青い日記帳 

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「モーリス・ユトリロ展」

損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の
「モーリス・ユトリロ展ーパリを愛した孤独な画家ー」に行って来ました。



ユトリロ展はこれまで何度も開催されています。いつも同じようなモチーフを描いているので「全作品日本初公開」と謳われてもそう大したことないと勝手に思い込んでいたことに加え、2007年に千葉県立美術館で拝見した「モーリス・ユトリロ展」の感動が強く残っていることもあり、今回はパスしてもいいかな〜と。

で、その2007年の時の感想を読み直してみると「ユトリロは幸せだった」などと書いてあります。(かみさんは「ユトリロはとても可哀想」だと)

しかし、今ユトリロをどう思う?と聞かれたらそうは答えないはず。それなりに絵を飽きずに観たり関連書物を読んだりもしていると、どうもユトリロってフツーの人の考えるところの「幸せ」とは異にするように考え変わって来ていたのです。

私生児として生まれ、画家でありモデルでもあった母親シュザンヌ・ヴァラドン(1865-1938)に育てられたユトリロ。15歳にしてアルコール中毒。波乱の人生の幕開けです。

アル中の療養の一環として絵筆を握らされ、風景画を描いたのが画家としてのスタート。正統な絵画の教育を受けずしてある一定の作品が描けたのは母親からの遺伝。はたまた顔の分からぬ父親からのものかも。


モンマニーの石切り場(ヴァル・ドワーズ県)」1907年頃

モンマニーの時代」と呼ばれる極初期の作品が今回3点も展示されていました。これは貴重。ユトリロの作品に抱いているイメージとはかなりかけ離れたタイプの作品。

シスレーやピサロが好みだったそうです。作品がガラスケースに入っておらずむき出しのまま展示されているものが多かったのはちょいとびっくり。

そうそう、今回展示されている90数点のユトリロ、全てひとりの個人コレクター所蔵品だそうです。これで全部ではないというのですから、よくまぁこんなに集めたものと…

ユトリロ作品がぐんと跳ね上がったのが「白の時代」(1910年〜)我々がよく知るところのユトリロ作品。


サン=ローラン教会、ロッシュ(アンドル=エ=ロワール県)」1914年頃

ユトリロはパリの自宅に幽閉され僅かのお酒と絵具を与えられひたすら絵を描かされました。行ったことのない土地の風景画もお茶の子さいさい。絵葉書をもとにほらご覧の通り。



NYでの展覧会に作品を送った際、実際こんなことも。
1939年ニューヨークでのモーリス・ユトリロの展覧会の主催者は深い落胆を覚えた。税関作品が届いた時、アメリカの税関当局は写真から霊感を得たという理由で、これらの絵画を複製品と見なし、そのように課税することを決めたのである!
「モーリス・ユトリロ展」カタログより
1918年頃からは白を基調としながらも色数がぐんと増えてきます。これが所謂「色彩の時代」今回最も多く出展作品のほとんどを占めるのがこの時代のものです。


ロンサール通り、モンマルトル」1931年

この作品にも元ネタがちゃんとあります。


この時代のユトリロの家庭は実に奇妙。実の母親シュザンヌ・ヴァラドンの新しい恋人アンドレ・ユッテルとの3人での暮らし。このユッテル君、何とユトリロの友人!しかも年下。

母親と父親(友人)は自分たちの派手な生活の為に、息子ユトリロを自宅に幽閉しとにかく絵を量産させます。「貨幣製造機ユトリロ」とはまさに言い得て妙。ユトリロには僅かなアルコールがあれば良かったとか。

同じような作品を飽きずに描いたのもこうした特殊な環境下にあったため。「同じ絵ばかりじゃん」と一笑に付すこと勿れ。同じ絵だからこそ物語がそこにあるのです。

で、最初の話、こんな生活を余儀なくされたユトリロは幸せだったのか?「助けて〜」と書いた紙を窓から投げたりもしたそうです。一般的に考えれば不幸であり、とても可哀想な人です。不憫で哀れです。

2007年はそう確かに思いました。息子に絵を描かせ稼いだ金で放蕩生活を繰り返す、酷い両親に対し憤りすら抱いたほどでした。でも、今回はちょっと違う感想を。

ユトリロはそんな生活環境にあっても自分を不幸だとは感じていなかったのではないでしょうか。勿論、幸せの尺度は絶対的なものではありません。しかし少なくとも自身で不幸だとは思っていなかったはずです。精神的なドメスティック・バイオレンスを受けていてもそれを本人が不幸とは思わなければ「暴力」には成り得ません。


左からユトリロ、ヴァラドン(母)、ユッテル(父)

逆にそれは「快楽」だったのかもしれません。
そう、きっとそれです。被虐性欲。マゾヒズム。否、ドMかな。

何かのきっかけで見方を変えると物事の見えなかった部分が網膜に映じてくるもの。「不幸で、可哀想なユトリロ」の眼鏡を「ドMなユトリロ」に掛け替えてあげると…ほら世界が変わるでしょ!

「同じ絵ばかりじゃん」と思っていたユトリロの風景画も、彼だからこそこれだけ病的なまでに同じ風景同じスタイルで生涯描き続けられたこと分かります。「囚われのお姫様」の話もしたいけどそろそろ0時になるのでこの辺で。

知ってました?ユトリロが好んだ歴史上の人物が「ジャンヌ・ダルク」だってこと。ね?納得でしょ!

