弐代目・青い日記帳 

  
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フェルメールナイト@6次元
とんぼの本「フェルメール巡礼」刊行記念イベント
『フェルメールナイト 「真珠の耳飾りの少女」を読み解く』

6次元 ロクジゲン
http://www.6jigen.com/



『フェルメール巡礼』の著者でもあり、元「芸術新潮」編集者でライターの前橋重二さんと不肖この私(Tak)でトークショーを行いました。

私の駄話はどうでもいいので、前橋さんがこのトークショーの為にお書きになられたエッセイを掲載させて頂きます。じっくりお楽しみください。

Something in the way she looks…

前橋重二

脳は美をいかに感じるか』の著者セミール・ゼキによると、フェルメール《真珠の耳飾りの少女》は 神経科学的意味で「曖昧さの傑作」なのだそうだ。〈少女の顔は招くようであり、同時に怒っているようでもあり、エロティックに興奮して願っているようでもある〉。悲しそうでいて嬉しそう、また服従的でかつ支配的とも見えて、いずれとも決めがたい。ことばを換えると、どの解釈も「同じくらいの確かさ」で成り立つよう、この少女像は描かれていて、だからこそ傑作なのだ、とゼキはいう。神経生物学者にとって「曖昧さ」とは、脳が外界から情報を獲得する認知メカニズムに深く関わるものであり、私たちの「脳活動」の本質をたくみに利用しえたところにフェルメールの偉大さがある、という主張だ。

 ゼキが指摘する「曖昧さ」の指標は、どれも主観的な「印象」であって、すべての鑑賞者がこの少女像に「悲嘆/歓喜」「服従/支配」といった対立的な感情を汲みとるわけではないだろう。ほんとうにフェルメールは、この絵に「曖昧さ」を付与したといえるのか。これを考えるうえでひじょうに興味ぶかいスタディがある。2007年、ノースイースタン州立大学 (オクラホマ州) の研究者たちが発表したもので、10人の被験者に、少女がどこを見つめているかを詳細に判定してもらったところ、鑑賞者は彼女の視線方向を正しく判断できない、との結果が得られたのだ。

 対人コミュニケーションでは、アイコンタクトはきわめて重要な意味をもつ。「相手が自分を見ているかどうか」を感知する私たちの能力はきわめて鋭敏で、2メートル離れた相手の視線の、わずか2.86度のずれが検出できるという。これは、2メートル先の人間の瞳孔が左右に0.39ミリずれているだけで、「相手は私を見ていない」と正しく判断できることを意味している。

ところが、これだけ鋭敏な能力も、相手が顔を横に向けると、とたんに感度が悪くなる。たとえば相手が頭部を30度回転させると、自分が「見られている/見られていない」の判断がひどくあやしくなって、相手が自分を見つめているにもかかわらず、相手の視線が自分から逸れているように感じられる。いったいなぜなのか、1970年代以降に行なわれたいくつかの実験で、そのメカニズムがあきらかになってきた。結論だけいうと、斜め横を向いた人物に注視されるとき、「私」には、相手の右眼と左眼がそれぞれ注視する方向が、異なって感知されるのだ。つまり相手の左眼に注目するか、右眼に注目するかで、「視線方向の測定結果」が異なってしまう。

《真珠の耳飾りの少女》でも、じつは右と同様の「視線のイリュージョン」が起こっていることを、研究者たちは実験でたしかめた。彼らは、フェルメールがいちはやく視線のイリュージョンに気づき、この効果を正しく作品にとりこんだのではないかと推定しているけれど、それはどうだろう。フェルメールが写真的なまでにリアルに少女の眼差しを描いたため、図らずも視線のイリュージョンが再現された、という可能性もあるのではなかろうか。いずれにせよ、少女の視線方向が定めがたいという点で、この作品には客観的に裏づけられた「曖昧さ」がある、いえそうだ。では「曖昧さ」とは何なのか。絵を鑑賞するうえで、どんな機能をはたすのか?

 たとえば物体の色を見きわめるとき、脳はきわめてスピーディに情報を処理することができる。色には「曖昧さ」がないからだ。しかし《真珠の耳飾りの少女》のような絵にでくわすと、脳は、画中の状況を説明するさまざまな解釈を思いついてはその妥当性を検証しはじめ、最後に複数の解釈が残って、そのいずれとも決めがたいケースを「曖昧」と認識する。つまり「曖昧さ」とは脳のもつ属性(さまざまな説明を付与する能力。学習能力と密接に関連するとみられる)なのであり、その「脳力」をよりスムーズに、より効果的に引き出しうる絵画こそ、神経生物学的な名画だというわけ。

