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担当学芸員に聞く「春日の風景」展の見どころ。

根津美術館でいよいよ10月8日(土)からスタートする開館70周年記念特別展「春日の風景 麗しき聖地のイメージ」。貴重な日本美術品を展示する展覧会故会期も僅か一ヶ月(11月6日(日)終了)。


http://www.nezu-muse.or.jp/

2011年度根津美術館開催の展覧会で最も力の入った、そして二度と観られないであろう展覧会がこの特別展「春日の風景」なのです。でも、一体何をどう拝見したら良いのか古都から離れて暮らす東人にはさっぱり分かりません。

そこで、この展覧会を企画担当された根津美術館 学芸課長でいらっしゃる白原由起子氏に展覧会の見どころについてお話を伺って来ました。

Tak「まず、『春日の風景』展の舞台である奈良の春日社とは古来どんな場所として捉えられていたのでしょう?」

白原氏「今では興福寺の近くにある大きな神社程度の認識しかないかもしれませんが、春日社は平城京の時代より神々の宿る神聖な場所に建てられた由緒正しき聖地なのです。」

参考:
春日大社公式サイト
春日大社wiki

Tak「聖地としての春日大社。例えばどのようなことが挙げられますか。」

白原氏「最も分かりやすい事柄としては、遣唐使が生死をかけ旅立つ前に無事を祈願しに春日の山に祈りに詣でたことでしょうか。留学生として中国に渡った阿倍仲麻呂のかの有名な和歌『天の原ふりさけみれば春日なる 三笠の山に出でし月かも』にも詠まれています。異国で故郷日本に想いを馳せる時まずまっ先に脳裏に浮かんだのが春日社を含むこの聖地なのでしょう。」

Tak「確かに『万葉集』から『古今集』にも春日は歌枕の地として多くの和歌に詠まれていますね。」

白原氏「そうです。風光明媚な場所としても認識され平安時代に入ると新春を謳歌する「若菜摘み」の歌なども数多く詠まれるようになります。聖地としての側面に加え新緑が眩しい自然豊かな野辺のイメージも加わって来ます。」


重要文化財「春日宮曼荼羅」鎌倉時代 13世紀 
根津美術館蔵

Tak「さて、webページ(根津美術館アプリを出しつつ)を拝見すると、春日曼荼羅と称される作品が何点か出るようですが、これは例えば先月までトーハクで開催していた「空海と密教美術展」に出ていたような曼荼羅と同じなのでしょうか?どうも曼荼羅と聞くと密教美術でのシンメトリーな曼荼羅を思い浮かべてしまうのですが…」

白原氏「仏教の教義を仏の構成で表す曼荼羅を本来の意味とし、それを広義に捉えると春日曼荼羅のようにシンメトリーに神々が配置されず、風景を描いただけのように見えるものも、春日の信仰世界を図示する意味から曼荼羅と呼びます。今回の展覧会では法隆寺、能満院、湯木美術館、奈良国立博物館、大和文華館他所蔵の春日曼荼羅が約20件以上が勢揃いします。多分これだけの作品が東京で一度に観られるのは最初で最後でしょう。」

Tak「そんなにあると目がうろうろしてしまいます。中でもこれだけは絶対観ておいて欲しい!という春日曼荼羅はありますか?」

白原氏「何と言っても重要文化財にも指定されている「春日宮曼荼羅」鎌倉時代 13世紀 奈良・南市町自治会蔵でしょう。これほど精緻な描写と美しい作品は他にありません。まさに春日宮曼荼羅の白眉。両脇には桜や梅の花が満開に咲き誇り、境内の真ん中を貫く参道は何と金で彩色が施されています。奈良の南市町自治会が所蔵しているこの作品が箱根の関を越えて関東にやって来たのは一、二度しかありません。」


重要文化財「春日宮曼荼羅」鎌倉時代 13世紀 
奈良・南市町自治会蔵

Tak「縦が2m近くもある大きな作品なのですね!」

白原氏「根津美術館の展示ケースいっぱいいっぱいで展示します。大迫力です。それとこの曼荼羅には他には無い大きな特徴があります。それは作品中に人物が描かれていることです。本殿の前に座って礼拝したり、若宮社にも数名。単眼鏡(双眼鏡)を是非持参してご自身の目で確認してみて下さい。」

Tak「ところで、展覧会のタイトルを「春日の風景」にしたのは何か意図があるのでしょうか。」

白原氏「はい。春日を紹介する展覧会となるとどうしても宗教美術一辺倒になりがち(春日信仰を前面に出す)ですが、それでは春日の魅力を十分に知ってもらえないのではないかと思いました。春日は当然、祈りの場所でもありますが、同時に名所(自然)であり、前述の和歌に詠まれた文芸の舞台でもあります。春日におけるイメージの重層性を展覧会で紹介すべくこのタイトルに決めました。」

