例は稀だった。この現象は歴史上の西行を中心に考えると、周縁的、二次派生的なものではあるだろう。しかしそこから逆に、西行とは何であったのかという疑問を照らし出す光源を求めることもできるのである。大よそのところ、伝承・伝説の西行は「憎まれた西行」と「笑われた西行」の二つのタイプであったが、前者はいくらか史実の方に近接しており、後者はそれにくらべてはるかに史実から遠く、最初から歴史とは異なる次元に位置づけられる西行像であった。しかし史実に最も遠い地点からの方が、西行の突きとめに有効ということもありうる。

ここで注目されるのが「最初から歴史とは異なる次元に位置づけられる西行像であった。」という一文。高橋氏はこの答えを民俗学に目を向けつつも、折口信夫の重要概念である「貴種流離」や柳田国男の「貴人の流寓」「流され王」等の枠組みで西行を解釈することに疑問を提示し自論をこの後展開させています。
西行 (岩波新書)
「西行 」(岩波新書) 高橋 英夫

主にこの展覧会は西行とその周辺の人々が残したとされる「文字」だけの展示です。勿論読めません。ただ眺めてきただけです。ぼんやりと。西行の真跡や伝・西行筆も含めかなりの数の「文字」が出光美術館を埋め尽くしています。

正直、前回の「伊勢物語展」に比べると、また他の絵画を中心とした展覧会と比べると地味といいましょうか、観るべきものがなんなのか分りかねます。キャプションに重文と記されていても価値の分らず、そこに何が書いてあるのか読めすらしない自分には「豚に真珠」

「豚に真珠」ならぬ「Takに西行」状態になることは当然行く前から分っていたので、鑑賞方法を変えようと思い前出の高橋英夫・著「西行 」やその他、西行について書かれた本をつまみ読みして出かけました。

作戦は3年前に『レオナルド・ダ・ヴィンチ展』天才の予言「ダ・ヴィンチノート」(直筆ノート「レスター手稿」日本初公開)で実践した方法。読めないものをいくら頑張ってみても読めるわけないし、西行の真筆かどうかなんて専門家だって誰ひとりとして確信持てるわけじゃない。それなら「想いを馳せよう」かと。

平安時代末期に生きた西行という人物を触りだけでも知り、そしておよそ900年も前に書かれた(とされる)「仮名文字」にタイムマシンの役割を担ってもらおうかと。

前出の高橋氏も続きの文章でこう述べていらっしゃいます。
 西行は貴種ではなかったが、しかし地元の人々の側にも立っていなかった。どちらにもかかわりながら、西行はどちらからも自由である。ここに西行の西行たるイメージの原型がある。だから西行の旅は地理的・空間的な旅だけではない。「心」というもう一つの圏域に入りこんでしまった者の、前例のない旅なのだ。

展覧会会場に展示された展示品を仲介役として、都人たちや武士たちはどんなことを考えどんな生活を営んでいたのか。そしてそこに書かれてある歌はどんな場面で詠まれたものなのか。たとえ文字は読めずとも、想像力をフル稼働させ「想いを馳せる」ことはできるはずなのではないかと。

私は想像力に乏しい人間ですが、そんな自分でもほんの一瞬だけですが、西行の生きた時代に誘われたような気になれました。「仮名文字」の向こうには果てしない世界が広がっているように思えました。

今日の感想はこれで精一杯です。

〜展覧会の構成〜
1:「西行の仮名」
2:伝西行筆の私家集類
3:西行が書写したかもしれない歌集−中務集、小色紙、未詳歌集切
4:西行の真跡、国宝「一品経和歌懐紙」
5:西行や西行と同時代の歌人の古筆
6:西行の消息と西行自身の著作
7:西行物語絵巻と歌絵


優しい出光さんは流石にいくら想像力働かせても「文字」だけじゃ…と思ったらしく最後に「重文 俵屋宗達筆・西行物語絵巻」を展示。

1巻から4巻まである宗達の「西行法師絵巻
そのうち出光美術館は1,2,4巻を所蔵しているそうです。
(3巻は断簡としてバラバラに各所で文蔵)
3巻はご近所の三の丸尚蔵館から尾形光琳の描いた「西行法師絵巻」をレンタルしてきて展示。よって何と1〜4巻まで揃いですべて観ることできます。

