青い日記帳 

TB&リンク大歓迎です!
<< September 2019 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
<< 誤植に注意! | main | クラブナイト・プレビューver.2.0@シンワアートオークション >>

「イタリア・ルネサンスの版画展」

国立西洋美術館で開催中の
チューリヒ工科大学版画素描館の所蔵作品による「イタリア・ルネサンスの版画―ルネサンス美術を広めたニュー・メディア」展に行って来ました。



版画と聞くと、浮世絵やウォーホルなどしか頭に思い浮かばない私なのですし、版画に関する知識ゼロに近いので、この展覧会はパスしようかな〜と思っていました。
でも、国立西洋美術館研究員の渡辺晋輔氏によるスライド解説があるというのでそれを伺ってからなら少しは楽しめるかなと思い出かけて来ました。

結論から先に言いますと、とても面白い展覧会です。

展覧会を担当された渡辺氏の解説がとても分りやすく、鑑賞の手助けになったことがその大きな要因だと思います。今日の記事はその渡辺氏の解説を中心に私の感想は極僅かにし、ご紹介したいと思います。

展覧会の構成は以下の通りです。
第1章 イタリアにおけるエングレーヴィングの誕生
第2章 ヴェネツィアの版画
第3章 マルカントニオ・ライモンディと盛期ルネサンスのローマの版画家たち
第4章 マニエリスムの画家たちと版画


第1章 イタリアにおけるエングレーヴィングの誕生

まずは、エングレーヴィング(Engraving)による版画についてです。
彫刻凹版技法のこと。インタリオ(凹版)技法における直接法の一種。)

銅版画はビュランが彫り出す細い線描による装飾的な美しさが魅力ですが、イタリア・ルネサンス初期、1400年代の銅版画は画家や版画職人が手がけるものではなく、主に金工細工師の手によるものだったそうです。

要するに芸術作品というよりも、工芸品的な性格を持っていたわけです。

例えばこの作品などがその一例。

バッチョ・バルディーニ「ヨエル」(「預言者と巫女」連作より)

作品全体が平板で奥行きや身体のボリューム感に欠けています。
トランプの絵柄のようです。

このような工芸品的側面の強かった版画を一気に芸術作品の領域まで高めたのが
イタリア・ルネサンスを代表する画家の一人アンドレア・マンテーニャでした。

今回の展覧会にはマンテーニャの工房作も含め10点ほどの版画が展示してあります。その中の一点。

アンドレア・マンテーニャ(?)「キリストの冥府降下

前出のバッチョ・バルディーニ「ヨエル」と同じ時代に同じ技法で描かれているにも関わらずその差は素人目にも歴然としたものがあります。

陰影表現の幅広さ、人物表現の豊かさ、肉体的な厚み、がっしりとした人体など等。

アンドレア・マンテーニャ(Andrea Mantegna, 1431年ー1506年)のこちらの代表作を観ればその卓越した技法も納得がいきます。

死せるキリスト」1490年代、ブレラ美術館所蔵

展示室では、向かい合わせに金工細工師による版画とマンティーニャ、クリストーファノ・ロベッタ、アンドレア・マンテーニャなどの作品が展示されていますので、比べながら観るとその違いがよく分り楽しめます。

第2章 ヴェネツィアの版画


ヤーコポ・バルバリ「ヴェネツィア鳥瞰図」1500年

横幅278cmもある大作です。12枚の版画を合体させ一枚の作品に仕上げています。
現在のようにヘリコプターも飛行機も無い時代にこのような鳥瞰図をどうやって
作ったのか不思議ですが、多くの弟子にそれぞれヴェネツィアの高い塔の上から
デッサンを描かせ、それを持ち寄って一枚の鳥瞰図に仕立て上げたそうです。
実に完成までに、3年の月日を有したそうです。