Tak「チラシ表紙に謳われていますね」

鳥居をくぐるとそこは神の住む聖地。
春日の祈りと憧れを、宮曼荼羅、霊験絵巻、名所図の名品に見る。
日本の自然は、かくも美しく、気高い。


白原氏「これ、私が考えに考えたんです。イイでしょ。」

Tak「先ほど、重層的に春日を捉えると仰ってましたが、春日宮曼荼羅を拝見していると山や木々など豊かな自然がとても生き生きと描かれていますよね。」

白原氏「そうですね。日本人の自然との関わり方の典型とも言えるかもしれません。「愛でる自然」であり「遊ぶ自然」そして「崇拝する自然」多面的な捉え方が一枚の曼荼羅図に盛り込まれています。だから観ていて飽きませんし、人を惹きつける魅力があるのだと思います。」


重要文化財「春日山蒔絵硯箱」室町時代 15世紀 
根津美術館蔵

Tak「少し意地悪な質問ですが、春日の風景を現わした作品、若菜摘みのお話や曼荼羅に描かれている桜花から季節は当然、春となりますが、この「春日山蒔絵硯箱」などはどう見ても秋の景色です。季節はまちまちなのでしょうか?」

白原氏「そこ今回の展覧会をご覧になる上で大きなポイントのひとつです。答えをはじめに申しますと春と秋を現わした作品が存在します。鎌倉時代当初春日宮曼荼羅が描かれた頃は春日=春の景色でした。ところが室町時代の「春日山蒔絵硯箱」の頃になると初めて鹿が春日を現わすビジュアルアイコンとして登場し、特に文芸作品(「伊勢物語絵」等)に於いて益々鹿の登場回数が増えます。」

Tak「ビジュアルアイコンとしての鹿が季節を変えたと?」

白原氏「そういうことになります。鹿はご存じの通り秋の季語です。室町から江戸時代以降は春日=秋のイメージで表現されることが専らとなります。」

Tak「『奥山に 紅葉ふみわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋はかなしき』なるほど〜それは面白い!鹿に注目して拝見するだけでも十分楽しめそうですね。」


伊勢物語絵」春日の里 絵・住吉如慶筆/詞・愛宕通福筆
江戸時代 17世紀 東京国立博物館蔵

Tak「素晴らしい作品の勢揃いでしょうが、幾つかこれは!という作品を教えてもらえますか。」

白原氏「なんといっても宮内庁三の丸尚蔵館所蔵の『春日権現験記絵』でしょう。巻第1・19のほぼ全体をご覧頂けるように展示致します。近年修復を終えたばかりのそれはそれは美しく贅沢な絵巻です。また意外なものでは『南都八景画帖』でしょうか。「瀟湘八景図」の日本版とも言えるこの作品の8景の内、春日が2景描かれています。」

白原氏「絵画ではありませんが、「瑠璃燈籠」は青いビーズ(ガラス)で飾られています。これが朱色の春日社の本殿を照らしていた光景を想像しただけでも…照明もバッチリ調整し美しい姿をお見せ出来るはずです。」

Tak「お忙しい中お時間割いて頂きありがとうございました。10月8日(土)スタートしたらすぐに駆けつけたいと思います。」(一部インタビュー時間の都合上割愛させて頂きました)

※今回お話をお伺いした根津美術館 学芸課長の白原由起子氏が行う講演会、現在参加者受付中です。
春日の風景 特別講演会1「王朝人の祈りと憧れ ―春日宮曼荼羅の世界」
こちらも是非!!


開館70周年記念特別展
春日の風景 麗しき聖地のイメージ

開催期間:2011年10月8日(土)〜11月6日(日)
休館日:月曜日 ただし10月10日(月・祝)は開館、翌11日(火)閉館
開館時間:午前10時‐午後5時
(入場は午後4時半まで)
会場:根津美術館 展示室1・2
http://www.nezu-muse.or.jp/

おまけ:
学生時代調査で毎年春日若宮のおん祭に足を運びました。その時撮影した一枚。


東遊

春日は自分にとっても特別な場所なのです。

Twitterやってます!
@taktwi

この記事のURL
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=2644

JUGEMテーマ:アート・デザイン


奈良・春日山の西峰御蓋山(みかさやま)は古代より神の山として拝され、山裾の春日野は和歌に詠まれる名所でもありました。そしてこの地に創建された春日社の信仰は、神が鎮まる聖地のすがたを表す独自の絵画を生み出しました。本展覧会では、名品「春日権現験記絵」をはじめ、春日曼荼羅、伊勢物語絵そして名所図屏風に至る、春日の景観を描いた中世〜近世の絵画・工芸作品約35件を展示し、聖地、名所そして文雅の地である「春日」のイメージの展開と諸相をご覧いただきます。

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