青い日記帳 

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山下裕二氏講演「昭和の春信・小村雪岱を応援する」

埼玉県立近代美術館で開催中の「小村雪岱とその時代展」関連イベントとして開催された、山下裕二氏(美術史家・明治学院大学教授)による講演会「昭和の春信・小村雪岱を応援する」を拝聴して来ました。


昭和の春信・小村雪岱を応援する」 平成22年1月31目
山下裕二(明治学院大学教授)

15時から始まる講演会に既に1時間前に行列が出来るほどの人気ぶり。雪岱+山下先生という最強コンビ。美術館の対応も素早く定員100席を急遽50席増加。また予定していた開場時間14:30を15分切り上げて受付スタート。みるみるうちに席は埋まり始まる頃には立見の方であふれるほどの盛況ぶり。

講演会が始まる前に控室にて山下先生と歓談。そこで以前から気になっていたことを質問。「小村雪岱と鏑木清方の線の違いって何処からくるものなのでしょう?」

山下先生即答で「それは仏画体験の有無だね」

「要は仏画や絵巻といった古いものを雪岱の方が清方よりも、多く目にしている。その経験から生まれるのは『均質な線』これはともすれば無機質なものとなってしまうのに、雪岱の線はそうなっていない。清方は頭の中のイメージを具現化してサラサラ描けちゃうタイプ。それに対し、雪岱は対象をじっくり観察しそのエッセンスを抽出し(絞り出す感じかな)、上澄みの美味しいところだけで描く。これが見える形として線に現われて来る。その違いかな。」

それじゃついでにもう一つ「雪岱の作品ってこうした俯瞰した視点の作品多いように思えますが、これについては?」

小村雪岱「青柳」大正13年頃

これまた山下先生即答で「これもやはり古いものを若い時に模写した経験から。絵巻の『吹抜屋台』の画法そのもの。」

なるほどなるほど〜と小膝をポンとひと叩き。

講演会拝聴する前にあまり美味しいところを伺ってしまっても何なので雪岱についてはひとまずここまで。あとは「昭和の春信・小村雪岱を応援する」でまたじっくりと。

熱気に包まれる講演会会場。立見の方を含めると200弱はいらしたでしょうか。もしかしてこんなの美術館始まって以来の事態では?

とても感心したのは始まる直前に埼玉県立近代美術館の館長自らが「狭い中大変恐縮ではありますが…」と頭を下げ挨拶をしたこと。不測の事態に素早く対応した上に更にここまでやるとは立派。

それではここから、いよいよ山下裕二氏講演「昭和の春信・小村雪岱を応援する」の大まかな内容です。


埼玉県立近代美術館のチラシ「今回の展覧会のサブタイトル『粋でモダンで繊細で』これまさに雪岱を表すそのままの言葉!です」

「Settaiと大きな文字が真ん中に。雪岱って普通の人じゃ読めませんからね。今でこそ若冲をジャクチュウと皆さん読めますが10年前は今の雪岱と同じ状況。そうするとこれから先10年後、雪岱はどう認知されているのか楽しみ」

「雪岱ブーム到来?の予感です。(今はプチ雪岱ブーム)」

「埼玉の雪岱展の前に資生堂アートハウスでも「逢かな江戸の面影」と題した雪岱展が開催されました。他にも清方ノスタルジア@サントリー美術館、鰭崎英朋(ひれざきえいほう)展@弥生美術館、竹久夢二展@三越、杉浦翡翠展@宇都宮美術館等など、これまでの美術史の中では軽視されてきた『挿絵』というジャンルに注目が今集まりつつあります。」

「大学美術史科の中で雪岱の名は聞いたことがなかった。」

このように小村雪岱を取り巻く現状は静かにそして着実に盛り上がりを見せています。それでは一体山下先生の雪岱との初めての出会いはいつ頃だったのでしょう?

