2006.07.07 Friday
プライス展の伊藤若冲
4日から東京国立博物館で始まった「若冲と江戸絵画」展
一昨日居ても立ってもいられず、行って来てしまいました。 以下の展示内容・感想、第三章を除いて一昨日こちらに書きました。 簡単に書こうと思いつつもダラダラと書いてしまいました。 見所随所にあって一つの記事内ではとても収まりません。 第一章.正統派絵画 第二章.京の画家 第三章.エキセントリック 第四章.江戸の画家 第五章.江戸琳派 Special.光と絵画の表情 さて、今日は先日書き残した第三章の感想できるだけ 手短に書きたいと思ってます。できるだけ。。。 「第三章.エキセントリック」のセクションは今回若冲に用意された場所。 平成館2階「第1室供廚その展示場所となっています。 便宜上ここの部屋「若冲ルーム」と呼ばせてもらいます。 (関係ないですが「Special.光と絵画の表情」が二展室使っています) さて、その「若冲ルーム」はどんな様子だったかといいますと。。。 こんな感じです。 a〜pが作品が展示してあった大まかな位置です。(abdは六曲一双) ここだけで屏風絵も一つと数え16作品が集っていることになります。 今回、伊藤若冲の作品は全部で17点展示されていますので 1点を除いて全てがこの「若冲ルーム」にぐるりと 展示されていることになります。 (もう1点は「Special.光と絵画の表情」に展示してありました) では、では。 一点ずつご紹介。まず動線に沿ってaから順にpまで。 a「花鳥人物図屏風」 (六曲一双の一部) サラサラ〜と一筆で描き上げたような水墨画。 タイトルが示す通り花・鳥・人とシンプルに描かれています。 全体的に対象物が丸みを帯びて表現されています。 植物が特に見ものです。そうそう「魚」も描かれてました。 動植綵絵「蓮池遊魚図」の下書きのような絵です。 因みにこの作品、画像処理で明るさを増していくと面白いです。 b「鶴図屏風」 (六曲一双の一部) 「卵鶴図」とでも呼べる作品です。 全部で15羽描かれていますが、一羽だけ飛んでいるヤツいます。 その飛んでいる鶴の足元の波の表現もまた愉快です。 画像の左側のお尻を向けている鶴。これ若冲が考案した 「筋目描」の技法が用いられているそうです。 墨の滲みを重ねて鶴の羽を表現しています。 c「葡萄図」 これがプライスさんの運命を変えた一枚。 大学卒業して間もないころニューヨークへ スポーツカーを買いに行った折、 偶然これを含む数点の日本画に出会い車の代わりに購入。 プライスコレクションの礎となった一枚です。 若冲がまだ若い頃の作品だそうですが、この空間構成は 動植綵絵「菊花流水図」を予感させます。 普通ではありえない世界を描きながらも現実よりも 現実的な自然を描いてしまう若冲の若い才能溢れる一枚です。 d「鳥獣花木図屏風」 (六曲一双・右雙) これまた若冲があみ出した「桝目描」の技法が用いられている作品。 一雙に4万以上のモザイクのような桝目によって出来上がっています。 言葉で説明しても埒あきません。拡大してみますね。 どの部分かといいますと… 白象の左に豹がいます。その更に左。足元に二匹の鼠がいます。 (見つかりました?分かりました??) 銭湯のタイルのようですね。富士山描いて欲しかったな〜 でも、でもこの「鳥獣花木図屏風」ちょっといわくつきです。 この本の著者、佐藤氏は真っ向からこの作品は 若冲の手によるものでないと否定しています。 「もっと知りたい伊藤若冲―生涯と作品」 佐藤 康宏 曰く「プライス夫妻の収集品には重要な若冲画がいくつもあるが、あの屏風絵は絶対に若冲その人の作ではない。」 その理由として、緊張感のなさ、凡庸さなどをあげています。 若冲の工房の作でもなく、「稚拙な模倣作」とまで言っちゃってます。 