青い日記帳 

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「ブリューゲル版画の世界」

Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の
「ベルギー王立図書館所蔵 ブリューゲル版画の世界」展のプレス内覧会にお邪魔して来ました。


「ベルギー王立図書館所蔵 ブリューゲル 版画の世界」
公式サイト


ピーテル・ブリューゲル(1525/30−1569)の版画展が日本で開催されるのは実に20年ぶりだそうです。ブリューゲルは西洋絵画の画家でありながら、とても親近感の持てる画家でもあります。「ついこの前も観たはず…」と錯覚させるほど。

会期が7月17日〜8月29日までとひと月ちょっとしかないことあり、展覧会は既に混雑気味。

内覧会では時間がなくじっくり拝見出来ませんでしたので、日を改めて再度伺って来ました。2回目にして新たに発見すること多数。図録がどうしても欲しくなります。


注:会場内の写真は内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。

今回の展覧会の監修者であり、明治大学名誉教授の森洋子先生が今回の展覧会カタログの中に「ブリューゲル芸術における版画の意味ー主として油彩画との相互関連性について」という大変読み応えのある、渾身の論文を書かれています。(他にも1本)

ブリューゲル研究の決定版と言っても過言ではない出来栄えです。「後で買っておけばよかった〜」と後悔しない為にも是非。今回の図録はとにかくおススメです。

さて、展覧会に関する詳しいプレビューは既に、多くの方がブログで熱く語られています。少し目を通しただけでもこの展覧会の内容の濃さ充実度お分かりになろうかと。感想が幾らでも泉の如く湧き出てきます。

Art & Bell by Tora
はろるど・わーど
すぴか逍遥
mit MUSEUM
つまずく石も縁の端くれ


天井から何やら変なイキモノが…

展覧会の構成は以下の通りです。

序 章 Prologue
第1章 雄大なアルプス山脈の賛美と近郊の田園風景への親近感 
The Homage to the Landscape
第2章 聖書の主題や宗教的な寓意を描く 
Biblical Subjects and Religious Allegories
第3章 武装帆船やガレー船の驚くべき表現力 
The Detailed Expression of the Armed Ships
第4章 人間観察と道徳教訓の世界 
The World of Moral Allegories and Fools
第5章 諺を通じて知る「青いマント」の世界 
The World of the “Blue Cloak” observed through Proverbs
第6章 民衆文化や民話への共感 
The Compassion for Popular Culture and Tales
第7章 四季や月暦表現で綴る市民の祝祭や農民の労働 
Labors and Feasts from the Cycle of Seasons and Months
最終章 Epilogue


第2章に展示されている「七つの罪源シリーズ」(傲慢、激怒、怠惰、貪欲、大食、嫉妬、邪淫)や「七つの徳目シリーズ」(信仰、希望、愛徳、正義、剛毅、賢明、節制)は、全く飽きさせることなく隅々までいつまでも探索していたいそんな作品揃い。

とりわけ「七つの罪源シリーズ」には、ヒエロニムス・ボスが描いた怪物たちを想起させる様々な得体の知れない生物たちが、わんさか描かれています。まるで完成しないパズルのように。


「第2章 聖書の主題や宗教的な寓意を描く」展示風景

森洋子先生はボスの怪物たちと比べ、ブリューゲルの描くそれは、ひょうきんで親しみやすく、馴染みやすい連中が多いとのこと。確かにおどろおどろしさは感じられません。

手足だけで胴体のないグリロス(怪物)が跋扈しています。


ピーテル・ブリューゲル「大食」(七つの罪源シリーズ)
1558年 エングレーヴィング ベルギー王立図書館所蔵 ©KBR

7つの罪の中でも最も身につまされる思いと共に見入ってしまったのが「大食」ジョッキでビールをがぶ飲みしている中央の人物は遠い遠い自分の祖先のようです。

また暴食のはてにお腹が出っ張り過ぎ自力で歩行できず、出っ張った腹を手押し車に乗せ歩く近い将来の自分の姿まで…ふ〜ダイエットしよう。

こうした観ていて飽きない作品、愉快な作品だけと思われがちですが、何々、そこは画力に優れたブリューゲルのこと。見所は他にもたっぷりあります。


「第3章 武装帆船やガレー船の驚くべき表現力」展示風景

1563年にブリュッセルに移住するまでブリューゲルは、「フランダースの犬」でもお馴染みのアントワープ(アントウェルペン)に。16世紀中期のアントワープはヨーロッパ有数の国際商業都市。諸外国へ行き来する帆船がわんさか。

最大で年間、約2500艘の船が入港したアントワープ。当然ながらそれらの帆船(武装帆船)を画題にしないわけがありあません。「男の子」はいつの時代でも乗物大好きで憧れを抱くものです。

そうそう、昔書いたこの記事「パトラッシュ、僕はなんだか疲れちゃったよ。すごく眠いんだ。」アントワープの名前の由来にもびっくりですが、他にも驚愕の事実が…


ピーテル・ブリューゲル「外洋へ出帆する4本マストの武装帆船
1561年以降 エングレーヴィング ベルギー王立図書館所蔵 ©KBR

見てくださいよ!この精緻さ。スゴイ観察眼です。農民画家としてのイメージばかり先行しているブリューゲルですが、こうしたメカもの描かせても頭ひとつ抜き出ていたこと分かります。

