青い日記帳 

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『もっと知りたい「怖い絵」展』

KADOKAWA刊行の中野京子(著)もっと知りたい「怖い絵」展を読んでみました。


もっと知りたい「怖い絵」展
中野京子(著)

2017年、上野の森美術館(兵庫県立美術館)で開催された「怖い絵展」。当初の大方の予想を裏切り上野の森美術館には41万4006人もの来館者でおおいに賑わいをみせました。

国立新美術館での「ミュシャ展」が66万人だったことを考えると、あの決して広くはない上野の森美術館に41万超の人が押し寄せたことはまさに特筆すべきことです。(神戸・上野合わせて68万人)



現在、新型コロナウィルスにより多くの展覧会が観られない状態となっています。中には明日(3月3日)より開催予定だった今年度上半期注目の大型展「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」(国立西洋美術館)もいつから観られるか見当も付かない状況です。

ひとつの展覧会を開幕に漕ぎつけるまでに、どれだけ多くの人が額に汗し努力を重ねているか想像に難くありません。

もっと知りたい「怖い絵」展は、こんな時にこそ読んでもらいたい一冊です。記録破りの大ヒットとなった美術展「怖い絵展」がどのようにして作られたのか、「怖い絵」展のできるまでとし、監修者である中野京子氏がその内側を赤裸々に綴っています。

何しろこれまでの日本の美術展に比べ、何から何まで異色である。一つには、美術専門家でもないドイツ文学者(わたし)による書籍(角川文庫『怖い絵』シリーズ)が元になつていること。二つ目は、画家や美術館括りではなく、「恐怖」を、それもさまざまな恐怖を孕んだ西洋絵画が集められていること。三つ目は、各作品の横にかなり長めの 解説を掲げ、また詳しい音声ガイドの使用も促して、自分の感性だけを頼りにするのではなく知識を得て絵を見て下さい、と鑑賞者に(不遜にも)強制していること。どれも従来の美術展では考えられない破格さであり、心配は尽きなかった。
「怖い絵展」は兵庫県立美術館→上野の森美術館と巡回しましたが、当初は東京展をはじめに行う予定だったそうです。では何故それが逆になったのでしょう?吃驚するような事実がこの本には書かれています。

普段はこんな事態が起こっても表に出すことなく、何事もなかったかのように展覧会を進めて行くのでしょうが、中野先生は違います!全部ぶっちゃけてます。


ギュスターヴ=アドルフ・モッサ「彼女(エル)」1905年

さて、この本のメインは「怖い絵展」に出ていた作品の新たな解説と、展覧会でどのような反応があったか等様々な見地から語る所謂「中野節」です。

モッサの「彼女」と「飽食のセイレーン」は、監修者・主催者も予期しなかった多くの反応がSNSなどを通じてあった作品です。

こうした一目見て「ゾクッ」とさせられる絵画は西洋美術の中にはあまり見られません。だからこそ直感的に「怖さ」を感じ、そして細部を観て更にそれが増幅する作品でした。


フレデリック・グッドール「チャールズ1世の幸福だった日々」1853年頃

逆にこののどかな舟遊びに興じる家族を描いた多幸感あふれる作品の一体どこがどのように「怖い」のでしょう。

それを読み解くヒントはタイトルにある「だった」という過去形の表現にあるようです。とすると、この幸せな家族をこの後、襲った不幸とは…あぁ恐ろしい…

展覧会会場のキャプションや音声ガイドでは説明しきれない「怖い」解説がこの本には綴られています。

【目次】
作品1 彼女
作品2 オデュッセウスに杯を差し出すキルケー
作品3 ソロモンの審判
作品4 殺人
作品5 ミズガルズの大蛇を殴ろうとするトール
作品6 娼婦一代記 ロンドン到着のモル
作品7 チャールズ一世の幸福だった日々
作品8 ベルシャザールの饗宴
ロンドン塔 ジェーン 夏目漱石
作品9 ソドムの天使
作品10 行為
作品11 フォルモススの審判
作品12 ドルバダーン城
作品13 発見された溺死者
作品14 そして妖精たちは服を持って逃げた
作品15 オイディプスの死
作品16 切り裂きジャックの寝室
作品17 マドンナ
怖い絵展のできるまで



チャールズ・シムズ「そして妖精たちは服を持って逃げた」1918-1919年頃

この作品は「怖い絵展」ではよく意味が分からなかった作品でした。それもそのはず、それを理解するには画家シムズが歩んだ人生を知らなくてはなりません。

第一次世界大戦に従軍した後に描いた一枚です。この戦争で10代だったシムズの息子が戦死しています。

にも関わらずこんな牧歌的な妖精画を描いていたのかと思われるかもしれません。しかししかしです。すでにこの時点で画家は変調をきたしていたのです。

シムズの精神は蝕まれており、10年後には投身自殺を図り50代の若さで亡くなります。もう一度この作品のタイトルを見てみましょう。ね、怖いでしょ。


ジョージ・フレデリック・ワッツ「発見された溺死体」1848年-50年

「怖い絵展」を観に行った人も行けなかった人も、また「怖い絵」シリーズを既に読まれている方も、もっと知りたい「怖い絵」展には新鮮な驚きと感動そして恐怖が待っています。

この一冊で展覧会5つ分くらいの面白さがあります。

座して落ち着いて本をとり、知識に磨きをかけながら美術館で展覧会を再び観られる日を気長に待ちましょう。ジタバタしても仕方ありません。こんな時こそ読書です。


もっと知りたい「怖い絵」展
中野京子(著)

68万人を超える入場者数。最長3時間半待ちの大行列。
記録破りの大ヒットとなった美術展「怖い絵」展。
いったい何が、そこまで人々を「恐怖」に駆り立てたのか?
名画に隠された物語・背景・人間の闇を、当該監修を務めた中野京子が再び、深く濃く解説!
社会現象を巻き起こした、異色の美術展の「恐怖」と「興奮」がよみがえる!



『欲望の名画』 (文春新書)
中野京子(著)

狂おしく激しい愛情、金銭への異常な執着、果てない収集癖、飽くなき野心…。人はあらゆる欲望を絵画に込めてきた。細部に描かれた小さな情報も見逃さず、名画に込められた意図を丁寧に読み解く。


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この記事に対するコメント

体感的には全くそのとおりなのですが、68万は上野+兵庫の数字だと思われます。
KARA | 2020/03/03 7:13 AM
ご指摘ありがとうございます。
上野の森美術館 41万4006人に訂正いたします。
Tak | 2020/03/03 8:31 PM
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