青い日記帳 

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『日本美術全集 17 前衛とモダン』

小学館より刊行された第9回配本(全20巻)『日本美術全集 17 前衛とモダン』を読んでみました。


日本美術全集17 前衛とモダン

これまで配本された『日本美術全集』それぞれ美麗な写真とひとつひとつ丁寧に書かれた解説、そして掲載論文等々、21世紀の美術全集に相応しい内容であることは言うまでもありません。

その中にあって今回配本された『日本美術全集 17 前衛とモダン』はひと際異彩を放っています。

『日本美術全集』のアウトロー、鬼子なのか?と問われると何とも返答に迷います。黒田清輝、青木繁といった誰しもが知るメジャーどころの作品から始まりますが、それも束の間。

岡本神草、甲斐庄楠音、吉田博、三宅克己、満谷国四朗、恩地孝四朗、山本鼎、徳岡神泉、秦テルヲ、田中恭吉、藤森静雄、戸張孤雁、村上槐多、太智勝観、稲垣仲静、石川晴彦、島成園、中原実etc…といった一癖も二癖もある灰汁の強い超個性的な絵師たちが、間断なく視界に飛び込んで来ます。

まるでこれからの夏の時季、街灯に集まる夜光虫の如く。

カブトムシやクワガタといったメジャー級の「虫」から蛾、羽虫はたまた観たことも聞いたこともない「虫」たちまでが全集本の中で乱舞します。


左:村上華岳
右:藤島武二、上村松園、田中善之助、神岡神泉

神岡神泉「狂女」、上村松園「花がたみ」、村上華岳「日高河清姫図」といった同じテーマを描いた作品が見開きページに掲載されているのも、日本美術全集17 前衛とモダンの大きな特徴であり、見せ場でもあります。

つまり、ただやみくもに他の巻の倍以上の図版を掲載・紹介しているのではなく、ある意味の元カテゴライズしてあるのです。時に年代や制作方法も違う作品が同ページにあったりもします。

明治時代後期から大正時代という日本の美術史の中でも最も捉えにくい時代(編集担当者である河内氏の言葉を借りるなら「自画像、抽象画、商業美術にモニュメント、パフォーマンスまでが登場、現代美術の“何でもアリ”の状況」)を非常に上手くまとめ上げています。


左:徳永柳州、安田靫彦
右:鹿子木孟朗、速水御舟

100年後に「平成」という時代を語る際に必ず俎上に載せられる東日本大震災と同じく、大正時代を語る上で関東大震災を抜きには出来ません。

速水御舟が震災直後の東京都内の様子をスケッチしていたことは、山種美術館の展覧会で知りましたが、他にも幾人もの画家が絵筆をとり記録し、後世に遺しています。

この巻に掲載されている、ジェニファー・ワイゼンフェルド氏(アメリカ、デューク大学教授)による「震災の記録画」は敢えて今の時代だからこそ読んでおかねばならぬ論文です。

まさに21世紀の新しい日本美術全集の真骨頂が、「第17巻 前衛とモダン」なのです。

一通り見終えると、ある既視感が去来します。

読んでいる途中から頭の片隅で疼いていたものの正体とは…そう、2009年に栃木県立美術館、兵庫県立美術館、名古屋市美術館、岩手県立美術館、松戸市立博物館と東京を都心を避けるかのように一年をかけ巡回した伝説の展覧会「躍動する魂のきらめき―日本の表現主義」に他なりません。


躍動する魂のきらめき―日本の表現主義
松戸市立博物館
2009年12月8日〜2010年1月24日
「表現主義」とは、20世紀はじめドイツをはじめヨーロッパ各国で起こった美術運動です。形や色の表現に内面や精神を強く表そうとするこの運動は、日本にも伝わり、明治末から大正にかけて、内面の感情や生命感を表した個性的で力強い芸術表現が各分野で生まれ、日本独自の展開を示しました。

本展では、1910年から1920年代、大正期を中心に起こったこの熱き芸術表現を「日本の表現主義」と位置づけ、洋画、日本画、版画、彫刻、工芸、建築、デザイン、写真、舞台芸術などジャンルを超えて紹介する初めての試みです。
明治という時代が創り上げた芸術が関東大震災により文字通り揺さぶりをかけられ、新たな局面を模索しつつ展開していった時代が生み出した多様な芸術。


海外の美術館が所蔵する当時の「絵はがき」

【編集者からのおすすめ】
情報宣伝用のポスターやチラシ、絵葉書や包装紙、雑誌に本、そして舞台芸術にパフォーマンスまで。現代美術の“何でもアリ”の状況を遡源すると、この時代の美術にたどり着きます。一方、揺れ動く時代にあっても日本美術の伝統は脈々と受け継がれても行きます。ページをめくるごとに新鮮な驚きに出会えるこの巻に掲載されるカラー図版は、他の通常巻のほぼ2倍近い250点余。モノクロの挿図も約100点を収載。まさに美術の豊穣と混沌を堪能できる1冊です。



これほどまで、興味をそそられる巻はありません。我々が見て見ないふり、知っているのに存在を認めなかった大正時代の芸術たちが『日本美術全集 17 前衛とモダン』にぎゅっと詰め込まれています。

これまで配本された中で一番刺激的な一冊です!!


日本美術全集17 前衛とモダン

【おもな目次】

テクノロジーからアートへ ― 制度史的なスケッチ  北澤憲昭
「表現」の絵画  北澤憲昭
(コラム)日本近代美術史にみるユートピア思想  足立 元
(コラム)震災の記録画  ジェニファー・ワイゼンフェルド 
図案と写真  森仁史
(コラム)書の近代 ― 「型」から造型へ  天野一夫
偶景『狂った一頁』 ―日本映画と表現主義の邂逅  藤井素彦
都市空間のなかの造型 ― 建築・彫刻・工芸  藤井素彦
いけばなの近代化と未遂の前衛  三頭谷鷹史
前衛―越境する美術  滝沢恭司

詳しくは、『日本美術全集』公式サイトまで。
http://www.shogakukan.co.jp/pr/nichibi/

こちらも一般書籍として扱われています。


躍動する魂のきらめき―日本の表現主義


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黒田清輝、青木繁から始まるこの巻では、明治が創り上げた「美術」が大いに変容していく時代に登場した作品を、「自己表現の自覚」と「社会性への目覚め」という新しい視点と数多くの作品で俯瞰します。自画像、抽象画、商業美術にモニュメント、パフォーマンスまでが登場、現代美術の“何でもアリ”の状況を遡源すると、この時代の美術にたどり着きます。一方、揺れ動く時代にあっても日本美術の伝統は脈々と受け継がれてもいきます。ページをめくるごとに新鮮な驚きに出会えるこの巻に掲載されるカラー図版は、他の巻のほぼ2倍近い250点余。モノクロの挿図も約100点を収載。まさに美術の豊穣と混沌を堪能できる1冊です。
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