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『百鬼夜行絵巻の謎』(集英社新書ビヴィジュアル版)

小松和彦氏(国際日本文化研究センター教授)の新刊『百鬼夜行絵巻の謎』(集英社新書ビジュアル版)を読みました。


「百鬼夜行絵巻の謎」 (集英社新書ヴィジュアル版)

ここのところ「カラー版 浮世絵」(→レビュー)や「恋する西洋美術史」(→レビュー)など立て続けに新書版の魅力的な新刊が相次ぎ嬉しい悲鳴をあげていますが、今日もまたまたとてつもない新刊のご紹介。

お正月三が日にのんびり読もうと思って購入したのですが、「はじめに」を読んでしまったのが運のつき。そのまま一気に最後まで読み終えてしまいました。読者を掴んで離さない妖怪がこの本には住み着いています。

小松氏も「あとがき」の中でこのように述べられています。
本書の成立には「妖怪のはからい」としかいえないようないくつもの偶然が重なっています。(中略)公務多忙のなかで、暇を見つけてはこの仕事に集中することができたのは、きっと妖怪たちの後押しがあったおかげだと思わざるをえません。
小松氏をよくご存じない方がこの「あとがき」をお読みになられると、「何だこの奇妙なヤツは…」と不快感覚えるかもしれません。大の大人が「妖怪」「妖怪」ってバカなことをと。

でも、小松氏の本職は「妖怪研究」なのですから仕方ありません。「妖怪研究」と言っても遊びでも何でもなく真剣なものです。もとより、民俗学や文化人類学を専門に研究されてこられた延長線上に「妖怪」がいるのです。

妖怪と聞くと、古くは水木しげる、近年では京極夏彦などの名前が挙げられますが、京極夏彦の著書のベースとなっているのは、小松氏のこちらの本であることはその筋では有名な話です。
憑霊信仰論―妖怪研究への試み (講談社学術文庫)
「憑霊信仰論―妖怪研究への試み」(講談社学術文庫)小松 和彦

京極堂の口にする台詞は小松氏の論文が「憑依」したようなものです。

小松氏は単なる物書きではなく、あくまでも学者さんです。「妖怪」というフィルターを通して、悪霊の跳梁跋扈する現代社会を鋭く切り裂き我々に提示してくれます。

以前、こちらの記事でも紹介しましたが、現代の妖怪研究の第一人者、小松和彦氏を理解してもらう為に今一度、引用させて頂きます。
妖怪学新考―妖怪からみる日本人の心
「妖怪学新考―妖怪からみる日本人の心」 小松 和彦
 科学的・合理的精神を身につけて日常生活を送るのが好ましい人間だとする、妖怪や迷信を信じない人たちから見ると、若い女性の精神はまだ「原始的」で「呪術的」、「非合理的」段階にある、ということになり、子供も一定の時期はそういう段階にある、ということになるのかもしれない。しかし、人間を幸福にするはずであった近代の科学文明・合理主義が頂点にまで到達したという現代において、多くの人々がその息苦しさ、精神生活の「貧しさ」(精神的疲労)を感じ、将来に漠然とした「不安」を抱いているということを思うと、逆に「原始的」とか「呪術的」とか「迷信」といったレッテルを貼って排除してきたものの中に、むしろ人間の精神にとって大切なものが含まれているとも言えるのかもしれない。だとすれば、むしろ妖怪を登場させる若い女性や子供たちの精神活動のほうが、人間らしく心が豊かであるということにもなるだろう。少なくとも、画一化してしまった物質文明の中で、妖怪の名を借りて想像力を膨らませている彼らの生活が、私にはとても人間的に思えてならないのだ。

鬱屈した閉塞感の充満する現代社会に光明を見出すもの。それは他ならぬ「想像力」しかし頭ごなしに妖怪なんて…とバカにしているようではその大事な想像力が掌からするりとこぼれ落ちれしまいます。

さて、さて前置きが随分と長くなりました。
好きな作家さんゆえ、力が入ってしまいます。ついつい。

この度、小松氏が上梓された「百鬼夜行絵巻の謎」がいかにとんでもなく凄い一冊なのかを書かなくてはなりません。

まずページをめくるといきなり「まえがき」の前に今回の主人公「百鬼ノ図」(国際日本文化研究センター蔵)縦32.6cm、全長19.4cmの巻物の全てがカラーページ23頁に渡り惜しげもなく掲載されています!


