2012.11.11 Sunday
「柴田是真展」
根津美術館で開催中の
特別展「ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画」に行って来ました。 http://www.nezu-muse.or.jp/ 2009年に三井記念美術館で開催された「特別展 江戸の粋・明治の技 柴田是真の漆×絵」で国内でも柴田是真(しばたぜしん)の認知度ぐんとアップし、以後何かと注目されることになりました。 日本人がすっかり忘れてしまった漆芸家・柴田是真(1807〜1891)ですが、海外での評価は浮世絵師らと並び称されるほどの人気者です。是真が手掛けた印籠が驚くような価格で海外のオークションで競り落とされています。 三井記念美術館で嘗て開催されて「柴田是真展」もアメリカ人コレクターが収集したエドソンコレクションを中心に構成された謂わば里帰り展でした。 特別展「ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画」展示風景 今回、根津美術館で開催されている是真展は、日本国内に残る是真作品のみ(約120点)で構成されています。多くの作品が海外へ出て行ってしまっている中、日本国内の一部の目利きが是真作品に価値を見出し守り抜いた作品たち。 期せずして「日本人好み」の作品が出揃う形となっています。それらは、江戸っ子たちの心を捉えて離さない、洒脱でウィットに富んだデザインのものばかり。 一点一点思わず唸ってしまうはずです。 柴田是真「籠秋草蒔絵菓子盆」 個人蔵 江戸琳派の絵師、酒井抱一や尾形乾山の影響が見て取れるデザイン。籠、女郎花の花、薄の葉とそれぞれ違った材質を巧みに用いつつ、是真の超絶テクニックにより、「一枚の絵」として昇華させています。 材質の違いにより「色」を見事に盆の中に咲かせています。それは決して派手ではなく、寧ろそこに載せられるであろう菓子の引きたて役としてもの静かに存在しています。 柴田是真「果蔬蒔絵額」1876年 板橋区立美術館蔵 実りの秋。食べ物の美味しい季節です。南瓜、葡萄、梨、栗、柿と秋の味覚が青銅塗の地にリズミカルに配置されています。 これだけ潔く「もの」だけを描いた額絵は珍しく、西洋の静物画の影響なども指摘されている程です。それはさておき、秋の味覚たちの個々の表現の見事さと言ったら何と言ってよいのやら、言葉を失います。 だって、梨が本物の梨のように見えてしまうのですから。これ本当に漆で表現したものなのかと。実際に是真がどのような技法で表現したかまだまだ解明されていないことも多いそうです。 特別展「ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画」展示風景 「柴田是真展」を観るに際し、頭に入れておいた方がよいキーワード。 【柴田是真が得意とする漆芸技法】 「漆絵(うるしえ)」…色漆で文様を描くこと、または描いたもの。 「変塗(かわりぬり」…漆の塗り方(上塗)の一種。漆に顔料や卵殻などさまざまな材料を用いて質感を生みだす技法がある。刀の鞘の塗りに用いられたことから、「鞘塗」ともいう。 「だまし漆器」…陶器や墨、金属器などを模して作られた漆器。変塗の技術を駆使して作られたものが多い。 「紫檀塗(しだんぬり)」…唐木の紫檀を模した変塗の一つ。潤朱漆、朱漆、蝋色漆などを用いる。 「青海波塗(せいがいはぬり)」…漆で波文をあらわす変塗の一つ。江戸時代初期に流行した技法を、柴田是真が復興した。 「青銅塗(せいどうぬり)」…金属の青銅の色と質感を模した変塗の一つ。漆に青色顔料(プルシアンブルー等)と黄色顔料(石黄等)を混ぜたものを用いる。 柴田是真「青海波塗柳流水蒔絵重箱」 静嘉堂文庫美術館蔵 五段重ねの洒落た重箱です。青海波塗りで流水を表し5つの箱を一つに仕立てあげています。途中に金銀の蒔絵で柳等を表現。 重箱の蓋(上部)から青海波塗りの川の流れにそって底(下部)へ目線が心地良く誘導されます。「スコッティ」「ネピア」「エリエール」どのメーカーさんでも構いません、ボックスティシューのデザインこれにしません? 是真の超絶テクニックにとかく注目が行ってしまいますが、今回の展覧会をじっくり拝見して一番感じたことは、是真の絵画性(構成力)です。ただの漆器ではないんです、ちゃんと「絵になる」作品を意識してこしらえているのです。 柴田是真「凧蒔絵煙草盆」 三隅悠コレクション蔵 観て下さい、このデザインセンス!カラスが飛んでいるように見えて実はこれカラスの形をした凧です。確かに糸が付いています。では誰がこの凧をあげているのでしょう? よく見ると手前裏面に凧の持ち手がちゃんと描かれています。そう、お盆に手を添えたその人がイコールこの烏凧をあげているその人なのです。いかすぜ!是真!! 柴田是真の絵画作品(展示室2) 漆工・漆絵だけでなく、この展覧会では是真が描いた絵画作品も公開されています。円山四条派に絵を学んだ是真。これこそ是真の漆芸の原点なのかもしれません。 先ほどもちょっと触れましたが是真の作品の大きな魅力のひとつとして「絵になる」ことがあげられます。実際に真贋を判定する際にもここが大きなポイントとなるそうです。要は単なる技巧の人だけでなかったわけです。 「あなたは、本当の是真を知っていますか?」 こう記されたポスターの意味分かった気がします。 根津美術館での「柴田是真展」は12月16日までです。是非是非!! 特別展「ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画」 開催期間:2012年11月1日(木)〜12月16日(日) 休館日:月曜日 開館時間:午前10時‐午後5時 (入場は午後4時半まで) 会場:根津美術館 展示室1 http://www.nezu-muse.or.jp/ そうそう、是真の下絵めちゃくちゃ上手かったです! ↓ 柴田是真「写生帖」 東京藝術大学大学美術館蔵 《次回展》 新春の国宝那智瀧図 仏教説話画の名品とともに 2013年1月9日(水)〜2月11日(月・祝) 根津美術館では、新たな年の始まりに国宝「那智瀧図」を展示いたします。熊野・那智山の南壁を落ちる那智瀧を描くこの作品には、日本人の自然に対する敬虔な思いが込められています。千手観音が姿を変えた神体・飛瀧権現を図絵した礼拝画として、また一筋の瀧のすがたを描いた風景画として、那智瀧図は日本絵画を代表する名品のひとつと謳われています。Twitterやってます。 @taktwi JUGEMテーマ:アート・デザイン 柴田是真(1807〜1891)は、幕末から明治時代に活躍した蒔絵師であり、絵師です。従来の蒔絵師とは異なり、下絵から蒔絵までの全工程を手がけることで、「五節句蒔絵手箱」(サントリー美術館蔵)や「烏鷺蒔絵菓子器」(東京国立博物館蔵)に代表される洒脱な作品を生みだす一方、絵画、さらには紙に漆で絵を描く「漆絵」を手がけ、絵画・工芸の枠組みを超えた活動を展開しました。明治時代、国の委嘱をうけた是真は、万国博覧会に出品し、ZESHINの名は一躍世界的に知られるようになります。 |