青い日記帳 

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「靉光展」

東京国立近代美術館で開催中の
「生誕100年 靉光展」に行って来ました。



「靉光」(あいみつ、本名:石村日郎、1907-1946)
20代の頃に描いたデッサンには「靉川光郎」とサインされていました。

広島県出身の靉光は大正末に上京し池袋を拠点に独自の世界観を
様々な手法で表現した画家さんです。

39歳で夭折してしまったことに加え、
広島にあった作品が原子爆弾の被害に遭い
消失してしまったことなどの不運が重なり
現存する作品数が少ない画家さんだそうです。

詳しくはこちらのサイトで〜美の巨人たち〜

展覧会の構成は以下の通り。
第1章 初期作品
第2章 ライオン連作から《眼のある風景》へ
第3章 東洋画へのまなざし
第4章 自画像連作へ


「日本のシュールレアリスト」と呼ばれると伺っていましたが、
今回の回顧展を観て、それはあくまでもこの作家の一面でしか
ないことがよく分ったように思えます。

デッサン力や写実的な腕前は相当なものがあったことは
展示されている作品を観ればまさに一目瞭然です。
一種異様なまでに緻密な作品も数点観られます。

靉光の生まれ持った画才がいかに凄いものかは
既に10歳の頃にこの作品を描いたことからも理解できます。


父親を描いた作品です。ピカソもビックリ!。
これ10歳の時に描いたなんて…バカテクの持ち主です。

18歳で上京し、下宿生活をしながら「池袋モンパルナス」と呼ばれた
絵描き仲間と共に新たな境地を切り開こうと画業に打ち込みます。

↓の2枚の作品は共に1929年に描かれたものですが
西洋絵画の影響を強く受けていることが分ります。
それぞれ、誰の作風を意識しているかさえも。

コミサ(洋傘による少女)」
↑これはルオーの影響を受けたのでしょうね。

屋根の見える風景
↑こちらはゴッホ。筆致がそっくりです。

天才はやはり何でも上手くこなすことが出来るものです。
次の日になるとガラリと違った画風になっていたこともあり
友人たちを驚かせたというエピソードまであるそうです。

「器用貧乏」という言葉がありますが、靉光もまた「天才貧乏」に
悩まされることになって行ったそうです。
あれだけ写実的に描けるのだから悩むことないのにな〜と思うのは
凡人の証。天才は更なる境地目指し常に高見を見据えているものです。

ロウやクレヨンを溶かし、岩彩と混ぜて描いた「ロウ画」は
そんな悩める天才画家が生み出した新たな技法のひとつです。

編み物をする女」1934年

この頃、靉光は思い通りに絵が描けないと涙ながらに呟いていたそうです。

〜美の巨人たち〜では、チラシやポスターに用いられている代表作「眼のある風景」と上野公園でデッサンを重ねたライオンとの関わりを「説」として解説されていますが、今回の展覧会では「第2章 ライオン連作から《眼のある風景》へ」とし密接な関連が確かにあったのだと解説が展開されていました。



それは、技法を確立しようと悩んだ靉光が、「ライオン」という対象を深く観察しデッサンしていくうちにその内側に潜む本質を捉え思いのままキャンバスに表したのではないかということです。

テクニックに頼るのではなく、描く対象をとことん自分の目で追究する。
そんな態度の変化がもたらしたのが「眼のある風景」だとすると、
単にシュルレアリズムの画家とこの絵だけで判断してしまうのは性急なことです。

そのように考えるとふと皇居のお堀に咲く満開の桜をもし靉光が対象として捉え
深く深く見つめ、デッサンを重ねたとしたらもしや「屍体」が埋まっている!
のではないかと、梶井基次郎の想いと強くシンクロするように思えました。
(梶井基次郎「桜の樹の下には」)

美と醜、生と死。。。


」1942年

「眼のある風景」から数年後に描かれた作品です。
モディリアーニの目のような鳥と美しい花が独特な構図でまとめられています。
死んだ鳥と活ける花。
二つの相反する対象物が一枚の絵の中に座り宜しく収まっています。
生と死の境界線がないかの如く。

第二次大戦が激化し抽象画が取り締まりが厳しくなると
靉光が選んだモチーフは自分自身でした。

最後の展示室には三枚の自画像が並べて展示されてあります。(1943−44年)

三枚とも同じような姿勢の自画像です。
何ゆえこのようなポーズの作品を描いたのでしょう。

広い胸、太い首。
そして、その目は何を見つめているのでしょう。
その目の先にある対象物は一体……

思想的なものは私には感じられませんでした。
ただ画家として自分自身を描く対象として
その本質を見るべく目こ凝らしているように観えました。

この後、1944年5月に召集を受け中国へ送られ、
戦後間もなく発病し1945年1月上海で戦病死したそうです。
38歳という若さで。

自身を見据え見えた本質はやはり「死」だったのかもしれません。

それでは、「今日の一枚

手向けに「(アネモネ)」を。


お花見の喧騒もひと段落した頃かと思います。
「生誕100年 靉光展」お薦めできる展覧会です。是非。

以下へ巡回するそうです。
宮城県美術館 6月9日−7月29日
広島県立美術館 8月10日−10月8日


常設展のチケットでも観られる
リアルのためのフィクション」(Fiction for the Real)展も開催中です!

