青い日記帳 

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「聖地チベット」

上野の森美術館で開催中の
「聖地チベット展−ポタラ宮と天空の至宝」に行って来ました。



上野千鶴子の著書発情装置―エロスのシナリオ(筑摩書房)にチベット仏教の特殊性を表した箇所があります。
遍在する男女合体仏(ヤブユム)
チベット仏教は、ヤブユムと呼ばれる男女の合一を無上の宗教的な解脱とするタントリズムを教義に持つ点で、世界の宗教の中で特異な位置を占める。おおかたの宗教は、性的欲望を救済の妨げと見なし、禁欲を含む欲望の統制を求めるのに対し、チベット仏教は、それと反対に、大胆に性的合一を悟達の行の中にとり入れるからだ。
フィリップ・ローソンは『聖なるチベット』の中でこう書く。
「性的な結合は、最もレヴェルの高い成就を超越的な歓喜という形で体験できることをも意味している。これは、サンスクリヅトではサハジャ(倶生)と呼ばれ、性的な胱惚はその隠楡であると同時に実践方法でもある。」
だが、おおかたの宗教の常識に反する、性的結合の教養への大胆なとり入れは、多くのチベット仏教研究者たちを困惑させてきた。とくに禁欲を持戒としてきた日本仏教の影響下にある人々は、困惑し不快をかくさない。
上野氏のこの著書の中ではモノクロの写真が2点しか載せられていない為、「日本仏教の影響下にある人々は、困惑し不快をかくさない」と書かれる程、当惑し嫌気がさす程のことでもないと感じていました。

今回の展覧会で、チベット仏教(密教)の他では見られない、こうしたエロティックな側面を実際に拝見できるのかという、いささか不謹慎な関心を抱いていたのは事実。

しかし、公の美術館での展示でそんな仏像が展示されるとは、到底考えられないのもこれまた事実。実際会場で展示された仏像たちを拝見していても、上野氏が何ページも割き熱くペンを走らせるような仏像は見当たりませんでした。


手前「アヴァドゥーティパ坐像」16世紀前半
他の3体も、ミンドゥリン寺に堂内に祀られた、ほぼ等身大の祖師像。

注:写真はプレス内覧時に主催者の許可を得て撮影したものです。

どの仏像も、こちらを強く見据えるようにカッと大きな眼を見開いています。まるで何者かを射るような眼差しを向けており、日本の仏像に慣れ親しんだ者としては、違和感を感じざるを得ません。

↑の写真の手前から2番目の仏像。

ダマルパ坐像」16世紀前半、ミンドゥリン寺

興味深いのは下半身はさほど修復された形跡が見受けられないのに対し、上半身、とりわけ「顔」は今さっき修復を終えたばかりのように金ぴかな状態。白眼や歯の白さ際立ちます。

詫び寂びを良しとし、仏像を修復(特に色を塗り加える)することのまずない日本とは大違いです。「ご尊顔は常に美しく」という発想も確かに一理あるのではと納得させられてしまうほど綺麗。

金ぴかに彩色するだけではなく、貴石でもってデコレーションされた仏像が多く存在するのも、また日本の仏像とは大きく違う点。とにかく派手でお洒落で、そしてまた妖艶なのです。


緑ターラー立像」チベット 18世紀

ターラーは弥勒菩薩の瞳から放たれた光明より生じたといわれ、観音の救いから漏れた衆生をも救済する女神として、インド、チベットを通じ幅広く信仰された」何とも慈悲深い、まさに慈愛に充ち溢れた女神様。

そしてこの女神がまた色っぽい。腰をくねらせつつ救いの右手を差し伸べています。この簡明直截な表現は分け隔てなく誰しも救わんとする仏の教えそのもの。

それにしても、セクシーな仏像です。上野氏の指摘されたものとは違えども、これだけでも十分「困惑」してしまいます。煩悩が……

会場内に展示されたこうした見馴れぬ異国の仏像の前でカルチャーショックを受け困惑していた脳みそも、多少は平静を取り戻し、やっと落ち着いて観られるようになった頃、ポスターやチラシ↑に用いられている「カーラチャクラ父母仏立像」が目の前に現出。


カーラチャクラ父母仏立像」14世紀前半、シャル寺

お顔や腕が一体いくつあるのか正面から見たのではカウント不可能なほど奇天烈な仏像です。

そして実は「正面から見た」だけでは分からないのはそれだけはありません。↑のチラシの画像(横から見た様子)を今一度よ〜くご覧ください。一体の仏像ですが、2人の神が顔と顔を見合わせ抱き合っている(合体している)仏像なのです!!


