2008.08.30 Saturday
「ジョン・エヴァレット・ミレイ展」
Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の
英国ヴィクトリア朝絵画の巨匠「 ジョン・エヴァレット・ミレイ展」プレスプレビュー及び内覧会にお邪魔して来ました。 掲載している写真は主催者の許可を得て撮影したものです。 ![]() 数あるUK-JAPAN 2008公認イベントの中で最も楽しみにしていたのが「ミレイ展」。「オフィーリア」にまた会えるだけでもドキドキし空を歩むような毎日。「対決展」に「フェルメール展」「源氏物語展」そしてこの「ミレイ展」息つく暇なく超一級作品群を携えた展覧会が立て続けに開催され嬉しい悲鳴あげっぱなしの夏。 爺さんになっても2008年の夏のことだけは忘れないはずです。 ![]() 開会式はテート・ブリテン館長のスティーヴン・デュガー氏をはじめとし多くの参列者を迎え華々しくそして厳かに「ミレイ展」にふさわしい雰囲気の中執り行われました。 お話の中でひとつ驚いたことが。今回開催された「ミレイ展」(テート・ブリテン、ゴッホ美術館、北九州市立美術館を巡回し東京へ)は実に110年ぶりとなる展覧会なのだそうです。日本ではともかく、本場イギリスでもミレイが亡くなる前年1898年にロイヤル・アカデミーで開催されて以来100年以上も開催されることがなかったそうです。 ミレイ=「オフィーリア」(夏目漱石の『草枕』にも登場)の印象が色濃い為か、当時としては革新派であった「ラファエル前派の画家」のイメージが強い画家さんです。何度か日本でも「ラファエル前派」に関する展覧会はかつて開催されましたが、ミレイ単独となると確かに記憶にありません。 ところが、今回のミレイ大回顧展とも呼べる展覧会では「ラファエル前派」として活躍していたのは1850年代初めまでのほんの僅かな期間であることが分かります。そしてそれ以降例えば「唯美主義」「ファンシー・ピクチャー」「スコットランドの風景画」と変容を遂げ、ミレイ=「オフィーリア」のイメージ以外の多くの顔を持つミレイという英国が生んだ偉大なる画家の生涯に渡る足跡を具に、うっとりするような美しい作品に囲まれつつ追うことができる見事な展覧会となっています。 新たなミレイの魅力をきっと感じ取ることができます(断言) それでは、展覧会の構成に沿って館内の様子と共にご紹介。 1:ラファエル前派 Pre-Raphaelitism ![]() 左から「オフィーリア」1851-52年 1989年に東京都美術館他で開催された「テート・ギャラリー展」にこの絵が来日した際はどれくらいの人々の心を鷲掴みにしミレーの名を轟かせたことでしょう。そして今回もまた…そしてこの絵に関してはこんな有名な逸話も。この絵のモデルとなったエリザベス・ヘレナ・シダル(後にロセッティのモデルを務める)を真冬に浴槽の中に実際浮かべこのポーズを取らせた結果、風邪を引かせ父親から抗議を受けたとか。 会場でシェイウスピアの戯曲に登場する悲劇のヒロイン「オフィーリア」に自己を投射するのも好し。冷たい浴槽に長時間浮かべられたモデルの「ヘレナ・シダル」の心境になるのも好し。 また周囲に細かく細かく描かれた草花を観察するのも一興。 忠実な自然措写をこころがけていたミレイは、《オフィーリア》の背景にふさわしい風景を求め、1851年7月から11月にかけて、ロンドンの南西、サリー州のユーウェルという町に滞在し、ホッグズミル州沿いで朝から日没まで絵筆をとって徽密に写生した。写生期間は数ヶ月にも及んだため、画面の中には異なる季節の花も混在している。ひとつひとつの植物にはそれぞれ意味が込められており、オフィーリアの人格や運命を象徴しているが、ミレイは植物学的な正確さに固執することで場面の現実性を高めようとした。因みに隣には「オフィーリア」のための習作も展示されています。 そして今回最も長時間絵の前に立っていた作品が「マリアナ」1850-51年 この一点だけに入場料払っても高くはありません。