青い日記帳 

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『ダ・ヴィンチの遺言』(KAWADE夢新書)

池上英洋先生が上梓された『ダ・ヴィンチの遺言』を読み終えました。

レオナルドお得意の鏡文字風に書いてみました(macでは普通に見えます)

ダ・ヴィンチの遺言
『ダ・ヴィンチの遺言』池上英洋

ここからはちゃんと書きます。

美術史上の人物でレオナルド・ダ・ヴィンチほど「伝説」多い画家も稀だと思います。

史実にかなり近い「伝説」もあれば、史実からは遠くかけ離れたとんでもない「伝説」まで、レオナルドを取り巻く周縁的、二次派生的な多くの「伝説」によってもう今では真のレオナルドの姿を知ることは不可能な気がします。
(事実そうだと思います)

そこで著者・池上英洋先生が採られた手段とは…

 レオナルドは、はたしてどのような人間だったのか。どのような生涯をおくり、何を考えていたのか。彼の暮らしはどうだったのか。当時の人々は彼をどのように見て、何を望んでいたのか。彼の目はどこを見て、何を目指していたのか。彼が遺した言葉はどのようなものか。彼の作品は何を意味し、何を私たちに語っているのか。なぜこれほどまでに多くの人々を魅了してやまないのか。
 ―レオナルド・ダ・ヴィンチとは、何者か―
 この本では、彼の真の姿をおぼろげながら浮かび上がらせるための数々の事実を、淡々と記していこう。しかし小説ではないので、「万能の天才」の超人的なイメージは変わってしまうかもしれない。何も加工することなく、彼が私たちに残した作品と言葉―遺言―を、事実だけ並べていくことしか、私には彼の真の魅力を伝える方法がないからだ。
 『ダ・ヴィンチの遺言』より。

レオナルドが書き遺した手稿を元に「淡々と記」された本。
それがこの『ダ・ヴィンチの遺言』です。

池上先生の他の論文を以前読ませていただいたことがあります。
専門的な内容でしたので理解は遠く及ばなかったのですが、
一つだけ感心したことがありました。それは文のスタイルです。

文章表現のまず第一の基本である
「一文一文を短めに書く」
「一文一文を簡潔に書く」ことに忠実に書かれていました。
私などがあらためて言うのもおこがましいことですが、
これってとても難しいことです。

「事実を、淡々と記し」たと謙遜気味に述べていらっしゃいますが、、
淡々と記しつつも読み手にレオナルドの姿を自然と想起させてしまうのは
池上先生の収斂された文章表現とレオナルドに対する熱い想いが
相俟って成せる業にほかなりません。想いが伝わってきます。

 

ところで、中村明氏がその著書『名文』の中でこんな文書いています。
「名文とは、人をまるごとまいらせる文章だ、と簡単に言ってもいい。が、人を引き寄せる文章のすべてが名文ではないことに、まず注意を向けておかなければならない。例えば、目だつだけの文章がある。それは人目を引く文章ではあるが、それが人を引き寄せる文章であるかどうかは別の問題だ。まして、人はそんな文章に決してまいりはしない。人を引き寄せるところまで行っても、そういう文章の全部が全部人をまいらせるわけではない。目を引くのは注意を向けさせることであり、人を引き寄せるのは人間的な興味を喚ぶことである。前者はいわば知覚のレベル、後者は深くてもまだ認識のレベルをその中心とする。」

中村氏が述べている人をまいらせる文であり、人間的な興味を喚ぶ文を池上先生の文だと言い換えても差し支えないかと思います。

史実を忠実に主観をなるべく排除し淡々と書かれたこの文章を読み終えた時。
レオナルド・ダ・ヴィンチとはどのような人物であったのかという疑問を照らし出す光源をこの本に見出している自分に必ず逢えるはずです。

また文体のみならず、その内容もとても魅力的な文になっています。
例えば…
イタリアと日本の時差を考慮するとレオナルド・ダ・ヴィンチと池上先生は同じ4月15日生まれだということを何気なく本文中で紹介したり、
「いまも昔も税務署の、なんと冷酷で世知辛いことよ。」とぼやいてみたりと
池上先生の大変人間味あふれる側面が随所から伝わってきます。

「人間レオナルド・ダ・ヴィンチ」を書き記したこの著書が
「人間池上英洋」を描き出しているようにも読み取れます。

レオナルド自身が池上先生に憑依して書きしめたのかも…
…とさえ思えてしまいます。
ダ・ヴィンチの遺言
『ダ・ヴィンチの遺言』 池上英洋

さて、池上先生に直接お願いしてこの『ダ・ヴィンチの遺言』についての
エピソードなどを伺いました。ご多忙中にも関らず快くお返事頂戴できました。
感謝の意を表すると共に、こちらで紹介させていただきたいと思います。

