弐代目・青い日記帳 

  
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『偽りの来歴』
白水社より刊行になった『偽りの来歴 20世紀最大の絵画詐欺事件』を読んでみました。


偽りの来歴 ─ 20世紀最大の絵画詐欺事件』
レニー ソールズベリー (著), アリー スジョ (著), 中山 ゆかり (翻訳)
白水社
http://www.hakusuisha.co.jp/

まずはこちらのサイトを。
「骨董で贋作をつかまないシリーズ:箱書きのみを信じてはいけない

骨董品を集める趣味は今のところありませんが、先日お邪魔したお茶会でもいい風合いの赤楽茶碗を主人が自慢げに披露していました。勿論、箱とそこに書かれた「箱書き」も一緒に。

お茶会という非日常的な空間で、これまた日常生活では滅多にお目にかかれない銘のある楽茶碗を箱書きと共に主人から提示されたら、それはもう疑う余地など微塵も残されていません。

たとえ茶碗自体に「おや?」と疑念を抱いても立派な箱書きさえあれば、それこそ偽物だって本物になってしまいます。なんでも鑑定団でもしばしばこの箱書きの有無が値段を左右しています。

前置きが長くなりました。(でもこれが大事)

今回、ご紹介する偽りの来歴は20世紀にイギリスで実際に起こった絵画詐欺事件の全貌を白日の下に晒すスリリングでエキサイティングな内容の一冊です。

真っ赤なウソだよ〜と云わんばかりの赤い帯に書かれた宣伝文句がいかしてます。曰く。「来歴さえあれば、たとえ贋作でも『ほんもの』になる。

これまでも贋作にまつわるドキュメンタリー小説は何冊かありましたが、今回の偽りの来歴がとてもそれらとは一線を画しとても新鮮に思えるのは、その手口に秘密があります。

20世紀最大の絵画詐欺事件の首謀者はドゥリュー、ジョンマイアット、ジョン。偶然か神の悪戯かこの二人の「ジョン」によりコレクター、画廊、美術評論家、修復家、建築家、ヴィクトリア&アルバート美術館国立美術図書館司書、テート・ギャラリー学芸員、ロンドンICA(現代美術研究所)そしてロンドン警視庁を巻き込んでの壮大な美術品詐欺事件が展開されるのです。

これが実際に起こった詐欺事件だということもあり、ストーリーに全く破綻なく一気に最後まで読み進めることが出来ます。夏の暑い時季はちょっと辛かったのですが、これからの「読書の秋」に相応しい読み応えのある一冊です。

【目次】
  プロローグ
 1 「いいマティスが一点ほしいのだが」
 2 狂乱する美術市場
 3 絵を売る商売
 4 一線を越える
 5 奇妙な〈ド・スタール〉
 6 自分自身を創った男
 7 ICAへのアプローチ
 8 〈ジャコメッティ〉を描く
 9 来歴の捏造
 10 拡大する詐欺事業
 11 ジャコメッティ協会
 12 不気味なメッセージ
 13 古書を用いた策略
 14 怪しい手紙
 15 「君なら朝飯前さ」
 16 画商の直感
 17 破綻のはじまり
 18 《立つ裸婦》
 19 ハムステッドの放火事件
 20 贋作者の「青の時代」
 21 詐欺師と刑事
 22 闘う女
 23 「ニコルソンは贋作よ、残念だけど」
 24 ジャコメッティ協会と画商の攻防
 25 テートだけではなかった
 26 偽造された展覧会図録
 27 ロンドン警視庁美術特捜班
 28 絵を描いたのは誰か
 29 贋作者の逮捕
 30 アラジンの洞窟
 31 証拠選び
 32 追い詰められる詐欺師
 33 逃亡
 34 裁判
  エピローグ
  著者ノート