絵巻の天地には金砂子が施されている豪華なつくり(裏地には銀切箔)
新書版をフルに活用。これは今までにない贅沢な構成。
まるで手元に本物の絵巻があるかのようにページを進めていく楽しさも。

目次
第1章 すべては日文研本「百鬼ノ図」から始まった!
・「百鬼ノ図」と中世 
・次々にわかってきたこと

第2章 「謎」だらけの百鬼夜行絵巻
・「謎解き」の歴史 
・本格的な「謎解き」

第3章 百鬼夜行絵巻の全諸本が分類できる
・四つの系統がある 
・組み合わせの着眼点

第4章 妖怪イメージ誕生の秘密
・擬人化と妖怪 
・戯画から妖怪へ 
・妖怪の出現を描く

おわりに
・系統樹の書き換えと中世制作の祖本
・「擬人化」の問題と物語の幻想化、妖怪化
・「戯画」と「妖怪画」、擬人化と獣化・鬼化
・妖怪物語絵巻と妖怪図鑑化


これまで「百鬼夜行」の底本として京都・大徳寺真珠庵が所蔵する伝土佐光信画「百鬼夜行絵巻」(「真珠庵本」)がほとんど唯一絶対の存在だったそうです。

また「真珠庵本」系統である東京国立博物館所蔵の「百鬼夜行図(模本)」(「東博模本」)などが知られていたそうです。

小松氏は丹念に「真珠庵本」と「東博模本」に描かれた妖怪についてしらみつぶしにその差異を追っていきます。色分けされた見開きページを使用することにより違いが一目瞭然でわかります。


しかし、これはまだほんの序の口。実は第1章はこの後からなのです。
小松氏の前に突如あらわれた新発見の百鬼夜行絵巻が彼を震撼させます。
「百鬼ノ図」との衝撃的な出会い
 このような思いに至ったきっかけは、日文研が所蔵する百鬼夜行絵巻の一種「百鬼ノ図」(以下「日文研本」)の発見でした。この絵巻に出会ったとき、体に電撃が走りました。研究者というものは、その研究人生で一度や二度は、「これだ!」と叫びたくなるような決定的な資料や出来事に出会うことがあるといいます。私にとって日文研本はまさにそれでした。
 たくさんの百鬼夜行絵巻を目にしながら、ぼんやりと感じていた整理のつかない諸々の疑問が、この絵巻によって一挙に氷解する! そう思えたのです。
 その理由は、本書のなかで追い追い明らかにしますが、ひとことでいえば、真珠庵本を中心に語られてきた百鬼夜行絵巻の成立をめぐる従来の議論を反転させることができる、つまり、真珠庵本を中心から周辺に、逆に周辺に位置づけられていた絵巻を中心に押し上げることができるのではないか、という閃きでした。
この絵巻物がこれまで謎だらけだった百鬼夜行絵巻を解読する大きな大きな手がかりとなるのです。単にインスピレーションで「百鬼ノ図」を持ち上げているわけではありません。

小松氏ならではの緻密な調査に裏付けされ「事実」によって、これまで底本とされてきた「真珠庵本」の存在をも根底から揺さぶりをかけることに。


「東博異本」と「京都市芸大本」・「大倉集古館」などの百鬼夜行絵巻との比較図。反転させることによって同じ妖怪が!