「今はなき、リッカー美術館で昭和62年「小村雪岱展」図録(表紙は「おせん」(雨))で目にしたのが最初。展覧会自体は見ていない。29歳。美術史学科の助手のころ。因みにその図録は古書店で入手した。」


昭和11年に撮られた雪岱の肖像写真。

「雪岱というとこの写真のイメージ。話はそれるけど画家の写真が残っているかいないかは画家のイメージ形成に大きく関与している。小村雪岱(明治20年〜昭和15年)享年54歳。雪岱50歳頃写真。今の私とほぼ同じ年齢です。最近誰かに似ているな〜と思っていたら小林稔侍に似てますよね。雪岱。」

ここからはスライドで作品を見ながらの解説。


春告鳥」昭和7年頃 絹本 個人蔵

小村雪岱「春雨」昭和10年頃と、鈴木春信「雪中相合傘」(大英博物館、メトロポリタン美術館他)との類似性。↓


春信だけでなくこちらの絵などは、国貞風のエッセンスが出ています。

赤とんぼ」昭和12年頃 絹本・個人蔵

「男性で言えばもみあげの部分、鬢に雪岱は異常な感心を寄せ表現しているように見えます。鬢フェチです。それに顔の特徴として他には、うけ口、眉毛の間隔が狭い等など。この辺りの表現はまさに国貞特有の『エグ味』に通ずるものがあります。雪岱が春信だけでなく他のイメージも多く用いていたことが分かります。」


灯影」昭和15年 絹本・弥生美術館

「↑の『赤とんぼ』と同じような女性が描かれていますが、こちらは『エグ味』がそれほど気になりません。それは画中に施した斜線の効用。これによりエグ味を中和しているのです。そしてこの斜線は春信が頻繁に用いたものでもあります。」


鈴木春信「縁先美人」ギメ美術館蔵

「そしてもう一点『灯影』には樹木のシルエットが映っている様子が描かれています。これは紛れもなく絵巻のエッセンスです。江戸時代の浮世絵やそれ以前に描かれた絵巻などの美味しいところを上手いこと雪岱風に咀嚼し表現しています。」


青柳」大正13年頃 埼玉県立近代美術館蔵

「人物が全く描かれていないこの作品に最も強く惹かれる。青畳と柱、廊下の線(直線)、そしてその上に柳の曲線。三味線が置かれているが稽古の前なのか後なのか様々な想像力を膨らませることが出来る。」

「屋根の瓦にも注目。微妙な表現の違いが見て取れる。福田平八郎の『雨』という作品の着想はもしかしてこの雪岱の作品から得たものでは?福田が目にしていた可能性は極めて高い。」


福田平八郎「」昭和28年 東京国立近代美術館蔵

「私がはじめて『青柳』知ったのは、没後の複製版画の、さらに印刷された図版。神々しい「アウラ」(ヴァノレタニ・ベンヤミン)を感じたわけではない。20世紀『複製技術時代の芸術』の日本における象徴的事例。恭しい権威を与えられた展覧会作品とは対極にいる人が雪岱。」

★その後の雪岱体験
・『小村雪岱』星川清司著 平凡杜 1996年.
(親しい編集者がつくった本)

・埼玉県立近代美術館「小村雪岱・須田剋太展」1998年
(この展覧会はここまで観に来て図録も購入した)

・古書の購入 平凡杜ライブラリー『日本橋檜物町』2006年
(原著は1943年、高見沢木版杜から刊行)

・小材雪岱夫妻肖像写真。資生堂アートハウスで初見ショックを受ける。
(奥様のイメージが自分の想像とかなり違っていた)

★そしてこの展覧会


河庄」昭和10年頃 絹本・福富太郎コレクション資料室蔵

「この作品も斜めの線がとても効果的に用いられている作品。驚くことにこの作品の表具も斜線を生かしたデザインになっている。この絵を良く理解している人が作ったのでしょう。」

「近松門左衛門作の『心中天網島』の場面愛想づかし。別れの場面。「しゅっ」と立つ人物が何とも粋。今回の展覧会のポスターに使用されている。」

「福富太郎コレクションは清方展、是真展でも優品が出ていた。自分の目で作品を購入した本当の目利き。3つの展覧会にそれぞれ講演会で呼ばれたのも何かの縁。」


見立寒山拾得」制作年不詳 絹本・埼玉県立美術館蔵

「箒が描かれていないけど『寒山拾得』の見立て。葉っぱに文字をしたためている。これもきっと春信の『見立寒山拾得』から着想を得たものだろう。」


鈴木春信「見立寒山拾得(墨流し)」ギメ美術館蔵
この他にも、春信「源重之」MOA美術館蔵、春信「見立寒山拾得(明和二年絵暦)」千葉市美術館蔵、春信「洗い張り」太田記念美術館蔵などとの類似が。

