青い日記帳 

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「怖い絵展」

上野の森美術館で開催中の
「怖い絵」展に行って来ました。



中野京子先生の大ベストセラーがついに展覧会となりました。ファンとしてこれ以上の喜びはありません。
中野京子の「花つむひとの部屋」 - Goo ブログ

だって、考えてみてください。書籍が映画化されたりすることはあっても美術館で開催する展覧会となった例はこれまで一度たりとも無かったはずです。

近代以降成立した「展覧会」の歴史上、「怖い絵展」はまさに初めて開催される本から生まれたものなのです。


中野京子先生と、音声ガイドを担当した女優の吉田羊さん。そしてロンドン・ナショナル・ギャラリーの至宝ポール・ドラローシュ《レディ・ジェーン・グレイの処刑

『怖い絵』シリーズが刊行されてから早いもので10年が経ちます。それほど冊数の売れない美術書の中にあって『怖い絵』シリーズは異例の売れ行きをみせ多くの読者に愛され続けています。

『怖い絵』の中から本当に怖い絵を5枚選んでみた。


怖い絵 泣く女篇

今更説明するのもなんですが、中野先生の著書はいずれも歴史的事実を踏まえた上で、一枚の絵画を読み解くというとても知的好奇心をくすぐられる内容のものです。

簡単に言ってしまうと、読んで得した気分になるのです。小学生の時に問題の解き方を先生から教えてもらい「分かった!」時のあの爽やかで瑞々しい感覚が呼び起こされます。


フランソワ=グザヴィエ・ファーブル 《スザンナと長老たち》 1791年 油彩・カンヴァス ファーブル美術館蔵 © Musée Fabre de Montpellier Méditerranée Métropole, France – Photographie Frédéric Jaulmes – Reproduction interdite sans autorisation

今の時代、印刷技術も向上し本に掲載されているカラー図版のレベルもとても高いものとなりました。

しかしそれでも、やはり本の中で紹介、解説されている絵画の本物をこの目で見てみたいと思うのは自分ひとりだけではないはずです。

実物の絵を観ながら中野先生の解説が読めたら、聴けたらと多くの方が願ってきたに違いありません。

その夢が2017年秋に実現したのです。こんなに嬉しいことはありません!


ウィリアム・ホガース 『ビール街とジン横丁』より《ジン横丁》 1750-51年 エッチング、エングレーヴィング・紙 郡山市立美術館蔵 © Koriyama City Museum of Art

それにしても、もう少し「怖い絵展」が早く実現していてもおかしくないように思えたので、どうして今まで開催に至らなかったのかを聞いてみると、興味深い回答が返ってきました。

貸出先の理解が得られない。

これが最大の壁となったそうです。通常は、例えば印象派の展覧会であれ、モネやルノワール単独で紹介するのか、はたまた印象派とジャポニズムの関係をみせるなど、大きなテーマ設定がなされ、専門の学芸員たちがプランを練ります。

その開催意図を所蔵する美術館に伝え、これこれこうした展覧会を開きたいのでぜひ、そちらの「〇〇」という作品をお借りしたい。と作品貸し出し交渉を進めます。

ある作品を貸す代わりに自館が持っている作品をバーターで差し出すことなどを含め、様々なやり取りがなされます。


アンリ・ファンタン=ラトゥール「聖アントニウスの誘惑」1897年
アンリ・ファンタン=ラトゥール「ヘレネー」1892年
共にプチ・パレ美術館蔵

それなのに、今回のテーマは「怖い絵」です。いくら説明しても分かってもらえないのは当然です。それでも実現に向けて根気強く時間をかけ何度も丁寧に趣旨を話し、貸し出しに漕ぎつけた作品たちが、この展覧会に並んでいるのです。

そうして世界各地の美術館から集められた「怖い絵」が6つのテーマに分けられ展示されています。展覧会の構成は以下の通りです。

第1章:神話と聖書
第2章:悪魔、地獄、怪物
第3章:異界と幻視
第4章:現実
第5章:崇高の風景
第6章:歴史


「怖い絵展」に関してはこちらのコラムでも紹介しているのであわせてご覧下さいませ。
「怖い絵展」なぜ人気?我々の心の中にある「××」が…

さて、個人的にお勧めの作品5点を簡単に紹介しますね。どこかどう怖いのかは、会場にある中野京子先生の解説文を読んでみて下さい。なお、会場には作品に分かりやすい一言解説も付けられています(青字で載せておきますね)。そちらも要チェックです。

セザンヌの闇

ポール・セザンヌ「殺人」1867年頃
リバプール国立美術館蔵

セザンヌ作品を見慣れていると一見これがセザンヌなのかと首を傾げてしまうようなゴツゴツとした感じの作品です。実はこれ、セザンヌがまだ20代の頃に描いた初期作品なのです。中々認められず鬱屈とした時を過ごしていた時代を代表する一枚です。

セザンヌ作品を語る上で、この作品はどうしても観ておかねばならぬ一枚でもあります。まさかまさか日本にしかも「怖い絵展」で観られるとは思いもしませんでした。

さあ、お飲みなさい

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス「オデュッセウスに杯を差し出すキルケー」1891年
オールダム美術館蔵

ウォーターハウスやハーバート・ジェイムズ・ドレイバーなどヴィクトリア期に活躍した画家の優品が何点も来ているのも「怖い絵展」の大きな見どころのひとつです。

英国文学を教えている知人が首を長くしてこの展覧会開催を待ち望んでいた理由も良く分かります。まずこの絵が迎えてくれる「怖い絵展」。完全に主導権を握られている気分にさせられます。

