2008.09.29 Monday
「ハンマースホイ展」
明日から国立西洋美術館で開催される
「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」展のプレスプレビューにお邪魔させて頂きました。 ![]() ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ、ロンドン(Royal Academy of Arts)で今年の夏に開催された展覧会がグレードアップし、いよいよ満を持して日本に上陸。(ロンドン展の感想はこちら) 今年のベスト10入り間違いなしの展覧会。 9月30日より12月7日まで日本でほとんど知られていないデンマークの孤高の画家ヴィルヘルム・ハンマースホイ(1864-1916)。僅かに「オルセー美術館展」に一点だけ出展された画家さん。 しかし一部マニア(私を含む)の間では、この静寂に包まれた音一つ聞こえてこない作品ばかり描いた画家が今熱い注目を最も浴びています。 悪いこと言いません。必ず観に行って下さい。巡回はしません。西洋美術館のみでの公開。印象派に飽きた方、フェルメール展混雑していて嫌だな〜という方、お勧めします。 印象派と同じ時代にデンマークにこんな抒情性豊かな作品を描きだす画家がいたこと。フェルメールはじめ17世紀オランダ黄金時代の作品の影響をもろにうけつつも全く違った空間を作り出してしまった画家がいたこと。様々な思いが驚きと共に心に去来するはずです。 ![]() 「背を向けた若い女性のいる室内」 1904年頃 ラナス美術館 Photo © Niels Erik Høybye ポスターその他に採用されているこちらの作品。典型的なハンマースホイ作品。奥さんのイーダの後ろ姿を何枚も何枚も自宅内のあちこちで描いています。今回の展覧会だけでも役20作品もイーダの後ろ姿を描いた作品が。 ただし良く観ると腰のあたりを中心としプロポーションが不均一で不安定な印象を与えます。またピアノの上に置かれたロイヤルコペンハーゲン社製のパンチボウルの蓋が少し開いています。何か妖怪でも潜んでいるのでしょうか。 (以下写真は主催者の許可を得て撮影したものです) ![]() ところが、実際にハンマースホイが所有していたパンチボウルの写真パネルを見ると壊れた蓋を補修した為か蓋がしっかりとしまらないことが分かります。 印象派の明るい画面に慣れ親しんでしまっているので、ハンマースホイ特有のグレートーンで統一された作品を観ると「寂寥感」や「恐怖心」などといったマイナスのイメージをどうしても抱いてしまいます。 その為、少し奇妙な点があるとそこばかり固執して「変な画家だ」「暗い画家だ」と負のレッテルを貼り付けたくなるのでしょう。しかし実際はハンマースホイは目の前の光景を出来るだけ写真の如く表現しようとしただけにほかなりません。 ![]() 「室内、ストランゲーゼ30番地」 1901年 ハノーファー、ニーダーザクセン州博物館 Photo © Ursula Bohnhorst この作品も「不気味な画家ハンマースホイ」の眼鏡をかけて観ると右にあるピアノの脚が足りません。中央のテーブルの影が一方向ではありません。窓辺のイーダの左足は…と怪奇番組のように次から次へと謎が浮かび上がってきます。 ただ一旦、眼鏡を外せばピアノの脚は前脚と重なっているので見えないこと。机の脚の影は実際にはよくあることですが、絵画の世界では光は一方向から差し込むのが定石となっている為、不思議な感じを覚えるだけです。 これまで蓄えて来られた西洋絵画の常識、観方を一旦コインロッカーにでも預けてからご覧になることお勧めします。 さて、さて展覧会の構成をば。 1:ある芸術家の誕生 2:建築と風景 3:肖像 4:人のいる室内 5:誰もいない室内 6:同時代のデンマーク美術 あまり構成で唸ることないのですが、今回の構成は良く出来ていると思います。テーマを軸にしながらも制作年代も考慮しての構成。ロンドンでは描かれた年代順に並べられていた為、風景画も人物画も室内画もバラバラに展示されており掴みどころが難しかったのに比べると大変観やすい構成かと。 ![]() 今回のハンマースホイ展を担当された国立西洋美術館学芸課主任研究員・佐藤直樹氏。佐藤氏の情熱がこの展覧会開催にこぎ着けたと言っても過言ではないかと。 