青い日記帳 

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『国立西洋美術館 名画の見かた』

集英社より刊行となった『国立西洋美術館 名画の見かた』を読んでみました。


国立西洋美術館 名画の見かた
渡辺 晋輔 (著), 陳岡 めぐみ (著)

「絵画の見かた」といった類の本は、既に数多く出されており、何冊か読まれたこともあるかと思います。実際にAmazonで検索しても類書はたくさん出てきます。

では、今回読んだ『国立西洋美術館 名画の見かた』は他と何が違うのでしょう。

冒頭に以下の2点がこの本の特徴として紹介されています・

1)現役の国立西洋美術館の学芸員が、おもに所蔵品を使って美術史の流れを説明します。

2)自分の仕事と絡め、学芸員ならではなの視点で美術史のさまざまな側面について説明します。



ルーベンス「豊穣」1630年頃

執筆したのは渡辺氏、陣岡氏の両名。共に1972年生まれ。西美でこれまで数多くの展覧会を手がけてきた超ベテラン学芸員の二人が筆を執っているのですから、内容的にこれ以上のものは他では望めません。

ビジネスに役立ったり、ウィットに富んだ会話が出来るようになるマル秘テクニックが記されているのではありません。美術史に則った正真正銘の「絵画の見かた」がびっしりと活字化されています。

数点、本書より引用しておきますね。これだけ読んだだけで、いかにこの本が優れているかお分かりになるはずです。


ピエール・ピュヴィス・シャヴァンヌ「貧しき漁夫」1887-92年頃 
ピエール・ピュヴィス・シャヴァンヌ「貧しき漁夫」は、その名のとおり貧しい漁夫を描いていますが、そのたたずまいは上記のミレーの絵に描かれた人物とよく似ています。また彼の顔立ちや痩せた身体はキリストを思わせるところがあります。漁夫の深い精神性が読み取れるこの作品もまた、宗教画と風俗画がオーバーラップした例といえるでしょう。

ポール・セザンヌ「葉を落としたジャ・ド・ブッファンの木々」1885-86年 
絵を見るときに、絵に応じた距離で見ることは重要です。タッチの集積によって描かれている印象派の絵は、少し離れた場所から見るべきです。セザンヌの場合も同じで、彼の絵は近づいて見ると、タッチのひとつひとつに対象を前にした画家の知覚の過程と試行錯誤を読み解くことができますが、絵から離れて見ると、空間の構成をよりはっきり見ることができます。
単に作品と向かい合っただけでは得られない、プロならではの視点を惜しみなく書き記しています。

事実『国立西洋美術館 名画の見かた』を読み進めると、すぐにでも西美へ行って実際にここに記されている鑑賞法、見方を試したくなります。

セザンヌを斜めから見ることで、彼がやろうとしていたことが明確に分かるとは!もう明日にでも出かけて実際の絵を観たくなること必至です。


カルロ・ドルチ「哀しみの聖母」1650年頃

「手を組み合わせるポーズや悲しげな表情によってキリストの死を悼んでいるところだとわかる」←これは第3章 宗教画の解説の中に出てくるワンフレーズです。

これだけ切り取ると、当たり前のように思えるかもしれません。しかし宗教画の変遷から捉えるとドルチ作品の持つ意味はとても大きなものがあったことがこの本から分かります。

国立西洋美術館 名画の見かた』【目次】

第1章 西洋美術の「窓」
第2章 人物の表現
第3章 宗教画
第4章 物語画
第5章 風景画
第6章 静物画
第7章 風俗画

ギャラリートーク



クロード・モネ「舟遊び」1887年

単なる解説や絵画の見方だけでなく、時として学芸員としての見解も憚ることなく書かれている点も魅力のひとつです。

例えばこのモネの「舟遊び」ですが、浮世絵からの影響を強く受けていると我々は知識として頭の中にあります。(モネ「舟遊び」など平板な画面や舟の大胆なトリミングに浮世絵版画からの影響がみられます。)