それにしても、ウォーターハウスの描く女性はどうして、こうも魅惑的なのでしょうか。

お前ももう死んでいる

ベンジャミン・ウェスト「サウルとエンドルの魔女」1777年
ワーズワース・アテネウム美術館蔵

画面中央の白装束に身を包んだ不気味な人物の正体はいったい…これこそが予言者サムエルです。しかし彼はもう死んでこの世にはいません。召喚させたのは左端の魔女です。

最初のイスラエル王であるサウルは、現れたサムエルに深く頭を垂れ地面に這いつくばっています。この作品のポイントは主役の二人の顔が見えない点です。果たして二人はそれぞれどのような表情をしているのでしょうか。想像力をかき立てる作品です。

ただただ笑う

ジョン・バイアム・リストン・ショー「人生とはこうしたもの」1907年
リーズ美術館蔵

美しく着飾った美男美女が熱い接吻をかわす傍らで、場に不似合いな顔を白く塗ったピエロ二人が嘲笑っています。腹を突き出し大笑いし、片方は手を口にあて馬鹿にしているかのように笑っています。

劇場の舞台の上でのワンシーンを描いた作品だそうですが、何かを暗示しているかのように見えてしまいます。そしてよく見ると5人目となる警官らしき男性が中央に立っています。

「人生とはこうしたもの」というタイトルが、とても示唆的なものに思えてきてならない一枚です。

悲しき屋根裏

ニコラ=フランソワ=オクターヴ・タサエール「不幸な家族(自殺)」1852年
ファーブル美術館蔵

貧しさに耐え兼ね一酸化中毒をはかる母娘を描いた作品。ぐたっとした娘はもう既に息をしていないのでしょう。母親もお迎えが来るのを壁の聖母子像に目をやりながら待っています。ストレートに「怖い絵」です。

この時代のフランスでは貧困が社会問題となっていたそうで、これもそうした状況をもとに描いた一枚と言えます。好き好んでこのような絵をタサエールは描いたわけでなく食う為に仕方なく描きました。そして彼自身も絶望し自らその命を絶ってしまうのです。

「自殺」というタイトルは二つの意味をはらんでいることになります。


主要な作品には更に詳しい解説「中野京子's eye」が付けられています。

作品をじっくり観て、中野先生の解説もしっかり読んでと、普段の展覧会の倍の時間を要します。『怖い絵』シリーズを未読でも楽しめますが、読んでおいた方が何倍もこの展覧会の素晴らしさが伝わるはずです。

「怖い絵展」は会期中無休で12月17日までです。是非是非!


「怖い」絵展

会期2017年10月7日(土)〜12月17日(日)※会期中無休
開館時間:午前10時〜午後5時(※入場は閉館の30分前まで)
10月14日より土曜日9:00〜20:00、日曜日9:00〜18:00に開館時間延長
会場:上野の森美術館
http://www.ueno-mori.org/
主催:産経新聞社、フジテレビジョン、上野の森美術館
後援:サンケイリビング新聞社
特別協賛:弁護士法人 東京ミネルヴァ法律事務所
協賛:NISSHA株式会社
協力:日本航空、KADOKAWA、NHK出版
企画協力:アルティス、Art Sanjo、FCI
特別監修:中野京子(作家、ドイツ文学者)
公式サイト:http://www.kowaie.com/

『怖い絵』の中から本当に怖い絵を5枚選んでみた。

「怖い絵展」なぜ人気?我々の心の中にある「××」が…


怖い絵のひみつ。 「怖い絵」スペシャルブック

中野京子先生の最新作(2017年10月17日刊行)


名画で読み解く イギリス王家12の物語』 (光文社新書)

たった9日間の王女ジェーン・グレイ
邪魔者を力ずくで排除し続けたヘンリー八世
生涯独身を貫いたエリザベス一世


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注:会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。
これまでの絵画鑑賞とは、色彩、タッチ、雰囲気や表現法などをもとに、感性を頼りにして心のままに感じるもの、というのが一般の人々が抱くイメージでした。そんな中、作家・ドイツ文学者の中野京子氏が2007年に出版した『怖い絵』は、「恐怖」に焦点をあて、その絵の時代背景や隠された物語という知識をもとに読み解く美術書としてベストセラーを記録し、シリーズ化されて多方面で大きな反響を呼びました。

刊行10周年を記念して開催する本展では、シリーズで紹介された作品を筆頭に、展覧会に向けて新たに選び抜かれた作品が登場します。さらに『怖い絵』の世界を感じて頂けるよう、作品の恐怖を読み解くためのヒントをもとに、みなさんに想像力を働かせてもらえる展示を予定しています。

最大の注目作は、著書でも紹介された、ロンドン・ナショナル・ギャラリーを代表する名画、ポール・ドラローシュの《レディ・ジェーン・グレイの処刑》。わずか9日間のみ王位にあった16歳の若き女王の最期の姿を描いた、縦2.5m、横3mにもおよぶ大作は、日本初公開となります。また、ターナー、モロー、セザンヌなど、ヨーロッパ近代絵画の巨匠の“怖い”作品など、近世から近代にかけてのヨーロッパ各国で描かれた油彩画や版画、約80点をテーマごとに展示します。
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