横から見た「カーラチャクラ父母仏立像

正面からでは全く分かりませんが、横から見ると確かに足の数が二人分あります!まさに上野氏が快哉を叫びそうな仏像。

灯台もと暗しとはまさにこのこと。まさかまさかチラシやポスターに堂々とこんな妖艶でエロティックなそして「日本仏教の影響下にある人々は、困惑し不快をかくさない」であろう仏像が使用されていたとは!!

そして気付けば男女合体仏は展覧会会場のあちこちにまさに偏在。

ほぼ日本と同じ時期に密教が伝来したとされるチベットですが、仏様ひとつとって見てもとても同じ宗教とは思えないほどの違いがあります。この違いこそまさに文化の違い。



これまで本やテレビを通してでしか知り得ることのなかったチベット仏教の仏像たちをこの目で、しかもほとんどガラスケース無しの露出展示で拝見出来たのは大きなプラスでした。

また、仏像だけでなく、以前福岡伸一氏の著書に記されていた「チベットの医学」に関する展示も最後の方にありました。



これがまた西洋医学にどっぷりと浸かってしまっている、抗生剤漬けの我々にとって、頭を小突かれるような新鮮な驚きに満ちた内容。当り前の生活がいかに大事か教えてくれます。

チベット医学の見解では、身体という小宇宙と環境と言う大宇宙は、絶えずともに手を携えてダンスを踊っているとされる。互いのステップが乱れたり、この両者を突き動かす原動力とのリズムがずれると、そこに疾病が生ずるとされる。
(中略:ルドルフ・シューンハイマーによる「発見」)
チベット医学がずっと前から知っていたことにようやくヨーロッパ世界が気づいた瞬間だった。しかし、今なお重大なのは、チベットの人々の到達点について私たちはいまだほとんど何も知ってはいない、という事実のほうである。
福岡伸一著「ロハスの思考」 (ソトコト新書)より。チベットの医学研究者である高僧が語ったチベット医学の智見。

最後に「今日の一枚


弥勒菩薩立像
東北インド パーラ朝・11−12世紀、ポタラ宮

来館者を最初に迎えてくれる慈悲深くそして美しい菩薩像。
横から拝見するご尊顔がこれまた何とも言えない美しさ。



「聖地チベット展−ポタラ宮と天空の至宝」
会期:2009年9月19日(土)〜2010年1月11日(月・祝)
会場:東京・上野の森美術館(東京都台東区上野公園)
開館時間:午前10時〜午後6時(入館は閉館の30分前まで)
 
※会期中、無休

東京展の後は以下に巡回するそうです。
2010年1月23日(土)−3月31日(水) 大阪歴史博物館
2010年4月20日(火)−5月30日(日) 仙台市博物館


おまけ
↑のチラシの「十一面千手千眼観音菩薩立像」も横から見ると…


まぁ驚きを通り越し腰抜かしてしまうほどの大迫力です。因みにドリアンではありません。

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それでは最後に「今日の美味


PATISSIER INAMURA SHOZO|パティシエ イナムラショウゾウ」の「上野のお山のモンブラン」濃密濃厚プリンのようなモンブラン。これ一個でお腹いっぱいになります。モンブラン大好き!