しかし、それだけでは不十分なのです。
ただし注意したいのは、浮世絵版画自体が遠近法など、西洋美術の影響を大きくこうむっているということです。つまり西洋の画家たちは浮世絵版画に、自分たちの伝統的な描き方の、異なる発展の可能性を見つけたから影響を受けたという側面も多少はあるのです。ときに「日本の生み出した」浮世絵が西洋の絵画史を変えたようないい方がなされることがありますが、それはかなり語弊があります。浮世絵版画が西洋の画法を消化していなかったら、それがこれほどまでに西洋の画家たちの琴線にふれたかどうか、やや怪しいところです。
学芸員さんと話していると、こうした意見を耳にする機会がしばしばあります。ただそれはあくまでも「立ち話」なのですが、あらためてこうした活字で示されるとハッとさせられるものがあります。

最後に以下の文章が果たしてどこにどのような文脈で書かれているのか是非、この本を手にとって探してみて下さい。それにしても「陳腐な芸術の解説」って言いきりましたね〜
しばしば見受けられる陳腐な芸術の解説に、作品に作者の人生の反映を読み取ろうとするものがあります。「この絵には当時結婚したばかりの作者の幸福な心情が表されている」「人生の終わりを目前にした作者の枯淡な境地が見て取れる」などなど。醒めたいい方をするようですが、とくに近代以前にあっては、個人的な感情を作品に込めるようなことはほとんどありません。こういう解説はロマンティックな後づけにほかならないことが多いので、注意する必要があります。

クールベ「物思うジプシー女」1869年

そうそう、後半の「ギャラリートトーク」では、渡辺氏、陣岡氏がぞれぞれ、学芸員ならではなの視点で美術館や展覧会のあんなこと、こんなことについて語っています。(二人の掛け合いトークではありません)

初心者向けというより、ある程度絵画を目にし経験を積んだ方が、とても知的好奇心を刺激され楽しめる本となっています。

この本をテキストに何回かに分けて美術講座開いたら、さぞかしためになることでしょう。知らないこと、ハッとさせられることが数多くありました。やはりプロの見方に習うのが一番ですね。

渡辺&陣岡という西美最強コンビが放つ「名画の見かた」。これこそ王道をいく一冊です。


国立西洋美術館 名画の見かた
渡辺 晋輔 (著), 陳岡 めぐみ (著)

巷では、さまざまな切り口の絵画鑑賞法の本があふれています。そんな中で、絵画の鑑賞法の決定版ともいえるのが本書です。国立西洋美術館の現役キュレーター(学芸員)のふたり(イタリア美術史&フランス美術史)が「名画の見かた」をていねいに、わかりやすくレクチャー。“西美“所蔵の美しい名画のカラー図版を用いながら、ジャンル別(物語画、宗教画、風景画、静物画、風俗画…)にキュレーターならではの視点で語ります。さらに、知っておくと美術を見るのに役に立つトピックを集めたギャラリー・トークを収録。


国立西洋美術館
https://www.nmwa.go.jp/

[著者プロフィール]
渡辺晋輔(わたなべ・しんすけ)
1972年、神奈川県生まれ。国立西洋美術館主任研究員(国立新美術館主任研究員を併任)。東京大学大学院博士後期課程中退。専門はイタリア美術史。著書に『アート・ギャラリー テーマで見る世界の名画〈1〉ヴィーナス』(青柳正規と共著 集英社)、『ジョットとスクロヴェーニ礼拝堂』(小学館)、『ポケットガイドー西洋版画の見かた』(国立西洋美術館)など。「ラファエロ展」「グエルチーノ展」「ルーベンス展」などを企画担当。グエルチーノ国際美術史研究所(イタリア、チェント市)学術委員。

陳岡めぐみ(じんがおか・めぐみ)
1972年、東京都生まれ。国立西洋美術館主任研究員。東京大学大学院博士課程修了、学術博士。専門はフランス美術史。著書に『市場のための紙上美術館』(第27回渋沢・クローデル賞ルイ・ヴィトンジャパン特別賞 三元社)、『西洋美術の歴史〈7〉19世紀―近代美術の誕生、ロマン派から印象派へ』(三浦篤・尾関幸と共著 中央公論新社)など。「ユベール・ロベールー時間の庭」「シャセリオー展」「松方コレクション展」などを企画担当。2017年フランス芸術文化勲章シュヴァリエを受勲。


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