青い日記帳 

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「小村雪岱とその時代」

埼玉県立近代美術館で開催中の
「小村雪岱とその時代−粋でモダンで繊細で−」展に行って来ました。



この美術館の常設展で、作品を目にするとこの上ないやさしい幸せ感に包まれる画家さんがいます。彼の名は小村雪岱(こむら・せったい)。主に大正から昭和初期に活躍した埼玉県川越市生まれの日本画家。

今でこそ、雪岱(せったい)の認知度一部を除きほとんどゼロに近いですが、彼が活躍した時代、雪岱の名を知らぬ者は居ないほど。

例えば昭和8年9月30日から12月13日まで「朝日新聞」に連載された邦枝完二の小説『おせん』の挿絵を雪岱が担当。この挿絵が大人気となり「朝日新聞」の購買部数が2万部も伸びたそうです。


『おせん』宣伝用ポスター」1934年

【おせん】
舞台は江戸時代明和期。谷中笠森稲荷境内の水茶屋の看板娘で江戸一番の美人と噂のおせんと、幼馴染で今は人気女形の瀬川菊之丞の、人気者同士ゆえの悲恋物語。

新聞連載1回分を4頁に収めてまとめた単行本も出され、挿絵もすべて収録。そのうち3点は手直しを加えて描きかえるという熱の入れよう。また雪岱の描いたおせんをイメージして映画も作らるなど当時の人気ぶりがうかがえます。

これを機に雪岱は「昭和の春信」と呼ばれ大ブレイク。浮世絵師、鈴木春信が描いた浮世絵のおせんを参考に、清楚な中に芯の強さを秘めた近代的な美人にリメイクした雪岱の絵は戦前の人々の心を鷲掴みに。

さて、雪岱の描く女性は、一見すると皆同じような顔つきのようですが、よく拝見するとそれぞれ皆実に豊かな個性が作品に表れています。


星祭り」1933年(昭和8年)頃

雪岱自身、仏像のような無個性な女性を描きたいと考えていたようですが、それが逆に1枚1枚微妙に違った「個性」を生み出しているようです。

私は個性のない表情のなかに、かすかな感情を現わしたいのです。仏様や人形のようなかすかな趣を浮かび出させたいのです。


それでは、待ちに待った雪岱展について簡単にご紹介していきましょう。

注:館内の様子は美術館さんの許可を得て撮影したものです。

展覧会の構成は以下の通りです。

第1章:粋でモダンな東京でー資生堂意匠部時代
第2章:『日本橋』ー装幀家・小村雪岱の誕生
第3章:白と黒の美学ー「雪岱調」、挿絵界に新風
第4章:檜舞台の立役者ー名優の信頼をあつめて



第1章:粋でモダンな東京でー資生堂意匠部時代

18歳で東京美術学校日本画科選科に入学した雪岱。当時助教授であった松岡映丘の元、京都で国宝の絵巻物の模写を行った際の作品等がまず展示されています。因みに雪岱の号は後に泉鏡花から授かったもの、学生時代の作品には本名である泰助のサインが。

学生時代の作品の中でも「太刀図」は注目。太刀を描くだけでなく細部のデザインについてこと細かに書き込みがなされています。意匠に対する関心が既にこの頃から芽生えていたのでしょうか。


香水 菊」1920年(大正10年)

そんな雪岱が出来たばかりの資生堂意匠部に入社したのが大正7年。雪岱が32歳の時です。ここで持ち前のデザインセンスをいかんなく発揮。「資生堂」のロゴの原型を作るなど、まさに資生堂の基礎を築いたと言っても過言ではありません。


第2章:『日本橋』ー装幀家・小村雪岱の誕生

時期は若干前後しますが、東京美術学校在学中の明治40年に、雪岱にとって運命の人、泉鏡花と出会います。元々鏡花の小説のファンであった雪岱はこの出会いによりデザイナーとしての道を歩むことに。

傷難しい泉鏡花の信頼を勝ち得たのは雪岱の手がけた装幀が、鏡花文学の世界を見事なまでに表していたからにほかなりません。


『日本橋』泉鏡花」1914年(大正3年)