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チベット密教」 (ちくま学芸文庫)

民族音楽,ギュートゥ・ゴンパの僧侶

このたび、世界的に大きな注目を浴びているものの、まだわが国ではあまりなじみのないチベット文化を総合的に紹介する「聖地チベット -ポタラ宮と天空の至宝-」展を開催致します。わが国初公開となるチベット自治区および河北省承徳にある世界文化遺産に登録された宮殿、寺院や博物館などから名品多数を展示します。
展覧会 | permalink | comments(8) | trackbacks(8)

この記事に対するコメント

本日行ってきました。
子連れで行くにはかなりハードルが高い内容でした。。
うう、気がつくと気になってしまいます。。。
私は煩悩の固まりなんだなあと改めて思いました。
せいな | 2009/10/15 11:37 PM
@せいなさん
こんばんは。

エ ロティックとい言葉を用いて
記事書きましたが、狭義の意味ではなく
もっと広い意味での使用です。
煽情的よりもさらに。

最後の医学の展示コーナーを
もっと増やしてほしいです。
Tak管理人 | 2009/10/17 8:47 PM
こんばんわ。
チべット展は 正倉院展の後、ついでに観にいきましたところ、私にとって 正倉院展より 魅力を感じる展覧会で 大満足のほうかな。美しいかっこいい仏像があって 日本の控えめな印象の仏像とは 随分趣がちがうものですね。意外と 20代の方も観に来ていて 好奇心旺盛ですね。よいものは見ないと 血肉になりませんから。
正倉院展では 藤原行成の書に 一番心にひっかかり こんなすてきな書体は観たことがありません。書だけをみて 初めて どんな顔でどんな感じの人だったのか 知りたくなりました。
それにしても 東博さんは 展覧会の売り込みが近頃 とても上手で すごく 行きたい気持ちにさせますね。テーマ選びも 人々のこころをつかむものばかり。

hidamari | 2009/11/25 1:40 AM
@hidamariさん
こんばんは。

同じ仏教の仏様でも国や文化、
考え方が違うとこうも差がでるものなのですね。
補色したり後に手を加えたりもフツーに
行われているようです。
ワビサビの世界に目が慣れてしまっている
自分たちにはどれも新鮮な驚きを持って飛び込んできます。
Tak管理人 | 2009/11/26 8:49 PM
いろんな意味でカルチャーショックでした。

日本の仏教界も繋がりがあるんでしょうけど、文化的には
かなりの違いがあることがわかりました。

金色の仏像には目が痛くなりました。
仏像に関しては造形も含めて日本の方が好きかも。

東洋医学のところが私は結構おもしろかったです。

あと、グッズ売り場が何だか怪しくて・・
凡字グッズや中国漢字のグッズなど風水的なものもあったりして、「チベットと関係ないじゃん」と突っ込み入れたくなりました・・
yoshi | 2009/12/03 2:05 AM
@yoshiさん
こんにちは。

考え方の方向性が違うだけで
同じ仏様を具現化したものでも
こうも違うのかと驚かされます。

好きにはなれないですが
異文化と接するよい機会かと。

医学に関しては少しだけ
興味があったので楽しめました。

グッズ販売は仕方ないですね。。。
Tak管理人 | 2009/12/06 11:05 AM
連投失礼します。

確かに妖艶でしたね。
そして異形な美しさに目が留まってしまう。

私的には萩尾望都が描いた阿修羅王や山岸涼子『日出処の天子』が思い浮かびます。小説なら夢枕獏作品。

>因みにドリアンではありません。
受けました(^0^)
shamon | 2010/01/06 7:38 PM
@shamonさん
こんにちは。

ヨーロッパよりも距離的には
近いにも関わらず、何もチベットのことについて
自分は知らないのだな〜と
痛感させられた展覧会でした。

明日で終了ですね。
Tak管理人 | 2010/01/10 11:27 AM
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縺。繧紜ュィ蜑阪↓縺ェ繧翫∪縺吶′縲∽ク企鈬ョ譽ョ鄒手。馴、ィ縺ォ縲瑚*蝨ー繝√繝絅蓊萃絅繧ソ繝ゥ螳ョ縺ィ螟ゥ遨コ縺ョ閾ウ螳昶鱚犧紕鴃ウ縺ォ陦後▲縺ヲ縺阪∪縺励◆縲ゅ°縺ェ繧頑ソッ紜縲√∪縺輔↓繝√繝絅蒹...
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