「春信の作品には、細かい見立ての仕掛けが沢山含まれている。雪岱はそれらを綺麗に濾過し、すまし汁にしたような絵を描いた。雪岱を見慣れてくると逆に春信さえも野暮ったく見えてしまう。」

「因みに『寒山拾得』で最もポピュラーなのは、レレレのおじさん。それに鼻毛ボーボーのバカボンのパパ。一見変な格好をしている人に実は聖なる魂が宿っている。」


美人立姿」昭和9年頃 絹本・埼玉県立近代美術館蔵

「春信風の身体のラインに国貞風の顔。右下に蚊帳吊り草と桔梗が描かれているのは宗達の影響。琳派風。『こおろぎ』昭和8年頃 絹本・埼玉県立近代美術館蔵 はもろに宗達。雪岱が一時、国華社で本版木の版下を描く仕事をしていた経験がこうした所に行かされ現われている。」



蚊帳吊草に桔梗図着物」昭和8年頃 埼玉県立近代美術館蔵

「こうした着物のデザインなどにも琳派のエッセンスが見て取れます。東京国立博物館所蔵の尾形光琳『冬木小袖』からの感化でしょう。」


重要文化財「小袖 白綾地秋草模様」(冬木小袖)
尾形光琳筆 東京国立博物館蔵


」絹本・埼玉県立近代美術館蔵

「初期作?東京美術学校で松岡映丘に師事やまと絵の素養を養う。松岡映丘のもとで絵巻の勉強をしていたのが大きく影響している。雪岱はここから視点の取り方(俯瞰)を学んだと考えられる。春信だけに影響を受けているわけではないことが分かる。」

「松岡映丘は、忘れられた本格派。これから再評価される。」

「松岡映丘とその一門」展@山種美術館

↓クリックで拡大

雪の朝」「落葉」「青柳

「『四季山水図』を意識して描かれたはず。春、秋、冬とあって夏だけ欠けている。失われたのか何処かにあるのか分からないが、ないものをイメージするのも楽しい。因みに夏がどんな作品だったかは泉鏡花『日本橋』の中にヒントがある。」(注:『芸術新潮』2月号34,35ページ参照)

「人物が描かれていないからまたの名を雪岱の『引き籠もり四季山水図』」


春昼」明治42年 東京藝術大学美術館蔵

「意外な厚塗り。全然雪岱らしくない。雪岱調は練りに練って試行錯誤の末に築き上げられたものであることがこうした作品からも分かる。」


「第二次世界大戦の裂け目は日本美術史の中で非常に大きい。雪岱(戦前)のような人気作家が忘れ去られてしまうのはとてもかなしいこと。春信をはじめとする江戸時代絵画とのシンクロニシティー更なるブラッシュアップが求められる」

「和漢のさかいをまぎらかす」(室町時代の茶の湯の世界の言葉)→「古今のさかいをまぎらかす」

以上、あっという間の90分。山下先生の睡魔を全く寄せ付けない巧みな話術には毎度のことながら舌を巻きます。聴講者へのこころにくい配慮が盛り込まれたトーク。「小村雪岱を皆さんも応援して下さい!!」

・「小村雪岱とその時代」(会場内の写真もあります)

はろるど・わーど
「昭和の春信・小村雪岱を応援する(山下裕二)」埼玉県立近代美術館


「小村雪岱とその時代」展は2010年2月14日バレンタインデーまで。まだご覧になってない方、急いで〜埼玉県立近代美術館へ!!