また第4章ではあの「鳥獣人物戯画」との共通点まで見つけ出してしまいます。


これだけでも十分にスリリングな面白さお分かりいただけたかと思いますが、「本命」はまだまだ他にあります。ここで種明かししてはもったいないので続きは是非本を手に取ってお読み頂ければと。因みにブックカバー外すとそこに「答え」らしき影が…

このカラー表紙も…

百鬼夜行絵巻の謎 (集英社新書ヴィジュアル版)
百鬼夜行絵巻の謎 (集英社新書ヴィジュアル版)小松 和彦

「百鬼夜行絵巻」のデータベースとしても大変重宝する一冊です。
とにかく至れり尽くせり。値段倍はしてもおかしくありません。

毎度毎度のことですが、この内容で新書版で本当にいいのでしょうか?
こちらとしては、有り難い限りですが。。。

そうそう、帯で宮部みゆき氏が「日本人の想像力と創造力って…凄い!」と推薦コメント寄せていらっしゃいます。かつてほんの数十年前までの日本人は確かに凄かったのでしょう。妖怪を信じられなくなってきてから歯車が次第に狂いだし気が付けば袋小路へ。

想像力を取り戻してくれる強い味方が妖怪。そしてその膨大な情報処理能力をフルに発揮しご先祖様たちが遺した妖怪絵巻を現代によみがえらせてくれる手助けをして下さっているのが小松氏にほかなりません。

これはほんと、とんでもない凄本です。「百鬼夜行絵巻の謎」

以下、先日の新聞記事より。

「鳥獣戯画」の影響受けた「百鬼ノ図」
 烏帽子をかぶったカエルに、坊さんの格好をしたトラ―。擬人画「鳥獣戯画」などの影響を受けた百鬼夜行絵巻「百鬼ノ図」が残されていたことが、国際日本文化研究センター(京都市)の小松和彦教授(民俗学)の調査で分かった。
 小松教授は「現存最古とされる室町期のもの以前の絵巻の影響を強く受けており、多様な妖怪の原点を解き明かす手掛かりになる」としている。
 京都国立博物館の若杉準治列品管理室長の鑑定によると、百鬼ノ図は江戸前期に描かれた。
 小松教授によると、筆致や絵柄から室町時代の絵巻を模写した可能性が高い。現存最古の百鬼夜行絵巻は、同じ時代に描かれた大徳寺真珠庵所蔵の「百鬼夜行図」(重要文化財)。室町期に描かれた古道具の妖怪に特化しているという。
(日本経済新聞)2008/12/16

図説 百鬼夜行絵巻をよむ (ふくろうの本)
図説 百鬼夜行絵巻をよむ (ふくろうの本)
田中 貴子,澁澤 龍彦,小松 和彦,花田 清輝

京都魔界案内―出かけよう、「発見の旅」へ (知恵の森文庫)
京都魔界案内―出かけよう、「発見の旅」へ (知恵の森文庫)
小松 和彦

百鬼ノ図」は国際日本文化研究センターのサイト内にある「絵巻物データベース」で全て拝見することできます。

【関連エントリー】
- 弐代目・青い日記帳 | 『カラー版 浮世絵』 (岩波新書)
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この記事に対するコメント

こんばんは
これはまた興味深いご案内を!
小松さんの丁寧なお仕事がびらら〜〜と広がってますね。
「恋する西洋美術史」のほか、諸星大二郎「巨人譚」と買わねばならぬところへ、こんなドキドキものが来ては・・・ううう。
ところでわたしは百鬼夜行では、巻物読んでるあの子が可愛くて大好きです♪
遊行七恵 | 2008/12/27 9:46 PM
あ、Takさんのサイトで見た本!
思わず手に取りました。
帰宅して、再度この記事を読み、
買ってきた本を開くと、
あー堪りません!快感が広がるばかりです。
「まえがき」の前までのページで
どうしようもなく幸せになります。
Takさん、今回もありがとうございます。
さちこ | 2008/12/27 10:04 PM
@遊行七恵さん
こんにちは。

いやはや参りました。
美術評論家ではない小松氏の
徹底した研究態度にただただ驚嘆。

自分など反省しきりです。
ただ眺めているだけだったので。。。
百鬼夜行今度目にするチャンスあれば
必ず観方が変わるはずです。

@さちこさん
こんにちは。

webで観られるものと
たとえ同じでも一冊の本になっていると
愉しみ方愛で方も違ってきますよね。
掌で妖怪たちをじっくり堪能しつつ
小松氏が真正面から取り組んでいる
執念ともいえる研究ぶりにひたすら感心。

新書本ほんとありがたいです。
Tak管理人 | 2008/12/28 3:56 PM
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