青い日記帳 

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『レオナルド・ダ・ヴィンチ』

文藝春秋より刊行となった『レオナルド・ダ・ヴィンチ』を読んでみました。


レオナルド・ダ・ヴィンチ 上
Walter Isaacson (原著), ウォルター アイザックソン (著), 土方 奈美 (翻訳)
「芸術(アート)」と「科学(サイエンス)」を結び「創造性(クリエイティビティ)」を生み出した。科学者であり、軍事顧問であり、舞台演出家だった。光学、幾何学、解剖学などの、点と点を結ぶ芸術家であり人類史上はじめて現れたイノベーターだった。同性愛者であり、美少年の巻き毛の虜となった。


レオナルド・ダ・ヴィンチ 下
Walter Isaacson (原著), ウォルター アイザックソン (著), 土方 奈美 (翻訳)
人類の、自然の、宇宙の秘密を、いつも知りたかった。死者の顔の皮膚を切り取り、筋肉を研究したことであのえもいわれぬ「モナリザ」の微笑を生み出した。
「最後の晩餐」で試みたのは、単純な遠近法だけではない。彼の真髄を理解するには「科学」が絶対に必要なのだ。没後500年の歳月を経て、初めて明かされる制作意図。誰も知らなかったダ・ヴィンチのすべてがここに。
上下巻合わせて750ページもの圧倒的な分量でレオナルドの生涯、作品、そして天才性に迫るノンフィクション作品です。

スマホで浮薄なテキストばかりに目を通し、無為に過ごしていませんか。ちょっとした時間つぶしには便利でも1時間も小さな画面に没入していては、他人事ながら先が思い遣られます。


レオナルド・ダ・ヴィンチ「ほつれ髪の女性」1508年頃、パルマ国立美術館

かく言う自分も自他ともに認めるiPhone依存症ですが、それでも24時間のうち最低でも1時間は紙に印刷された活字を読むことを自らに課しています。

ブログやコラムを書くアウトプットの作業で最も大事なのは、他人の書いた文章をとにかく手当たり次第読み漁ることに尽きます。



2019年3月末に『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(文藝春秋)が、店頭に並んだと同時に入手し合間合間の時間を利用し読み進めました。

1452年4月15日にフィレンツェ共和国 ヴィンチで生を受け、1519年5月2日(67歳)フランス王国 アンボワーズにて死没するまでのLeonardo di ser Piero da Vinciに関する記録は、同時代の他の誰よりも多く遺されています。

ダ・ヴィンチの遺した全7200枚の自筆ノートをベースとして綴られたレオナルドの生涯や作品解説は、非常にスムーズに読み進めることが出来ます。

誰しもが知るところの世界で最も有名な画家の筆頭であり、多くの書籍が出ていますが、それらは時に難解な専門用語や歴史的知識を読み手に求めるものです。


レオナルドが描いた最初期のドローイング、ウフィツィ美術館(フィレンツェ)

もしくは、既にレオナルドに関する書籍は読みつくしてしまい、今更新しいことを得ることもないだろうと思い込んでいる方もいるかもしれません。

騙されたと思って『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(文藝春秋)を読んでみて下さい。驚くほど読みやすいのは、著者が世界的ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』の評伝作家というだけでは決してありません。

レオナルドの膨大な手稿やヴァザーリの著書をはじめとする多くの資料を反芻し著者自らの言葉で綴っているからです。

少しだけ『レオナルド・ダ・ヴィンチ』から引用してみましょう。


「荒野の聖ヒエロニムス」1480年頃、ヴァチカン宮殿、未完。
レオナルドが一部の作品について、完成したとみなすことを拒み、顧客に引き渡すのを拒んだ理由の一つは、世界を流動的なものと見ていたからだ。レオナルドには体と心、機械や馬、川をはじめ流れるものすべての動きを表現するたぐいまれな能力があった。舞台での動き、流れる川の水滴が一つとして自己完結しないように、自己完結する瞬間はない、と書いている。どの瞬間も、直前と直後の瞬間と結びついている。同じように自らの芸術、技術、論文についても、変化するプロセスの一部と見ており、新たな洞察に基づいて洗練させていく余地は常にあると考えていた。『荒野の聖ヒエロニムス』は制作から30年後、解剖実験によって首の筋肉に関する新たな知識が得られたことから加筆している。レオナルドがあと10年長く生きていたら、その分『モナリザ』に手を加えつづけていただろう。作品の完成を宣言し、手放すことは、その進化を止めることだ。レオナルドはそんなことはしたくなかった。学ぶべきこと、絵画を完璧に近づけるために自然から引き出すべき知識は、常にあった。
レオナルドを語る際に「未完」はとても大きな問題となります。何故彼は作品を途中で投げてしまったのか?等々。

その答えとして筆者は引用部のように結論付けているのです。これは翻訳の問題も多少絡んできますが、注目すべきは曖昧な文末表現はなるべく避け、断定形ではっきりと言い表している点です。

あたかも、自分がレオナルドと会って見聞きしてきたかのように。

学術書や研究所であればここまで断定的にひとつの結論を通すことは憚られるものです。でも、この本はあくまでもエンターテイメントです。筆者の主張に何も微に入り細に入り、批判するのは逆に滑稽なことです。

そうそう、この本を元に、レオナルド・ディカプリオによる製作・主演で映画も決定しています!