埼玉県立近代美術館
〒330-0061 埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1
Tel 048-824-0111

京浜東北線 北浦和駅西口から徒歩3分(北浦和公園内)

@taktwi

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この記事に対するコメント

丁寧な記事、ありがとうございました!!
雪岱を見て、「春信」だけではないけど
ナンだったっけ???と思っていたところが
すっきり!しました。
もういちど、行きたくなりました。。。
講演会に行けなかったことだけが
悔やまれます。。。苦笑。
ぷりん。ちゃん | 2010/02/03 9:47 AM
こんにちは
丁寧な上、臨場感溢れるレポ、ありがとうございます。
山下先生のお持ちになってるリッカー本、私は銀座にあった頃のリッカーで購入しました。
リッカーが有為転変を重ねなければ、今でも手に入りやすかったかも、と読みながら改めて思ったり・・・

映丘は元が姫路の人なので、わりに神戸以西では見ることがありますが、東京ですと山種と野間がメインでしょうね。
ほんと、これから映丘も再評価されてほしいです。
遊行七恵 | 2010/02/03 12:43 PM
@ぷりん。ちゃんさん
こんばんは。

画像をたっぷり入れてみました。
春信との対比もためになりましたが
それよりもなによりも松岡映丘との
繋がりが分かったことは大きかったです。

2月14日まで開催しています。
時間こしらえて是非!!

@遊行七恵さん
こんばんは。

ちょっと珍しく頑張ってみました。

リッカー本は遊行さんなら絶対に
持っているな〜と思いながら聞いていました。
リッカー所蔵の雪岱はなかったのですかね。
あったとしたら行く先が気になります。

松岡映丘のお孫さんからメール頂戴しました。
ブログやっていると思わぬ繋がりが
出来るものですね!!
Tak管理人 | 2010/02/03 8:19 PM

 いつもありがとうございます。

 芸術新潮、注文いたしました。

 版画芸術の冬号も、見直しております。

 昔の本は挿絵も装丁も美しいですね。

 ポスト雪岱…。

 どなたでしょう…。

家麿 | 2010/02/03 9:32 PM
こんばんは。

充実の記事、ありがとうございます。
益々Tak氏へ尊敬の熱い視線を送ります。

雪岱、来週には行けるかとヒヤヒヤものですが、
なんとか。
静かな画面と春信LOVEが溢れてますね。
明治の挿絵画家達、大注目!!
芝居と文壇と画家が仲良しだった素敵な時代。
今後も目が離せませんね!!
あべまつ | 2010/02/03 10:56 PM
はじめまして。美術コミュからきました。

今日展覧会を見に行きまして、今まで正直なところもうひとつぴんと来なかった雪岱の良さが、
要するに対象を整理する手際の良さなのだなとある程度納得して帰って来たところです。
この記事を拝見して、非常に勉強になりました。
ご紹介してくださったことを感謝します。
stera | 2010/02/04 6:32 PM
@家麿さん
こんばんは。

ポスト雪岱さてさて。

静岡で開催された「小村雪岱展」の図録も
今なら手に入ります。

@あべまつさん
こんばんは。

いえいえ。
少しでもお役に立てれば。

雪岱は周りから大層信頼されていた
人物だったようです。清方との
いい意味でのライバルも注目。

舞台芸術も彼の人柄をかって
頼む役者さんも多かったようです。

@steraさん
こんばんは。

日本美術をたたき込んで、資生堂へ。
「エッセンス」を掬いあげる上手さは
下積み期間あってのことですね、やはり。

こうしてお役に僅かでも立てたなら
とても嬉しく思います。

これからも拙ブログどうぞご贔屓に。
Tak管理人 | 2010/02/05 5:00 PM
松岡映丘、浅学ゆえ初めて知りました。苦笑
一つ何かにヒットすると、そこから新しい世界
が広がるのが楽しくもあり、大変でもあり?!

明日、行ければまた行こうかと。。。

こちらに伺うとドンドン世界が広がるようで
とても楽しいです。
ありがとうございます♪
ぷりん。ちゃん | 2010/02/08 1:20 PM
@ぷりん。ちゃんさん
こんばんは。

松岡映丘は山種美術館さんでかつて
拝見して「おおっ」と惹きつけられ
それ以来、感心払って観るようにしています。

以前、松岡映丘の作品を拙ブログで紹介したところ
直系の方より感謝のメール頂戴しました。
こんな拙いブログでも続けていくと
良いことあるものです。
Tak管理人 | 2010/02/09 8:18 PM
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