![]() 2013.03.27 Wednesday
『画家の食卓』
講談社より刊行となった林綾野さんの『画家の食卓』を読んでみました。
![]() 『画家の食卓』 林綾野(著) 講談社ARTピース どんな偉大な「芸術家」と謂えども我々と同じ人間です。毎日何かを食べずには生きていけません。ましてや芸術作品の制作には計り知れぬ体力がいるはずです。一体芸術家たちは、何をどんな風に料理して食べていたのでしょう。 著者の林綾野さんは、芸術家たちが残した作品だけでなく、日記や手紙そして生まれ育った場所等からヒントを探り出し、出来る限り当時の食卓に並んだであろう料理をレシピを起こし再現することに努めています。 それには綿密な取材と豊かな経験から発せられる想像力が存分に駆使されています。一枚の作品と僅かな手掛かりから思いもよらない料理を紡ぎだし、自身で料理し紹介しています。 ![]() ピーテル・ブリューゲル「農民の婚礼」1568年頃 ウィーン美術史美術館(オーストリア)蔵 (2012年3月撮影 Tak) ↓ 見開き一ページに画家と作品について、美麗な絵画図版と共に紹介されています。まずは美術についてしっかりとお勉強。ここでこの絵からどんな料理を著者が作りだしたのかをイメージ。「答え」を求め次のページをめくると… ↓ ![]() フランドル風プリン ピーテル・ブリューゲル「農民の婚礼」に描かれているものに関しては、ヴライというネーデルランド地方のお菓子という説が有力だそうですが、著者は幾つかの理由からヴライではなく、お粥やプリンのようなものではないかと類推します。 そして、婚礼の席、一通り料理の出尽くした後に振る舞われるものとしたら…こってりと濃厚なウェディングプディングではないかとあたりを付け、当時フランドル地方で好まれていた「フランドル風プリン」を作り上げます。 丁寧なレシピも書かれているので、「これは!」と思ったものがあれば、自分でも作れるのが最大の魅力です。こうすることで、より作品を身近なものに感じられるはずです。 ![]() パテ・ド・カンパーニュ 【目次】 第1章 旅する画家たち:スイスの古都・ベルンへ パウル・クレーの食卓を訪ねて (パウル・クレーのポルチーニのリゾット、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホのジャガイモスープ ほか) 第2章 郷里を愛した画家たち:17世紀の面影が色濃く残るデルフトへ ヨハネス・フェルメールの食卓を訪ねて (ヨハネス・フェルメールのひき肉のローストレモンソース、ピーテル・ブリューゲルのフランドル風プリン ほか) 第3章 美食家の画家たち:アルプスの山々に抱かれるスイス・エンガディン地方へ ジョヴァンニ・セガンティーニの食卓を訪ねて (ジョヴァンニ・セガンティーニの全粒粉のタリアテッレ、エドゥアール・マネのホワイトアスパラガス・オランデーズソース ほか) 第4章 生涯を芸術に捧げた画家たち:生涯を芸術に捧げた画家たち フランドル絵画の巨匠が暮らした中世の街・ブルージュへ ハンス・メムリンクの食卓を訪ねて (ハンス・メムリンクの洋梨のタルト、アンリ・ルソーのヴァレンシア風パエリア ほか) ![]() ハムとクヌーデル 林綾野さんにこの本を著すのにあたり苦労した点を伺いしたところ、とにか「文献に当たるのが大変だった。」との答えがまっ先に返って来ました。 「絵画と料理」を紹介すると言っても、自分の空想ではなく、画家が生活した時代に本当にあったのか、実際に食べていたのかを調べる必要があります。ところがそれも簡単には行かないそうです。 なぜなら、文献と言っても食べ物に関する記述はある意味、消耗品なので、残されているのもが少なく、限られたものの中から、想像力を膨らませなければならいのだとか。 また、作家が隠している行間を読んで、隠された本音を探ることも時として大事なポイントになるそうです。例えば、フィンセント・ファン・ゴッホなどはプロテスタントなので、どういうものを食べていたかを恥じて書いていないそうなのです。あれだけ膨大な書簡を遺しているにも関わらず。 ゴッホだけでなく、食いしん坊のクロード・モネでさえも食べ物を描いた作品は生涯を通じて数千点余り描いた中で、僅かに数点しかないそうです。 「芸術家の食卓」として『料理王国』に連載していた全26点の作品と自らが作った料理を美術ファンも納得の文章と、料理ファンが唸るようなレシピと写真(竹内章雄氏撮影)で紹介する一冊で二度も三度も楽しめる至極のアート&レシピ本となっています。 ![]() 『画家の食卓』 林綾野(著) 講談社ARTピース 表紙にゴーギャンのこの絵を用いたのは、意外にも食卓を描いているものはこの作品を除き他には無かったからだそうです。(最後の晩餐とかを除いて) 西洋絵画から日本画、浮世絵まで幅広く扱っているのも大きな魅力のひとつです。「ロートレックの酒の肴のチーズトースト」に「有元利夫のほうれん草のチャーハン」……想像しただけでも食べてみたくなりますでしょ! 前菜からメインディッシュそれにデザートまでバラエティに富んだ26のレシピ。ひと月かけて再現したくなること必至です。 画家たちと食卓をともに! 作品、日記、書簡から導き出した食卓を再現し、芸術家たちやその作品を一歩深く楽しむ方法を伝授します! 画家たちが楽しんだ26のレシピを再現。クレー、フェルメール、セガンティーニ、メムリンクの暮らしと創作現場を巡る旅。 ![]() 林 綾野 1975年横浜生まれ。キュレーターとして展覧会の企画・制作、美術書を執筆。画家の芸術性に合わせてその人柄や生活環境、食との関わりなどを研究。「パウル・クレー 線と色彩」「ピカソとクレーの生きた時代」「英国植物画の世界」「フェルメールからのラブレター」展などを手がける。主な著書に『ゴッホ 旅とレシピ』『フェルメールの食卓 暮らしとレシピ』『モネ 庭とレシピ』、共編著書に『クレーの食卓』『ロートレックの食卓』(すべて講談社)などがある。現在、『AERA』(朝日新聞社)にて「林綾野の食べたくなるモナリザ」好評連載中。 Twitterやってます。 ![]() Facebookもチェック! この記事のURL http://bluediary2.jugem.jp/?eid=3188 JUGEMテーマ:アート・デザイン ![]() |