1:ある芸術家の誕生 ![]() ![]() 「若い女性の肖像、画家の妹アナ・ハンマースホイ」 1885年 ヒアシュプロング美術館 Photo © The Hirschsprung Collection, Copenhagen / DOWIC Fotografi ハンマースホイが自分の妹を描き自信を持ってコペンハーゲン王立美術館アカデミー展に出展したにも関わらず、ぼやぼやした画面がアカデミーの伝統的な技法にそぐわないという理由から落選。結局その後もアカデミーでは一度も賞が取れなかったそうです。 ここで重要なのは、既にこの時期からハンマースホイ独自の特徴が色濃く作品に現れていた点です。佐藤氏曰く「最初から完成された、成熟された芸術家だった」と。 また初期の正方形に近い形の風景画もカメラで撮影した画像をトリミング加工したように見えます。これもまた一貫して彼の作品と関わりを持つ「写真」との関連性を示唆しているかと。 2:建築と風景 ![]() ハンマースホイが描いた風景画は主にコペンハーゲンの歴史的建造物。 ![]() 「クレスチャンスボー宮殿、晩秋」 1890-92年 コペンハーゲン国立美術館 Photo © SMK Foto, Copenhagen クレスチャンスボー宮殿周辺は、コペンハーゲン市内でも普段から活気に満ちている場所だそうです。ところがハンマースホイの描いた風景画には人っ子一人いません。ハリウッド映画であれば謎のウイルスによって皆命を…そして画家一人が生き残った」なって感じかな。 他の風景画にもついぞ人物画描かれることはありません。 誰もいない風景画。これをどうお感じになるか、楽しみでしょ。 3:肖像 ![]() ハンマースホイは肖像画を滅多に描かなかったそうです。このセクションの展示が最も少ないのもその所為。それは「よく知っている人物以外、肖像画を描く気になれない」と一貫した態度を有していた為。 ↑の「アルフレズ・ブラムスンの肖像」はハンマースホイが家族以外を描いた貴重な一枚。ブラムスンはハンマースホイのよき理解者でもありコレクターでもあった人物だそうです。現在でも使用されているハンマースホイのカタログレゾネを制作までしています。隣の「チェロ奏者」は彼の息子。 ![]() 「イーダ・ハンマースホイの肖像」 1907年 オーフース美術館 Photo © Ole Hein Pedersen 奥さんのイーダを描いた一枚。驚くことにこの時イーダ38歳!失礼ですが50歳代に見えます。画像ではイマイチよく色が出ていませんが会場でご覧になればきっと後ずさりしてしまうほど不気味な緑色の肌で描かれています。 佐藤氏にの解説によると、イタリア旅行をした際にカラヴァッジョの「病めるバッカス」からの発想ではないかと。 ![]() これから後、病に苦しむことになるイーダ。既にこの頃からその兆候が見えていたのかもしれません。 またこの作品は、同じデンマークの作家コンスターティン・ハンスンの「カップを混ぜるイリーセ・クプケの肖像」から発想を得たとありました。 ![]() さてさて真相やいかに。。。 4:人のいる室内 ![]() 左の作品は以前もご紹介した通り、フェルメールの作品に通ずるものあります。また中央の作品は東京都美術館で開催中の「フェルメール展」に丁度出展されているエマヌエル・デ・ウィッテの「ヴァージナルを弾く女」との共通項が。 ![]() この展覧会のメインセクションにあたる広い展示空間にはハンマースホイの特徴である「メランコリックな雰囲気」と「生活感を感じさせない、まるで舞台のワンシーンを切り取った」ような作品がずらりと並びます。その様はまさに壮観です。 ![]() 「ピアノを弾くイーダのいる室内」 1910年 国立西洋美術館 今年の4月に西洋美術館が購入した一枚。 フェルメール「音楽のレッスン」を想起させます。良い買い物です。 「ハンマースホイ展」が終了しても常設でこれ観られると思うと幸せ。 ![]() ほとんどの作品がハンマースホイが暮らしていた「ストランゲーゼ30番地」にある自宅内で描かれた作品です。執拗なまでに繰り返し描いています。同じ作品を観て面白いのか?と思われるかもしれませんが、ご心配いりません。 間違い探しの如く比較してみると同じ場所を描いた作品でも違いがぞろぞろ。 6:同時代のデンマーク美術 5,6と順序が逆になりますがここで一旦一段下の階へ。ハンマースホイと同時期に活躍したデンマークのピーダ・イルステズとカール・ホルスーフらの作品が。 ![]() こちらはピーダ・イルステズの作品。万人受けしやすそうな作品(特に右) もうひとりのカール・ホルスーフはもっとカラフルな色調。二人ともアカデミーに入選したそうです。