「面白いグリロス(怪物)の絵観に行こうよ!」と女の子誘っておきながら、ついついこちらの帆船コーナーにハマってしまう男の子いそうです。実際2度目に観に行った際に最も時間をかけたのがこの章でした。


「第5章 諺を通じて知る「青いマント」の世界」展示風景

会場内の何箇所かでデジタルコンテンツ映像が流されています(出口付近でそれらを収録したDVD『PARABLE』販売)「ベルギー王立図書館所蔵 ブリューゲル 版画の世界」公式サイトでも、そこかしこにブリューゲルの怪物たちが動きまわっています。

この映像がまた出色の出来栄え。「アニメーションの原点」などと説明されると眉つばものだと穿った見方してしまいますが、この映像を観ると確かにその通り!納得納得。

とりわけ↑の画像にある大スクリーンに流されている、ピーテル・ブリューゲル「大きな魚は小さな魚を食う」は必見です。

16世紀は諺の黄金時代だと称されます。(エラスムスの『格言集』がパリで発行されたのが1500年)一枚につき一つの諺が描かれている作品もあれば、一枚に何十もの諺が描き込まれているものも。

複数の諺を描いた絵画や版画のことを「青い日記帳」ではなく「青いマント」と呼んだそうです。今回の展覧会に出ている数点の「青いマント」の中でもフランシスクス・ヴァン・フーイエの作品には実に69ものことわざが描き込まれています。


「第6章 民衆文化や民話への共感」展示風景

去る、7月19日に日本ことわざ文化学会の協力の下、明治大学にて「ブリューゲル版画の世界」展覧会開催記念特別講演会(2010年7月19日)「現代に生きるブリューゲルの知恵―イメージ革命の先駆者」が開催されました。

勿論、お話下さったのは監修者である森洋子先生。

この講演会では、フランス・ホーヘンベルフ「青いマント」が取り上げられ描かれている諺についての解説がなされました。この作品は「ブリューゲル版画の世界展」会場でも実際に目に出来ますし、解説ボードも用意されています。


フランス・ホーヘンベルフ「青いマント」1558年 エングレーヴィング
ベルギー王立図書館所蔵 ©KBR

小さな画面に43もの教訓が絵と文字でそれぞれ書き込まれているのです。以下はその諺の詳細。講演会資料として森洋子先生がお作りになったものです。特にカッコ内の解説は大変貴重で有意義なものです。

番号は展覧会会場内の解説ボードのそれと一致します。ここだけプリントアウトして持って行かれるとより理解が深まり楽しめるかと。

1:日を籠で運び出す(無意味なことで時問を浪費する)
2:ひとリは羊の毛を刈り、もうひとリは豚の毛を刈る(同じ行為でも、ひとリは有利で、他は不利になる)
3:門で尻を拭く(あることを全く気にかけない、無視する)
4:かまどを突き破った(物事をめちゃめちゃにする)
5:豚の前に薔薇を撒く(価値のわからない人間に施す行為)
6:雌豚が樽栓を引き抜く(監督不行届きのため、商売が傾く、破産する)
7:夫が家を支え、妻は出てゆく(責任をもつ人間、回避する人間)
8:雌鶏の卵を求め、鷲烏の卵を取リ逃がす(些細なことに心を奪われ、重要なことをなおざリにする)
9:7つの壁穴から見る(心配性で念には念を入れる)
10:2つの椅子の間の灰の中に座る(チャンスを逸する、すべてを失う)
11:水面に太陽が反射するのを我慢できない(他人の幸運を嫉妬する)
12:1本の骨に犬2匹(2人の人間が地位や財産のことで争い合う)
13:夫に青いマントを着せる(妻が夫を裏切る、欺瞞)
14:片手に水、片手に火を運ぶ(2重人格。信頼できない人間)
15:翼をもつ前に飛ぼうとする(準備なしに行動をする)
16:小さな親指の上で世界を回す(何もかも意のままに支配する人間)
17:鰻を尻尾で捕える(簡単に失敗することを承知で一所懸命やる)
18:網の後ろで魚を捕る(他人がすでに行なったあとでは、なんらよい結果は得られない)
19:鍋の中に犬を発見(犬に食べられ、食べ物があまリ残っていない。先手を打たれる。現場で捕らえる)
20:悪魔と相談(適切でない人間に助言を求める)
21:牛からロバに登る(賛沢から窮乏生活へ転落する)
22:同じ穴から2人一緒に糞をする(2人は悪事においても気が合う)
23:月に向かって小便をする(野心ばかリ大きく成功しない)
24:指の間から見る(あることを見て見ぬふりをする、大目に見る)'
25:1つの頭巾に2人の阿呆(2人は悪事においても意見が一致する)
26:猫の首に鈴をつける(危険な計画に乗リだす)
27:パンからパンに届けない(今日のパンが買えても、明日の暮らしはわからない)
28:かまどと競って大口を開ける(無駄な労力を費やすこと。不可能なことを実行しようとする)
29:世界に糞をする(世間を軽蔑する。世論を無視する)
30:マントを風の方向に垂らす(都合次第で意見を変える日和見主義者。時流に合わせる)
31:絞首台に糞をする(なんら処刑を恐れていない)
32:柱を咬む人(偏執狂的な信心をもつ人間。偽善者)
33:風に向かって羽根を箕にかける(愚かで無意味な行為)
34:悪魔に蝋燭を点す(信用していない人間にお世辞を述べる)
35:炭で体が暖まりさえすれば、誰の家が燃えていようと構わない(エゴイスト。他人の不幸を利用する人間)
36:腹子のために鰊を焼く(報いのない労苦)
37:耳に吹き込む人(告げ口屋)
38:ひとりが紡錘棒に亜麻を巻き、もうひとリが紡ぐ(ひとリが悪事を企て、他がそれを実行する)
39:世の中を通れない(世をうまく渡れない)
40:どんな風でも飛んで行く(日和見主義者)
41:頭を壁にぶつける(不可能なことをして成功しない)
42:羽毛で撫でる人(へつらう人)
43:仔牛が溺れてから穴をふさぐ(事件が起きてから対策を立てる)


