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『フェルメールの光とラ・トゥールの焔』
小学館より刊行された『フェルメールの光とラ・トゥールの焔─「闇」の西洋絵画史』を読んでみました。


フェルメールの光とラ・トゥールの焔 ─「闇」の西洋絵画史
宮下規久朗(著)

「美しい光」は「美しい闇」がなければ描けない。フェルメール、ラ・トゥール、レンブラント、セザンヌら、38人の巨匠たちの名画、美麗な図版70点あまりでたどる、西洋絵画を育んだ「闇」の歴史。

絵画に闇を登場させなかった日本画と違い、西洋絵画には常に闇が画面を支配していると言っても過言ではありません。江戸時代僅かながら日本に入ってきた西洋画(主に版画)を目にした日本人がこぞって西洋の陰影表現を過剰なまでに取り入れたのは、極自然な流れ。

新しいもの好きで、物珍しいものを積極的に取り入れた絵師のひとりに、狩野一信が挙げられます。江戸東京博物館で現在開催中の「狩野一信 五百羅漢展」を観れば、それは一目瞭然。見ているこちらが恥ずかしくなってしまうほど無理矢理陰影表現を施した作品が数幅あります。

果たして「闇」が何故ゆえそこまで好まれたのか。

単に新しいもの好きだけでは解釈し得ないものがあります。ましてや長い闇の絵画の歴史を有する西洋絵画においてをや。

ダ・ヴィンチ、カラヴァッジョ、ラ・トゥール、レンブラントそしてフェルメールとメジャーな画家の描いた作品を多数紹介しながら西洋絵画における闇の歴史を紐解いていく壮大な一冊です。

しかし、決して上記のメジャー作家だけを扱っているわけではありません。宮下規久朗先生が目指したのは『闇の西洋美術史』です。ただ紙面の関係上または新書という形態上あまりマニアックな点を掘り下げて行くわけにもいきません。そこで表向きはキャッチーな画家の名前を目次に据えた次第。

『フェルメールの光とラ・トゥールの焔』目次

第1章 闇の芸術の誕生―レオナルド・ダ・ヴィンチとルネサンスの巨匠たち
第2章 光と闇の相克―カラヴァッジョ
第3章 ヨーロッパに広がる闇―カラヴァッジョ派とバロックの巨匠たち
第4章 心の闇を照らす焔―ラ・トゥール
第5章 闇に輝く黄金の光―レンブラント
第6章 闇を溶かす光―フェルメール
第7章 闇の近代―光と闇の継承者たち


軸として据えられているこれらのメジャー作家の作品を闇をテーマに豊富な図版と共に掘り下げて行くのは勿論ですが、所々に登場する他の画家の作品も要チェックです。

きっとこれらは宮下規久朗先生が『闇の西洋美術史』を語る上で欠かすことの出来なかった作品に違いありません。


タッデオ・ガッディ「羊飼いへの告知」1328〜30年頃

宮下先生をして「この絵は西洋美術史上、はじめて描かれた大きな闇であった」と言わしめる一枚。美術館の蛍光灯(最近はLEDかな)の人工的な光の下に展示されている作品ではありません。電気もない時代。蝋燭の灯りが頼りであった「闇の時代」に人々に光をもたらす教会内に描かれた作品です。

人工的な明りの下で鑑賞する為に描かれたわけではないのです。そこをまず念頭に置かないと「闇の西洋美術史」ひいてはこの本の理解は中途半端なものとなってしまいます。

そう、丁度日本の屏風絵を畳の上で蝋燭の灯りや障子から差し込む僅かな自然光で観て愛でたように。


シモン・ブーエ「誘惑を拒絶する聖フランチェスコ」1623〜24年

フランスのカラヴァッジョ派は、イタリアのそれに比べ劇的な表現(人物の動き)は抑えられ物語性が先行して観えます。

当然、カラバッジョに関する考察には多くのページを割いています。彼が後世の画家に与えた影響は甚大でありカラバッジョスキに関する解説のくだりでは「テネブリスム(暗黒主義)」「ルミニスム」「キアロスクーロ」といった専門用語を多く用いながら詳細な考察がなされます。