落ちぶれ生活に窮する画家マイアット、ジョンは少年時代からある特有の才能に秀でていました。それは「作品模写」
少年年時代のマイアットは音楽と美術に才能を示し、両親から勧められて入学した美術学校の教師たちも、彼の画才を認めてくれた。教師たちがとりわけ感嘆したのは、彼が巨匠たちの作品模写に長けており、それが〈他人の視点に立つこと〉のできる彼の天賦の才能と思われたことだった。図書館から借りた美術書に囲まれた彼は、絵筆を手にし、まるで巨匠の魂が乗り移ったかのような一種のトランス状態に陥り、カンヴァスに突進しては筆を走らせる。そして一歩下がると、その巨匠だったら、この絵をどのように描いただろうかと思いをはせるのだった。
一瞬このくだりを読んだ時、ゼロ(ZERO)と名乗る超人的才能を持った贋作者が主人公の漫画『ゼロ THE MAN OF THE CREATION』を思い出してしまいました。しかし、マイアットはゼロのように自ら進んで贋作の仕事を取ってくることはありません。

それはもう一人のジョンこと、ドゥリュー、ジョンの仕事。そして彼こそが一流のペテン師なのです。それなりに上手いマイアットの作品を「本物」にする為、ドゥリューが着目したのが絵の来歴。

前述の茶碗と同じです。たとえ絵画作品自体に「おや?」と疑念を抱いても立派な来歴さえあれば、それこそ偽物だって本物になるのです。

しばしばこのような台詞が登場するのもその所為。
確かに作品は一級品とは言えない。でも来歴はきちんとしている。

ここにこの本の面白さがあります。ただひたすら贋作を量産し売りさばく。そんな話ではないのです。そこには巧妙に練られた別の手口が用意されていたのです。自称物理学者であるドゥリュー、ジョンによって。

彼が「来歴」をどのように作り上げ、偽物を本物に仕立て上げたのでしょう。秋の夜長にじっくりとその辺を楽しんでみて下さい。

二人が手掛けた贋作は9年間で240点以上も美術市場に流通し、混乱をきたしました。美術館のお墨付きである来歴を武器に。

翻訳にあたったのは、昨年こちらの記事でご紹介した『印象派はこうして世界を征服した』と同じ、中山ゆかり氏。歯切れのよいアップテンポな展開に中山氏の翻訳が今回も一役買っています。


「印象派はこうして世界を征服した」
著:フィリップ・フック 訳:中山ゆかり 白水社

絵の完成度よりも来歴の出来不出来がここでは重要視されています。「何をもって美術品の価値とするかという究極的な問題を問いかけ、美術と社会のあり方をも考えさせる一書。

自分も展覧会へ足を運び、国宝、重要文化財とついているだけで有難がり、また数センチ四方のキャプションを観てその絵の良し悪しを決めていることしばしば。

ホンモノの作品とは何か?といった根源的な問いまで言及せんとする大変な意欲作です。有名美術館所蔵の作品だからといって本物とは限りませんからね。(あの国立西洋美術館でさえも過去に贋作を掴まされているのですから。今でも所蔵庫に死蔵されているはずです)

贋作者レアル・ルサールがこれまで自分が描き騙してきたことを暴露した『贋作への情熱―ルグロ事件の真相』とは、全然違いストーリー性豊かな読み物となっています。


偽りの来歴 ─ 20世紀最大の絵画詐欺事件』
レニー ソールズベリー (著), アリー スジョ (著), 中山 ゆかり (翻訳)
白水社
http://www.hakusuisha.co.jp/

たとえ贋作でも、「来歴」さえあれば売買は成立する──そんなレトリックを駆使した詐欺師は、驚くべき方法で美術史を捏造した。美術界を震撼させた事件を追うドキュメンタリー。


お次はこちらかな。

FBI美術捜査官―奪われた名画を追え
ロバート・K. ウィットマン (著), ジョン シフマン (著), Robert K. Wittman (原著), John Shiffman (原著), 土屋 晃 (翻訳), 匝瑳 玲子 (翻訳)
柏書房
http://www.kashiwashobo.co.jp/

レンブラント、フェルメール、ノーマン・ロックウェル…美術館の壁から、忽然と姿を消した傑作の数々。潜入捜査でたくみに犯人をおびき寄せ、歴史的至宝を奪還する。美術犯罪捜査に命を賭けた男と、そのチームの物語。

Twitterやってます。
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