青い日記帳 

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『美術品はなぜ盗まれるのか: ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い』

白水社から刊行された『美術品はなぜ盗まれるのか: ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い』を読んでみました。


『美術品はなぜ盗まれるのか: ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い』
サンディ ネアン (著), 中山 ゆかり (翻訳)
白水社

1994年7月28日、ロンドン、テイト・ギャラリー(現テイト・ブリテン)からフランクフルトのシルン美術館の「ゲーテと美術」展へ貸し出していた2枚のウィリアム・ターナー(Joseph Mallord William Turner)の作品が、何者かによって強奪されました。

本書では、盗まれたターナー作品の奪還までの気の遠くなるような道のりを綴った「第一部」と、著者がその経験から得た美術品盗難対策に関する論考「第二部」からなる一冊です。

著者のサンディ・ネアンは、スコットランドヤードやFBIの美術品盗難担当のプロフェッショナル…ではありません。テイト・ギャラリーの現役学芸員なのです。(現在はロンドン、ナショナル・ポートレート・ギャラリー館長)

自分の美術館から海外の特別展へ貸し出した作品が、盗難に遭うとはよもや考えてもいなかったことでしょう。そんな恐ろしいこと思いもしなかったかと。

しかし、1994年7月28日の閉館後、憂懼が現実のものとなってしまったのです。

それから8年半にも及ぶ奪還までの道のりが、リアルなそして時に緊迫した場面も交えながら記されています。「事実は小説よりも奇なり」と言いますが、まさに探偵小説とは比べ物にならないほど、興味をそそられます。

さながら読んでいる自分もテイト・ギャラリーの一員となり「ターナー奪還作戦」に参加しているかのような気分にすらなります。


ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775年〜1851年)
光と色彩(ゲーテの光学理論)−洪水の翌朝−創世記を記すモーゼ」
油彩・カンヴァス 787 x 787 mm、1843年
テート・コレクション

盗難に遭ったターナー作品

いったいどんな「作戦」で作品を取り戻したのか気になるところです。読む前は、それこそ刑事ドラマのような派手な展開を期待していたのですが、現実の取り引きはまるでイメージとは違っていました。

実は、筆者が第一部で最も我々に知らせたかったのはこの点なのです。つまり美術品盗難事件は、映画やドラマ、小説のような世界とはまるで違うのです。それは取り戻す立場のみならず、盗む立場の人間も我々が漫然と捉えている姿とはまるで違うのです。

名探偵ポアロも怪盗ルパンも登場しません。

この本では、「保険損害査定人(ロス・アジャスター)」という耳慣れない職業の人物がしばしば登場します。そして彼らが、美術品を取り戻す為に非常に重要なポジションを占めます。
盗難美術品を取り戻す際には、警察と保険会社の二者によるツイントラック・アプローチがとられ、それぞれの立場に優先順位がある。警察は、まずは窃盗に関わった者を捕えようと決意しており、あわせて盗まれた美術品の発見も望んでいる。一方、警察と密接に仕事はするが、保険会社から雇われている保険損害査定人(ロス・アジャスター)は、絵の発見を第一に望んでおり、その過程で事件に関係する犯罪者全員が確実に捕まるよう助力したいと考えている。
また、「タダ」では事件解決に向け進展は望めないこともこの本を読むと明らかになります。盗まれた絵の在り処を知っているとされる人物に対し、情報提供料を支払ったり、懸賞金をかけたりせねばなりません。

その金額も数十万円単位でなく、実に数百万、数千万円単位に。実際に2点のターナー作品を取り戻すまでに、テイト・ギャラリーが費やした金額は億単位にも達するのです。


ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775年〜1851年)
影と闇−洪水の夕」
油彩・カンヴァス、787 x 781 mm、1843年
テート・コレクション

盗難に遭ったターナー作品

[目次]
序章
 第一部
第一章 ターナー二点、フランクフルトで盗まれる(一九九四年)
第二章 迷走する捜査、保険会社との折衝(一九九四〜二〇〇〇年)
第三章 《影と闇》を取り戻す(二〇〇〇〜二〇〇一年)
第四章 ターナーをテートの壁に(二〇〇二〜二〇〇三年)
 第二部
第五章 美術館の倫理観
第六章 美術品をめぐる価値
第七章 動機から見た美術品盗難事件の歴史
第八章 小説・映画に描かれる美術品泥棒と探偵たち
第九章 美術品盗難をどう防ぐか
訳者あとがき
原註/主要参考文献・図版クレジット


著者が現役の学芸員であることから、第二部は実際に美術館・博物館に勤務する方にも必読の書となっています。ほとんどの西洋美術の展覧会を海外の美術館からレンタルし開催している日本の展覧会関係者の皆さんにとっても。

著者サンディ・ネアンは「将来は、犯罪行為を防止することも、学芸員のより重要な仕事になる必要があるかもしれない。」と第二章の最後に記し、自著を締めくくっています。

今年から来年にかけ、テイト・ブリテンからターナー作品がやってきます。「ターナー展」を何倍も楽しむ為にも必読の一冊です。


「ターナー展」
東京都美術館
2013年10月8日〜12月18日

神戸市立博物館
2014年1月〜4月

「ターナー展」公式サイト


『美術品はなぜ盗まれるのか: ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い』
サンディ ネアン (著), 中山 ゆかり (翻訳)

「高額美術品は犯罪者にとって、非常に優れた〈商品〉なのだ。連中が重要な絵を盗むと、我々はご丁寧にもそれを宣伝し、新聞紙上でその価格と絵柄まで見せてやっている。これは、連中が仲間の犯罪者のもとに行き、麻薬や銃の頭金や担保に絵を使うことを意味している。新聞報道で絵の来歴を示し、何百万ドルもの価値があることを教えてやっているわけだ。」──本文より(ロンドン警視庁・美術捜査班 元班長ヴァーノン・ラプリーの言葉)

一九九四年七月二十八日、フランクフルトのシルン美術館で開催中の「ゲーテと美術」展会場から、ターナーの代表作二点が盗まれた。作品はテート・ギャラリーの所蔵品で、保険総額は二四〇〇万ポンド(約三七億円)。史上最大規模の美術品盗難事件とその奪還の物語が始まった瞬間だった。
本書の著者は、この奪還作戦の責任者をつとめた学芸員である。二部構成で、第一部は八年半にわたる交渉の末、作品を取り戻すまでのドキュメンタリー。姿を見せない情報提供者に翻弄されながら、ロンドン警視庁美術特捜班やドイツ警察、保険会社の損害査定人と協力して状況を打開していく過程は、臨場感と緊迫感に満ちている。第二部は、美術館と学芸員がもつべき倫理観と現実問題との葛藤、過去の美術品盗難の事例を調査・考察した論考からなる。昨今では、有名な美術品を盗んでも売却は難しい。にもかかわらず、なぜ美術品盗難は繰り返されるのか。映画や小説に出てくる美術品窃盗犯はヒーローのように描かれがちだが、実際には、盗まれた美術品は裏社会での「通貨」として使われてしまうことがほとんどである。
ゴシップ的に扱われがちな美術品犯罪の実状を訴え、美術品とその価値をいかに守っていくかを考えさせる一書。

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