Tak「まず執筆するにあたって苦労された点は何かありますか?」

池上先生「特に無いです。楽しみながら書けました。」

Tak「編集、出版社からの要望などは何かありましたか?」

池上先生「やはりダ・ヴィンチ・コードのブームがありますから、出版社としては少しだけで良いから触れてほしいといった感じでした。」

「しかし同時に、類書や謎解き本がゾロゾロ出ている中にあって、美術史専門家が書くのなら、やはり真っ当に「本当のレオナルドの姿」を世に知らしめることも重要だという見解で一致をみました。」

Tak「ブームですよね。。。食傷気味なくらい。」

池上先生「ダ・ヴィンチ・コードのおかげでレオナルドに興味を持つ方が増えるのは嬉しいのですが、「ほんとにシオン修道会の総長なの?」といった質問が多くなってきて、「これはまずい、誤解をとかねば」と思うようになりました。そのせいで、「はじめに」ではわりと肯定的なスタンスだったのですが、「第六章」ではかなり厳密な言及もするように若干私自身も変化しました。」

Tak「第六章に書いてあるクラウディオ・ジョルジョーネ氏が立腹しながら熱く語っていたシンポジウム懐かしく思えてなりません。」

Tak「さて最後にまだ読まれていない方にメッセージをお願いします。」

池上先生「レオナルドはとても魅力的な人物です。小説などで描かれる謎めいた天才というイメージをまとわなくても、レオナルドその人自身が魅力的なのです。彼は決して超越的な天才ではなく、苦悩するごく普通の人間だったのです。」

「この本では、彼の一生にまつわる事実を淡々とおっかけていきます。そしてレオナルドという一人の稀有な人物の真の魅力と、彼が生きたルネサンスというドラマチックな時代の雰囲気を少しでも味わっていただければ幸いです。」

Tak「どうもありがとうございました。」

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
池上 英洋
1967年、広島県生まれ。東京芸術大学卒業、同大学院修了。専門は西洋美術史。イタリアと香港の研究機関で研究・執筆したのち、現在、恵泉女学園大学助教授。レオナルド・ダ・ヴィンチをはじめ、中世からバロック時代の芸術家の分析を通じて、社会構造や思想状況を明らかにする方法に定評がある。2005年、東京で開かれた国際シンポジウム「レオナルド/天才の挑戦」では司会を務めた
※池上先生のblog「池上英洋の第弐研究室

池上先生の著書及び訳書。
修復の理論
修復の理論
チェーザレ ブランディ, Cesare Brandi, 小佐野 重利, 大竹 秀実, 池上 英洋

イタリア・ルネサンス美術論―プロト・ルネサンス美術からバロック美術へ
イタリア・ルネサンス美術論―プロト・ルネサンス美術からバロック美術へ
関根 秀一, 田辺 清一, 宮下 規久朗, 甲斐 教行, 金山 弘昌, 木名瀬 紀子, 松浦 弘明, 池上 英洋, 谷古宇 尚, 片桐 頼継

そして来年1月にはいよいよ小学館から
池上先生が全面的に執筆に携わった
「西洋絵画の巨匠 レオナルド・ダ・ヴィンチ」が発売になります。
西洋絵画の巨匠 (1)   モネ
「西洋絵画の巨匠 (1) モネ」 島田 紀夫
現在モネ、ゴッホ、ダリと順次発売されています。
(因みに6月にはフェルメールが!)

一家に一冊!池上英洋著『ダ・ヴィンチの遺言』是非。


【池上先生関連記事】
・「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」記念シンポジウム
(本に書かれている先生が司会通訳をされたシンポジウムです)

・「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」

・池上先生とご一緒させていただいた「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」
恵泉の生徒さんたちとても真面目で熱心でした。

最後はこれ
・西洋美術史研究家・池上英洋先生ダ・ヴィンチを語る。
画像あります。惚れます。きっと。
芸術をはじめ、ありとあらゆる学問分野で超人的な才能を発揮したレオナルド・ダ・ヴィンチ。その生涯と活動をつぶさに追うと“天才”のひと言では括れない意外な素顔が見えてくる。今なお脚光を浴び続けるこの人物は、いったい何者なのか?ベールに包まれた“真実”に肉迫する。

読書 | permalink | comments(11) | trackbacks(8)

この記事に対するコメント

Takさん

コメント&TBをありがとう御座いました。
Takさんの記事を楽しみにお待ちしておりました。
Takさんも先生に劣らず素敵な文章を書かれるので
今回も先生のご本の良さがすごく良く伝わって
きました。私からも感謝したい気持ちです。

人間的なレオナルドの生涯・・より深く知ることが
できて良かったです。先生の叡智が全て含まれている
素晴らしいご本ですね!
Julia | 2006/05/02 9:59 PM
@Juliaさん
こんばんは。