「第1章 雄大なアルプス山脈の賛美と近郊の田園風景への親近感」展示風景

こうして見て来るとブリューゲルが何故人気があるのか、よーく分かります。キリスト教の主題に基づく作品も多く残していながらもそれだけでなく、実に幅広い作品を描いています。

しかもどれも現代人が飛び付き、すがりたくなるような画題が。16世紀に生きた人々に対し描いた作品ですが、まるで21世紀を生きる日本人に向けてのメッセージを描いたようにさえ思えてしまいます。

この予期せぬ、奇妙な共感こそがブリューゲル人気の本質なのかもしれません。

それでは「今日の一枚


左:ピーテル・ブリューゲル「野うさぎ狩りのある風景

一枚だけ額縁の色が違う作品があります。これこそ唯一ブリューゲル本人が下絵だけでなく、自身でエッチング・ニードルとビュランを使いこなし完成させた貴重な一枚。

第1章に同じ構図の作品と共に展示されています。お見逃しなく!

「ブリューゲル版画の世界展」は8月29日までです。
その後以下へ巡回します。

新潟市美術館 9月4日〜10月17日
美術館「えき」KYOTO 10月22日〜11月23日



ベルギー王立図書館所蔵 ブリューゲル版画の世界
会期 2010年7月17日(土)−8月29日(日) 開催期間中無休
開館時間 10:00−19:00(入館は18:30まで)
毎週金・土曜日21:00まで(入館は20:30まで)
会場 Bunkamuraザ・ミュージアム


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それでは最後に「今日の美味


ジュールス デストルーパー」の「バタークリスプ」展覧会に合わせ作られたオリジナルパッケージがあまりにも可愛いので迷わず購入。

そうそう、オリジナル・フィギュア3種類が中々揃わないです。たった3種類、されど3種類。卵にスプーンをさし、二本足で歩いている奇妙なヤツが欲しい!!


Twitter冷えてます。やってます。
 @taktwi

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JUGEMテーマ:アート・デザイン


16世紀ネーデルラントの巨匠ピーテル・ブリューゲル(1525/30-69)は日本人にもっとも愛されている画家の一人です。ブリューゲルの作品は諺、子供の遊び、庶民の祭りやスポーツとともに、人間のさまざまな弱点や愚行を諷刺とユーモア精神で寓意的に表現しています。またブリューゲルの描いた世界にはヨーロッパの庶民文化の“ルーツ”が見られ、わたしたちは彼の作品から知られざるヨーロッパの心の故郷に接し、親しむことができるでしょう。
本展覧会は、ベルギー王立図書館の全面的な協力のもと、ブリューゲルだけでなく、同時代の版画も合わせて約150点を展示し、「ブリューゲル新・再発見」を楽しんでいただける構成となっています。
展覧会 | permalink | comments(3) | trackbacks(1)

この記事に対するコメント

早く行きたいです.
でも見ようとするといったいどれぐらい時間がかかることやら・・・・
Cos | 2010/07/27 12:29 AM
はじめまして書き込みします。
ブリューゲル大好きで、土曜日にやっと見に行けました。
ブリューゲル、オルセー、ドーミエの3本立ての週末で。
図録最高に面白いですね。
私は逆に、卵だけ3つも出てしまいました…。
一番入ってるのかなあと思っていたのですが??
maiko | 2010/07/27 12:40 AM
@Cosさん
こんにちは。

行っちゃって下さい!
但し混雑してますよーー

@maikoさん
こんにちは。初めまして。
コメントありがとうございます。

心優しい方がいらして、
「卵」郵送で送って下さいました。
お陰さまで晴れてcomplete!!

良い人に恵まれています。自分。

Tak管理人 | 2010/07/29 4:36 PM
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