青い日記帳 

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「ハマスホイとデンマーク絵画」

東京都美術館で開催中の
「ハマスホイとデンマーク絵画」展に行って来ました。


https://artexhibition.jp/denmark2020/

キャッチコピーは“静かなる衝撃、再び。”とはいえ、前回の「ハンマースホイ展」をご存知の方もそう多くはないはず。

「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」展が、国立西洋美術館で開催されたのが今から12年前の2008(平成20)年のこと。

12年前に名前も聞いたことのない謎めいた画家の展覧会に足を運ぶ人なんてそうそういませんでした。美術関係者の中にも展覧会見逃したなんて方も意外といたりします。


ヴィルヘルム・ハマスホイ《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》1910年 
国立西洋美術館蔵 〔東京展のみ出品〕

この作品も12年前の「ハンマースホイ展」終了後に西美が購入し、常設展示室の静かな人気者となっている作品です。

その不思議な響きの名前と人気がとにかくひとり歩きしてしまった感のあるハンマースホイを、冷静な目であらためて検証せんとする展覧会が「ハマスホイとデンマーク絵画」展です。


ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内》1898年 
スウェーデン国立美術館蔵

「ハンマースホイ」からよりデンマーク語の発音に近い「ハマスホイ」に変えてまで開催するだけあって相当気合が入っています。 Vilhelm Hammershøi

ただし、主役のハマスホイはもとより、他のデンマーク絵画も彼ほどではないにせよとても穏やかな雰囲気の作品ばかりですのでイタリア絵画のように強烈な印象を受けることはありません。

心のどこか隠れた部分が、ぞわぞわと終始微かに震えるはずです。


ピーザ・スィヴェリーン・クロイア《スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア》1893年
ヒアシュプロング・コレクション蔵 © The Hirschsprung Collection

展覧会の構成は以下の通りです。

1:日常礼賛─デンマーク絵画の黄金期
2:スケーイン派と北欧の光
3:19世紀末のデンマーク絵画─国際化と室内画の隆盛
4:ヴィルヘルム・ハマスホイ─首都の静寂の中で



「2:スケーイン派と北欧の光」展示風景

最後の最後にお目当てのハマスホイが登場する構成となっています。ただし1〜3章までのデンマーク絵画が粒ぞろいの優品揃いで結構観るのに時間かかります。

また、それらをしっかりと観ておくことでハマスホイの特異性や関連性なども見えてくるので、逸る気持ちを抑えつつ3章までの作品をとにかく丁寧に観ることをお勧めします。

半島北端の漁師町スケーインで作品制作をした画家の中には、戸外(主に海岸)で働く逞しい男たちを描いたミケール・アンガと、家事に勤しむ女性を描いたアナ・アンガのような夫婦もいました。

アナ・アンガ「戸口で縫物をする少女」は、オランダ黄金時代に描かれた風俗画に通ずる美しさがあります。


ピーダ・イルステズ《ピアノに向かう少女》1897年 
アロス・オーフース美術館蔵
ARoS Aarhus Kunstmuseum / © Photo: Ole Hein Pedersen

「3:19世紀末のデンマーク絵画─国際化と室内画の隆盛」に入るとその傾向は更に顕著なものとなります。そしてそれらの中にハマスホイがどのように組み込まれていくか見どころであります。

とりわけ、ピーダ・イルステズ「アンズダケの下拵えをする若い女性」やカール・ホルスーウ「読書する女性のいる室内」また肖像画ではユーリウス・ポウルスン「カーアン・ブラムスンの肖像」は、ハマスホイと時を同じくして描かれた作品であり、かなり密接な関連性があることがうかがえます。


「4:ヴィルヘルム・ハマスホイ─首都の静寂の中で」展示風景

展示方法として3章と4章つまりハマスホイと同時代のデンマーク絵画を並べ比べながら見せるといった方法もきっと考えられたことでしょう。

結果として今回は峻別し、ハマスホイを最後単独で見せています。日本ではまだ二度目ですし、ある意味で実質初めての「ハマスホイ展」なのでこれで良かったと思います。


ヴィルヘルム・ハマスホイ《農場の家屋、レスネス》1900年 
デーヴィズ・コレクション蔵 
The David Collection, Copenhagen

ハマスホイ作品約40点が集結している様は少々「不気味な」雰囲気を漂わせます。極力登場人物は少なくし、描いても背中姿であったり、視線を合わせない人たちだったりとそこに「生」を感じさせません。

この展覧会で真のハマスホイが分かると思ったら大間違い、果てしなく深淵なハマスホイの沼から脱出できなくなります。

人物が登場する作品よりも、「ロンドン、モンタギュー・ストリート」や「クレスチャンスボー宮廷礼拝堂」のような風景画に今回かなり惹かれました。

当然そこには人っ子ひとりとして描かれていません。しかも建物以外の余計なものは全て消し去り描いています。画像処理ソフトで人物を消した風景よりも更に得体の知れない風景となっています。