アマゾンに載っていた佐藤氏のコメント引用しておきます。 佐藤康宏です。ひとつ釈明しておきます。この本にプライス・コレクションの作品が1点も掲載されていないのは、私の意思ではなく、先方から図版の掲載を断られたためです。これまで何度か若冲の図版を載せる本に関わりましたが、プライスさんの所蔵品をまったく入れないのは初めての経験です。でも、若冲の世界の豊かさはじゅうぶんに伝わる本になっていると思います。 モザイクのような、いわゆる桝目描きの技法で作られ、プライス・コレクションに入った屏風を、私は若冲の画とは認めません(従来も繰り返し、この本でも述べているとおりです)。少なくともエツコさんはその見解がお気に召さないらしく、ほかの作品まで掲載を断られてしまいました。プライス夫妻とは30年のおつきあいですし、ジョウさんの鑑識眼を信頼してもいました。いまでもあの「鳥獣花木図屏風」以外は重要なコレクションだと賞賛しています。今回の措置も残念ですが、それ以上に、だれよりも若冲を愛していたジョウ・プライスさんにして、あんな下手な屏風を若冲の作と信じてしまうものかと、あらためて悲しくなりました。 美術館・博物館の関係者がコレクターに遠慮をするのはしかたありませんが、私はそういうしがらみのない研究者ですし、社交や友情よりも若冲の方がだいじです。贋作は贋作、模倣作は模倣作とはっきり区別することが、若冲の真価を明らかにするためには欠かせません。若冲の作る形と色をよく知った方は、「鳥獣花木図屏風」を若冲筆として疑問も持たずに展覧会に並べ、本に載せ、それらを鑑賞するのんきな人たちと一線を画すはずですが、せめてそういう方を増やすのにこの本が少し役に立てば幸いです。 こちらの本の著者、小林氏は若冲の作品として この本で32枚紹介されている中に「鳥獣花木図屏風」を入れています。 「伊藤若冲」 小林 忠 狩野博幸氏も概ね若冲としているようですが本心はどうなのでしょう? 辻惟雄先生にもし、聞いてみたら・・・ 「そんなのどちらでもいいんだよ。観ていて愉快なら。」と 言われてしまいそうですね。 「奇想の系譜」 辻 惟雄 (参考までに。 伊藤若冲「白象群獣図」←これはほんと凄かったです! 桝目一つ一つの描き方がえらく丁寧でした。画像はこちら。) 閑話休題。作品鑑賞に戻ります。時間ないのでここから駆け足で e「松に鷹図」 a「花鳥人物図屏風」に雰囲気似ています。 鷹が片脚上げていてなんとなくお茶目です。 体の模様もゴマアザラシのようでした。 f「旭日雄鶏図」 難しいことは考えずに描きたいものをそのまま描いたような作品です。 よって観ていて気持ちの良い絵でもあります。 技巧的なことや空間構成など全く考慮せず青物問屋のせがれは 好き放題に描いたのでしょうね。潔し! g「群鶴図」 動植綵絵では横並びで群鶴図描いていましたが この絵は7羽の鶴を斜めに整列させて描いています。 配置の妙がとても楽しくつい見入ってしまう作品です。 それにしても鶴の首ってフレキシブルに曲がるのですね。。。 h「竹梅双鶴図」 もし今回一枚だけ若冲の作品でないもの指摘してと言われたら これ選んでしまうかもしれません。「鳥獣花木図屏風」は除いて。 若い頃の作品だと説明がありました。そうなのかもしれません。 でも、何となく描き込みがいつもより甘いように感じました。 i「紫陽花双鶏図」 今回の図録の表紙を堂々と飾っている堂々とした作品です。 動植綵絵「紫陽花双鶏図」より少し前に描かれたとされているそうです。 文句なしです。 雄鶏が雌鶏に心配そうになにやら話しかけている様子伺えます。 「ねぇ、機嫌直してよ〜」 でも、雌鶏はしたたか。 「オスなんて騙すの簡単よ!」 ↓この目が証拠です。 j「猛虎図」 若冲は本物の虎を見たことなかったそうです。 