おまけ:2月に常設展に展示されていた「眼のある風景」です。


この記事のURL
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=974
 昭和の戦前・戦中期に、きわめて個性的な作品を描き、近代日本美術史上に大きな足跡を残した画家、靉光(あいみつ)。このたび彼の生誕100年を記念する回顧展を開催します。

 靉光(本名:石村日郎、1907-1946)は広島県に生まれました。1924(大正13)年に上京し、「池袋モンパルナス」と呼ばれた界隈で仲間たちと切磋琢磨しながら、自らの画風を模索していきます。その探究の果てに生み出された《眼のある風景》(1938年)や、細密で幻想的な一連の作品は、シュルレアリスムの影響を思わせつつも、けっしてその一言では片付けられない独自性と“謎”に満ちています。描く対象に鋭く迫り、写実を突き詰め、そして突き抜けた先に生み出された幻想。この類まれな境地に達した彼ですが、戦争によってその画業は途絶しました。召集を受けた彼は、終戦後まもなく上海で、わずか38歳で戦病死したのです。

 現存する彼の作品は、必ずしも多くはありません。しかし、描く対象の本質をえぐり出すようなその作品の評価は、今日ますます高まっています。本展では、幻想的な作品をはじめ、応召前に残した3点の自画像など代表作を網羅し、約130点の作品を時代・傾向別に4つの章に分け、靉光の見つめたものを検証します。

展覧会 | permalink | comments(18) | trackbacks(7)

この記事に対するコメント

こんばんは。
10歳でこの絵は、恐るべしですね。

シュールレアリストというのは後世の見方で、本人は自分の絵を模索する中での夭折に思えます。何とも残念です。
mizdesign | 2007/04/07 2:32 AM
彼にもう少し時間が与えられたならば・・・とつい考えてしまいます。
感想を書いてみました。↓
http://cardiacsurgery.hp.infoseek.co.jp/JA071.htm#070330

とら | 2007/04/07 8:27 AM
見に行かねば・・もう始まっているのですね・・
彼はシュールレアリストという前に画家だったですよね。
絵を描く事が好きだったのでしょう。
おかんあさんの帯なんかにも絵を描いているようですから。
自画像が3つ並んでいる・・早くみたいです。

うららかな春の日、夕方レストランでビールもよいし・・・
gakko | 2007/04/07 9:39 AM
@mizdesignさん
こんにちは。

先日はお付き合いいただきどうもです。
青木繁にせよ若くして逝ってしまう方
この時代多く感じるのは気のせいでしょうか。

@とらさん
こんにちは。

モノを見る眼が更に冴え渡り
技法も安定してきたらきっと
凄い画家さんになっていたのでしょうね。

@gakkoさん
こんにちは。

ひっそりと始まっています。
毎日新聞社が主宰です。

帯も展示されていました。
実はレセプションの日に行ったのですが
息子さんと娘さんもご来席なさっていました。
自画像こちらの気持ちも強くないと
なんだか圧倒されてしまいそうです。
Tak管理人 | 2007/04/07 4:24 PM
ひとりの画家の人生と深く向き合える、優れた回顧展でした。
38歳とは若い死ですね。
戦争に翻弄された時代の、ひとりの男の残したものは
大きいですね。
テツ | 2007/04/12 5:59 AM
@テツさん
こんばんは。
TBありがとうございました。

38歳はあまりにも若すぎます。
才能あるから早死になのか
早死にだから天才なのか。。。
Tak管理人 | 2007/04/12 11:47 PM
はじめまして♪ きまぐれダイアリーというブログを書いていますみけらんじぇろと申します。トラックバックをありがとうございました。

実は、私もいつもこちらのブログを読ませていただいていました。美術素人の私が読んでも、分かりやすい解説で勉強させていただいていました!

