青い日記帳 

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『とんでも春画』

新潮社(とんぼの本)より刊行となった『とんでも春画: 妖怪・幽霊・けものたち』を読んでみました。


とんでも春画: 妖怪・幽霊・けものたち
鈴木 堅弘 (著)

2015年に永青文庫、2106年に細見美術館で開催された日本初の「春画展」は当初の予想を大きく上回り、大変人気を博し多くの来場者であふれかえりました。

「春画展」のレビューでも触れた通り、春画が単なる男女のまぐわいを描いただけのエロ浮世絵ではなかったことが一番の発見であり、多くの方を魅了した点でもありました。

様々な機知に富んだ表現は江戸時代の猥雑なエロ本という春画のイメージを大きく変えるものでした。『とんでも春画』にはそんな江戸の人々のちょっとエスプリがぎっしり詰まった研究書です。


歌川国芳「開談百気夜行」1829年頃

「牛の時参り 男根人形をうつ」と題されたこちらの春画。女性らしき人物が藁人形に五寸釘を打ち込む姿を描いた作品に見えますが、よく見ると藁人形は男根、女性の顔は女性器の形をしています。

自分を捨てたにくい「男」を使い物にならぬよう呪いを込めているのでしょう。鬼気迫るものが感じられると共にどこかくすっとした笑いも伴います。また『源氏物語』に登場する六条御息所の姿をこの春画を観ていると思い浮かべてしまいます。

所謂、丑の刻参り、丑の時参り(うしのこくまいり、うしのときまいり)は江戸時代に完成した民間信仰のような呪術。男女のもつれは今も昔も変わりありませんが、さしずめ現代ならわが身を捨てた男への恨みはどのようにしてはらすののでしょう。


喜多川歌麿「歌満くら」1788年

二匹の河童に水中へ連れ去られ手籠めにされている女性の姿が描かれています。それでは地上の女性は助けずにただ見ているだけなのでしょうか?

著者の鈴木堅弘氏は、もしかしたら自分の願望を投影しているのかもしれないとの説もこの本では紹介しています。確かに水中の女性と顔が似ているようにも見えます。

またなぜ二匹の河童なのかということについても触れていたりと、タイトルこそ『とんでも春画』と、とんでもないネーミングですが、内容は実にしっかりとしている一冊なのです。

いつも思うのですが、「歌満くら」ってウォーターハウスの作品とどこか通底するものがありますよね。あっ!それも願望か…


ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス「ヒュラスとニンフたち」1896年
マンチェスター市立美術館所蔵

とんでも春画: 妖怪・幽霊・けものたち』をパラパラと斜め読みするだけで、春画のイメージががらりと変わります。

とても読み応えがあり、当時の関連する文献や民俗学的な視点など一枚の「とんでも春画」から、江戸時代の多様な考え価値観が伺えるとても真面目な一冊です。

とんでも春画目次

尋常ならざる春画はなぜ生まれたのか?
答える人=石上阿希[国際日本文化研究センター特任助教]
〈とんでも春画〉の全貌
解説=鈴木堅弘 [京都精華大学非常勤講師]
【1】妖怪
【2】幽霊・死者
【3】神仏
【4】鬼・地獄
【5】動物
【おまけ】奇想天外
〈とんでも春画〉を読み解く 文=鈴木堅弘
1 妖怪春画と江戸文化
2 春画に描かれた〈異形の性神〉――庶民信仰における性器イメージ
3 謎解き、北斎の「蛸と海女」


1〜5までのジャンル分けが上手く功を奏しているように思えます。ただ並べ紹介するだけでは「面白い」で終わってしまいますからね。

江戸時代の人々が興味関心のあったものと絡めて春画にしているのが一番のポイントだと思います。

そして、現代に至るまで多くの人に影響を与えた北斎の「蛸と海女」については、9ページも割いて論考しています。


葛飾北斎「喜能会之故真通」より「蛸と海女」1814年

2013年に大英博物館で「春画展」が開催された際に、海外の方々が最もインパクトのある作品としてこれをあげたそうです。新聞各種メディアでもこの絵が大きく取り上げられました。

この絵の誕生の秘密から、後世また西洋に与えた影響まで丁寧且つ分かりやすく説明されています。会田誠さんも読んだかな〜これ。

それにしても、鎖国を解き明治となって西洋化という名の近代化を推し進めた結果、新たな倫理観にそぐわないつまらないもの、ゲスなものとして排除された春画が、21世紀になりヨーロッパで開催された「春画展」が契機となり、復権を遂げたことは、内心忸怩たる思いもあります。

しかし、それだけが春画復権の要因だったわけではないはずです。時代が求めていたからこそそれが成し遂げられ、そして成功を収めたのです。


絵師不明「陽物涅槃図」

「牛の時参り 男根人形をうつ」で呪い殺された男性のものでしょうか。まわりには悲しみにくれる多くの「女性」たちに混じり、精力剤とされてきたタケノコや卵も描かれています。

「憂き世」を笑い飛ばすべく「浮き世」と置き換え成立した浮世絵です。春画は決して特別なものではなく、逆に当たり前のものだったのでしょう。現代だってそんなに変わっていませんこうした本がベストセラーになるのですから。

とんでも春画』を紹介するにあたり、もっともっと画像も載せたかったのですが、自主規制しました。ほんとバカバカしいものや、まさかこの発想はなかった的なものまで実に多彩な春画がぎっしり紹介されています。

とても評判が良いとのことで手に取ってみましたが、大当たりの一冊でした。


とんでも春画: 妖怪・幽霊・けものたち
鈴木 堅弘 (著)

こわい、あやしい、ばかばかしい! 奇想天外のエロスが勢ぞろい。国貞や国芳による性器頭の妖怪春画から、思わずゾッとする女幽霊との交合図、そして北斎の傑作「蛸と海女」まで。江戸の想像力の極致と呼ぶべき、〈人ならざるもの〉との交わりを描いた計130余点を、気鋭研究者が読み解く。本邦初公開作品も多数収録。あなたの知らない驚きの春画を、胸やけするほど御覧に入れます。

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とんでも春画―それは、私たちの常識を軽々と超えてゆく、尋常ならざる春画・艶本のこと。国貞・国芳らによる男根頭の妖怪変化から、背筋も凍る幽霊との交合図、そして北斎の傑作「蛸と海女」まで。江戸の想像力の極みと呼ぶべき、奇々怪々なる春画130余点を、気鋭の研究者が読み解きます。本邦初公開図版も多数掲載。「なんでこんなことに?」の果てに、豊饒なる江戸文化のありようが見えてきます。
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