青い日記帳 

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「マウリッツハイスへの道」Vol.6

「マウリッツハイス美術館展」と拙ブログ「青い日記帳」のオリジナルコラボレーショングッズ制作企画。
「Road to Mauritshuis−マウリッツハイスへの道」プロジェクト
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=2788


展覧会公式サイト:
http://www.asahi.com/mauritshuis2012/
「マウリッツハイス美術館展」オランダ・フランドル絵画の至宝

國學院大学文学部准教授の池上英洋先生が、わざわざこの企画のためにお忙しい中、書き下ろして下さったオリジナルエッセイ「処女性と窓

  わたしの妹、花嫁は、閉ざされた園。
  閉ざされた園、封じられた泉。
  ほとりには、みごとな実を結ぶざくろの森
  ナルドやコフェルの花房
  ナルドやサフラン、菖蒲やシナモン
  乳香の木、ミルラやアロエ
  さまざまな、すばらしい香り草。
  園の泉は命の水を汲むところ
  レバノンの山から流れて来る水を。
  (雅歌 4: 12-15 新共同訳)


旧約聖書におさめられている『雅歌』の一節の引用から始まる、知的刺激に満ち、尚且つ何処となく興奮を誘う魅惑的な書き出し。前半部分をご紹介した「マウリッツハイスへの道」Vol.4の続きを掲載したいと思います。(大変長らくお待たせいたしました)じっくりご一読あれ。

《ここから》
「処女性と窓」池上英洋

 ゴシック教会にはいると、ステンドグラスを通って射し込むさまざまな色の光に包まれる。交差ヴォールトの開発によって、柱部への荷重集中が可能となり、ゴシック教会は上部構造の荷重を壁面に支えさせる必要から解放された。ロマネスク教会の内部が一様にみな薄暗いのに比して、ゴシック教会が高く広く明るいのは、すべてこの新たな技術的発明のおかげである。

 こうしてゴシック教会はステンドグラスの透過光であふれかえることになったが、ここにひとつあらたな意味があたえられた。それが先ほどの「閉ざされた処女性」と「実体のない霊的なイエス(の“もと”)」である。すなわち、ステンドグラスを通ってきた光は、「なにも破っていないのに、内部に光をもたらす」として、マリアの処女性と結びつけられたのだ。なんともなまなましい感じがするが、彼らはあくまで大真面目だ。

 窓を通ってきた光は、マリアの子宮にとどき、実体のない霊的なイエス(の“もと”)を託す。実体のないものを描けというのも無理な話なので、聖霊の象徴として鳩を描くのが一般化したことは周知の通りである。こうして教会内を舞台にした受胎告知であれば、ステンドグラスを通ってきた光が、マリアのお腹か右耳に入っていくように描かれた。イエスの“もと”が耳から入るというのも不思議だが、もともと受胎告知はガブリエルの口を介して言葉としてマリアに伝えられており、すでに初期キリスト教時代から「右耳から入って子宮に達する」との解釈は広く支持を集めていた。


(図3: ベルトランの画家、<聖ペテロの祭壇画>(部分)、1379〜83年、ハンブルク美術館)

 より視覚的にわかりやすいようにと、鳩のかわりに幼児イエスが空中を飛んでマリアに向かっている図像もいくつかあるが、こちらは異端的解釈として批判されてきた過去をもつ。肉体をまとうのはあくまでマリアの子宮においてのことであり、それ以前はあくまで実体のない霊的な存在なのだから、これは当然の批判であった。でも個人的な感想をいえば、赤ん坊が空を飛んでいるは視覚的にも可愛らしい。ここに掲載したベルトランの画家による作品は、聖霊の鳩と幼児イエスが両方飛んでいる珍しい例だ。ガブリエルが嬉しそうに告知している様子もあわせて、ちょっと風変わりな画家ならではの主題解釈ではある。


(図4: ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ、<受胎告知>、1425年頃、ヴァティカン絵画館)

 「窓」をとおって入ってきた光は、窓を破らずに通過して届いているからこそ、閉ざされて護られたマリアの処女性の暗示となりえ、また実体のない霊的なイエスの暗示となりえたのだ。ジェンティーレが描く受胎告知場面の、マリアの子宮と窓との関係の、なんと明確なことよ―。


(図5: ヨハネス・フェルメール、<真珠の首飾りの女>、1662〜65年頃、ベルリン国立美術館)

 さてわれらがフェルメールの<真珠の首飾りの女>には、その主題を<受胎告知>ではないかとする議論がある。すなわち、フェルメールは隠れカトリック教徒であり、だからこそ聖母信仰を絵に描いたのであり、しかも「わかににくく」描く必要さえあったというものだ。真偽のほどはまだわからない。ただ、この作品の女性が、窓を通ってきた光に包まれ、その方向をむいていること、そして突っ立ってお腹を強調していることは特筆に値するだろう。

 そもそも、何度も描かれたこの部屋で、窓が開かれていない方が珍しい。たいてい、この部屋の窓は開かれていて、美しく特徴的なステンドグラスの模様を私たちに見せているのだ。言い換えれば、「閉ざされた窓を通ってきた光が、女性のお腹を照らしている」のは、フェルメールの数少ない現存作品中でこの絵だけなのだ。もちろん、ただそれだけでこの絵を<受胎告知>と断定はできないが、その可能性もちょっとあるな、と私が考えていることは、ここまでお読みいただいたうち何割かの方々には、おそらくご理解いただけたのではなかろうか。

《ここまで》

如何でしたでしょうか。前回の文章から一気にステンドグラス→窓→光→フェルメールへと見事なまでに展開されています。しかも視点が如何にも池上先生らしい!

今度飲む時は是非この話しをもっともっと掘り下げて(活字化不可能な)ネタを聞かせて欲しいものです。

それにしても「Road to Mauritshuis−マウリッツハイスへの道」プロジェクトにはあまりにも勿体ない内容です。グッズの台紙にでもこの文章を掲載するなどして、ネットへのアクセスが不便な方にも是非読んで頂きたいものです。

建築家の弥田俊男氏、デザイナーのおおうちおさむ氏、美術史家の池上英洋氏とこんなビックネームを巻き込んで展覧会グッズ作ることなんて絶対にあり得ないことです。ちゃんと展覧会始まるまでに作らねばなりません。(時間がなーーい!)

前回(「マウリッツハイスへの道」Vol.5)行き詰まってしまったフェルメール・グッズ計画ですが、新たな光明が見えてきました。(だからこうして堂々と続きを書けるわけです)

グッズを「ひとつ」だけと頭からきめつけていたのが、そもそもの間違い。「複数」存在しても良いですよね。ということで、現在キーホルダーだけでなく、あんなものやこんなものを加えようと日本国内はもとより、遠くドイツまで話を持ちかけサンプルを取り寄せているところです。詳細は次回。

乞うご期待!そろそろビールの美味しい季節ですよね!!


「マウリッツハイス美術館展」
オランダ・フランドル絵画の至宝

2012年6月30日(土)〜9月17日(月・祝)東京都美術館
2012年9月29日(土)〜2013年1月6日(日)神戸市立博物館
展覧会公式サイト:
http://www.asahi.com/mauritshuis2012/

マウリッツハイス美術館展 公式ガイドブック』 (AERAムック)
2012年6月7日発売になります!!

そうそう、こちらも是非!洋画専門チャンネル ザ・シネマにて6/30より映画「真珠の耳飾りの少女」放送決定。6月30日はそう!「マウリッツハイス美術館展」の初日です。


映画「真珠の耳飾りの少女」 
©Archer Street (Girl) Limited 2003

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