青い日記帳 

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『酒井抱一 俳諧と絵画の織りなす抒情』

岩波書店より刊行となった『酒井抱一 俳諧と絵画の織りなす抒情 』(岩波新書)を読んでみました。


『酒井抱一 俳諧と絵画の織りなす抒情』 (岩波新書)
井田太郎(著)

昨年(2019年)9月の新刊として出た本のレビューをようやく書ける段階まで読みこめました。

と、同時に今日(1月4日)が酒井抱一の192回目の命日にあたることもあり、抱一ファン待望の『酒井抱一 俳諧と絵画の織りなす抒情 』を取り上げることにしました。

酒井抱一(さかい ほういつ、 宝暦11年7月1日(1761年8月1日) - 文政11年11月29日(1829年1月4日))


酒井抱一「夏秋草図屏風」(重文)
東京国立博物館

琳派の代表格のひとりとして展覧会も開催されるなど高い人気と知名度を誇る抱一。

宗達や光琳よりも、抱一が好きだと感じる人の方が多いのが現状で関連書籍も何冊か出ています。

玉蟲敏子先生による『もっと知りたい酒井抱一―生涯と作品』 が出たのが2008年前のこと。

その後、求龍堂から抱一生誕250年を記念し『酒井抱一と江戸琳派の全貌』が同タイトルの展覧会図録を兼ね2011年に出ています。

仲町啓子先生監修の『酒井抱一』 (別冊太陽)も同じ時期に発売となりました。


酒井抱一「柿図屏風
メトロポリタン美術館

では、今回岩波から刊行となった『酒井抱一 俳諧と絵画の織りなす抒情 』は、先行する抱一本とは何がどう違うのでしょう。

これまでの抱一関連本は『酒井抱一と江戸琳派の全貌』が展覧会図録を兼ねていることからも分かるように、絵画中心に紹介されたものが殆どでした。

ところが、抱一のことを少しだけ知るようになってくると、彼が「藩主の家に生まれ、遊興し、出家した、奔放な貴公子」絵師という側面に加え、俳諧の道でもその多彩な表現活動を行っていたマルチな才能の持ち主であることが見えてきます。


酒井抱一「書画扇面散図」谷文晁、春木南湖、亀田鵬斎、菊池五山との寄合書
ブルックリン美術館所蔵

同じ時代にこれまた多才な文化人であった、大田南畝(蜀山人)が抱一の知人として近しい関係にあったことも、単なる絵師に留まらせなかった要因でしょう。

→太田記念美術館「蜀山人 大田南畝−大江戸マルチ文化人交遊録−」(2008年)

そう、『酒井抱一 俳諧と絵画の織りなす抒情 』はそのサブタイトルが示す通り、抱一のもう一つの大事な側面である俳諧の専門家が執筆にあたっていることが、これまでとは大きく違う点です。



『もっと知りたい酒井抱一―生涯と作品』 の前書きに記された玉蟲敏子先生の想いが10年の時を経て、ようやく現実となったのです。
近年では、俵屋宗達・尾形光琳に続く琳派の第三の巨匠に祀り上げられ、甚だ高い評価も聞かれるようになっている。ところが、もう一方の表現領域の俳諧においては、近世文学の研究者が注目するようになってきたのがごく最近のことでもあり、僭越ではあるけれども研究がかなり立ち遅れているのが現状である。(中略)将来、専門家諸氏によって、抱一の文事の公平で総括的な文学史的位置づけがなされることに大いに期待したいろころである。
酒井抱一という人物を絵画的な側面だけでなく、もう一方の大きな才力である俳諧も同等に扱い読み解いていくのが『酒井抱一 俳諧と絵画の織りなす抒情』なのです。

酒井抱一 俳諧と絵画の織りなす抒情 』目次

序章 画俳二つの世界
第一章 「抱一」になるまで ―― 誕生前から出家前
 一 酒井家という沃土 ―― 宝暦から安永期
 二 尻焼猿人と美人画 ―― 天明期
 三 春来への私淑 ―― 寛政前期
 四 模索と学習 ―― 寛政中期
第二章 市井のなかへ ―― 出家から其角百回忌
 一 隠者としての出家 ―― 寛政後期
 二 文人性と琳派 ―― 享和年間
 三 百花園という結節点 ―― 文化初年
 四 其角百回忌 ―― 文化三年
第三章 花開く文雅 ―― 文化四年から文化末年
 一 花開く季節へ ―― 文化初年から文化一二年
 二 光琳百回忌 ―― 文化一二年
 三 開花のとき ―― 文化末年
第四章 太平の「もののあはれ」 ―― 文政初年から臨終
 一 錦の裏と表 ―― 文政二年まで
 二 「夏秋草図屛風」の生成した場
 三 豊饒の神々
 四 「夏秋草図屛風」の両義性
 五 追憶と回顧 ―― 最晩年




抱一が記した句日記『軽挙館句藻』(静嘉堂文庫蔵)は、10代のころから亡くなるまで俳諧を詠み綴った直筆の句稿です。これが残されていることで、彼がどのような生涯を送ったのかが、今の我々にも詳らかに分かるのです。

絵画の紹介も『軽挙館句藻』に残された俳諧を読み解きながら進めていく点がとにかく面白く、これまで以上に深く抱一の姿を知る術となります。

抱一が旅好きで江戸近郊をよく旅し、江の島がお気に入りの場所であったことなど、初めてこの本で知りました。静嘉堂文庫美術館に「江ノ島図」という作品もあるそうです。



「絵画の世界」だけでなく「俳諧の世界」からのアプローチを行うことにより、これまでに無かった包括的な酒井抱一の姿が非常に丁寧に綴られている一冊です。

勿論、絵画図版を多く用いて、同時代の絵師たちや、若冲からの影響などについても言及されています。

失われたアートの謎を解く』のように、寝ながら気楽に愉しめるエンタメ本とは違い、がっつりと活字を読ませるハードな一冊でもあります。

俳諧や狂歌の解説において、自分の知識不足で少々理解に窮する点もありましたが、確実に言えることは昨年読んだ多くの本の中でピカイチの内容だったということです。

このような本を世に送り出してくれた著者の井田太郎氏に直接お会いして感謝の念を伝えるのを今年の目標の一つとします。
井田太郎Twitter


『酒井抱一 俳諧と絵画の織りなす抒情』 (岩波新書)
井田太郎(著)

名門大名家に生まれながら、市井で生涯を終えた、酒井抱一。「琳派」誕生を決定づけたこの才能は、多彩な交友から、宝井其角・尾形光琳への敬慕に至り、畢生の名作「夏秋草図屏風」をうみだした。江戸というマルチレイヤー社会を自在に往還したその軌跡を、俳諧と絵画の両面から丁寧に読み解く評伝。

著者:井田太郎(いだ たろう)
1973年生まれ.早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業.早稲田大学大学院文学研究科博士課程(日本文学専攻)単位取得退学.博士(文学).国文学研究資料館助手,助教(いずれも任期付き)を経て,
現在─近畿大学文芸学部教授
専攻─日本文学
著書─「富士筑波という型の成立と展開」(『國華』1315)「新出の酒井抱一画・加藤千蔭書「桐図屛風」と永田コレクション」(『MUSEUM』601)「幻住庵記考――『猿蓑』巻六という場所」(『国語と国文学』88-5)『原本『古画備考』のネットワーク』(共編,思文閣出版)『近代学問の起源と編成』(共編,勉誠出版)


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