よく観ると、商業の神様やネプチューンが海上に描かれています。
何でも初の著作権が与えられた作品でもあるそうです。

また、版画に於いて先を行っていたデューラーの作品も、当時イタリアにおける出版の一大中心地であったヴェネツィアには、多く流入してきたそうです。

アルフレッド・デューラー「大きな馬」1505年

この作品をそのまま模写した版画が並べて二点展示してあります。
ベネデット・モンターニャの作品は模写したものを刷ったので
作品全体が反転していて愉快です。

デューラー『メレンコリア1』―解釈の迷宮
デューラー『メレンコリア1』―解釈の迷宮
ハルトムート ベーメ

第3章 マルカントニオ・ライモンディと盛期ルネサンスのローマの版画家たち

ここの章もまたユニークな作品が観られます。
マルカントニオ・ライモンディというボローニャ出身の版画家は
デューラーの作品をそのまま真似て(コピーして)版画とし売ったそうです。
人気のあるデューラーの作品ですから売れたはずです。かなり。
現在の感覚ではルイ・ヴィトンのニセモノを販売するようなものでしょうか。

ところが、マルカントニオ・ライモンディは度が過ぎたのかデューラーに訴えられてしまいます。(当然ですが)何と彼はデューラーのサインまでご丁寧にしていたそうです。

判決はライモンディの敗訴。これが世界最古の著作権裁判だそうです。
但し判決がふるっていて「今後ライモンディはデューラーのサインはしてはいけない」といった判決だったらしく、その後もデューラーの作品をコピーし続けました。でもサイン(ADのモノグラム)だけは入っていません。

デューラーの「木版画小受難伝」4点が展示されていますが
それをコピーしたライモンディの版画も並べて展示してあります。
面白いですよ〜ほんとサインだけ抜けています。

しかし、このマルカントニオ・ライモンディさん、腕は確かだったようで、ベニスで稼いだ後ローマに移住し、かのラファエロと組んで仕事もしていました。

マルカントニオ・ライモンディ 「疫病」1515年

デューラーの作品はパクリでしたが、ラファエロの作品は協力体制にあったので素描などを提供してもらいそれを版画作品としていたそうです。「疫病」もラファエッロの原画にもとづくものだそうです。

ラファエロはどうして自分の作品の素描をライモンディに進んで提供し版画作品にしていたのでしょうか?それにはしたたかな戦略が隠されています。

この展覧会のサブタイトルに「ルネサンス美術を広めたニュー・メディア」と付されています。これこそラファエロの狙ったポイントです。

現在と違いインターネットや各種マスコミもなかった時代、いかにして自分の作品を広めるか、知名度を上げるか。その最も有効な手段が「版画」だったわけです。一枚デッサンを描き、ライモンディのような腕の立つ版画家に彫ってもらえばそれこそ何枚でも「印刷」できます。そしてそれはイタリアのみならずヨーロッパ中に広まって行きます。

実際にアルプスを越え、イタリア、オランダ、ドイツなどへ伝播していったそうです。「ラファエロ」の名は一躍「ヨーロッパ規模」(今で言えば「世界規模」)となったわけです。丁度それから数百年後、日本から「偶然」浮世絵という版画がヨーロッパを席巻したかのように。

また、それに版画にすれば幾らでも印刷は可能です、一枚の油絵を時間をかけて描き売るよりも、手っ取り早くお金を手に入れることが出来ます。

 

すると、ここでふっと疑問が湧いてきます。同じルネサンスの画家レオナルド・ダ・ヴィンチはこの版画をどうして生かさなかったのかと。こういった観点からラファエロとレオナルドを比較してみると新しい側面が見えてくるはずです。

今回の展覧会でラファエロの見方ちょっと変りました。
思っていた以上にしたたかで、計算高い(いい意味で)人物だったようです。

第4章 マニエリスムの画家たちと版画

最後の章はエングレーヴィングに替わり台頭してきた
エッチング Etchingを用いた版画作品の紹介です。
インタリオ(凹版)技法における間接法の一種。


フランチェスコ・パルミジャニーノ「恋人たち」1527年以降

パルミジャニーノなんて、チーズを思い起こさせる美味しそうな名前の画家さんの作品です。エングレーヴィングの作品をずーと観てきたので、エッチングになると自由な線が踊っているかのように見えます。

これくらい、解説を聞いてから観ると版画も興味深く観ることできるのだと実感。
渡辺氏に感謝感謝です。

今回はチューリヒ工科大学版画素描コレクション所蔵の版画が核となっています。
Swiss Federal Institute of Technology Zurich (ETHZ) Collection of prints and drawings