蔵が並ぶ日本橋の空を赤と青の蝶が舞っています。この装幀の仕事が好評を博すことに。現在の我々が観ても大変斬新です。

この章では雪岱が装幀を手がけたあまたの本が所狭しと並び紹介されています。

また同時期に活躍した鏑木清方(彼もまた泉鏡花作品の影響を大きく受けた絵師であることは、現在サントリー美術館で開催中の「清方/Kiyokata ノスタルジア」展の記事にも書いた通り)清方以外にも橋口五葉などが手がけた本も。



通常ただ作品をずらりと展示することが多いこの美術館ですが、今回はかなり手が込んだ会場に仕上がっています。ともすれば単調となりがちな本の展示も写真でお分かりのように、メリハリが付けられ、いい感じのリズムで拝見できます。

一番奥には雪岱が衣装を手がけた着物もあったりと飽きることなし。


第3章:白と黒の美学ー「雪岱調」、挿絵界に新風

会場の要所要所に置かれた「雪兎模様」をあしらった灯籠。こういったところにもこの展覧会にかける意気込みというか愛情が伝わってきます。いいな〜これ。ショップで販売して欲しい!

さて、挿絵。「おせん」の挿絵については初めに書いた通り。
小説の脇役である挿絵でありながらも、雪岱はそこに独自の美意識を持ち込み大成功を収めます。山口晃、天明屋明尚、鴻池朋子らの大先輩に当たるわけです。

脇役が主役に。芸術作品の域に高めた雪岱の功績ははかり知れぬものが。



すらりとして描線、俯瞰の構図、ポーズ、デフォルメや省略、白と黒との巧みなコントラストそれぞれが相まって生み出すユニセックスで上品な画風。この「雪岱調」と呼ばれた画風は挿絵界に新風を吹き込んだそうです。今でもまだ生き生きと我々の心を捉えてやみません。

鈴木春信が描いた「おせん」を参考までに。
クリックで拡大
鍵屋お仙」明和6年(1769)頃

春信が一躍人気浮世絵師となったのは、この「おせん」を描いたことがきっかけと千葉市美術館で開催された「鈴木春信展」の図録に書かれてます。こんな所にも雪岱との共通点が。

故・尾崎秀樹氏が1987年「みづゑ」に寄せた文章をご紹介。

雪岱の絵は、人物だけでなく生きとし生けるもの、生なきものにまで情趣がこもっている。しかもそれが、モダニズムを濾過したかたちで、鋭利さと繊細さを秘めた独得な造型美によって作り出されており、デザイン的空間処理に白と黒の対照もあざやかだ。人はピアズリーと比較したり、国貞や春信の影響をいうが、小村雪岱は雪岱以外の何物でもない。

雪岱の仕事の領域は、挿絵にはじまり、装噴、舞台装置、映画の風俗考証から本絵にまで及んでいる。その中でも『その特質のいちばん活かされているものに、私はまつさきに挿絵を推す。装釘と舞台装置とかがそれに次ぐ』と書いたのは清方だった。



第4章:檜舞台の立役者ー名優の信頼をあつめて

大正13年頃から雪岱は舞台美術も手掛けるようになります。雪岱が描く舞台装置原画はそれまでのもとは明らかに違い、そのまま50倍に拡大すれば舞台として使える程、鮮明で詳細なもの。

彼の登場により江戸時代から続いた「『歌舞伎の舞台』の感じから少し離れて、日本画を見るような感じになった」と周囲に言わしめたほど、真新しく目を見張るものだったそうです。


クリックで拡大。

何をやらせても、その時代の先をゆくものをいとも簡単に作り出してしまう雪岱。彼の魅力はまだまだこんなものではありません。他にも山ほど作品が展示されています。

1940年(昭和15年)に54歳でこの世を去ってしまった雪岱。道半ばにして亡くなってしまった感もありますが、考えようによっては、太平洋戦争を経験することなく逝けたわけで、その点幸せだったのかもしれません。