ヴィルヘルム・ハマスホイ《廊下に面した室内、ストランゲーゼ30番地》1903年

私はかねてより、古い部屋には、たとえそこに誰もいなかったとしても、独特の美しさがあると思っています。あるいは、まさに誰もいない時にこそ、それは美しいものかもしれません。
1907年、ヴェルヘルム・ハマスホイ

ハマスホイが残したこの言葉に象徴されるように、彼の美意識が「誰もいない時」にあったのですから、人や物を描かないのも当然といえます。

水墨画の絵師に何故、余白を埋めないのか?と問い詰めないのと同じように、ハマスホイの絵画に多くのものを求めてはなりませんし、理由を考えてもいけません。


ヴィルヘルム・ハマスホイ《カード・テーブルと鉢植えのある室内、ブレズゲーゼ25番地》1910-11年 
マルムー美術館蔵
Malmö Art Museum, Sweden

他にもハマスホイ作品を観る上で抑えておきたいポイントはいくつかあります。

その中でも古典絵画との関連性はかなり重要です。「アキレウスに懇願するプリアモス」(トーヴァルスンによるレリーフの模写)や「ルーヴル美術館の古代ギリシャのレリーフ」といった作品も今回出ています。

また、ホイッスラー、ルドン、エリンガ、ホーホストラーテン、カラヴァジョ、そしてフェルメールなど。これについては佐藤直樹氏の著書『ヴィルヘルム・ハマスホイ 沈黙の絵画』が何よりも参考となります。

『ヴィルヘルム・ハマスホイ 沈黙の絵画』(平凡社)レビュー


ヴィルヘルム・ハマスホイ《画家と妻の肖像、パリ》1892年 
デーヴィズ・コレクション蔵
The David Collection, Copenhagen

生前は国立美術館にも買い上げられ評価の高かったヴィルヘルム・ハマスホイ(1864-1916)も、50代の若さで死去した後は急速に忘れ去られてしまいます。

時代が求める絵画とは真逆であり、彼の画風は時流にそぐわなかったのでしょう。ブラムスン国立美術館に寄託していたハマスホイ作品が「展示スペースの不足」を理由に全て売却されたのが1931年。満州事変が始まった年です。

再び脚光を浴びたのが1983年のアメリカでの「ハマスホイ展」以降。2008年に「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」展を、国立西洋美術館が開催したのは世界的に見てもとても先見性があったのです。


ヴィルヘルム・ハマスホイ《背を向けた若い女性のいる室内》1903-04年
ラナス美術館蔵
© Photo: Randers Kunstmuseum

陽光を拒否するかのようなハマスホイ作品のように、美術史の表舞台にあげられるのを望んでいないかもしれません。

大行列を成すような展覧会は彼の意図に反するようにさえ思えます。

それでも、12年間待った人たちできっと賑わうことでしょう。かく言う自分もあらためて足を運びたいと思っています。この展覧会に際し刊行となった2冊の関連書籍をしっかりと読んで。

「ハマスホイとデンマーク絵画」展は3月26日までです。是非!


「ハマスホイとデンマーク絵画」

会期:2020年1月21日(火)〜3月26日(木)
休館日:月曜日、2月25日(火)
※ただし、2月24日(月・休)、3月23日(月)は開室
開館時間:9:30〜17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開館:金曜日、2月19日(水)、3月18日(水)は9:30〜20:00(入室は閉室の30分前まで)
会場:東京都美術館
https://www.tobikan.jp/
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、読売新聞社
後援:デンマーク大使館
協賛:大日本印刷
協力:イープラス、ルフトハンザカーゴAG、J-WAVE
公式サイト:https://artexhibition.jp/denmark2020/


ヴィルヘルム・ハマスホイ 静寂の詩人
萬屋健司 (著)


ヴィルヘルム・ハマスホイ 沈黙の絵画
佐藤直樹(著)
『ヴィルヘルム・ハマスホイ 沈黙の絵画』(平凡社)レビュー


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身近な人物の肖像、風景、そして静まりかえった室内――限られた主題を黙々と描いたデンマークを代表する画家ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864-1916)。17世紀オランダ風俗画の影響が認められることから “北欧のフェルメール” とも呼ばれるハマスホイの作品は、西洋美術の古典を想起させる空気を纏いつつ、近代の都市生活者特有の、ある種の郷愁を感じさせます。
欧米の主要な美術館が続々と作品をコレクションに加えるなど、近年、ハマスホイの評価は世界的に高まり続けています。日本でも2008年にはじめての展覧会が開催され、それまでほぼ無名の画家だったにもかかわらず、多くの美術ファンを魅了しました。
静かなる衝撃から10年余り。日本ではじめての本格的な紹介となる19世紀デンマークの名画とともに、ハマスホイの珠玉の作品が再び来日します。


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