渡辺氏曰く「借用料が安いですから」
派手で借用料もきっと信じられないくらい高いであろう「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」もいいですが、こちらの展覧会、空いていますし、ほんと面白いです。版画の魅力を私のように知らずとも。是非、是非。

それでは、最後に「今日の一枚

ニッコロ・ボルドリーニ「猿によるラオコーン
(ティツィアーノの原画にもとづく)1540年ー1545年頃

有名な「ラオコオン像」のポーズを猿が真似している作品。
残念ながら図版が無いのでイメージで。
↓これが猿によって演じ?られています。

自然に対する芸術の優位性を誇示した作品だそうですが…
そんなことより、爆笑間違いなしです!

「平成14-18年度新収蔵版画作品展」も常設展示室で開催しています。
(6月3日まで)

この記事のURL
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=971
イタリア・ルネサンスは、言うまでもなく西洋美術史のクライマックスのひとつです。画集をめくれば、有名な絵画や彫刻、建築、素描をいくつも見つけることができるでしょう。けれども、実はこの時期に、芸術家たちの身近なところで美術作品としての目的やステータスを持つ版画が生まれたことは、知られていないのではないでしょうか。
15世紀後半から16世紀前半にかけてのイタリアでは、芸術家たちが版画の可能性に着目し、その技法や表現の可能性を大きく広げました。こうして、それまでお守りやトランプの図柄に使われる程度だった版画技法が、美術品の制作にも使われるようになります。さらに版画によって素描を複製することが可能となったため、版画はルネサンス美術の伝播にとってきわめて重要な役目を果たすこととなりました。
本展では、チューリヒ工科大学版画素描館の所蔵作品を中心に、イタリア・ルネサンスを代表する110点の版画の名品を展示します。マンテーニャやポッライウォーロ、といったルネサンスを代表する芸術家たちが自ら手掛けた版画のほか、ラファエッロやティツィアーノらの監督のもとに生み出された作品をご覧いただきます。イタリア・ルネサンスの版画がまとまった形で我が国に紹介されるのは、初めてのことです。この機会に、ルネサンス美術の新たな一面を発見して下さい。


展覧会 | permalink | comments(10) | trackbacks(6)

この記事に対するコメント

西洋美術館の横を通るたびに、見るか見ないか悩んでいました。
サルのラオコーンを見に行こうかな?

話は変わりますが、馬を後ろから(お尻から)描いた絵・・・台湾で北宋の絵で、鹿を後ろからたくさん描いた絵を見ました。
非常に自然に描けていました。
マンテーニャの岩の表現と供に、東からの影響を感じざるを得ませんでした。
gakko | 2007/04/04 1:08 AM
@gakkoさん
こんばんは。

猿のラオコーン必見?!です。
最後の最後にオチのようにして
展示してありますので。

「東からの影響」多分にあるのでしょうね。
特に生き物を(自然)を捉えることに関しては
東洋の方が長けていると思います。
Tak管理人 | 2007/04/04 10:04 PM
本日見てきました!
マイナーなテーマですが、かなり充実した作品内容で満足です。やはりデューラーは良いですね。あとラオコーン像は1506年発掘なので、当時としても話題になっていたこともあるのでしょうね。
Nikki | 2007/04/08 11:27 PM
@Nikkiさん
こんばんは。
TBありがとうございます。

版画と聞いて皆さん敬遠されているようですが
行って観てびっくり。その多彩な表現力には
驚かされます。また笑いどころもしっかりとありますし。
Tak管理人 | 2007/04/09 10:42 PM
Takさん、こちらにもお邪魔しています。
地味な展覧会ですが、西美恒例の版画展覧会は大好きだったりします。
「ヴェネツィア鳥瞰図」は本当に凄い作品でした。多くの労苦を費やしただけのことはあります。
それにしてもラファエロのしたたかさには彼のイメージが変わり、興味深かったです。(所謂やり手!?)
アイレ | 2007/04/12 12:59 AM
@アイレさん
こんばんは。
TBありがとうございます。

