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『西洋美術史入門・実践編』
ちくまプリマー新書より刊行された池上英洋先生の『西洋美術史入門・実践編』を読んでみました。


西洋美術史入門・実践編』 (ちくまプリマー新書)
池上英洋(著)

2012年2月に刊行された『西洋美術史入門』の待望の続編です。
『西洋美術史入門』レビュー

前著は“日本には美術史に関する良書が沢山あるのですが(本書でも紹介しています)、「各時代ごとの様式の特徴」と、その時代の「主要な画家名とその代表作例」の説明とで構成されているものがほとんどで”ある現状に満足出来なかった著者が、自分自身が美術史の授業で使えるように記した一冊でした。

「西洋美術史」というある意味とてもニッチな分野について書かれた本にも関わらず、異例の売行きをみせ、書評やネットでも話題となった前作の続編とあり、いやが上にも期待が高まる一冊です。

「前著をふまえた実例を知りたい。」、「実際のアプローチの手法を教えて欲しい。」といった読者からのリクエストに応える内容であり、更には、絵画の持つ社会性をどう見ていくべきかといった美術史の実践が記されています。


アンドレア・マンテーニャ「死せるキリスト」1490年頃

小さ過ぎるキリストの足を題材に、対象を極端に縮めて描く手法「短縮法」、「ソット・イン・ス」(「下から上をみる」の意)と呼ぶことから解説し、それでは何故マンテーニャともあろう画家がキリストの足だけ極端に小さく描いたのかといった“真実”に迫ります。

まるでテンポの良い推理小説を読んでいるかのような錯覚さえ覚える、軽快で論理的な“謎解き”は時にスリリングであり、また非日常的な悦楽さえ得られます。

一時期やや鳴りを潜めていた感のある「池上語り」も西洋美術史入門・実践編では、見事に復活を遂げているのも読者としては嬉しいポイントです。

掴み難いけど、当たり前のこととして定義しておかねばならぬことを、分かりやすい用例を駆使しつつ、読者に示してくれます。

例えば、第2章にある「美術作品とは何か」、「美しい絵」「醜い絵」とは?について次のように述べられています。
人が本能的に「美しい」と感じるような「絶対的な美」の存在が確認されていない以上、筆者は「美しい」や「醜い」といった美的判断を、「良い」「悪い」ではなく、個人的な「好き」「嫌い」に近いものとして扱うべきだと考えています。批判めいて聞こえるので非常に危険な言い方になりますが、作品をそれでも「良い」「悪い」で判断する行為は「美術批評」の範疇にあり、「美術史」ではそのような行為はできるだけ避けて、客観的な指標のみに基づくのが本来あるべき姿だと考えます。
具体的には、「ルネサンス期にこの作品は高く評価されていた」という言い方は、それが事実ならば客観的で正当なものです。「しかしフレスコ画家としては拙く」といった書き方も、同時代の基準と比較してのものであれば問題ありません。しかし、「晩年の彼の作品は魅力を失っていく」といった書き方は、同時代あるいは後世の評価の蓄積からの判断であれば良いのですが、単にその文章の書き手による、明確な基準を持たない印象に基づく判断であれば、学問的に正しいとは言えないので注意が必要です。
更にこの章では、「いつ、どこで、誰が」、年代と帰属の決め方、様式による分析、何が描かれているか−主題の決定、図像の「社会性」といった単元が続きます。第2章 美術作品の何を見るか−一次調査と「主題と社会」だけを読むだけでもこの本を手にする価値があります。前著に増してお得な一冊です。


ピエロ・デル・ポッライウォーロ「節制の寓意」1470年

勿論、西洋美術史がメインではありますが、伊勢神宮の式年遷宮から「一遍上人伝絵巻」といった日本美術との違いを交えつつ全方位的に目を配りつつ展開しているのも大きな見どころ、そして深い読み応えのある点です。

「狂気の母」という凄惨な図像に読み取れる死と再生の思想。それがなぜ育まれ、絵画、史料、聖書でどのように描かれたか、キリスト教文化の深層に迫る。筑摩選書もほぼ同時に上梓しています。こちらも合わせて是非。


死と復活: 「狂気の母」の図像から読むキリスト教』 (筑摩選書)
池上英洋(著)


グスタフ・クリムト「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像I」1907年

西洋美術史入門・実践編』 (ちくまプリマー新書)目次

はじめに
第1章 ひとつの作品をじっくりと読んでみよう •サンティニャーツィオ教会の天井画
•四つの大陸のイメージ
•イエズス会による世界伝道
•いつ、どこで、絵を見るか
•だまし絵のクーポラ
•ヴァーチャルな設計図
•制作以前に起こったことがら
•制作動機と主題選択

第2章 美術作品の何を見るか−一次調査と「主題と社会」 •美術作品とはなにか
•「いつ、どこで、誰が」
•年代と帰属の決め方
•様式による分析
•何が描かれているか−主題の決定
•図像の「社会性」

第3章 さまざまな視点−美術品と社会の関わりをみる実践例から •1 比較からわかること−ツタンカーメンとネフェルティティ
•多神教と一神教−美術における聖性と写実性
•2 絵画はどのように見られたか−鑑賞方法が生み出す違い
•絵巻と壁画の鑑賞方法の違い/小さすぎる足の理由/死せるキリストの見せ方−頭を垂れるキリスト像/聖痕のシンボリズム/舞台背景画のふたつのタイプ/王の視点から民の視点へ
•3 どこまでが作品か−修復や保存の場面から考える
•あらわれたふたつの顔−カマッジョーレの修復のケース/消された顔−修復はどうあるべきだったか/木の文化と石の文化−風土と社会/素材とデザイン−東西における「オリジナリティ」の違い
•4 様式と社会−世紀末のジャポニスム
•シノワズリー、ジャポネズリーとジャポニスム/ゴッホはいつからジャポニスム画家となったか/クリムトのジャポニスム
•5 美的価値と社会−ナポレオンとナチス・ドイツ
•ナポレオンの宣伝画家/アカデミズムの象徴となったラファエッロと、その失墜/ナポレオン戦争とルーヴル美術館の拡大/ウィーン会議と返還交渉−カノーヴァの東奔西走/おしつけられる価値観/奪われる美術品−戦争と所有者/作品は誰のものか

第4章 まとめ−より深い鑑賞のために
•一枚の絵を前にして、何をすべきか
•推薦文献と参考資料
おわりに


西洋美術史入門・実践編』 (ちくまプリマー新書)
池上英洋(著)

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