観た事ないものは描かない主義でしたが どうしても描きたかったんでしょう。虎。 芦雪の虎もそうでしたが、全然虎らしくありません。 これってまるで人の後ろ姿のようです。 (中島敦の『山月記』の虎ってこんな感じなのかな?) ただし、この絵、毛一本一本病的なまでに丹念に描いています。 観るには単眼鏡が要りますが。。。ビロードのようです毛並み。 k「雪中鴛鴦図」 これまた動植綵絵に同じような作品あります。 ただ見比べると微妙に違っています。 水中に潜っているメスの頭と脚が透けて見えます。 オスの脚もまた透けて見えます。 でも繋がりが悪いですよね。首長すぎてしまいます。 ネバネバの雪の量が少ないからきっと春が近いのでしょうね。 l「鯉魚図」 例の「筋目描」の技法で描かれた作品です。 パソコンの画面よーーく顔近づけて見て下さい。 鯉のウロコ確認できますか?それ筋目描きによってできたものです。 それにしても、勢いよく飛んでますね〜鯉。 波しぶきも格好いいです。この絵飾っておいたらエラクなれそうです。 m「芭蕉雄鶏図」 芭蕉といっても『奥の細道』の芭蕉でなく植物のバショウ。 これまた筋目描の技法で描かれている作品です。 「鯉魚図」に比べるとよく分かりますね、筋目。 偶発的に生じる墨の滲みが「好物」だったのでしょうか。 鶏の羽もこの技法で描かれています。時間と根気の勝負ですね。 ところで芭蕉の葉の先端に描かれた「にょろにょろ」気になりました。 これだけは直に描きたかったのでしょうか? n「鶏図」 今回観た水墨画の中ではこれが一番好きです。 鶏の親子を描いていますが、それぞれ愉快。観ていて飽きません。 子ども(ヒヨコ)守ろうとエリマキトカゲのようにいきり立つ雄鶏。 雌鶏はどこか不安げな様子。 ヒヨコが可愛い。生意気に片脚あげてます。 生き物に対する若冲の深い愛情感じる作品です。 o「鷲図」 若冲が亡くなった年に描かれた作品。絶筆に近い作品です。 にもかかわらず、この旺盛な勢いは何処からやってくるのでしょう。 小林忠氏は「若冲の鳥に託した自画像」とお書きになられていますが まさにそんな感じが伝わってくる作品です。 鷲も波も構図も全て「到達点」に辿り着いているかのようです。 凄いぞ!若冲。あらためて。 p「伏見人形図」 展示室最後を飾るのがこの作品。 今までとはまるで雰囲気違います。 いつ頃の作品でしょう?? それが聞いてびっくり、見てびっくり。 何と↑で紹介したo「鷲図」と同じ 若冲が亡くなるその年に描かれた一枚なのだそうです。 引き出しの数多過ぎます!信じられません。 これ最後に見せられると今まで築いてきた若冲のイメージを また一から作り直さねばならなくなります。 コワイお人です、若冲さん。 はい。これで、一応は全部終りとなります。 残りの一枚は一番最後の展示室「Special.光と絵画の表情」で ガラスケースなしで観ること出来ます。 「黄檗山万福寺境内図」 若冲の風景画珍しいです。その珍しい作品を特別室で観られます。 光の移り変わりによって昼の絵にも夜の絵にもなるから不思議です。 今まで見たことない、体験したことない衝撃の空間がそこに… (安い映画の宣伝文句のようですが本当です) 長々と書いてしまいましたが、これだけのもの書かせる何かが やはり伊藤若冲の作品にはあるのかもしれません。 単なる一過性のブームなどではなく。 ただ、まだ若冲を見始めて日が浅いので これからもう少し勉強したいと思います。 難しく観るためでなく、 より楽しく、愉快に観るためにです。 若冲は決して難しいこと考えたり柵に囚われたりしなかったはずです。 自由奔放にチャレンジ精神忘れなかった絵師だと思います。 それじゃ、また明日。逢いに行ってきます。 単眼鏡首からぶら下げて。 |