青い日記帳 

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『知識ゼロからのキリスト教絵画入門』

幻冬舎より刊行された『知識ゼロからのキリスト教絵画入門』池上英洋・編著を読んでみました。


知識ゼロからのキリスト教絵画入門
編著:池上英洋
著:川口清香、荒井咲紀

美術館が画集、はたまた教科書で西洋絵画を観る際に、我々日本人の前に目に見えない壁が合間にカットインして来ます。その透明な壁の所為でその絵に何が書かれているのか見境がつかなくなってしまいます。

殆ど全ての皆さんが、これまで美術館で何度も経験した西洋絵画と鑑賞者の間に立ちはだかる壁の正体が「キリスト教」(旧約聖書、新約聖書の世界等々)です。

キリスト教絵画だと知らずに観ても、とても美しく心奪われうっとりさせられる作品も沢山あります。例えば、「オフィーリア」を描いたラファエル前派の画家、ミレイのこちらの作品。


ジョン・エヴァレット・ミレイ「箱舟への鳩の帰還
1851年 オックスフォード、アシュモレアン博物館

タイトルを知らずにこの絵を観たとして、果たしてこれが聖書の一節と関連の深い場面を描いていることお分かりになりますか?少なくとも自分は分かりません。ブリティッシュグリーンの服を纏った少女と紫色がとても印象的な少女。そして二人の間には鳩が……

では、池上先生の知識ゼロからのキリスト教絵画入門26,27ページを開いてみましょう。そこには旧約聖書に記された「大洪水」の項目が。

そうです、ミレイが描いたのは大洪水の後の「ノアの箱舟」の内部の一場面だったのです。水に浸かった大地の様子を探らせる為、鳥を放ちますがすぐに戻ってきてしまいます。7日後に再び鳥を飛ばすと、今度はオリーブの葉をくわえて戻って来たのです。

ミレイのこの作品はまさに鳥(鳩)がオリーブの葉を加えて「ノアの箱舟」へ戻ってきたその瞬間を描いたものなのです。そうすると絵の見方、見え方が随分と変わってきますよね。

「ノアの箱舟」の船内ゆえに、干し草が敷き詰められ背景の黒い壁は船体内部。そして描かれた二人の少女はノアの家族。二人がいとおしそうに鳩を抱えている姿に安堵の表情を見て取ることが出来ます。


フランシスコ・デ・スルバラン「聖アガタ
1630〜33年 モンペリエ、ファーブル美術館

今何かと話題のスペイン絵画の登場です(笑)

スルバランはスペイン絵画の黄金時代と言われる17世紀に活躍した「スペインのカラヴァッジョ」とも呼ばれる画家。そのスルバランがシチリア島の貴族の娘アガタを描いた作品。

上品な佇まいとアンニュイな視線がたまらない作品ですが、アガタが手にしているものを良く見ると…なんとびっくり!お盆の上には女性の乳房が二つ載せられているではないですか!!!これって一体…(どんなプレイ?!)

この「小道具」こそキリスト教絵画を読み解く上で聖書と並び重要なアトリビュート(attribute:持物)に他なりません。知識ゼロからのキリスト教絵画入門ではこのアトリビュートも可愛らしいイラスト入りでしっかり紹介されています。

それでは、どうして聖アガタのアトリビュートが乳房なのか?それは読んでのお楽しみ。彼女の生誕地カターニアでは乳房の形をしたパンをお祭りの際に捧げるとか。
もちろん、一切の情報を排除した状態で、まず絵に描かれている色彩や線、明暗や構図といった「物理的」側面のみを鑑賞することはとても大事なことです。しかしそれと同じか、あるいはそれ以上に、絵に描かれている意味を理解することも作品鑑賞には不可欠です。というのもそれらの作品は、描かれた当時は鑑賞者になんらかの意味を伝達する目的で描かれたものだからです。だからこそ、作品の主題を知って初めて、その絵がいったい何のために、誰に向かって描かれたのかといった「絵の奥の意味」、すなわち「精神的」側面をも味わうことができるのです。

本文あとがきより引用。


時代を経るごとに描き方が変化して行ったキリストの磔刑図を見開きで幾つもの作品を示し解説。池上先生のこうしたサービス精神がこの本の随所にみられるのも嬉しい点です。

【目次】(一部)
旧約聖書の世界(旧約聖書ってなに?/天地創造(ミケランジェロほか)-神と人間による壮大な物語の始まり/エヴァの創造(ランブール兄弟ほか)-「女は男の附属物」エヴァ創造の背景にかいま見えるもの ほか)

新約聖書の世界(新約聖書ってなに?/受胎告知(マルティーニほか)-処女マリアへ、神の御子の受胎が告げられる/東方三博士の礼拝(ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノほか)-星に導かれた三人の博士が、救世主の誕生を祝福 ほか)

キリスト教のさらなる世界(善き羊飼い(作者不詳)-信者の導き手となる「羊飼い」のたとえ話/聖母子(ラファエッロほか)-ルネサンスの人間性復興のもと、親密な母子間の愛を表現/無原罪の御宿り(ムリーリョ)-聖母マリアも「原罪」を免れていることを証明 ほか)


西洋絵画にイエスと並び最も多く登場するマリア(聖母子)については、かなりのページを割いて詳細に解説がされています。

そうそう、何気に有難かったのは、それぞれの項目の最初に聖書の該当箇所が記載されている点です。まずは聖書の一節を活字で読んで、それから絵画へ目を転じる。そして詳しい解説やトリビア的な話題に思わず膝を打つ。

見ての通り、図版も豊富に使用され160ページ、オールカラーの贅沢な仕上げとなっているにも関わらず、何故かお値段が1000円ちょっとと超リーズナブル。内容的にも勿論お買い得な一冊です。

一家に一冊(^^)/


知識ゼロからのキリスト教絵画入門
編著:池上英洋
著:川口清香、荒井咲紀

聖書の中身がすぐわかる!
美術館や教会でよく目にする絵を詳しく解説。
天地創造、エデンの園にまつわる聖書の一節も紹介

ヨーロッパの美術館や教会の壁面にある絵画や、日本の美術館でも観ることができる西洋の芸術作品は、ほとんどが日本人にあまり馴染みのない聖書や神話を主題としている。
本書では、それらの理解を深め、色彩や線などの物理的な側面を鑑賞するだけでなく、「何のために」「誰に向かって」描かれたのか、精神的な側面も楽しむことができる。


池上英洋(イケガミヒデヒロ)
國學院大學文学部准教授。東京藝術大学卒、同大学院修士課程修了。恵泉女学園大学准教授を経て現職。専門は西洋美術史・文化史


blog:池上英洋の第弐研究室
Twitter:@hidehiroikegami


『新装版 西洋美術解読事典J・ホール (著), 高階 秀爾 (翻訳)

Twitterやってます。

@taktwi


この記事のURL
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=2981

JUGEMテーマ:アート・デザイン


↓こちらの本も池上先生が手掛けた一冊ですが、知識ゼロからのキリスト教絵画入門と構成がかぶらぬよう配慮されています。
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この記事に対するコメント

池上先生の講座は、秋の朝日カルチャー新宿で取るので楽しみです。
これまでの千足先生と受講者の層がどう変わるのかも楽しみです。
oki | 2012/09/02 2:09 AM
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