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「ヴァロットン展」

三菱一号館美術館で開催中の
「ヴァロットン― 冷たい炎の画家」展に行って来ました。


「ヴァロットン展」特設サイト:http://mimt.jp/vallotton/

開催されるのを今か今かと、首を長くして待っていた「ヴァロットン展」が、パリ、オランダを巡回しいよいよ日本でもスタートしました!

日本での知名度はほぼゼロに近いかと思うかもしれませんが、実は我々は何度か展覧会でヴァロットン作品と見えています。(2000年・新潟県立近代美術館「ナビ派と日本」展、2007年・東京都美術館他「オルセー美術館展」、2010年・国立新美術館「オルセー美術館展」、2010年・世田谷美術館他「ヴィンタートゥール」展)

とりわけ、2007年と2010年の「オルセー美術館展」では、今回の「ヴァロットン展」のチラシにも採用されているこちらの作品が公開されていたので、記憶に残っている方もいるのではないでしょうか。たとえ画家の名前を忘れてしまっても。


フェリックス・ヴァロットン「ボール」1899年
油彩/板に貼り付けた厚紙
パリ、オルセー美術館
© Rmn-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowsky

一見、ボールを無邪気においかける可愛らしい少女を描いた作品ですが、全体をよく見渡してみると、複数の視点(少なくとも2つ)がこの絵の中に存在していることに気が付きます。

緑色の大きな影のあちらとこちらでは明らかに視点が違っています。あたかも「此岸」と「彼岸」のようです。幼子を亡くしてしまった親が「此岸」で悲しむ姿と、「彼岸」つまりあの世で元気よく遊ぶ子供…

ヴァロットンはこの絵を描くにあたり、2枚の写真を用いたそうです。敢えて複数の視点を混在さどこか観る者落ちつかない気分にさせます。そしてそれに気付かづとも深く印象に残ります。

モネやゴッホの名画に交じりひっそり展示されていた「ボール」のことを今でも多くの人が覚えているのもそんな理由からかもしれません。(因みに2010年オルセー展のショップではこの絵を用いたiPhoneケースがよく売れたそうです)

さて、そんな忘れられない(忘れさせない)絵を描くヴァロットンとはどんな画家なのでしょう。


フェリックス・ヴァロットン「10歳の自画像」1885年
油彩/カンヴァス
ローザンヌ州立美術館
Photo: J.-C. Ducret, Musée cantonal des Beaux-Arts, Lausanne

フェリックス・ヴァロットン(Félix Edouard Vallotton, 1865年12月28日 - 1925年12月29日)
フェリックス・ヴァロットンは、スイス・ローザンヌに生まれ、16歳でフランスに移住し、19世紀末のパリで活躍した画家です。白と黒のみの鮮烈なコントラストで表現した革新的な木版画によって、ヨーロッパにおける創作版画としての木版画を復活させました。一方、ボナールやヴュイヤールなどナビ派(※)の仲間たちと交流し、「外国人のナビ」と呼ばれて数多くの油彩画を残した他、挿絵、批評、演劇まで幅広い芸術分野で活動し、20世紀以降の様々な芸術流派にも影響を及ぼしました。

日本があと3年で江戸から明治へ大きく時代が変化する1865年(夏目漱石よりも数年早い)に生まれ、ヒトラーがナチス親衛隊を設立した1925年に亡くなるまで、まさに世界を巻き込んで時代が大きく揺れ動いた時代に生きた画家です。

弥が上にも戦争を意識せざるを得ない時代です。それを端緒とする不安で閉塞的な気分がヴァロットンの周りにも暗い影を落としていたはずです。しかし、彼は決して直接的にそれを表現はしていない点も意外な見どころのひとつだと思いました。