その昔、テートで観た時よりも好く見えるはどうしてでしょう?その答えをかみさんに求めると一言「年取ったからでしょ」。もう一度、否もう二度三度と「マリアナ」に逢いに行きます渋谷まで。今度はひとりで。 2:物語と新しい風俗 Romance and Modern Genre こちらは後のミレイの伴侶となる「エフィー・ラスキン」を描いた水彩画が、ミレイの友人でもあるジョン・ラスキン(著述家)との間のドラマを頭に入れておくとより深く鑑賞できるかも。ラファエル前派の男女関係かなり入り乱れています。 3:唯美主義 Aestheticism ![]() 左から 「ああ、かようにも甘く、長く楽しい夢は、無残に破られるべきもの」1872年 「エステル」1863-65年 「アリス・グレイの肖像」1859年 「姉妹」1868年 ミレイのモデルとなった女性は幸せだな〜とつくづく思わずにはいられない作品群。何と言いましょうか。。。はぁ〜言葉が出ないとはこういうこと。小池先生ではないですが、あれこれ講釈たれるよりもどっぷりと美しい作品群に身を投じてしまえれば、極楽浄土はたまた桃源郷。Bunkamuraがこれほどまでに居心地のよい空間だと思ったこと15年間一度もありません。 4:大いなる伝統 The Grand Tradition ![]() 左から 「しゃべってくれ!」1894-95年 「どうかご慈悲を!1572年のサン・バルテルミの虐殺」1886年 「北西航路」1874年 1870年以降ミレイは歴史的主題を積極的に描くようになったそうです。「ミレイらしい」と感じるのはラファエル前派の時代と強く通ずるものがあるからでしょう。横浜美術館所蔵の下山観山が模写したミレイ作「遊歴の騎士」も展示されているセクションです。 因みに「しゃべってくれ!」に描かれている白いドレスの女性は幽霊はたまた幻。。。男性が伸ばした手の影に注目です。 5:ファンシー・ピクチャー Fancy Pictures ![]() 「初めての説教」1863年 「二度目の説教」1863-64年 描かれている少女はミレイの実の子供さん(長女エフィー)5歳になったばかりのエフィーが初めて連れていかれた教会で緊張して説教を聞こうとする様子と、長ったらしい説教に飽きてしまい居眠りしている姿を描いた「連作」とも呼べる作品。 「初めての説教」が大変好評を博し、「その後」を描いたのが「二度目の説教」。進言によって二枚目は描かれたそうですが、何と諧謔に満ちた作品でしょう。それ以上にまだ幼く足が届かぬのかクッション(高台)に足をちょこんと乗せています。そして二枚目では… ![]() ファンシー・ピクチャー(「空想的な絵」という意味の風俗画)はこの他にもたっぷりと展示されています。右から二番目の作品は国立西洋美術館所蔵の「あひるの子」1889年です。 6:上流階級の肖像 Society Portraits ![]() 左から 「エヴェリーン・テナント」1874年 「エフィー・ミレイ」1873-74年 「ソフィア・マーガレット」1880年 「ハントリー侯爵夫人」1870年 「ハートは切り札」1872年 ミレイは1885年に英国の画家としては史上初となる准男爵位を受け、名実ともにイギリスを代表する大画家となります。当然「箔が付く」と今までになかった所からも注文が舞い込みます。(実際は准男爵位を授かる前から上流階級から注文は多くあったそうです) ファンシー・ピクチャーのセクションにあった作品とは違った雰囲気が漂う空間。また人物を美しく丹念に描く反面、ミレイが「オフィーリア」等で見せた忠実な自然の再現は影を潜めます。「ハントリー侯爵夫人」の背景描写などその傾向が顕著に現れているかと。 またミレイは所謂「眼力」を大変巧いこと作品に表し同時にそれにより単調になりがちな肖像画に物語性を植え付けています。「ハートは切り札」の右端の女性や「エヴェリーン・テナント」の眼力は必見です。 