さて、作品紹介以外で個人的に最も興味関心を持ったのが下巻第24章「水力工学」です。今も昔も水が無ければ我々の生活は成り立ちません。

災害で水道が使えなくなり不自由を強いられているというニュースは何度も目にしています。

レオナルドはアルノ川の流れを変える治水事業を引き受け実行します。1504年のことです。水路を掘削するための装置も手稿に遺しています。

ところがこのアルノ川の流路変更計画は大失敗におわります。理由は簡単でレオナルドに水路を作るつまり水力工学の実績が全く無かったからです。

それでもまた彼は、ピオンピーノ湿地の水はけ対策に携わりますが、これもまた上手くいかず断念を余儀なくされることになります。


ミラノの街に立つレオナルド・ダ・ヴィンチ像

この下巻第24章「水力工学」に見るように『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(文藝春秋)の大きな魅力のひとつは、決してレオナルドをむやみやたに神聖化・天才化せずに綴っている点です。

ミラノのルドヴィーゴ・スフォルツァに宛てた手紙の中で「水路の設計でも誰にも負けない完璧な仕事をいたします」とアピールしたレオナルドですが、その時点で水路建設の実績はゼロでした。といった笑いのネタまで忘れずに、ウォルター アイザックソンは書いているのです。

読みたくなりますでしょ!これまでのレオナルド本とは一線を画し、より人間味あふれるレオナルド・ダ・ヴィンチをテキストで自由に踊らせています。


「白貂を抱く貴婦人」1490年頃 チャルトリスキ美術館、クラクフ

のちほど、この本の目次を載せておきますが、レオナルドの生涯と作品が縦糸と横糸の関係のように上手く絡み合い、上下巻『レオナルド・ダ・ヴィンチ』を紡ぎあげています。

作品解説の部分では、特に専門的な難解な解釈に足を踏み込まないよう努めて書いていることが感じ取れます。手稿にある史実と違い絵の解釈は人により大きくブレます。

ましてはレオナルド作品となると一家言を持つ人が大勢いるものです。(『レオナルド・ダ・ヴィンチ』のAmazonのレビューの中にもそんな人が紛れ込んでいます。)

上巻16章「白貂を抱く貴婦人」が作品紹介・解説の中では最もためになりました。Wikiでもかなり詳しく綴られているのですが、読み比べるとその違いは明らかです。



ルーヴルまで行き、写真を撮ることに専念してしまうという本来の目的を逸してしまう行動を取ってしまうのが人間というものです。自分もひとのことは言えません。

レオナルド・ダ・ヴィンチ』(文藝春秋)が読みやすくレオナルドの伝記なのに心に響く箇所がしばしば出てくるのは、言わずもがな彼も我々と同じ人間であったからです。

そんな当たり前のことを教えてくれる一冊(上下巻)でもあります。おススメの読み方は目次を見て好きな章、興味関心のある章から読んでいくことです!


レオナルド・ダ・ヴィンチ 上
Walter Isaacson (原著), ウォルター アイザックソン (著), 土方 奈美 (翻訳)

【上巻目次】
序章 「絵も書けます」
第一章 非嫡出子に生まれた幸運
第二章 師に就き、師を超える
第三章 才能あふれる画家として
第四章 レオナルド、ミラノへ”寄贈”される
第五章 生涯を通じて、記録魔だった
第六章 宮廷付きの演劇プロデューサーとして
第七章 同性愛者であり、その人生を楽しむ
第八章 ウィトルウィウス的人体図
第九章 未完の騎馬像
第一〇章 科学者レオナルド
第一一章 人間が鳥のように空を飛ぶ方法
第一二章 機械工学の研究者
第一三章 すべては数学であらわせる
第一四章 解剖学に熱中する
第一五章 岩窟の聖母
第一六章 白貂を抱く貴婦人
第一七章 芸術と科学を結びつける


レオナルド・ダ・ヴィンチ 下
Walter Isaacson (原著), ウォルター アイザックソン (著), 土方 奈美 (翻訳)

【下巻目次】
第一八章 最後の晩餐
第一九章 母の死、そして苦難
第二〇章 フィレンツェへ舞い戻る
第二一章 聖アンナと聖母子
第二二章 失われた作品、発見された作品
第二三章 殺戮王チェーザレ・ボルジアに仕える
第二四章 水力工学
第二五章 ミケランジェロとの対決
第二六章 またもや、ミラノへ
第二七章 解剖学への情熱、ふたたび
第二八章 地球と人体を満たすもの、その名は水
第二九章 法王の弟に呼ばれ、新天地ローマへ
第三〇章 人間の姿をした天使の秘密
第三一章 モナリザ、解けない微笑の謎
第三二章 最期の地、フランスへ
第三三章 ダ・ヴィンチとは何者だったのか
結び キツツキの舌を描写せよ

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