ヴァロットン「秋」1908年
ヴァロットン旧蔵「漫画挿絵」(浮世絵)
ヴァロットン「猫と裸婦」1897-98年頃

展覧会の構成は以下の通りです。

1:線の純粋さと理想主義
2:平坦な空間表現
3:抑圧と嘘
4:「黒い染みが生む悲痛な激しさ」
5:冷たいエロティズム
6:マティエールの豊かさ
7:神話と戦争


どの流派にも属さず、独自路線を静かに着実に進んでいったヴァロットンですが、ボナールやヴュイヤールなどナビ派の仲間たちとの交わりはあったようです。


フェリックス・ヴァロットン「肘掛椅子に座る裸婦」1897年
油彩/合板に貼り付けた厚紙
グルノーブル美術館

ナビ派の造形的特徴として以下の4点があげれれます。

1:奥行き感のない空間表現
2:人物・モティーフの単純化と省略
3:彩色と光の表現
4:画面構成と装飾的効果


確かに前半に展示されていた油彩画はほとんど日本画と見まごうばかりに奥行きが無くフラットな画面でした。とりわけ風景画においてはその傾向が顕著です。

美術史家の山下裕二先生は、「肘掛椅子に座る裸婦」の前で、これは熊谷守一じゃないか!と仰っていました。確かに。並べて観たいですね。ヴァロットンと熊谷守一。

当時の多くのヨーロッパの画家がそうだったように、ヴァロットンも浮世絵から大きな影響を受けています。実際に自分でも相当数の浮世絵を所有していました。


ヴァロットン「フェリックス・ヴァロットンのアトリエにいるマックス・ロドリーグ=アンリーク」1900年

アトリエに義理の息子を迎え入れ描かれた一枚。しっかり浮世絵も描かれています。この絵の隣にはヴァロットンが実際に所有してた喜多川歌麿の浮世絵が展示されています。

展覧会図録に掲載されている杉山菜穂子学芸員の「ヴァロットンと浮世絵」に関する論文は必読です。国貞との深い関連性とは果たして…

と、ここまでごくごく真面目に初めて開催される「ヴァロットン展」について語って来ましたが、このフェリックス・ヴァロットンというスイス人画家ただ者ではありません。他の同時代のみならず、今ままで美術館で観てきたどんな画家よりもです。


ヴァロットン「立ち上がるアンドロメダとペルセウス」1918年
ヴァロットン「ロッジェーロとアンジェリカ」1896年
ヴァロットン「竜を退治するペルセウス」1910年

ギリシャ神話に登場する英雄ペルセウスとその妻アンドロメダを描いた作品だとはキャプションを見る前も、そして見た後でも誰一人として納得しないはずです。

映画に出てくる詐欺師のような風貌の男に、三段腹のむちむちしたマッシュルームヘアの女性。コントにしか見えないこの場面。しばし笑いをこらえるのが大変です。

ヴァロットンはこの絵で何を表したかったのでしょう。単なる変人と容易に片付けられない、そんな後ろ髪を引かれる作家です。


ヴァロットン「トルコ風呂」1907年

敬愛するアングルへのオマージュ的な作品だそうですが、、、山下先生曰く「ホントの変態だな。」

それはさておき、左の女性が背中を拭いているタオルの模様がまるで血管のようです。それに何故か風呂に犬とオレンジを持ちこんで抱えている右側の女性の視線が何を見ているのでしょう。

もう謎だらけの一枚です。

ひとつだけ、確信したのは、彼が胸(おっぱい)フェチではなく、尻フェチであることです。6章にある「臀部の習作」1884年を見ればそれは明らかです。18歳の少年が描く絵でないことは確かです。


第2章展示風景(裏側の視線。も楽しめます!)

因みに展覧会タイトル「ヴァロット〜冷たい炎の画家」は、クロード・ロジェ=マルクスが1955年にヴァロットンについて語った「フェリックス・ヴァロットン、あるいは氷の下の炎」から取られたものだそうです。

間違いなく今年の年間展覧会ベスト3に入ります。色々な感想が持てるはずです。一度観たら二度観たくなる性質の悪い作家なのかもしれません。変人は癖になるものです。

「ヴァロットン展」は9月23日までです。是非是非!!

そうそう、「ヴァロットン展」@三菱一号館美術館の公式音声ガイドアプリ(iPhone・iPad用)は、日本で初めて展示室内でも利用可能なアプリです。詳しくはこちら


ヴァロットン—冷たい炎の画家

会期:2014年6月14日(土)〜9月23日(火・祝)
開館時間:10:00 〜18:00(金曜(祝日除く)のみ20:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館:月曜休館
(但し、祝日・振替休日の場合は開館/9月22日(月)は18時まで開館)
会場:三菱一号館美術館
http://mimt.jp/

主催:オルセー美術館、RMN-グラン・パレ、ゴッホ美術館、三菱一号館美術館、日本経済新聞社、テレビ朝日
特別協力:ジュネーヴ美術・歴史博物館、ローザンヌ州立美術館
後援:スイス大使館、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
助成:スイス・プロ・ヘルヴェティア文化財団 prohelvetia
協賛:大日本印刷
協力:スイス インターナショナル エアラインズ ルフトハンザ カーゴ AG
総合監修:ギ・コジュヴァル(オルセー美術館 館長)
監修:イザベル・カーン(オルセー美術館 学芸員) マリナ・デュクレ(フェリックス・ヴァロットン財団 学芸員) カティア・ポレッティ(同)