ユトリロ52歳の時、12歳年上の未亡人リュシー・ヴァロールと初めて結婚します。母親が天に召された後、不安だったのでしょう。自分を苛めてくれる人がいなくなって。シェリーはしっかりその役目を果たてくれたそうです。

確認。意外と長生きなユトリロ。作品数多いのも納得です。
モーリス・ユトリロ(1883年12月25日 - 1955年11月5日)

「モーリス・ユトリロ展」は7月4日までです。
どうです、新しい「眼鏡」かけて出かけてみるの。いや、ほんとドMな世界だから。是非!観方変わると印象から何からがらりと変わって愉しいものです。これだから展覧会巡りはやめられません。

最後に「今日の一枚


モンマニーの風景(ヴァル・ドワーズ県)」1906年頃

極初期の珍しいこんなユトリロが描いた風景画もあります。
まだまだ目覚めていない頃の作品ですね。

「モーリス・ユトリロ展」
期間:2010年4月17日(土)〜7月4日(日)
休館日:月曜日(ただし、5月3日は開館)
場所:損保ジャパン東郷青児美術館
時間:午前10時〜午後6時まで(金曜日は午後8時まで)
入場は閉館30分前まで


損保ジャパン東郷青児美術館これからのランナップも魅力的!!


トリック・アートの世界展 -だまされる楽しさ-
2010年7月10日(土)〜8月29日(日)
20世紀にダリやマグリットらシュルレアリスムの特異な表現に見られた「トロンプ・ルイユ(仏語:錯覚)」。高松次郎ら戦後日本の作家によるユーモア溢れるトリック・アートを紹介します。


フィレンツェ・ウフィツィ美術館コレクション
ヴァザーリの回廊展
2010年9月11日(土)〜11月14日(日)
ヴァザーリの回廊は1565年、画家であり建築家でもあったジョルジョ・ヴァザーリによって造られ、その長さは約1kmにもおよびます。
回廊には多数の肖像画が展示。本展では、フィレンツェにあるイタリア最大級の美術館、ウフィツィ美術館コレクションから選りすぐったこれら肖像画約70点を一堂に紹介します。


この記事のURL
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=2127

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モーリス・ユトリロ(1883〜1955年)は、ルノワールら著名な画家のモデルをつとめ、自身も画家として活躍したスュザンヌ・ヴァラドン(1865〜1938年)の私生児としてフランスのパリで生まれました。本展はアルコール依存症の治療のために絵画制作をはじめた「モンマニーの時代」から「白の時代」、「色彩の時代」まで、90余点でユトリロ絵画の画業の変遷を具体的にご紹介します。
なお、本展の出品作品はすべて日本初公開の作品としてお楽しみいただきます。
展覧会 | permalink | comments(4) | trackbacks(4)

この記事に対するコメント

私もこの展示を見てきました。白の時代も色彩の時代もそれぞれ好みの作品があって良かったです。
幸せだったかは気になりますね。手紙を投げた話とかだと不幸そうに思うのですが、M説も確かにありそうですw

次回はタイトル的に混むのかなあ
21世紀のxxx者 | 2010/05/15 2:36 AM
@21世紀のxxx者さん
こんにちは。

以前、千葉で拝見した時は同じような解説を読んで
可哀想な不幸な画家だと思ったのですが
今回はどうやら違うのではと。
嫌といいつつも好きだったりする歪んだ心情。

次回は早めに行かないと!
Tak管理人 | 2010/05/21 5:08 PM
ユトリロの生涯を知ったうえで彼の作品を観ると、
なんだかとてつもなく哀しくなってしまいました。

何気ない風景のはずが、
何か必死に訴えているようで仕方なくて...

展覧会って、
何の背景知識も無い状態で観た方がいい場合も
ありますよねぇ。。。
NAGA_y_ | 2010/06/16 4:50 PM
@NAGA_y_さん
こんにちは。

初めて拝見する画家さんの展覧会の場合は
予備知識無い方がいいかもしれません。
2週目にキャプションや解説読んで観ると
また違って観えたりしてきますので。

最近ユトリロに対して「かわいそう」と
思う気持ちかなり少なくなってきました。
Tak管理人 | 2010/06/20 9:20 AM
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1週間くらい前に損保ジャパン東郷青児美術館で「モーリス・ユトリロ展 -パリを愛した孤独な画家-」を観てきました。ユトリロ展はしょっちゅう...
モーリス・ユトリロ展 -パリを愛した孤独な画家- 【損保ジャパン東郷青児美術館】 | 関東近辺の美術館めぐり 〜美術・美景・美味を楽しむブログ〜 | 2010/05/15 2:37 AM
 ユトリロの回顧展は以前にも観ている。その一つは「ユトリロ展@大丸ミュージアム」(1992.9、記事はこちら)であり、もう一つは「モーリス・ユトリロ展ーモンマルトルの詩情」(2006.6、記事はこちら)である。 自分のユトリロに対するイメージとしては、?アルコール依
僕は下戸だが、アルコールには果てしない力があるのだろう。 今損保ジャパン東郷青児
アルコールの魔力 | だらだら日記 | 2010/05/15 6:33 PM