この他にセンガイが描いた西行図も展示されていたりもします。

「西行の仮名 併設 重文 俵屋宗達筆・西行物語絵巻」展は今月30日まで。
東京の桜が満開になる頃、西行と同じく展覧会も終わるのですね。

おまけその1
白洲正子は西行が桜の歌を詠んだ東北の束稲山を実際に訪れこう記しています。

陸奥の国に平泉にむかひて、束稲と申す山の侍るに、異木は少きやうに、桜のかぎりみえて、花のさきたりけるを見てよめる
  ききもせずたばしね山のさくら花 よしののほかにかかるべしとは
 今までこの歌は、西行が二度目に奥州へ行った時の作とされてきたが、窪田章一郎氏は、「はじめて束稲山の桜を見た第一印象の驚異感を、素樸に歌ったもの」とし、初度の旅の歌と断定された。私もそう思う。「ききもせず」と初句切れで歌いだし、「よしののほかにかかるべしとは」と、感嘆符で止めたところに、西行の驚きと悦びが感じられ、詠む人を花見に誘わずにはおかぬリズム感にあふれている。


西行 (新潮文庫)
「西行 」(新潮文庫) 白洲 正子

おまけその2
西行の歌について一家言もっていたのが藤原定家。
『新古今和歌集』の選者でもあり独自の芸術性(観念世界)の追求を目ざし具現化に励んだ定家と一首の和歌を巡る「バトル」も愉楽です。

 「宮河歌合」九番右歌の「花さへに世をうき草になりにけり散るを惜しめば誘ふ山水」という歌の「散る」の語を、定家は、はじめ「春」と直す方がいいというように批評していたらしい。このことは、現在の「宮河歌合」の判詞にはみえていないところであるが、「贈定家卿文」によって知られている。その定家の評に対して、西行は、「妙に聞え候。長高くなり、心もこもり、おもしろく覚え候」と感心し、そのようには少しも思いつかなかったといいながら、なお思い返すのに、原作どおり「散る」の方がいいと思うとして、その理由は「花さへに」という第一句との照応からいって、ここは「軽き趣」を出す方がいいと思うからだ、という意味のことを述べている。
 一般に、西行の歌は、『詞林拾葉』のなかに「西行は重く出でたる歌なし。みな軽く出でたるものなり」としるされているように、軽妙自在の趣を有している。「花さへに」の歌においても、そうした趣を、作者自身、自覚していたのである。
 それに対し、定家が「春」とする方がいいのではないかと思ったところには、彼の追求しようとしていた世界の特色がよくあらわれている。それは具象を超えた観念の世界を、彼が追求していたということである。

「西行と定家」 安田 章生


無常の歌人 西行
無常の歌人 西行 竹脇無我

それでは最後に「今日の美味


栃木市にある、かのこ庵の「勝栗まんじゅう
佐野市立 吉澤記念美術館に昨年伊藤若冲の『菜蟲譜』を観に行った時に地元の方に強く強く勧められて食べてみました。西行にも味わってもらいたいほど美味。

この記事のURL
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=1330

JUGEMテーマ:アート・デザイン


漂泊の歌僧として伝説的な生涯が語られる西行法師。西行の真跡とされる作品は現在数点ですが、これらとよく似た、伝称筆者を西行とする、優雅で鋭い趣の古筆(歌集などの写本やその断簡)が、“西行の仮名”として伝世しています。従来は、他の古筆の伝称筆者がそうであるように、「伝西行筆」とは、西行の生きた時代の仮名の様式を表している、と考えられてきました。しかし最近の研究で、「伝西行筆」の古筆の内、私家集(歌人個人の歌集)類は、平安時代末期、和歌の家である御子左家の俊成・定家親子が、勅撰集の撰集資料とするために、周辺の人々を指導して行なった書写活動の所産、いわば御子左家工房の制作物であることが判ってきました。しかも、この私家集の書写活動の輪の中には、西行自身がいた可能性があります。
本展では、何種類かの筆跡が確認される私家集類を通して、当時の人々の書写活動をながめるとともに、西行の真跡懐紙と比較展示して、これらの私家集類の中に、“西行が書写した歌集”の可能性を探ります。また、「西行の仮名」と同時期の古筆を通して、和歌を文芸として志向した、平安時代末期の王朝人の和歌活動の跡を、その筆跡の魅力とともにたどります。さらに、出光美術館の主要な蔵品の一つで、俵屋宗達の代表作として知られる『西行物語絵巻』や、西行を題材とした絵画作品によって、西行の伝説的な生涯をビジュアルに通覧します。
展覧会 | permalink | comments(6) | trackbacks(4)

この記事に対するコメント

仮名を習い始めて西行の詠んだ歌の数々に興味を持ったのと、かつて出光で観た西行筆と言われた文字のおおらかな美しさを覚えていたので出かけた展覧会でした。

文字を勉強する身には、それなりに面白い展覧会でしたが、その筆跡に関する考証結果と時代背景、さらに西行絵巻のパネル展示も楽しく、さらにTAKさんの解説も加わり、なお一層奥深く味わえました。

