青い日記帳 

  
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『この星の絵の具[上]一橋大学の木の下で』
アート専門出版社「アートダイバー」より刊行となった『この星の絵の具: 一橋大学の木の下で (上)』を読んでみました。


この星の絵の具: 一橋大学の木の下で (上)
小林正人(著)

現在アート界の第一線で活躍している画家が自伝的小説を書くのはとても珍しいとではないでしょうか。

(画家・小林正人については以下のサイトでご確認ください。)
http://shugoarts.com/artist/51/

例えば、ゴッホやモネ、はたまたレオナルド・ダ・ヴィンチなど、生前彼らが何を考え何をどのように絵画として表現しようとしたのか、断片的なメモは残っていたとしても、その全ての経緯を知ることは叶いません。

現在、大阪の国立国際美術館で開催中の「ニュー・ウェイブ 現代美術の80年代」に表紙の画像「絵画=空」(国立近代美術館所蔵)が出品されています。

これは、偶然でしょうが、『この星の絵の具: 一橋大学の木の下で (上)』に綴られた物語は、この絵を描くために国立にアトリエを借りるところから始まります。

ビルディングスロマン(成長物語)を象徴するうえで、それもそ無の状態からはじまった絵が、のちに国立近代美術館の所蔵となるのは、とても象徴的であり、何かしらの「物語性」を感じずにはいられません。



また、熊本市現代美術館で現在開催中の村上隆コレクション展「バブルラップ」には、小林正人の「絵画の子」が出品されています。

この村上隆所蔵の「絵画の子」は、小説の核になっているエピソード=せんせいとの関係性の中で、生まれる一枚です。その一つを実際に熊本で見ることが出来るということは良く考えるととても不思議な体験です。

つまり、活躍中の画家が書いた自伝的小説の中に登場する絵画を実際に美術館で目に出来るのです。こんな神秘的な体験はこれまでの美術史の中でも一度も存在しなかったことです。

これまで数多くの小説を読んできましたが、こんな経験をしたことは当然ながら一度もありません。それだけでもこの本に巡り合えてとても幸せに感じました。



ところで、小説を書くということ、体験なり想いを言語化する行為は、とても危険な側面も含んでいると言えます。それは一旦テキスト化して筆者の手元を離れてしまうと、他者(読者)によって様々な解釈がなされるからです。

100%想像の世界であればいざしらず、実際の絵画作品にまつわる自伝的小説となると、ペンを執るのにかなりの勇気と決断力が要ったはずです。

そもそも、何故今、小林正人が小説を書こうとしたかが、読んでいて常に頭に引っ掛かりました。次第にその引っ掛かりが肥大化し読む妨げになったので、この本を出したアートダイバーをひとりで立ち上げた細川英一氏にお願いし、小林にその理由を聞いてもらうようお願いしました。

快諾して頂き、先日その「回答」が小林から届けられました。このブログでも紹介して良いとのことですので、以下に転載しておきます。必読ですよ〜これは。



小説を書くに至った動機か。
小説といっても、物語をつくったわけじゃない。作らなくていい物語があったからそれを書いたんだよ。
やっぱり最初は「せんせい」のことが書きたかったんだ。事実あの章を最初に書いた。で、書き始めたらその後に起こった色んな全ての事が全部繋がっていくことに気がついたんだ。それは不思議な体験だった。書き始めてみなければきっとわからない事だ。

こういう本があったらいいと思った。こういう本っていうのは自分の生き方、つまり生と同じかたちをしている本かな。
俺は生と画が同じかたちになるように絵画つくってんだよね。
だからこういう自伝小説を書きたいと思ったのは、こういう画を描きたいというのと同じかもしれない。

話す言葉はあっても書くのは初めてだから本というかたちで自分の生と画と同型にするためにいちばん難しいと思ったのは"時制"の問題だった。
作品をつくるとき、描くときには時制を考える事なんてないんだよ。いつでも現在!今この瞬間にやっている。
言葉を書き始めたとき、今この書いている瞬間とその書いている事との間には必ず距離があると感じた。画と自分との間の距離が失くなりひとつになれた様には書けない。でも昔ばなしは書けっこない!(俺はもし自分で昔ばなし、武勇伝を書いてると思ったら即この自伝書くのをやめるね!)
だから、俺は「この星の時制」を使ったんだ。遠い過去が今この瞬間に光で届いている、見ている瞬間なら過去も目に見える。現在書いている時間の中でひとつにする。次の瞬間には消えてしまうかの様に強く強く存在する様に!
画だけではなく小説の書き方も星の光から習ってます。

そう、俺にとって「物語」っていうとやっぱポケットに入れる、文庫本でさ、、だから細川さんに文庫サイズにしてもらったんだ。

小林正人


活躍中の画家が書いた自伝的小説の中に登場する絵画を実際に美術館で目に出来ることに加え、実際に筆者から小説を書いた理由をこれほどまで丁寧に伺えたことは、特筆すべきことです。

絵画や文学に少しでも興味がある方なら、これがいかに凄いことか説明は不要でしょう。

こんな貴重な小説本は他に類をみません。

1980〜90年代にかけて、国立のアトリエで描かれた宝石のような小林の初期作品群。《天使=絵画》《絵画=空》《天窓》《絵画の子》……、といった傑作の数々はいかにして生まれたのか。『この星の絵の具: 一橋大学の木の下で (上)』で物語のひとコマとして読み解いていきましょう。


この星の絵の具: 一橋大学の木の下で (上)
小林正人(著)

「これが小林くんの最初の画ね」。なにも描かれていない真っ白なキャンバスを眼の前に、「せんせい」は小林青年にこう言った。恋心をよせていた音楽のせんせい。そのヌードを描く絶好の機会を得た小林青年であったが、初めて手にした油絵の具では、眼の前に横たわる輝くばかりの裸体をキャンバスに移しとることができなかった…。ひとりの青年が、画と出会い、画家として成長していく姿を、自伝小説の形式で語るビルディングスロマン3部作の第1作。

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