弐代目・青い日記帳 

  
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『「怖い絵」で人間を読む』
NHK出版より刊行された『「怖い絵」で人間を読む』を読んでみました。


「怖い絵」で人間を読む』 (生活人新書) 中野京子著

アマゾン芸術部門で2008年度、09年度の2年連続ナンバーワンを達成し、美術書としては異例のシリーズ累計25万部のベストセラーとなった中野京子著『怖い絵』シリーズ3部作。

以前、こちらの記事でもその内容についてご紹介させて頂きました。
「怖い絵」シリーズをまだ、お読みになられたことのない方は、そのタイトルからして、さぞおぞましい絵ばかりを紹介しているに過ぎない、「稲川淳二の怖い話」と似たり寄ったりだと大きな勘違いなされている方もいらっしゃるやもしれません。

それは大きな誤解です。

恐ろしい、気味が悪い、不気味、妖気が漂う、身の毛が弥立つ、びくびく、おどおど、戦々恐々等の狭い意味での「怖さ」だけを表現した絵画だけを集めた本ではありません。それはシリーズ当初から一貫していることです。

普段綺麗だな〜と思い眺めている絵でも、アプローチの仕方によってはなるほど「怖く見える」作品も世の中には山ほどあること教えてくれます。特にお得意の歴史的・社会的背景を丁寧に解説しながら。
この人気にあやかり、今年2月からNHK教育テレビで“知る楽:探究この世界「『怖い絵』で人間を読む」”も放映され更に人気に拍車が。

NHK教育番組「知る楽 探究この世界」テキスト

NHK「知る楽ー『怖い絵』で人間を読む」中野京子

そしてこの番組テキストをもとに加筆・再編集され「怖い絵」で人間を読む』 (生活人新書)が今月いよいよ発売となりました。

多くの方から称賛・賛辞を頂いている中野氏の新刊です。内容については今更、自分が推す必要もないのですが『怖い絵』シリーズや、番組テキスト版とはひと味もふた味も違う、更に美味しさアップした新書『「怖い絵」で人間を読む』の見どころを簡単にご紹介。


エリザベート・ヴィジェ=ルブラン
マリー・アントワネットと子どもたち」1787年
ヴェルサイユ宮殿美術館

NHK教育番組「知る楽 探究この世界」テキスト(『探究この世界 2010年2-3月 (NHK知る楽/月)』)を既にお持ちの方でも所謂内容的なダブりを心配する必要はまずありません。

新書版「怖い絵」で人間を読むは「人間そのものの持つ怖さ」に重点を置いて書かれています。

「人間そのものの持つ怖さ」とは…それは、運命・呪縛・憎悪・狂気・嫉妬・憤怒・傲慢・淫欲等など。自分の胸に手をあててみても、あることあること(汗)これらを章立てとし、複数の絵画をその中で紹介していくといった内容。

アプローチの仕方がこれまでとは変わっています。

また絵画関連の本では欠かせないカラー図版もぐーんと増え、何と33点も掲載されています!これは大変喜ばしいことです。しかも見開きでどーんと大きく掲載。



更にカラー絵画に引き出し線を用いられているので、絵画のどの部分がどのように怖いのかも一目瞭然。絵画鑑賞の嬉しいサポート付きなのです。

宗教画の苦手な自分でも、ここまで丁寧に引き出し線を用い解説がなされていると安心して本文を読み進めていくことが出来ました。


グリューネヴァルト『イーゼンハイムの祭壇画』は解体部分図の全てに解説を記されている丁寧ぶり。祭壇画第1面から第3面までこうしたカラー図版が掲載されています。

最終章「救済の章」にルーベンス、ベラスケスが描いた磔刑図と共に登場。


マティアス・グリューネヴァルト
イーゼンハイムの祭壇画」1515年頃
ウンターリンデン美術館

さて、こうしたカラー図版の多さだけがこの本の魅力では決してありません。

中野京子氏の著書をお読みになられた方ならお分かりでしょうが、中野氏の文章は内容的にとても深いテーマを扱っているにも関わらず、大変読み易いという大きな特徴があります。

その読み易さの秘密は、一文の短さ。

自分もそうですが、下手な物書きに限って一文(。から。まで)が読点で無理に繋ぎ異常に長く、結果何を言いたいのかさっぱり分からない文章になりがちです。

どこのページを開いてもそうですが、中野氏の綴る文章は潔さを感じるほど文にキレがあります。長文になったとしてもせいぜい2、3行です。これは真似しようとも一朝一夕に出来る文章テクではありません。読んでいて惚れ惚れしてしまいます。