仕事で追い立てられていて
中々読めずにイライラしていました。
でも一気に一日で読んでしまいました。
他の読みかけの本は放っておいて。

「良いです」ね!
多くの方に読んでもらいたい一冊です。
Tak管理人 | 2006/05/02 11:28 PM
Takさん!
TBありがとうございます。目下食中毒に罹り、折角の連休を布団の中ですごしています。あと2〜3日もすれば治るとのことです。
『ダ・ヴィンチの遺言』も読んでいる途中ですが、そんな訳ではかどりません。
池上先生とは、中央区の社会人学級でお目にかかり、『レオナルド・ダ・ヴィンチとその時代背景』という講座を拝聴いたしました。
その折に先生からブログをお聞きし、その後お邪魔させていただいております。また、コメントも入れさせていただいております。
Takさんのブログにもこれからは寄らせていただきます。宜しくお願い致します。
わん太夫 | 2006/05/03 12:26 AM
Takさん、TB&コメントありがとうございました。
仰るとおり、池上先生の「事実を、淡々と記し」たという方法は素晴らしいと思います。伝説を取り除いたレオナルド像は、予想外に魅力的でした。多くの方に読んでいただきたい素敵な本だと思いました。
池上先生のインタビューは、羨ましいの一言に尽きます。
鏡文字も素晴らしいですね。(笑)
lapis | 2006/05/03 12:50 AM
この本、読んでません。今度読んでみます! ミケランジェロ派の私としては、絵の大半を弟子に描かせちゃった(のもありますよね?)とか、わざとはがれるような絵の具で湿気の多い壁に壁画描いちゃったとか(ですよね?)、そういうのが…と思ってたけど、この本読んだら好きになるかも。昔NHKで何度か放送したイタリアのドキュメントドラマ(?)に出てくるダ・ヴィンチは、結構好きでした。でも、「ダ・ヴィンチは生まれ変わったら科学者になる ラファエロは生まれ変わったら政治家になる ミケランジェロは生まれ変わっても芸術家にしかなれない」って言われちゃうミケランジェロが、やっぱり好き&#9825;
海 | 2006/05/03 1:25 AM
コメントとTBありがとうございました。流れるような文体で引き込まれて読んでしまいました。当時の人々の生活に根ざした解説はさすがにプロですね。
「ダ・ヴィンチ・コード」は発売直後に買って読んだのですが、上巻はともかく下巻の内容があまりにひどかったので、ブック・オフで金50円也で処分してしまいました。というわけで、面白いはずの第6章を読み解くのにちょっと時間がかかりました。

とら | 2006/05/03 9:10 AM
@わん太夫さん
こんばんは。
お体の具合如何ですか?
治り時が肝心です。

先生の講座を聴けたなんて羨ましいです!
専門的なお話もとても分かりやすく
噛み砕いてお話してくださますよね。

お体よくなられましたら
またどうぞいらして下さい。
今後ともよろしくお願いいたします。

@lapisさん
こんばんは。

西岡先生の「モナリザの罠」という本でも
いわゆる「伝説」の恐さについて書かれていました。
どうしても色眼鏡を通してしか見られませんからね。
「事実を淡々と」書いて下さったおかげで
色もだいぶ落ちてきたようです。

lapisさん、機会があれば是非お会いしましょう。

@海さん
こんばんは。

今度お会いするときにまた詳しく話しますが
ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」をミラノへ
観に行った時に宿泊したホテルの名前が
ミケランジェロだったんです。。。
おかしいでしょ!

>ミケランジェロは生まれ変わっても芸術家にしかなれない
多分、この本を読まれると
ダ・ヴィンチも生まれ変っても芸術家かな・・・
と思えるかもしれません。

@とらさん
こんばんは。

「ダ・ヴィンチ・コード」の映画が始まると
また変な盛り上がりをみせるのでしょうね。
とても嫌です。
真実でないことを真実として書いてしまっては。。。
ダンブラウン罪なことしてくれたもんです。

6章はかなり書き方違ってますね。
チャートまで入っていました。
Tak管理人 | 2006/05/04 12:51 AM
Takさん、すばらしい記事にしていただいてありがとうございます。

mixiトップにもたまげました。恐縮至極です。感謝です。

鏡文字、すごいですね。どうやってやるのか不思議です。

そういえば私はローマにある「ミケランジェロ」というホテルに泊まったことがあります。もしかしてチェーンですかね。

今度、「罠」の読後感も聞かせてくださいね。
ike | 2006/05/05 4:55 PM
@ikeさん
こんばんは。
コメントありがとうございます。

ご本人からのコメント
ありがたやありがたや。

宣伝できるところはどこでもします!

>鏡文字、すごいですね。どうやってやるのか不思議です。
<table style=filter:flipH>
↑このタグ使えば簡単にできます。
お試しあれ。

「罠」途中まで読みました。
西岡氏にしては筆が進んでいないような文章ですね。
Tak管理人 | 2006/05/06 12:54 AM
Takさん、こんばんは。
TBとメッセージをありがとうございました。
お陰様で、昨夜、池上先生の出演された迷宮美術館も楽しく見ることができました。
snow_drop | 2006/05/22 9:13 PM
@snow_dropさん
こんばんは。

池上さんもの静かな印象受けませんでした?
テレビはうそつきです。。。
授業をなさっているようでしたね。(^^♪
Tak管理人 | 2006/05/22 11:34 PM
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