 絵画を鑑賞するとき、私たちの視線は、解釈に役立つさまざま手掛かりを探して、画面上を忙しく行き来する。絵を注視する時間は、もちろん「曖昧な」絵ほど長く、それはつまりその絵がより長く視線を「引きつける」、英語でいうと「アトラクトする」ということだ。アトラクティヴな絵画ゆえに長い時間みつめるのか、長く注視してしまうから魅力的なのか。おそらくはその両方であるのだろう。

◆セミール・ゼキ『脳は美をいかに感じるか
◆Semir Zeki, The neurology of ambiguity, Consciousness and Cognition, 13,
2004 ◆Roger W.West and Hank G.Van Veen, Gaze as Depiccted in Vermeer's Girl
With a Pearl Earing, Journal of General Psychology, 134 (3), 2007


『フェルメールナイト 「真珠の耳飾りの少女」を読み解く』

はろるどさんが、トークの内容をツイートして下さいました。ありがたいことです。感謝感謝!まとめて掲載させて頂きますね。

さて本日6次元のフェルメールナイト、前橋さんとたけさんのトーク、フェルメール作品の特に視点にスポットを当てたお話で興味深いものあり。青いターバンの眼差し、果たして見る側を向いているのかそうでなのか。

一般的に美術史家の方はフェルメールがカメラを使っていたといい、それ以外の立場の方は違うと指摘することが多いと前橋さん。一方でたけさんは当時のカメラの精度を考えると、もし使っていたとしてもあくまでも参照程度に過ぎなかったのではないかと。

あとフェルメールの遺品リストに黄色のモフモフがあったと。フェルメールはあの衣装をモデルによく着せているが、それは光との相性が良かったからではないかとたけさん。また得意とする青との色の関係も良いとのこと。

フェルメール作品、制作年代が後ろになればなるほどサイズが小さくなる一方、より完成度が増しているのではないかという話も。いわゆる傑作がいずれも小さな作品であるというのもフェルメールの特異な点ではないか。

前橋さんの指摘では青いターバン、右眼はこちらを向いていて左眼は明後日の方を向いている。鑑賞する人によって視線を感じるかそうでないかは、その人がどちらの見る眼を見ているのかによって違うのかも、というお話。



会場で振る舞われた料理。フェルメール「牛乳を注ぐ女」が作っているパンプディングを現代風にアレンジ。また17世紀オランダでよく飲まれていたスパイスの入ったワイン(ヒュポクラス)も美味しゅうございました。

それに青いターバン、ターバンに当たる光が不自然なほどに強いけれど、それを一見自然なように暗くすると(つまり顔の影にすると。)、作品のバランスがたちどころに崩れてしまうのではないかとたけさんの指摘。ターバンが明るいからこそ、安定した構図で顔の表現を見やることが出来る。

それに会場からの質問で青いターバンのモデルは何歳ですかという質問が。たけさんはずはり高2、前橋さんは18歳ぐらいではというお答えも。

フェルメール作品における微妙にピントをぼかした描写、ヴェネチア派の作例と関係あるのではというお話も。フェルメールって画商をやっていたのですよね。

また、たけさんが最高傑作に挙げたデルフトの眺望、雲の描写をライスダールと比較したところも面白かったですね。ライスダールが雲をそれ自体、しっかりと物質感をもって描こうとしているのに対し、フェルメールはあくまでも画中の光の効果を考えて雲を描いている、つまり光の表現の手段に過ぎないと。

そして前橋さん、フェルメールの風景画には対象に対するいわば愛情が感じられるけど、ライスダールは必ずしもそうではないとのお話が。フェルメールがいかにデルフトに親しみをもっていたか、そんなことも伺えるご指摘でした。

というわけで他にもまだまだあるけど、充実3時間のフェルメールトークでした!たけさん前橋さん、6次元さんありがとうございました。@harold_1234


ツイッターでのみなさんのつぶやきを@Chloe24hさんがまとめて下さいました。
こちらも是非!→http://bit.ly/LP2WLe

因みにクロエ(@Chloe24h)さんもフェルメール作品全てご覧になられた、フェルメール病に侵されたひとり。最後に観た一枚が今、上野西洋美術館に来ている「真珠の首飾りの少女」です!


フェルメール巡礼』 (とんぼの本)
朽木 ゆり子 (著), 前橋 重二 (著)

彼の絵は、美しさとたくらみに満ちている。心震わす作品のすべてを訪ね歩く書中の旅。
プルーストが「世界でもっとも美しい絵」と賞賛した《デルフト眺望》、近年の小説・映画で話題を呼んだ《真珠の耳飾りの少女》ほか、17世紀オランダに生きた天才画家の全作品を訪ねて、世界16の美術館を巡る。透視図法の種明かし、33億円絵画の真贋など、画中の秘密を探訪し、作品の辿った数奇な運命を追跡する、驚きの新知見も満載。


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