こちらへもお寄りになったのは正解ですね!
えらいっす。
ラファエロ君はやり手ですよね〜
下絵だけ渡して版画作らせて。。。
地味ながら見応えある展覧会でした。
Tak管理人 | 2007/04/12 11:41 PM
Takさんこんばんは。
先日はどうもありがとうございました。

スライド解説を聞かれたのですか。
展覧会だけでもかなり楽しめましたが、
また理解が数段に深まりそうですね。

>「今後ライモンディはデューラーのサインはしてはいけない」といった判決

これまたなかなか凄い判決ですね。
サインをしなければ何でもあり(?)ということでしょうか。

>ラファエロの作品は協力体制にあったので素描などを提供してもらいそれを版画作品

したたかですよね。
版画がそのような役割をもっていたとは知りませんでした。

お馴染みのキリスト教主題の作品も多く、
物語を読むような気持ちでも楽しめました。
面白かったです!
はろるど | 2007/05/02 8:50 PM
@はるろどさん
こんばんは。

渡辺氏の解説があったので
私でもとても楽しく観ることできました。
良き船頭は必要ですね。

>サインをしなければ何でもあり(?)ということでしょうか。
そのようです。
実際にデュラーのサイン(モノグラム)だけ
描かれていない作品ありました。笑えます。

ラファエロとレオナルド
こういった観点から比べても面白いですよね。

地味な展覧会ですが、見応え充分ありました。

因みに…
解説して下さった渡辺氏は池上先生の後輩だそうです。
Tak管理人 | 2007/05/04 1:40 AM
最終日になりましたが、見逃さなくて良かったです。
ライモンディが主役、ラファエッロが脇役をいう展覧会もなかなかありませんからね。
とら | 2007/05/10 8:36 AM
@とらさん
こんばんは。

間に合って何よりです。
ライモンディ大活躍でしたね。
次回の版画展も期待できそうです。
Tak管理人 | 2007/05/10 11:39 PM
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://bluediary2.jugem.jp/trackback/971
この記事に対するトラックバック
国立西洋美術館「イタリア・ルネサンスの版画 ルネサンス美術を広めたニュー・メディア」展を観て来ました。 ルネサンス期ということでほぼ宗教画や神話を題材にしたものばかりで、文化的な距離を感じつつ、版画ってほとんど興味なかったのでどうかなーと思いつつ鑑
domenica, il 8 aprile 2007 sono le ventitre e quidici  桜吹雪舞う上野へ、国立西洋美術館で開催中の『イタリア・ルネサンスの版画』を見てきました。2005年に同館で開催された『キアロスクーロ - ルネサンスとバロックの多色木版画』を彷彿とさせるタイトルで
イタリア・ルネサンスの版画ルネサンス美術を広めたニュー・メディア3月20日 国立西洋美術館(〜5月6日)  近場の桜もあっという間に散ってしまいましたが、上野の桜はどうでしょうか?一段落しているのでしょうか? さて、東博で「受胎告知」を見た後は西美の版
イタリア・ルネサンスの版画 | 青色通信 | 2007/04/12 12:39 AM
国立西洋美術館(台東区上野公園7-7) 「イタリア・ルネサンスの版画 - ルネサンス美術を広めたニュー・メディア - 」 3/6-5/6 定評のある西洋美術館の版画展です。一昨年のキアロスクーロに引き続き、イタリア・ルネサンス期の版画を存分に楽しむことが出来ました。
「イタリア・ルネサンスの版画」 国立西洋美術館 | はろるど・わーど | 2007/05/02 8:37 PM
 約二年おきに、国立西洋美術館にイタリアルネサンス版画がやってくる。  大学一年生の頃だったと思う。まだ上京して間もなく、あと数年したらイタリアルネサンス期の絵画についてようやく学べるのだ、とうきうきしていた。モノクロの版画はそれら自体がとても小さな
 これも3月から国立西洋美術館で開かれていたのであるが、いつでも行けると思っているうちに最終日となってしまった。  出品作品は、チューリッヒ工科大学版画素描館のものが中心であるが、万代島美術館と西洋美術館からも出ていた。  第1章 イタリアにおけ
イタリア・ルネサンスの版画 | Art & Bell by Tora | 2007/05/10 8:37 AM