西行関連の書籍をお読みになってから出かけられるという姿勢、見習わなくてはと思いました。
kero | 2008/03/21 11:39 PM
こんばんは。
しばし学校行事と腰痛で、アート探検できないでいましたが、今日やっとの事西行を書いたところ、Takさんから、コメント頂き感謝です。
本当はどんな人だったのか、わからないところが
悔しいけれど最大の魅力です。
わかったのは、住んでる世界が違う人ということ。
高嶺の花です。だからキャ〜なのです。
あべまつ | 2008/03/21 11:43 PM
 冷泉院時雨文庫の研究成果を美術館全体で
実現する贅沢な趣向です。書を嗜む人で大賑わい。
私は国宝の真筆より 実は「伝西行筆」に惹かれました。
「西行」憧れの筆致を「まねぶ」のが一番なのかも。
絵巻解説など出光はわかりやすい解説が増えましたね。
panda | 2008/03/22 2:53 AM
「王朝人」といっても西行は出家前は武人でしたし、時代は院政期、平家の台頭と、けして雅な時代ではなかったのですが、徹底して、花狂い歌狂いに生きた人物だったと思います。
花を美術に置き換えれば、Takさんと遠い人物とは思えませんよ。
ほんのわ | 2008/03/22 9:33 AM
『西行仮名』見てきました、

と言うか文字はちんぷんかんぷん (-_-;)

結局は宗達の絵巻物を見てきた印象のみです。


ところで、佐藤義清は、家族からみれば、勝手に出家して旅に出てしまうなど、

とんでもない所業のように感じられます。

西行は自分では気ままでいいでしょうが、如何だったのでしょうかと・・・

現代に生きる者として、

釈然としない部分もあります (〃⌒ー⌒〃)ゞ
わん太夫 (^u^) | 2008/03/22 10:37 AM
@keroさん
こんばんは。

ここ最近の出光の展覧会は
単に見せるだけでなく
研究成果を報告するような形での
展示の仕方が多いように思います。

どれもしっかりとした研究の土台が
あっての展覧会。立派です。

私は全く書は分りませんので
せめて活字になったものだけでもと思い
読み漁って出かけた次第です。

@あべまつさん
こんばんは。

お疲れ様です。
お忙しそうなのでコメント控えていましたが
たまたま西行の記事がトップにあったものですから
書かせて頂きました。

これだけ伝説化された人物もほんと
珍しいと思います。民俗学的に
調べられた文献などあったら読みたいものです。

@pandaさん
こんばんは。

確かに価値とかさっぱり分りませんが
贅沢な展覧会であることだけは自分でも
理解出来ました。美術館サイドの姿勢が
とてもよくあらわれていると思います。

DSで「西行美文字トレーニング」とか
出したら一部マニア売れるかも。。。

@ほんのわさん
こんばんは。

美術館狂い、展覧会狂いでしょうか。
忙しくて切羽詰っている時ほどでかけたくなります。
以前、これほど観に行かなかったのですが
その当時は確かに今と比べると仕事楽でした。

さてさて明日はいずこへ。
こんな自分ですが今後ともお付き合い頂けたら嬉しいです。

@わん太夫さん
こんばんは。

宗達の絵巻物、カナ文字で苦戦した後でしたので
いつもよりも「見やすく」感じました。不思議です。

西行の生きた時代と身分を考えれば
それもありだと思います。
現代にそっくりそのままあてはめると
それはそれはとんでもないヤツでしょうが。
Tak管理人 | 2008/03/23 1:24 AM
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お見舞いを頂いた、腰痛もピークが越えたようで、なんとか笑えるようになりました。以前は、イタタタタ・・・で、笑うと響きました。そこで、ようやく西行に向かうことにしました。荷が重いけれど無謀なチャレンジ頑張ります!
西行の仮名 ・出光美術館 | あべまつ行脚 | 2008/03/21 11:36 PM
「西行の仮名 併設 重文 俵屋宗達筆・西行物語絵巻」 会期 2/23〜3/30 出光美術館所蔵品だけでなく、京都国立博物館、冷泉家時雨亭文庫からも取り寄せての展覧会です。 展示室1・2を使って、西行の真筆、伝西行の筆跡、及び、藤原俊成・定家ら、西行と同
西行の仮名 / 出光美術館 | 南風録ぶろぐ | 2008/03/22 9:01 AM
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- | - | 2008/03/22 6:30 PM
 この展覧会は、平安時代、鎌倉時代という「宮廷のみやび」展にように雅やかな時代の筆が会場中に展覧される機会に恵まれた。  西行の生涯を詠んだ歌を元に「西行物語」が生み出されて、また西行の書の特徴である、鋭利さがありながら流れるような麗しき筆遣いに、皆
西行の仮名@出光美術館 | mit MUSEUM | 2008/03/22 9:49 PM