一例を見てみましょう。「狂気の章」でのゴヤが連作『黒い絵』を描いた時の心境を綴っている箇所です。
ゴヤは地獄にどっぷり浸かっていました。ですから、急に明るく美しいものを描く気にはなれないし、無理に描いても憂鬱になるばかりだったでしょう。まずはこれまでどおり、残酷で恐ろしいものを描き、反芻しながら心を鎮めていきました。そうしない限り、生きる意欲を呼びかえせなかったのです。そしてそれには四年もの時間がかかったのでした。
こうした流麗な文章があってこそ初めてカラー図版も効力発揮してくるのかと。

ゴヤが聴覚を失った後に描いたこの『黒い絵』シリーズ(有名な「我が子を喰らうサトゥルヌス」もこのシリーズの中の一枚)は、聾者の家と呼ばれた家の壁面に描かれたものだそうです。

そして驚くべきことに。。。


聾者の家に描かれた『黒い絵』を誌上で再現しているのです!

因みにあのおぞましい「我が子を喰らうサトゥルヌス」はこの家のどの部屋の壁を飾っていたと思います?「まさか!そんな部屋に!!」とあんぐりと口開けてしまいます、事実を知ると・・・

もう一点ビジュアル面で驚かされたのはベックリンの『死の島』です。この絵は当時大変人気があったそうで、何度か同じモチーフで描かれています。その5作品を全て掲載しています。


アルノルト・ベックリン『死の島』全5点のヴァージョンが比較可能。微妙に島の形や人物の位置が違っていることが、これにより良く分かります。

内容はお墨付き。そしてビジュアル面も充実と新書本とは思えない手の込んだ作りとなっています。

西洋名画に秘められた「人間の怖さ」を解き明かす、興味深い一書是非書店で手に取って見て下さい。手にしたが最後そのまま足は自然とレジへ向かうこと間違いなしです。


「怖い絵」で人間を読む 』(2010年8月6日発売)

著者 中野京子氏 プロフィール

専門はドイツ文学、西洋文化史。著書に『怖い絵』『怖い絵2』『怖い絵3』(以上、朝日出版社)、『名画で読み解くハプスブルク家12の物語』『名画で読み解くブルボン王朝12 の物語』(以上光文社)など多数。『怖い絵』はシリーズ累計25万部を超えるベストセラーに。現在は早稲田大学講師。
絵画、とりわけ十九世紀以前の絵は、「見て感じる」より「読む」のが先だと思われます。絵画を歴史として読み解く、あるいはこれまでと違う光を当てて視る、そこから新たな魅力が発見できるのではないか、そのために選んだ視点が「怖さ」でした。一見、何も怖いものは描かれていないのに、その時代の、文化の、関わった人々の、さまざまな絡み合いを知るうちに、恐怖はじわじわ画面からにじみ出てきて、絵の様相を一変させるでしょう。さあ、絵画による恐怖の旅へ出かけてみませんか。
(「はじめに」より引用)


アントワーヌ・ヴィールツ
麗しのロジーヌ」1847年
ヴィールツ美術館

ツイッターやってます。
Twitter @taktwi

この記事のURL
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=2227

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↓Amazonのサイトでは中野京子氏が動画でこの本の魅力を伝えてます。
名画は語る。人間って、怖い……
名匠ベラスケスの手による、一見かわいらしい王子の肖像画。
しかし、その絵が生まれた“時代の眼”で見ていくと、人間心理の奥底に眠る「恐怖」の側面が浮かび上がる。
悪意、呪縛、嫉妬、猜疑、傲慢、憤怒、淫欲、そして狂気……。カラー掲載の名画33点から見えてくる人間の本性とは??
| 読書 | 23:56 | comments(1) | trackbacks(0) |
こんばんは。
早速買ってきました。とにかくベックリンの《死の島》全5点、
ちょうど調べてて、5枚が揃わなかったので、ありがたかったです。
世田美で、ベックマンと間違えて、恥をかいたし、ベックマンは
ヒトラーに退廃美で追放され、ベックリンはヒトラーが執務室に
《死の島》をかけていたという対照的なふたりなのに。

ー『絵画、とりわけ19世紀以前の絵は「見て感じる」より「読む」
のが先だと思われます。』ー中野京子さんの言葉(はじめにより)
ほんとにそうだと思いました。

| すぴか | 2010/08/23 11:05 PM |










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