巡回先:
パリ、グラン・パレ 2013年10月2日〜2014年1月20日
アムステルダム、ゴッホ美術館 2014年2月14日〜6月1日


ミュージアムショップにはこの展覧会に向け新しく作った什器が。表は色つきの商品、裏面へ回るとモノクロの商品が並んでいます。

【三菱一号館美術館今後の展覧会開催予定】


ボストン美術館 ミレー展
― 傑作の数々と画家の真実

10月17日(金)〜 2015年 1月12日(月・祝)


ワシントン・ナショナル・ギャラリー展
― アメリカ合衆国が誇る印象派コレクションから

2015年2月7日(土)〜 5月24日(日)

画鬼・暁斎
―KYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル

2015年6月26日(土)〜9月6日(日)

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誰もが良く知るこの本『にんじん』の挿画も実はヴァロットンの版画作品だったりします。本棚の奥から引っ張り出して来ましょう。そして新鮮な気持ちで再読を。
ヴァロットンの芸術は、単純な線描による正確なデッサンや、浮世絵や写真から影響を受けた大胆なフレーミングと平坦な画面構成、洗練された色彩表現などが特徴です。しかし、その研ぎ澄まされた観察眼を通して描かれた世界には、神秘的な虚構性や抑圧された暴力性が見え隠れし、その多面性と現代性が観る者を魅了します。

本展では、肖像画や風景画、毒のあるユーモアが漂う風刺画、男女の怪しい緊張関係を暗示する室内画、冷やかなエロスをまとう裸婦像、そして神話や戦争を主題にした作品など、個性豊かな作品群をテーマに沿って展観し、冷淡な表現の裏に炎のような情熱を秘めた芸術家像を浮かび上がらせます。

展覧会 | permalink | comments(2) | trackbacks(3)

この記事に対するコメント

本日、ヴァロットン見て参りました。のっけからトルコ風呂の灰青と肌色の美しさにやられ、その場に倒れそうになりました。クールな画ですが、見ているとある種の暗喩が感じられてきました。すでに言及なされている方がいらっしゃるかもしれませんが、私には左に立っている女はおそらく日本人として描かれているようにおもわれます。若干くすんだ肌色、おしりのかたちから彼女が東洋人であることがわかります。髪の毛は日本髪風ですし、うなじの細い
毛のタッチは浮世絵を思わせます。よくみると頭頂に毛が無いようにみえるのは男の髷から?タオルの紋様は手ぬぐい?好奇の視線が彼女の裸体に注がれる。
akakichi | 2014/08/12 6:25 PM
コメントを掲載いただきありがとうございます。ヴァロットン以前から気にはなっていたのですが、現物があまりにも素晴らしいので、思わず
投稿させて頂きました。トルコ風呂は白眉で、わたしとしては屈折したジャポニスムとでも云うべきものを感じました。犬を男(画家?)と置き換えると、女たちの視線の強さとともに、当時のの欧州人の日本人への見方の一面を感じました。トルコという東西をわける場所を題名に入れたことも考えさせますね。絵は色彩配置が見事で、ブロンド、赤毛、黒髪の使い分け
、立体的な手ぬぐいの紋様に呼応するカーペットの赤、
女たちの演出、見事なだと思います。左の女はおそらく画の中での納まりから本写真があるでしょう。そんなことを考えつつも全体のデカダンスな雰囲気に圧倒されます。すごい作品です。
akakichi | 2014/08/13 12:11 AM
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 フェリックス・ヴァロットン(1865-1925)は、スイス・ローザンヌの大学卒業後、1882年にパリに移住して肖像画の勉強を続けた。しかし、彼が国際的に有名になったのは白黒のコントラストが強い木版画を制作したためだった。  パリでは、ナビ派のボナールやヴュイ
ヴァロットン展 @三菱一号館美術館 | Art & Bell by Tora | 2014/06/17 4:07 PM
奥さんとはずっと不仲だったようです。
“結界”の画家 −ヴァロットン展− | 神奈川絵美の「えみごのみ」 | 2014/07/07 11:30 AM
三菱一号館美術館で開催中の『ヴァロットン展』のブロガー特別内覧会がありましたので参加してまいりました。(といっても既に半月前のことですが…)フェリックス・ヴァロットンは19世紀末から20世紀頭にかけて活躍したフランスの画家。本展は2013年にパリ、グラン・パ
ヴァロットン展 | the Salon of Vertigo | 2014/07/13 9:35 PM