昭和40年代まで長生きした清方が、戦後あれだけ昔のこと(旧き良き明治時代)を懐かしんで繰り返し描いたことを思うと。。。

そうそう、雪岱はこの手の絵にも独特の風情があります。


↓クリックで拡大

雪の朝」「落葉」「青柳

鏑木清方は、昭和17年12月に高見沢木版社から刊行された『小村雪岱画集』に寄せた序文の中で次のように述べています。

小村雪岱さんの絵―それにつながっての仕事のどれでも、寔に精緻にして情の醇なること、恐らく当代に求めて得られないものを具えていた。情と一言っても、啻に人問の情のみではない。しめやかに降る雨、千草にすだく秋の虫の音、それらに情致あるは当然としても、非情の木竹、たとえば黒板塀でも建仁寺垣でも、河岸に立ちならぶ並蔵でも、一度小村さんの筆にかゝれば、あの搦鰯とした美女の分身でゝもあるかのようで、電光雷雨の凄まじい光景が写されてあっても、恐ろしさより却って情趣のなつかしさを覚えさせる。


「小村雪岱とその時代」展は2010年2月14日バレンタインデーまで。
年明けNHK日曜美術館アートシーンで、また来年の『芸術新潮』1月号で小村雪岱取り上げられます(芸術新潮は巻頭特集!)混雑する前に是非。

300点以上もの、小村雪岱コレクションを有する埼玉県立近代美術館しか出来ない展覧会。巡回はしません。是が非でも北浦和まで。北浦和駅目の前にある公園内に美術館はあります。

・講演会「昭和の春信・小村雪岱を応援する」
とき:1月31日(日) 15:00〜16:30 (開場:14:30)
会場:講堂(2階)
講師:山下裕二(美術史家・明治学院大学教授)
費用:無料
定員:100席(当日先着順)

・映写会「お琴と佐助−春琴抄−」
とき:1月24日(日)11:00〜、14:00〜(開場は各回30分前)
会場:講堂(2階)
費用:無料
定員:100席(当日先着順)
監督:島津保次郎、原作:谷崎潤一郎、美術考証:小村雪岱
出演:田中絹代、高田浩吉ほか
昭和10年、松竹、110分、白黒



この展覧会を口火に、来年2010年は清水三年坂美術館で「小村雪岱の世界」、秋には金沢にある泉鏡花記念館にて雪岱展が開催されます。

最後に「今日の一枚


小村雪岱「見立寒山拾得

そしてこちらは雪岱が愛してやまなかった春信。

鈴木春信「あやとり

埼玉県立近代美術館へGO!!

そして合わせて観たいのが同じ時代の注目作家たちの展覧会。

・「柴田是真の漆 × 絵
・「清方/Kiyokata ノスタルジア

それでは最後に「今日の美味


創菜ダイニング 卯乃家」の「月見うさぎの大福アイス」メニューに載っていた写真はもっと可愛らしいウサギだったのだけど。。。しかも耳が南瓜って…

追記
いよいよ発売!

「芸術新潮 2010年 02月号」

この記事のURL
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=1977

JUGEMテーマ:アート・デザイン


 第二次世界大戦前に訪れた、大衆文化華やかなりしひととき。竹久夢二と同時代に「昭和の春信」と呼ばれ、挿絵や装幀、舞台美術などで活躍した小村雪岱(こむら・せったい 1887-1940)という画家をご存じでしょうか?
 埼玉県川越市に生まれ、東京美術学校で下村観山教室に学んだ日本画家ですが、在学中に泉鏡花と出会い、鏡花の小説『日本橋』の装幀を手がけたことを契機にデザインの世界に足を踏み入れました。
 鏡花文学を絵画化したような美しい装幀で泉鏡花に、『おせん』など江戸の女を描いた挿絵で邦枝完二に、「一本刀土俵入」などの清新な舞台装置で六代目菊五郎に、それぞれ篤い信頼を得たその仕事は、どのひとつをとっても伝統絵画の研究や浮世絵の系譜に根ざした独自の繊細な美意識に貫かれています。 そこにはまた、在りし日の日本の日々の暮らしの美が静かに息づいています。
 この展覧会では、現在も多くの人を魅了し続ける小村雪岱の多彩な活動を、周辺の芸術家らとの交流や当時のモダンな美術・デザインを振り返りながらご紹介します。

出品点数:日本画 約50点、装丁本 約70点、挿絵原画約30点、雑誌など約50点、舞台装置原画 約60点、木版画 約40点、その他(着物、帯、写真資料ほか)約40点、 合計:約340点
展覧会 | permalink | comments(9) | trackbacks(5)