難解な用語も注釈が施され、また以前何ページで登場したかも示されているのでカタカナ語に弱い素人の自分でも安心して読み進めることができます。(理解できたかは別ですが…)

読者を決して置いてきぼりにしないのが宮下規久朗先生の著書の特徴。深いテーマを扱っていながらも我々でも容易に「読む」ことが出来るのが嬉しい点。


ホットフリート・スハルケン「ロウソクを持つ少女」1660年代

カラバッジョ様式(=テネブリスム)が衰退した後もオランダ等では根強くその影響が残ったそうです。それにしてもこの作品まさに『フェルメールの光とラ・トゥールの焔』を一枚に取り入れた美味しいとこ取りの一枚ですよね。

こうした作品の紹介を含めまるで一本の映画作品のように書かれた「闇の西洋美術史」。緩急取り混ぜた絶妙な宮下節は健在。まとめるのではなく、かなりの分量を減らしに減らした一冊だそうです。

それにしても山本芳翠「灯を持つ乙女」とホットフリート・スハルケン「ロウソクを持つ少女」との類似には驚かされました。相変わらず引き出しの多い宮下先生ならでは。

目に見えない形のない自然の中に神々の存在を積極的に受け入れてきた日本人と、神を視覚化せんとした西洋。西洋絵画が闇の絵画であるとする大きな理由のひとつはその宗教観、ひいては自然観からきているのだと、読み進めるうちに看取。

色んな意味で濃い一冊になっています。

そして超お買い得な一冊です。


Art 2 フェルメールの光とラ・トゥールの焔 ─「闇」の西洋絵画史 (小学館101ビジュアル新書)

17世紀西洋絵画の巨匠ラ・トゥールやレンブラント、フェルメールといった、日本で人気の高い画家に共通している特徴は、精神性の高い、静謐で幽玄な光と闇の描写にあります。それらの画家の絵画に描かれた深く豊かな闇の表現は、『陰影礼賛』を素直に理解し受け入れる感性をもった日本人にとっては、親しみやすく感じられるものです。しかし、「闇」を描くことは、西洋絵画の歴史の中では、極めて革新的な出来事でした。なぜなら、中世以降、西洋絵画は神を讃えることを目的に描かれたため、世界を照らし出す光に包まれているべきものだったからです。

本書では、イタリア・ルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチによって確立された革新的な「闇」の表現が、バロック絵画の先駆者カラヴァッジョによる光と闇がドラマティックに交錯する絵画を経て、いかにしてラ・トゥール、レンブラント、フェルメールらの静謐で精神的な絵画を生み出していったのか、西洋絵画における「闇」の歴史をたどります。わかりやすい文章と数多くの美麗で魅力的な図版によって、初心者も経験者もともに、これまでになかった斬新な視点から西洋絵画の歴史が楽しく読める書物となっています。


以前紹介したこちらと併せて是非是非。

宮下規久朗著裏側からみた美術史』(日経プレミアシリーズ)

レビュー

Twitterやってます。
@taktwi

この記事のURL
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=2509

JUGEMテーマ:アート・デザイン


| 読書 | 23:50 | comments(1) | trackbacks(1) |
「光」との対比として「影」を意識することが多かったので、「闇」という着眼点にビックリでした。
丁寧な解説で読みやすく、とても興味深く面白い内容でした。
なんだか、ぐぐっと視界が開けた気がします。
闇ですけど。。。(^_^;)
| りゅう | 2011/08/27 1:50 AM |










http://bluediary2.jugem.jp/trackback/2509
フェルメールの光とラ・トゥールの焔−「闇」の西洋絵画史
Art 2 フェルメールの光とラ・トゥールの焔 ─「闇」の西洋絵画史 (小学館101ビジュアル新書)作者: 宮下 規久朗出版社/メーカー: 小学館発売日: 2011/04/01メディア: 単行本 内容説明 名画に見る「闇」がつくった西洋絵画の歴史 17世紀西洋絵画の巨匠ラ・トゥールやレ
| 隆(りゅう)のスケジュール? | 2011/08/27 1:40 AM |
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