7:スコットランド風景 Scottish Landscapes ![]() 「穏やかな天気」1891-92年 「霧にぬれたハリエニシダ」1889-90年 「第1章ラファエル前派」や「第4章大いなる伝統」で物語や詩、歴史的史実から描いたどんな作品よりも、もしかしたらミレイの風景画は詩的な要素を有しているのではと感じました。これは今回の一番大きな発見だったかもしれません。 兎角、繊細な植物描写だけに目が奪われがちでした。でも、今回は画面全体から行ったこともない異国の地に吹く一筋の風すら感じ取れたような錯覚に陥るほど詩的で物語性にあふれる風景画として捉えること出来ました。 きっと一、二枚だけミレイの風景画を観たとしてもそうは感じないはず。今回の展覧会の構成の妙とでもいいましょうか。ここまで引っ張ってきて最後に7枚の風景画で閉めるとはなんと粋な計らいなのでしょう。気分いいな〜 「帰りたくない」と思わせる展覧会。西洋絵画では久し振りです。 日本に巡回する前にヨーロッパで40万人以上の記録的な来場者があった展覧会なだけあります。テート・ブリテン館長のスティーヴン・デュガー氏曰く「英国でも古いイメージの画家であるミレイが現代の人々にこれほどまで高い関心を寄せられるとは思いもしなかった」と。海を挟んだフランスでは印象派がそのポジションを固めていた頃とミレイが時代的に重複してしまったのは今にして思うと運命の悪戯なのかもしれません。 「ジョン・エヴァレット・ミレイ展」は10月26日までです。 お見逃しなきように!! 「ミレイ展」公式サイト ジョン・エヴァレット・ミレイ展 | UK-JAPAN 2008 最後に「今日の一枚」 ![]() ラファエル前派史上最も悪評高き作品「両親の家のキリスト(大工の仕事場)」1849-50年(右端) とロイヤルアカデミーの会長にまで登りつめ、サーの称号まで得たミレイが「若い時は思う存分暴れろ〜」と吠えているかのような一枚。それにしてもよく描いたな〜こんな絵、、、今観ても相当…ですよ。 追記: 書くのすっかり忘れていました。 今回の展覧会「額縁」も見ものです!! 例えば「オフィーリア」の額縁は絵の中の植物がそのまま額縁にも!といった楽しみ方なんてことも出来ます。他の作品も然り。お見逃しなく。 ↓ ![]() ![]() ラファエル前派―ヴィクトリア時代の幻視者たち (「知の再発見」双書) ローランス デ・カール,高階 秀爾 それでは最後に「今日の美味」 ![]() レセプションに出ていた「ケーキ」 アッという間に無くなったらしく写真だけしか。。。 【関連エントリー】 - 弐代目・青い日記帳 | ミレーと韓流? - 弐代目・青い日記帳 | 「スコットランド国立美術館展」 - 弐代目・青い日記帳 | 「水の上のオフェリア」 - 弐代目・青い日記帳 | ルーヴル美術館展 - 弐代目・青い日記帳 | 「イギリスの美しい本展」 - 弐代目・青い日記帳 | マーティン・クリード「Work No.850」 - 弐代目・青い日記帳 | 祝・『水の女』復刊 - 弐代目・青い日記帳 | 祝・「J・W・ウォーターハウスの日本語版画集」発売 この記事のURL http://bluediary2.jugem.jp/?eid=1497 JUGEMテーマ:アート・デザイン 19世紀の英国を代表する画家、ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829-96年)の10代から晩年までの広い範囲の作品により、 画業の全容を紹介する本格的な回顧展です。ロンドンのテート・ブリテンで2007年9月から始まった本展は、イギリスでも1898年に開催された回顧展以来、初めてのミレイの大規模回顧展として話題になりました。今春、アムステルダムのゴッホ美術館で開催された後、いよいよ日本に巡回します。 |



















![消えたフェルメールを探して/絵画探偵ハロルド・スミス [DVD]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51RWb%2BELgML._SL160_.jpg)