この記事に対するコメント

埼玉県立近代美術館としては満を持してというところでしょうか。
阿部出版の版画芸術も雪岱の大特集ですし、今月のサライも特集してますね、美術館の意気込みを感じます。
以前Takさん、この美術館についてファムスの宣伝ばかりしていると書かれていましたが、お考えは変わられましたか、笑。
僕は清方もまだ行ってないんだなあ。
北浦和は来年になりそうです。
oki | 2009/12/18 10:34 PM
@okiさん
こんばんは。

こうした埋もれてしまった作家さんに
再び光をあて再評価を与える展覧会
中々大きな美術館では出来ません。
今回の展覧会はここの独自企画展だそうです。
良い所に目をつけたものです。
そして内容も素晴らしかった!
Tak管理人 | 2009/12/21 7:10 PM
こんにちは、TBをありがとうございました。
雰囲気たっぷりの、素敵な展覧会でした!
雪うさぎ灯篭、小さめサイズで販売して欲しいです〜。
『芸術新潮』1月号でも特集されるのですか!?楽しみです。

もか | 2009/12/25 8:56 AM
@もかさん
こんにちは。
コメントありがとうございます。

雪うさぎ灯篭良いですよね。
部屋に置きたい!!
検討ねがいます。商品化。

雪岱じわじわとブームの予感。
年開けにまた伺います。
Tak管理人 | 2009/12/26 11:25 AM
こんばんは
やっぱり雪岱はいいな〜と実感する展覧会でしたね。

>道半ばにして亡くなってしまった感もありますが、考えようによっては、太平洋戦争を経験することなく逝けたわけで、その点幸せだったのかもしれません。
昭和40年代まで長生きした清方が、戦後あれだけ昔のこと(旧き良き明治時代)を懐かしんで繰り返し描いたことを思うと。。。

ここを読んで、胸がいっぱいになりました。
実際に清方は絵だけでなく随筆でも繰り返し旧き良き時代を懐古し、それを壊すものに静かに腹を立て続けていたそうですし。

しかし雪岱は意外なことに早いうちからゴルフにハマッていた、というのが面白いです。何で見たか忘れましたが写真もあり、「え゛っ」と思ったものでした。
遊行七恵 | 2010/01/07 12:01 AM
@遊行七恵さん
こんにちは。

待ちに待った展覧会です。
常設展示でちょこちょこと
拝見はしていましたが、
まさかこれだけの量を
持っているとは驚きました。

サントリーの清方展で
太平洋戦争後の作品に
勢いがないのと、昔ばかり
描いている清方を観て
さぞ辛かったのではと。

その点、雪岱は幸せ者かもしれません。

半世紀経った後、こうしてまた
光が当てられることも含め。
Tak管理人 | 2010/01/10 11:31 AM
初めまして!mixiよりこちらへ伺いました。
先月、友人と行って来ましたが、
ますます小村雪岱を好きになりました!!

Takさんは、31日の講演会はいらしゃったのでしょうか?
ワタシも行きたかったのですが、
仕事で行けませんでした。。。
いらしたのであれば、どんな内容だったのか
教えていただけると嬉しいです。

ぷりん。ちゃん | 2010/02/01 1:40 PM
@ぷりん。ちゃんさん
こんばんは。
はじめまして。コメントありがとうございます。

31日の講演会行ってまいりました。
大変な混雑で立ち見もでるほどでした。
内容アップいたしましたので
ご参考になさってください。
Tak管理人 | 2010/02/03 8:10 PM
是真に続き、トラックバックさせて頂きました。
Takさんのところは、写真が豊富で展覧会の内容を一番詳しく紹介してくださっているので、コバンザメのようになっておりますが、今後とも(?)よろしくお願い致します。

ところで、雪兎行燈は、ほんと、商品化されないものでしょうかね。
ガーター亭亭主 | 2010/02/18 3:08 AM
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小村雪岱とその時代−粋でモダンで繊細で−@埼玉県立近代美術館  昨年、チラシを手に入れた時から心待ちにしていた展覧会。その割には地理的なこともあって足を運ぶのが会期末になってしまったが、開催者側の「雪岱リバイバル!」という強い心意気を感じ
小村雪岱とその時代−粋でモダンで繊細で− | Art and The City | 2010/02/15 7:48 PM
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小村雪岱とその時代 | ガーター亭別館 | 2010/02/18 3:03 AM