Takさんの方から私のブログにトラックバックを送っていただいたのはとっても驚きで、嬉しい気持ちでいっぱいで興奮しています。

これからも参考にさせていただきたいと思います。毎日更新を楽しみにしています♪
みけらんじぇろ | 2007/04/15 11:32 PM
こんばんは

やはり印刷では、あの微妙な色の再現できないと思いつつ「アネモネ」のポストカードを買ってきました。すてきな青ではかない花の一瞬を捉えていますね。
生きることに対して向き合っている作品がずいぶんあったような気がします。
あさぎ | 2007/04/16 12:43 AM
@みけらんじぇろさん
こんばんは。
コメントありがとうございます。

いつも読んでいただいていらっしゃるとは!
恐縮です。ありがとうございます。
でも、私も全くの素人ですので
ウソや偏見の嵐です。(^^ゞ

今後とも宜しくお願い致します。
なんとか毎日続けられるよう
頑張ってまいります!!

@あさぎさん
こんばんは。

アネモネの構図にまずはっとさせられました。
全面に大きく葉っぱが描かれていて
存在感示しています。良い絵ですよね。
自分もポストカード買ってくれば良かったなー
Tak管理人 | 2007/04/17 11:01 PM
またしても作品解説に参加しつつ見てきました。
どえらく細密な絵。
あれ、極細の筆で描いてあるんだそうですよ。
筆で、あの線! おそるべし。
「自画像」の手前(廊下?の突き当たり)に
展示されていた「山茶花」は、
靉光が出征直前に友人宅で描いたのだそうで。
そう知ってしまうと、
「山茶花」「自画像」「飯盒」の流れが
とてつもなく重たかったです。
菊花 | 2007/04/20 11:21 PM
@菊花さん
こんばんは。
コメントありがとうございます。

>あれ、極細の筆で描いてあるんだそうですよ。
>筆で、あの線! おそるべし。

そうなのですか!そうとは知らずに。。。
しかし凄いですね、それって。

仰る通り、展示に「流れ」があって
たいへん素晴らしかったと思います。
特にご指摘の通り、最後の部屋は
ある意味「圧巻」でした。
Tak管理人 | 2007/04/21 11:22 PM
こんばんわ。
すみません、TBしたら文字化けしてしまいました。

さて、先日ようやく行ってきました。まだまだ、知らないことが多くて勉強が足りないなあと思いました。

今回は『馬』にやられちゃいました。あれ、見れただけで満足です。
あおひー | 2007/05/03 8:08 PM
@あおひーさん
こんばんは。
TBの件はお気になさらずに。
gooからだとたまになるようです。
うちのサーバーの問題ですきっと。

日本人でありながら
よく知らない作家さんって
まだまだいるのですよね。

ゴールなき道も楽しいものですね。
Tak管理人 | 2007/05/04 1:47 AM
こんばんは。Minnetです。
鶴岡政男とのつながりで興味を持って見に行きました。
独自の表現を求めて試行錯誤を繰り返した画家・靉光の烈しい人生に心打たれました。
写実を突き詰め、突き抜けた先に幻想が出現したという点では、まさに正真正銘のシュルレアリスム(現実そのものにある真の「現実」に触れる)の画家だと思います。
このところ、東京国立近代美術館の企画展は、地味なようで構成のしっかりした充実した内容が続いていますね(揺らぐ近代、都路華香、靉光)。
Minnet | 2007/05/12 1:29 AM
@Minnetさん
こんばんは。
コメントありがとうございます。

仰る通り、ここ何回か
近代美術館の企画展
あたりが連続しています。
2階の企画展示も中々。

靉光展、主催者側でもっと
宣伝すればより多くの方に
ご覧いただけると思うのですが。。。
Tak管理人 | 2007/05/14 12:24 AM
二ヶ月遅れで、行ってまいりました。
よかったです。

シュールの時代は、人々も充実していたような気がします。
悲しいかな、38年の生涯。
近美は良いのやっているのに、集客力がないような。
おかげで、ゆったり見られましたけれど。

私もアネモネのブルーが気に入って、蝶と、編み物する女と一緒に葉書買いました。
あべまつ | 2007/05/19 11:23 AM
@あべまつさん
こんばんは。

>近美は良いのやっているのに、集客力がないような。
すぐ近くにある毎日新聞社が主催しているのですが
いかんせん、お金をかけていないので宣伝に。。。
どうにも集まりようもありません。

いつぞや「ブログの力を借りて盛り上げて…」
なんていうおエライさんの挨拶聞いた時は
時代を先取りか!とも思ったのですが。。。
Tak管理人 | 2007/05/19 11:31 PM
こんにちは。
地元の岩手県立美術館に靉光の「花・変容」と「おこぜ」が収蔵されたことから、にわかに興味が出て、あれこれ検索していたところでした。

丁寧でイマジネーションを刺激する素適な記事をありがとうございます。この展覧会の図録を注文したので、届いたら記事とあわせて堪能したいと思います。
魔女菅原 | 2014/07/15 6:13 PM
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