ハンマースホイが一度も入選できなかったのとは対照的に。。。 5:誰もいない室内 ![]() 後姿の妻すらとうとういなくなってしまいます。 西洋絵画において誰もいない室内画をこれだけ描いた画家さん他にいるのでしょうか。ただ、画面上に誰も描かれてはいませんが、このセクションで強く感じたのは人の気配。不思議なことです。 ![]() 「白い扉、あるいは開いた扉」 1905年 デーヴィズ・コレクション B309 Photo © Pernille Klemp この絵にも誰の姿もありません。しかし床にめを転じるとはっきりとそこにハンマースホイ自身と妻のが生活をしていた痕跡が。人物が描かれている作品では見られないのですがどうしてこの作品に?これはきっと見えないだけで居るのです、目の前に背中を向けた奥さんが佇立して。。。 ハンマースホイ曰く「誰もいない室内に美を感じたから描いた」 ↑のソファーが描かれた室内画も人の痕跡のように窓からの光が。。。 そうするとこちらも。 ![]() 左「画家のイーゼル」1910年 ハンマースホイのいない自画像。 最後のセクションでは想像力が要求されます。 ハンマースホイならそこに誰をどう描いたのか。描きたかったのか。 駆け足で紹介しましたが、これはほんの一部。 ハンマースホイのシャワーを思う存分西美で浴びて下さい。 ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情(公式サイト) 12月7日まで開催しています。是非是非。絶対好きになります。 最後に「今日の一枚」 ![]() 「休息」 1905年 オルセー美術館 Photo © RMN / Michèle Bellot / distributed by DNPAC 人物画のセクション最後に展示してあった作品。 次の章から怒濤の背中ラッシュが開始されます。 会場のあちこちで「暗い」との声が聞こえました。確かにグレートーンでまとめられた画面は暗いのかもしれまえん。印象派やゴッホ、マティスに比べれば。でも人間の心の中ってもしかしたらこんな色調なのかもしれません。 決してカラフルではないこと確かです。だからこそ色付きの派手なものを求めるのかと。そうであるならハンマースホイの作品は人の心の色に最も近い色調を備えた作品なのかもしれません。否きっとそうです。 「暗い」と同じくよく耳にした「静か」という感想。アタリです。心は「暗」く(ダークではありませんよ)「静」なものです。本来。現代がごちゃごちゃとやかましいだけ。そんな時代の到来を予知していたのかも。だからこそライフワークのように一貫してグレートーンの薄塗りの作品ばかりを我々の為に残してくれたのかもしれません。 背景は本来「未来」に向かっているはずですから。 ![]() Hammershoi i Dreyer それでは最後に「今日の美味」 ![]() ![]() 展覧会会場で売っているアンデルセンの「焼き菓子詰め合わせ」3種類の手焼きクッキーとデンマークのお菓子「クランセケー」(マジパンを焼き上げたデンマークのお祝いには欠かせないお菓子)のセット。かみさんのいいお土産に。 【関連記事】 ・ヴィルヘルム・ハンマースホイ展へ急げ! この記事のURL http://bluediary2.jugem.jp/?eid=1527 JUGEMテーマ:アート・デザイン ヴィルヘルム・ハンマースホイ(1864-1916)は、生前にヨーロッパで高い評価を得た、デンマークを代表する作家の一人です。没後、急速に忘れ去られましたが近年、再び脚光を浴びています。ハンマースホイの作品は17世紀オランダ絵画の強い影響を受け、フェルメールを思わせる静謐な室内表現を特徴としています。室内画の舞台は自宅であり、登場人物として妻のイーダが後姿で繰り返し描かれました。イーダの後姿は、我々を画中へと導いてくれるのですが、同時に、陰鬱な室内と彼女の背中によって、我々は「招かざる客」かのような拒絶感も覚えることとなります。しかしながら、ハンマースホイの室内画が決して居心地が悪いというわけでありません。モノトーンを基調とした静寂な絵画空間が綿密に構成されているためでしょう。まるで音のない世界に包まれているような感覚に浸れるのです。 http://d.hatena.ne.jp/kyou2/20081120 |































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