青い日記帳 

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『ヴィルヘルム・ハマスホイ 沈黙の絵画』

平凡社より刊行となった『ヴィルヘルム・ハマスホイ 沈黙の絵画』を読んでみました。


ヴィルヘルム・ハマスホイ 沈黙の絵画』(コロナ・ブックス)
佐藤直樹(著)

2008年9月30日〜12月7日、上野・国立西洋美術館にて開催されたの展覧会「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」展。

会期末頃から徐々にこの特異な絵を描く画家の魅力に取りつかれた人が続出。展覧会終了後は最も入手困難な図録として一躍有名に。

試しに、現在Amazonで探してみるとやはり、高値が付けられています。


ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情 展覧会図録

事前に話題にすらならず、誰も知らない画家の展覧会に足を運ぶ人はそうそういませんでした。

自分はたまたま、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ、ロンドン(Royal Academy of Arts)で開催されたヴィルヘルム・ハンマースホイ「静かなる詩情」展(Vilhelm Hammershøi: The Poetry of Silence)を現地で観たこともあり、上野の展覧会を心待ちにしていたのでした。


「ハンマースホイ展」(ロンドン)

ロンドンから上野へ巡回した形となった「ハンマースホイ展」ですが、企画したのは当時、国立西洋美術館の学芸員んだった佐藤直樹氏とドイツの研究家フェリックス・クレマー氏が長い歳月をかけ作り上げた展覧会だったのです。

会場の都合でロンドンが先になりましたが、展覧会自体は東京展がオリジナルなのです。

昔語りが少々長くなった気もしますが、これが実はこの『ヴィルヘルム・ハマスホイ 沈黙の絵画』を紹介するには大切な部分なので珍しく丁寧に説明した次第です。

著者は当時展覧会を企画担当した佐藤直樹氏です。

佐藤直樹(さとうなおき) 
1965年千葉県生まれ。国立西洋美術館主任研究員を経て、2010年より東京藝術大学美術学部芸術学科准教授。専門はドイツ/北欧美術史。編著書に『ローマ 外国人芸術家たちの都』(竹林舎、2013年)、『芸術愛好家たちの夢 ドイツ近代におけるディレッタンティズム』(三元社、2019年)、展覧会に『ヴィルヘルム・ハンマースホイ─静かなる詩情』(国立西洋美術館、2008年)、『アルブレヒト・デューラー版画・素描展』(国立西洋美術館、2010年)、『ヘレン・シャルフベック─魂のまなざし』(東京藝術大学大学美術館、2015年)などがある。



若い女性の肖像、画家の妹アナ・ハマスホイ」1885年 
ヒアシュプロング美術館蔵(コペンハーゲン)

12年前の展覧会をご覧になり、静かな感動を胸に抱いた方、何が何だかモヤモヤとしたものが心の中に残ったままの方全ての方に「お待たせしました!」と言える一冊が出来ました。

「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」展の図録は高くて手を出せなくても、もう大丈夫。

2008年の「ハンマースホイ展」の展覧会構成に、ほぼ沿ったような本の作り(目次)となっています。

【目次〕
序章 ハマスホイ コペンハーゲンのスキャンダル
1章 時代のはざまで パリとロンドンに現れたデンマークの異端児
2章 メランコリー 誰もいない風景
3章 静かな部屋 沈黙する絵画




「ハンマースホイ」から実際のデンマーク語の発音により近い「ハマスホイ」に片仮名表記が統一された関係で、この本のタイトルも「ハマスホイ」となっています。安心して下さい。同じ画家のことです。

さて、『ヴィルヘルム・ハマスホイ 沈黙の絵画』を強く推す理由として、ハマスホイが影響を受けた、または関連性が指摘される画家の作品が、数多く掲載されていることがあげられます。

今更ながら、ヴィルヘルム・ハマスホイほど謎めいた作品を決して長くない画家人生の中で残した者はそうそういません。

「何故?」がいつもハマスホイ作品の前に立つと頭の中を駆け巡ります。「後ろ姿ばかり描いたのは何故?」「ひとけのない風景ばかり描いたのは何故?」「死んだ魚のような目をした人物を描いたのは何故?」等々…


ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内」1898年 
スウェーデン国立美術館蔵

そんな不気味な画家ハマスホイの多くの謎を解く手がかりがこの本にはぎっしり詰まっています。ただし、全ての答えがあるわけではありません。

それは小説家の意図したところを幾ら研究しても答えが見つからないのと同じく。ハマスホイの謎が解けてしまったらそれこそ三流小説以下に成り下がってしまいますからね。謎は謎としてぼんやり残っていた方が良いのです。

【コラム】
ハマスホイとコレクター 佐藤直樹
ハマスホイが会いたがった人物 ホイッスラー 河野 碧
暗示の絵画−ハマスホイと象徴主義 喜多崎 親
ハマスホイと写真 佐藤直樹
ノルウェーの美術史家アンドレアス・オベールによるフリードリヒの再発見 杉山あかね
ドライヤーとハマスホイ 小松弘


正方形に近い形の風景画など、カメラで撮影した画像をトリミング加工したように見えることから、一貫して彼の作品と写真との関連性を知り得ておくのは大切なポイントです。


ハマスホイ「クレスチャンスボー宮殿の眺め」及びフェルナン・クノップフ「見捨てられた町」と現在のメムリンク広場の写真。

展覧会図録ではこうした比較画像や写真を同レベルで入れることは無いので、『ヴィルヘルム・ハマスホイ 沈黙の絵画』を読んで初めて気が付いた点が多くありました。(謎は解けませんが…)

また非常に興味深いのは、この画家は画風の変化が殆ど無いに等しいのです。↑に掲載した「若い女性の肖像、画家の妹アナ・ハンマースホイ」(1885年)は、1884年にアカデミーを卒業してすぐ描き春季展に出品した作品です。

ここで重要なのは、既にこの時期からハンマースホイ独自の特徴が色濃く作品に現れていた点です。佐藤氏曰く「最初から完成された、成熟された芸術家だった」と。

ハマスホイの師の言葉もこの本に紹介されています。「ほとんど奇妙な絵ばかり描く生徒が一人いる。私は彼のことを理解できないが、彼が重要な画家になるであるであろうことはわかっている。彼に影響を与えないよう気をつけることとしよう。


コラム欄の下地がグレーを基調としたハマスホイ・カラー!!愛が感じられますね。
なぜ私が少ない色で、しかも抑えられた色調を使うかって? それは私もわからない。この問題について何か答えるというのは、私には本当に不可能だ。それは私には全く普通のことなので、なぜか、という問いには何も言えない。しかし、私が初めて展示したとき以来、いずれにせよそうなんだ。おそらく、私の使う色は、ニュートラルとか制限された色彩とか呼ぶことができるかもしれない。私は真にそう思うのだけれど、絵というものは色が少なければ少ないほど色彩的な意味において最高の効果をもつのではないか
ハマスホイの言葉、1907年
51歳の若さでこの世を去ってしまったハマスホイに光が当たり始めたのはまだまだ最近のことです。日本語で描かれたハマスホイを知るための最良の一冊が『ヴィルヘルム・ハマスホイ 沈黙の絵画』です。

ハマスホイとデンマーク絵画」展が東京都美術館で開催されています(山口県立美術館へも巡回)。展覧会を観る前に観た後に、そしてしばらく時を置いてからじっくりと読み返したい良書です。


ヴィルヘルム・ハマスホイ 沈黙の絵画』(コロナ・ブックス)
佐藤直樹(著)

日本にハマスホイの世界を紹介した第一人者の監修による、本邦初の作品集!

「北欧のフェルメール」とも謳われる、デンマークが生んだ孤高の画家ハマスホイ。その静謐な画風になぜ人は魅かれるのか?謎めいた室内画を描き続けた画家の、その隠された魅力に迫る決定版!国内未発表を含む代表作54点を収録。



ヴィルヘルム・ハマスホイ 静寂の詩人 (ToBi selection)
萬屋健司 (著)

もう一冊展覧会に合わせて「ハマスホイとデンマーク絵画展」を企画・監修した萬屋氏も重厚な一冊を出しています。こちらも後日レビュー書きますね。

萬屋氏は12年前の「ハンマースホイ展」もお手伝いしています。


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